リニアをトップとし、アイシャを顧問とした『エンド傭兵団』は順調であった。
目的の一つであるジンシン教への対策としても、まずまずの成果をあげている。
ジンシン教を弱者救済の心の拠り所として活用している所もあり、全てを潰して良い訳ではないのが一つ悩みではあったのだが、エンド傭兵団の治安維持がそこで上手く働いた。
思いきった奴等は必ず治安を乱すので、そこから芋づる式に悪質なジンシン教の発覚、摘発という形で潰す事が出来ていた。
また、似たような人種が所属している為にジンシン教にハマり、道を踏み外そうとしてる者に親身になって説得する者も現れ、エンド傭兵団は規模を大きくしていった。
勿論全てが上手く行っている訳ではなく、エンド傭兵団のほうからジンシン教に傾倒してしまう者も出てしまっている。
けれどそれは少数。
少しずつけれど確実に、魔法三大国から悪質なジンシン教は排除されつつあった。
そして今、アイシャはそれの顧問料をつぎ込み、魔術ギルドに頼んでいた一つのマジックアイテムを受け取り、帰路に着いていた。
帰ったら色々と準備しないと、と鼻息荒く気合いを入れた。
今日は姉の第一子である、アルス・グレイラットの誕生会の日。
アイシャは朝からやる気満々であった。
アルスが昼食前の素振りを終えて汗を流した後、何処か朝からそわそわしていた家族を不思議に思いながらも、リビングの扉を開けたアルスは、驚きに目を見開いた。
「「「「アルス(君)五歳の誕生日おめでとう!」」」」
一斉に放たれた言葉は、アルスの耳を震わせ、状況を把握しきれなかったその瞳がパチパチと瞬きをした。
そこには、家族が勢揃いしていた。
更には家族だけではなく身近な親しい人達も。
転移魔法陣が設置された事で、アスラ王国とシャリーアを毎日往復する生活を送っている二人も含め、勢揃いだ。
アルスの母であるルーディアとその夫三人、フィッツとロキシー、そしてアルスの父であるエリオット。
ルーディアの両親のパウロとゼニス、パウロの妻であるリーリャとギレーヌ。
ルーディアの妹のノルンとアイシャ、アルスの妹のルーシーとララ。
ペット兼守護魔獣のレオ。
ルーディアの友達達、クリフとその妻エリナリーゼ、ザノバとジュリ、護衛のジンジャー、リニアと、ナナホシ。
大所帯である。
そんな彼等が皆笑顔で、アルスの誕生日を祝っていた。
アルスは純粋に思う、自分の為にこれだけの人が集まってくれたのが、とても嬉しいと。
自然と笑顔となったアルスは、ペコリと頭を下げた。
「ありがと、ございます!」
そんな健気な返事に部屋も穏やかな笑いに包まれる。
テーブルには所狭しとご馳走が並べられ、いい匂いをさせていた。
『さ、運動してお腹空いたでしょ?まずは食べましょう。アルス、皆で沢山作ったから、いっぱい食べてね』
「はい、お母様!」
アルスはご馳走にキラキラとした目を向け、強く頷いた。
それを微笑ましそうに見つめる皆の手には、思い思いの飲み物が注がれたコップ。
アルスはそっと差し出されたコップを受け取った。
それを確認したルーディアは皆の顔を見回し、そのコップを上に掲げた。
『それでは、乾杯』
「「「「乾杯!」」」」
「もう五歳か…早いもんだな。ギレーヌ、改めて感謝するぜ」
「なに、礼を言うのはあたしのほうだ。新しい生き方を見つけられたからな…あたしがこうやってお前の妻として胎に子を抱いているのも、ルーディアと共にアルスを育てた経験からだからな」
ギレーヌは、少し膨らんだお腹を抱えて微笑む。
見事にパウロの子を妊娠したギレーヌは、幸せそうに腹を撫でた。
「私と奥様は出来ませんでしたね…残念です。ね、奥様」
「……」
『え…その状態の母様を抱いたのですか父様?』
「え、あ、いや、ゼニスだけ仲間外れにして抱かないってのもどうかと思って…ゼニスも嫌がっては…」
「…姉さん、これからお母さんは此方の家に住まわせて貰えませんか?」
わりと本気で進言するノルン。
パウロを見る目には軽蔑の色が浮かんでいた。
『……少し考えますか』
「いやいやいや!ゼニスから寄ってきたんだって!本当だって!なぁリーリャ!ギレーヌ!」
話を振られた二人は苦笑するだけで何も言わない。
娘二人からの疑いと軽蔑の視線に、パウロは必死に言い訳し続けていた。
それらを傍目にギレーヌとリーリャからは新しい服を一式渡された。
皆で話し合い、合うようにコーディネートされたものだ。
アルスはニコニコと笑い、受け取って礼を告げた。
「五歳おめでとう。君を抱えてルーディアが魔法大学に入学してきた日がつい昨日のようだな」
「おめでとうですわ。時が経つのは早いですわねぇ…。アルス君、わたくし達の子ももうすぐ産まれますから、優しくしてあげてくださいませ」
エリナリーゼは膨らんだ腹を撫で、アルスの頭も優しく撫でた。
「はい、おばあ様!任せてください!」
きり、とした表情で宣言され、二人はつい破顔してしまう。
「ははは、頼もしいな。だが、君もまだ幼い。何か困った事があればすぐ大人に助けを求めるんだ。こんなに君を祝福する為に人が集まっている。皆、君を助けてくれる」
「…はい!」
「いい返事だ」
エリナリーゼと比べると少し乱暴に、けれど愛を込めてアルスの頭が撫でられた。
「それではこれ、プレゼントですわ。雪道は滑りますから、滑りづらい靴を選んできましたの」
エリナリーゼから子供サイズの靴が袋に包まれた物が手渡される。
受け取ったアルスはニパッと笑った。
そして、それを見たエリナリーゼは突然ぶわっと涙を溢れさせた。
いきなりの事にアルスの瞳がギョッと見開かれる。
「う、うぅ…ちょっと前までよちよち歩いてたアルス君が、こんな立派に…うぅう…人の時の流れは早いですわ…」
「あぁ…すまないな、リーゼは妊娠してからたまにこうやって感極まるんだ。本当におめでとう」
「お待ちなさいクリフ!今のアルス君は今この瞬間しかいないのですわ!この目に焼き付け、ああー」
「おめでとうございます、アルス君」
「おめでと、アルス。これ、どうぞ」
「アルス君、おめでとうございます」
ザノバ一行から祝われ、ジュリからプレゼントを手渡される。
土魔術で作られた躍動感のある赤竜のフィギュアだ。
その格好よさに、アルスの瞳が輝いた。
「ありがとございます!」
その言葉にジュリがにへらと嬉しそうに笑った。
年というか背というか、近しい二人は仲が良く、このプレゼントもジュリの発案であった。
珍しいジュリからの提案に、ザノバは快く許可し、見事な赤竜のフィギュアを「二つ」作成していたのであった。
「めでたいニャぁ、おめでとうニャ、アルス君」
「おめでとう、アルス君」
リニアからはコートを、ナナホシからはマフラーを手渡される。
「寒いからニャぁ。風邪は引かないようにするんニャよ」
「しっかり巻いて使ってね、ヒラヒラさせるとカッコいいけど…すぐどっかに引っかけちゃって危ないから」
「体験談かニャー?」
「弟のね…」
少し寂しげに笑うナナホシ。
「はい!ありがとございます!気を付けます」
二人を見上げ、アルスはニコ、と笑ってお礼を口にした。
アルスの笑顔に、二人も穏やかに笑みを浮かべた。
「アルス、おめでとう」
「アルス君おめでとう!」
「アルス君、おめでとうございます」
エリオット、フィッツ、ロキシーが並んでアルスの前に立つ。
「これからお前には真剣を与える。俺の見てる前でならそれで素振りする事を許可する。長いほうが俺からの、短い方がイゾルテからのプレゼントだ。後で握りを調整するからな」
エリオットからはアルスがギリギリ振れそうな長さの剣と、その半分程の長さの剣を。
「僕からは、これ。初級から上級までの攻撃魔術の載った魔術教本。これね、僕とルディが一緒に勉強したのと同じ内容の本なんだ。色々応用出来るから、頑張ってね」
フィッツからは一冊の本を。
「僕からは杖を。別に師匠という訳ではないですけどね。わからない事があればなんでも聞いてください。知識だけはありますからね」
ロキシーからは30センチ程の杖を、それぞれ渡される。
受け取る側から傍らに大事そうに置き、アルスは改めて三人に向き直って笑顔を浮かべた。
「ありがとございます!お父様達」
それにフィッツとロキシーは嬉しそうに笑い、エリオットは強く頷いた。
「俺からあまり偉そうな事は言えない。お前の出産にも成長にもろくに関与してない、ダメな父親だからな」
それにアルスはそんな事ない、とばかり頭を振る。
出来た息子だ、とエリオットは破顔し、アルスの頭に手を置く。
「大事な人を守れるようになれ。守り方を間違えずにな。俺からはそれだけだ。本当におめでとう」
「アルス君。おめでとう」
「アイシャ姉!ありがとう!」
アイシャの姿を視認したアルスは満面の笑みを浮かべた。
それにアイシャも嬉しそうに笑い、ややあってアイシャは包みを取り出す。
「これ、プレゼント。私だと思って、肌身放さず身に付けててね?」
「開けていい?」
受け取ったアルスは目を輝かせて問い掛けた。
「勿論!」
笑顔で頷くアイシャ。
ややあってアルスが取り出したのは一つのペンダント。
首からかけるタイプのペンダントには、赤茶色に輝く石がついていた。
「ありがとうアイシャ姉!」
アルスは早速そのペンダントを首にかける。
つけて、どう?とばかりにアイシャに笑顔を向けるアルス。
それにアイシャも嬉しそうに笑った。
「似合う似合う!本当におめでとう、アルス君…」
アイシャはキョロ、と周りを見回し、誰も此方を見てない事を確認して、アルスへと身を寄せた。
笑顔のままアイシャを見るアルスの顔に、アイシャは顔を寄せ、頬にキスを落とした。
途端に頬を赤くするアルスに、アイシャはクスクスと笑う。
「えへへ、可愛いなぁアルス君」
『そうですね、自慢の息子ですから』
突然背後から聞こえる特徴的な声色に、アイシャの肩が跳ねた。
「あ、あたし、ちょっと空のお皿下げてきますねー」
そそくさとその場を立ち去るアイシャの背中、ルーディアの声がかけられる。
『年を考えて節度を守ってくれれば、何も言わないよ』
その言葉に胸を撫で下ろしつつも、それはそれとして、アイシャは本当に片付けの為にそのままいくつかの皿を抱え、部屋を後にするのだった。
『アルス。最後にオルステッド様から、これ』
ルーシーを抱え、ララを乗せたレオを横に侍らせたルーディア。
ルーディアの抱えているルーシーは、その手に持つ一つのブローチをアルスへと手渡した。
銀色の、フクロウを象ったようなそのブローチ。フクロウの目の部分が青色に光っていた。
渡された時は一応誘いはしたものの、ここから暫し離れる用事がある、と遠慮された形だ。
『身に付けておくと良い、って言ってたから何かのマジックアイテムなのかもね』
「お兄ちゃ!おめでとー!」
「ありがと、ルーシー」
ルーディアの腕の中のルーシーを撫で、ついでにレオの背中でうつ伏せになり、寝息をたてるララも撫でる。
そんなお兄ちゃんをしてるアルスの様子に、ルーディアは嬉しそうに目を細める。
受け取って直ぐに左胸…少しズレて肩辺りに着いている銀色のフクロウのブローチがキラリと輝いた。
――――――――――
「…おや」
「どうしたルーデウス?もう一息だぞ?」
「いえ…これは、撤退ですね。全力で撤退します。船に戻りますよ」
ルーデウスは取り出した魔力結晶を握り込んで粉々に砕き、足元に落とした。
そして足元の土が蠢きだす。
「ふざけないでください!いきなり現れて攻撃しておいて、何を勝手な事を!」
ルーデウスから少し離れた所、黒鎧を纏った集団に囲まれた黒髪の青年が怒りを見せる。
だがその威勢とは裏腹に、青年の体はボロボロで、至る所に血が滲み、片足などは変な方向に曲がってしまっていて、立ち上がれもしない状態だった。
「…アレク!お前の負けだ!不死魔族の血を引くのならば潔くオレ達の軍門に降れ!」
「お断りします!何よりも僕は負けてない!そこの男が卑怯にも僕の王竜剣を奪ったからだ!あれば負けてない!僕は負けてない!」
そんなアレクと呼ばれた青年の姿に、ルーデウスは手に持つ立派な大剣を持ちながら肩を竦めた。
「もういいです、アトーフェさん。王竜剣がなければ彼に大した事は出来ませんよ。何より、ちょっと気を逸らされた程度で武器を奪われるような間抜けはいりません」
「間抜け…間抜けだとぉがばっ!」
激昂する青年の眉間を、威力の弱まった岩砲弾が撃ち抜いた。
バガン!っと岩が砕け、青年はそのまま意識を失った。
「むぅ…オレの孫ながら不甲斐ない事だ。ま、オレならあんな手にかからんがな!アーッハッハッハハハハハ!」
高笑いするアトーフェだった。
流石は毎回人族の簡単な手に引っ掛かって何度も封印された経験のある魔王だなぁ、とルーデウスは内心でだけ思った。
やがて蠢いていた地面の動きが止まり、ルーデウスの足元が光りだす。
「さ、行きましょう。皆さん、此方へ」
ルーデウスの声に、青年を囲んでいた黒鎧の集団は駆け足でルーデウスの周りに集まる。
やがて全員がルーデウスの足元の円形の光に足を踏み入れた時、それを確認したルーデウスが、気を失っている青年を見る。
「それでは、この王竜剣は貰っていきますね、さようなら」
その言葉と共にルーデウス達の姿は色とりどりの光に包まれて、次の瞬間には消えてしまった。
後に残った光っていた地面は、いつの間にかなんの変哲もない地面に変わっている。
後に残るのは気を失ったボロボロの青年一人だけだった。
「魔術が見えたから見に来てみたが……こいつは…アレクサンダー・カールマン・ライバック…か?何故こんな所にろくな装備もなくボロボロで倒れている?死にたいのか?」
目を覚ました青年は、目の前の銀髪の人物から伝わる圧と恐怖に怯えた。
更には、自分の手元には信を置ける武器も道具も何もない。
目の前の人物は「死にたいのか」と言っている、つまり此方へと危害を加えようとしている。
そう思ってしまった彼は破れかぶれになって、どうにか治っていたその足で立ち上がり、その人物へと殴りかかったのだった。
「うわぁああああああああああ!!!」
「……なんなんだ」
ナナホシの家族構成何処で出てたかな…弟がいるような設定を見た気がして、弟いるとしてアルスを弟に重ねて割りと可愛がっているという描写外設定があったんだけど…。
もし明確な一人っ子設定あったら後々書き直します。
パウロとギレーヌの子供は
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男(人寄り)
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女(人寄り)
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男(獣寄り)
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女(獣寄り)
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双子(男女人寄り)
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双子(男女獣寄り)