え、あの女性人妻…?夫三人…?毎日代わる代わる…?
私の見立てでは、あの子すごい欲求不満でしたよ?
え、昨日も夜遅くまで…あらー…私の見立ても当てになりませんね、今まで百発百中だったので自信があったのですが…。
でも貴方はあれでしょう、あの女性の弟分でずーっと愛を燻らせていた感じでしょう?
…え、まだ会って数ヶ月?それであれだけ好き好きオーラ出してたんですか?
え、魔族の血を引いてて、若く見えるけどもう40越え?それでその落ち着きのなさですか…。
というか北神三世様?なんとまぁ、ぶん殴られてよく無事でしたね私。
いえいえ、まったく怒ってないですよ、恋人になる気がまったくなかった貴方方二人を、無理矢理くっつけようとしてしまった私の落ち度です。
むしろ申し訳なかったですね、貴方にはお辛い思いをさせてしまって。
それで、私のほうからお詫びとして…これを。
欲求不満なあの女性もきっと満足出来るでしょう。
貴方も何かあれば使うといいですよ。
『愛の巣』を経営していた変わり者の貴族や所属してた教徒達は厳重注意のみとなり、軽く指導が入った程度でお咎めなしとなった。
今回の被害者であったルーディアが次の日、夫三人を吸い付くした後抗議していたが、アレクサンダーが対応した上記の調書を見て、その抗議を取り下げていた。
ルーディアは真っ赤にした顔を両手で覆いながら、へなへなと座り込んだ。
それを難しい顔をして眺めるルークとパウロ。
「…彼の貴族が渡してきたのは、かなり高価な媚薬だな。俺も持ってるが…産地がなくなり、製法がわからんから希少価値も高く、効き目もいい」
「あー…それってもしかしてバティルスから作られる奴か?懐かしいな…あ、バティルスの花がな?そっかそっか…良かったなルーディア。上手く使えよ?」
だから懐かしい臭いがしたのか、と疑問は氷解したものの、ルーディアは赤くなった顔がなかなか鎮まらなかった。
相当多くの人間に、自分の年々高まっていく性欲の強さが知られてしまったからだ。
「…ところでフィッツはどうした?」
「ロキシーとエリオットもいねぇな…ルディ?」
ギクリと肩を揺らすルーディアに、笑顔で成り行きを見守っていたアリエルがすすーっとルーディアの横にしゃがみこみ。
「えい」
ルーディアの下腹部に手を這わせた。
『んっ…!』
たぽ、と水のたまった袋を触ったような感触に、アリエルは笑みを深め、ルーディアの耳元で囁く。
「昨夜は…朝までお楽しみでしたね…?」
耳まで真っ赤にしたルーディアは、その場に踞って背中を丸めたポーズで動かなくなってしまった。
「三人ともダウンだそうです」
にんまりといい笑顔を浮かべたアリエルは、隙間からまたお腹を触ろうとするが、硬いガードに阻まれているようだった。
「そうかい…そんで、アレクサンダー君は」
「僕は壁なのでお構い無く。後長いのでアレクでいいです。僕今は壁ですけど」
壁にピッタリと張り付きながらアレクサンダー、アレクは告げる。
努めてルーディアを視界に入れないように壁に溶け込もうとするその姿は、北神とは思えなかった。
ルーディアが来るまでは、何処か一皮剥けたような雰囲気を纏っていたというのに。
とはいえ昨日の聞いた活躍…と呼んでいいかはわからないが、ルーディアの誘惑を振り切った精神力には大いに感心していた。
パウロは娘な事もあって反応する事はないが、こんな美人にまったく反応しない奴がいたら、そいつはホモだと思っている。
「まぁ、いいか。とりあえずジンシン教のガサ入れ、脅威度の高い支部は潰し、芋づる式に隠れた性質の悪い貴族もリストアップ出来た…そろそろアリエル様が王になれるってタイミングで終われたのは、僥倖だったな」
今回のガサ入れによってジンシン教の支部をいくつか潰せたのもあるが、ついでに繋がりのあった違法な人身売買組織も潰す事が出来た。
また、それらに援助したとされる商会や貴族を要注意としてリスト化、今回は見逃す、と暗に脅してもいる為に上手く使えるだろう。
更には無害と判断したジンシン教は、軽い指導を行う事でエンド傭兵団と合わせて弱者救済の政策として改めてアリエルが打ち出す形とした。
治安維持に加えてそれらによって、アリエルの地盤はまさに盤石と呼べるだろう。
その成果にほくほく顔のアリエルは、ルーディアをつつく事に満足したのか、改めて椅子に座った。
「恐らく、もうすぐお兄様の最後の抵抗が始まります。それも今回の私の功績があれば、私が直接命を奪われない限りはひっくり返す事は不可能でしょう。とはいえ…私の身の心配はあまりしていません。信用していますよ。ここにはいないフィッツもね」
「ああ、任せろ。ギレーヌの出産を見届けて少ししたらすぐ戻る。が、なんかあったら直ぐに呼んでいいからな?」
「悪い、叔父上…」
「気にすんな」
わしわしとルークの頭を乱暴に撫で、パウロは快活に笑った。
『えと…アレク様…この度は本当にすみませんでした…』
「あ、いえ、仕方ありませんよ、薬を使われていたのですから…」
『いえ…あの、アレク様が覗いていたのも知ってましたし、私に好意を抱いてくれていたのも知っていたので…それを弄ぶような形になってしまって…』
「あ、あはははー、バ、バレていたんですかぁー!?」
『それで…その…私は…』
「待ってください」
『……』
「答えは…わかってるつもりです。けれど、せめて…僕が僕自身が貴方に相応しいと思えるようになったら…僕から言わせてください」
『……ふふ、わかりました、アレク様…』
「ルーディアさん、僕の事はアレクで良いです。親しい人はそう呼びますから」
『はい、アレク。頑張ってくださいね』
アレクはエンド傭兵団のアスラ支部を拠点に活動する事になった。
シャリーアには訓練の時に顔を出し、アスラでは木剣を手に治安維持に勤しんでいる。
流石の北神であり、純粋な剣の強さはかなり高かったが、変幻自在なパウロの剣と、重く鋭いエリオットの剣はアレクとしても捌くのは簡単ではなかった。
三人は時折手合わせしては剣の腕を磨いていった。
パウロ、エリオット、ギレーヌが北神三剣士を殺したと聞いた時、アレクは感心すると共に、胸の奥がチクリと痛んだ。
ウィ・ターとナクルとガドは北神として数年指導した事のある相手だった。
北神奇抜派をあまり快く思ってなかったアレクは、自分の元を飛び出して奇抜派として開花していた三人もまた、内心見下していたが…いざもう二度と会えないと思うと、寂しさや後悔が胸を埋めた。
墓の場所を聞き、纏めて埋葬されている北神三剣士の墓参りに向かう事にしたアレク。
その間アレクは一言も話さず、黙って酒を供え、自分もまた酒を煽った。
ただ純粋に彼らの死を悼む、北神三世の姿がそこにあった。
とある日、ルーディアは魔法大学に顔を出していた。
気付けば自分は6年生…来年には卒業だ。
いつの間にかノルンが生徒会長になっていたり、特別生も大森林からやアスラから来た偉い人達の子供達が増えていたり。
魔法大学も変化している、としみじみと感じていた。
ちなみにエリナリーゼは、子供を産んだタイミングで魔法大学は退学している。
クライブ、と名付けられた男の子は、世話したそうにしているリーリャとアイシャの従者親子を追い払い、エリナリーゼとクリフの二人でしっかりと世話をしている。
熟練であるエリナリーゼは兎も角、クリフは苦労の日々のようだが、それでも幸せそうだ。
出産が近いギレーヌはそれを見ても不安になる事なく、お腹を撫でて穏やかに過ごしている。
ゼニスも何かを感じているのか、よくギレーヌに身を寄せている姿が見受けられていた。
何処と無く、良く表情が変わるようになっているとはリーリャの談。
オルステッドの話では前は改善傾向すらもなかったというので、もしかしたら…という希望が見えている。
アルスもルーシーもララもすくすくと育っていて、ララはとっくに乳離れもしているし、ほとんどレオに乗って移動しているから殆ど見ることはないが、歩いたり走ったりも出来る。
あまり喋らないのが気になる程度。
皆が順調で、幸せで平穏な日々だ。
「…師匠」
研究室に入ると空気が重かった。
ザノバのすがるような声が響く。
近くにはクリフと赤子を抱いたエリナリーゼが難しい顔でうつむき、ジンジャーとジュリが心配そうにザノバを見つめていた。
「シーローンから…パックスから、手紙が届きました」
ザノバの声に、ルーディアは目を細め、身を固めた。
「…次の戦いが、迫ってるようです」