『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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ミッション

月日は過ぎ行く。

龍神配下『デッドエンド』、『エンド傭兵団』。

ある程度自由に出来る戦力を手に入れた龍神は、ここから活発に動き出す。

オルステッドの目的はヒトガミの打倒。

それに付随する形で、ラプラスの討伐が必須である。

ラプラスはいずれ必ず転生して復活し、オルステッドが何もしなければ人族に戦争を仕掛けてくる。

戦力を整えられて戦争を引き起こされる事は、避けたい。

故にラプラスを転生直後、赤子の時に殺す必要がある。

 

「…お前には不愉快な話かもしれないがな」

 

『…そうですね、エリナリーゼとお母さんの二人が出産を控えてるタイミングで言う事じゃないですよね?もし二人からラプラスが産まれたらどうするんですか?殺すんですか?…私も抵抗しますよ?』

 

「……落ち着け、ラプラスはまだ転生出来ん。まだまだ先の事であるし、今のところ産まれる場所もわかっている」

 

『けどエリナリーゼとお母さんの子供は、この時期に産まれる事はなかったのでしょう?それならもしかして…とか』

 

「ない、安心していい」

 

『そこまで言うのでしたら…わかりました』

 

そして、ヒトガミのいる世界まで、オルステッドの魔力を出来るだけ温存して連れていく事、これがキモとなる。

オルステッドが出張れば、ほぼ負ける事はない。

けれどそれは同時にオルステッドの魔力消費を助長する事になってしまう。

オルステッドは龍族の秘術で同じ時間を繰り返している訳だが、それの代償として魔力の回復が非常に遅い。

今まで何度か治療をして貰っていたが、重傷だったとはいえ一人の人間を治すだけの治癒魔法に使った魔力も、回復に年単位でかかっている。

とはいえここからは任務の合間にルーディア、フィッツ、ロキシー等が治癒魔術を聖級ないし王級まで使えるようにしていく為に、それもなくなる筈だ。

そしてこれからは細かい布石、後々オルステッドの利益となる人物、またはそんな人物を産み出したり、拾って生かしたりする人物、そういう人達を生かしたり手助けしたり…それらが『デッドエンド』の主な任務となる。

その間にオルステッドは、自分にしか出来ない重要な布石をうちに、自由に動く事が出来る。

それを繰り返し、いずれ来るヒトガミの戦いを有利にしていき、その報酬としてオルステッドは、ヒトガミに狙われているルーディア及びその家族を守る。

お互いに利益のある契約であると言える。

 

『…それで、そこの、ボロボロで倒れている方は、どなたですか?』

 

「む…こいつは『北神』三世だ。紛争地帯辺りで何故か元々ボロボロで何も持たずに倒れていてな…その上で目を覚ましたら襲い掛かってきた。それで思わず叩きのめしたんだが…」

 

「うぅーん…僕は負けてない…負けない…」

 

「得物がないとか卑怯なとか、何時までも五月蝿くてな、眠らせている」

 

『成る程…どうするおつもりですか?』

 

「ふむ…こいつは以前敵対はしていたが、ヒトガミの使徒という訳ではない。それに…今のこいつは慢心していて武器頼りで未熟もいい所だが…北神三世は歴代最強となり得る存在だ。少し、対処に悩むな…」

 

『でしたら、一先ず私が預かりましょう。オルステッド様に襲い掛かったのも呪いのせいでしょうし、私から少し説得してみます』

 

「む…そうだな、俺が説得しては逆効果か…だが、この時期の北神三世は慢心からまともに人の話を聞かん可能性がある。もしも危害を加えようとするならば容赦しなくていい。惜しくはあるが、居なくても差程支障はないだろう」

 

『承りました』

 

ここからは細々とした任務が続く事となる。

オルステッドが転移魔法陣を各所に設置し始めているので、移動もかなり楽になる筈である。

まだアスラ王国と王竜王国とミリス神聖国にしかないが、これからもオルステッドはついでに、けれど慎重に増やしていく。

たが、便利であると同時にヒトガミに知られれば逆に窮地に陥る為に、使用前後は慎重にと厳命されている。

パウロやフィッツも、毎回姿を誤認させるマジックアイテム等で誤魔化している。

便利さと同時に何も考えず乱用すれば、此方の身を滅ぼす。

禁忌とされているのも納得の魔法である。

 

「…それはそうと、だ。北神三世は最初からボロボロになっていたと言ったな?北神は七大列強七位だった。もしやと石碑を見に行けば…七位の紋章が変わっていた」

 

『つまり、彼は負けてない、と言いつつも敗北したという事ですか?』

 

「ああ、先程今のこいつは未熟だとは言ったが、この世界における上澄みである事は間違いない。そしてその新たな紋章だが…」

 

『見覚えがあったのですか?』

 

「アスラ王国、ミルボッツ領の紋章だった。つまりノトスだ」

 

『…まさか!ルーデウスですか!』

 

「恐らくな。北神から直接聞いた訳ではないから断言は出来ないが…もしもそうなら、間違いなくルーデウスは王竜剣を奪っているだろう。あの剣は強大だ、気を付けろ」

 

『重力操作…でしたか。とんでもない剣ですね…わかりました。彼が目を覚ましたら聞いてみましょう』

 

「…よし、俺はそろそろ出よう。頼んだぞ」

 

『はい、いってらっしゃいませ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北神三世、アレクサンダー・カールマン・ライバックは微睡みから目を覚ました。

そこで感じたのは背中の柔らかな感触と、見覚えのない天井の違和感だった。

 

「…ここは」

 

『目を覚ましましたか?』

 

かけられた言葉…なんと形容のしようもない無機質な声に違和感を覚えつつ、アレクサンダーはその声のほうを見る。

そこには真っ白な長髪の女が無表情で此方を見ている光景だった。

顔立ちは整っているものの、左目は眼帯に覆われていて、左の頬には酷い火傷の跡が痛々しく残っている。

そして自分はどうやらベッドに寝かせられているようで、暖かな毛布も体にかかっていた。

更には意識を失う前にはあれ程痛かった体が、まったく痛まない。

 

『大丈夫ですか?』

 

「ああ…大丈夫、君が助けてくれたのか?」

 

自分は祖母を従えた胡散臭い魔術師に卑怯な手を使われて武器を奪われ、まるでこの世の悪の根源のような銀髪の男に襲われた筈だ。

ならば何故自分がこんな所にいるのか。

 

『助け…?…それよりお腹空いてませんか?リンゴでも切りましょうか』

 

きっと、この女性がその身の危険を省みず助けてくれたのだろう。

目の前の手慣れた様子で、リンゴを青白い刀身のナイフで剥いている女性を見る。

表情は変わらないものの、何処か優しい雰囲気を感じて、アレクサンダーはゆっくりと上体を起こす。

 

「ありがとう、名も知らないお嬢さん。もしかして傷も君が?」

 

『はい、少し治癒魔術の心得がありまして。代金要求したりはしませんので、ご安心下さい。あ、申し遅れました。私はルーディア・グレイラットと言います。貴方は?』

 

女性、ルーディア・グレイラットは剥き終えたリンゴを一つ、食べやすいサイズに切って此方へ差し出してくる。

それをアレクサンダーは受け取り、躊躇いなく齧りついた。

程好く冷えたリンゴの微かな甘さと酸味が口内に広がり、シャリシャリとした歯応えが小気味良かった。

初対面の相手から差し出される食べ物を、躊躇いなく受けとるなんて、冒険者としては失格もいい所であるが、ルーディアのその好意を無下には出来なかった。

二口程で差し出されたリンゴを口に放り込んだアレクサンダーは、笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「美味しいリンゴですね…申し遅れました、僕は北神、アレクサンダー・カールマン・ライバックと言います。SS級冒険者でもあります」

 

『まぁ、北神様でしたか。これは失礼を…』

 

そう言って頭を下げようとするルーディアを、アレクサンダーは慌てて止めた。

 

「止めてください!君は僕の命の恩人です。この恩はいずれ必ず返します」

 

『そうですか…?ではせめて、口を開けて下さい』

 

「…?はい?」

 

ルーディアは先程よりも小さく切ったリンゴを手に取ると、アレクサンダーの口元へとそれを近付けた。

 

『あーん』

 

「え、あ、あ…あー」

 

言われるがままに口を開けたアレクサンダーの口にリンゴが差し込まれる。

ひやりとした感触を舌に感じて驚き、口を閉じてしまう。

すると、まだリンゴを支えていたルーディアの指を咥えるような形になってしまった。

 

「んんん!ひゅ、ひゅみません!」

 

上体を反らして直ぐに抜くものの、アレクサンダーの顔はあっという間に真っ赤に染まってしまう。

そんな様子にもルーディアは無表情のままであったが、瞳が少しだけ細められた。

 

『ふふ、いえこちらこそすみません、抜くのが遅かったようです。美味しいですか?』

 

そう言って首を傾げるルーディアに、アレクサンダーはリンゴをシャリシャリと咀嚼しながら、頷いた。

 

「美味しいです…」

 

顔を赤くしたまま俯いて言うアレクサンダーに、ルーディアは少しだけ口角を上げた。

 

『まだありますから、どうぞ、北神様。あーん』

 

ルーディアは再度リンゴを手に取り、アレクサンダーの口元へと運ぶ。

それにアレクサンダーは数瞬迷うように視線をさ迷わせたが、少し躊躇いつつも口を開き、その施しを受け続けたのだった。

その女性、ルーディアの慈しむような雰囲気に当てられたのもあったが、アレクサンダーは自分でも知らないうちに心が弱っていた。

自分の武器を奪われ、それでも一応持っていた他の武器や道具で抗ったにも関わらず魔術師に負けてしまった事実は、王竜剣を奪われたから、と言い訳をしていたものの強い敗北感をアレクサンダーへと与えていた。

更には明らかな悪に手も足も出ずに敗北してしまった事、それらがアレクサンダーの自尊心を削ってしまっていた。

その弱った心にルーディアの甘やかしは効果バツグンであった。

更には命の恩人だと思い込んでいるので、アレクサンダーのルーディアへの好感度はうなぎ登り。

アレクサンダーは穏やかな羞恥心のような感情を、何処かむず痒く感じていた。

 

『さ、北神様、あーん』

 

「その、ルーディアさん」

 

『はい?』

 

「アレク、と呼んでくれませんか?」

 

親しい人はそう呼ぶんです、と続けようとして寸前で口をつぐんだ。

ポリポリと何処か気まずそうに頬をかくアレクサンダーに、ルーディアは気にすることなく小さく頷いた。

 

『はい、アレク様、あーん』

 

「あ、あーん」

 

アレクサンダーは顔を耳まで真っ赤にして、差し出されたリンゴを口にした。

嬉しさと羞恥と罪悪感がない交ぜになった感情ごと咀嚼して飲み込むように、乱暴に噛み砕いて嚥下したのだった。

『タイマン』パウロとギレーヌの子供は?

  • 女の子(獣寄り)
  • 双子(男女獣寄り)
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