ミーティング
『デッドエンド』で現在動けるものは限られている。
フィッツは第一王子の動きが収まるまではアリエルから離れられず、一時的にギレーヌの出産に立ち会う為にシャリーアにいるパウロも、何かあればすぐに向かう事になっているので無理。
ギレーヌは言わずもがな、クリフは戦闘力はそう高くない上に、エリナリーゼとの子供が産まれたばかりだ。
勿論エリナリーゼ自身も難しい。
つまり今回対応に動けるのはルーディア、ロキシー、エリオットのみ。
戦力としてはザノバも加えてかなりの物ではあるが、国同士の戦争となると…どう転ぶかはわからない。
何より…前回ザノバが命を落とした戦いだ。
おまけに、その時は『泥沼』がシーローンを攻め、前のルーディアはそれに敗北を喫した。
多少の不安が残る。
「…そうか…王竜王国の王は事前に処理をしていた故に、パックス・シーローンが事を起こすのは従来通りだと思っていたが…そうなったか」
前回パックスは確かにこのくらいのタイミングで事を起こし、シーローン王国の上層部を一掃して王となったらしい。
だがその理由も、王竜王国国王レオナルド・キングドラゴンがヒトガミの使徒となり、パックスを支援した事が大きかったようだ。
故にオルステッドは、先にレオナルドを処理する事によって事が起きないようにしていたのだが…。
「…ひとまず俺は王竜王国の様子を見に行く。本来ならばレオナルドが崩御すれば国の混乱に乗じ、属国が他国に攻撃され、何か仕掛ける事等出来ん筈だ」
何かが動いている、そう感じたオルステッドは直接見に行く事に決めた。
「先日、念のためシーローン王国近くにも転移魔法陣を設置しておいた。移動はそうかからんだろう…だが、シーローンにはほぼ間違いなく罠がある。使徒の選定の仕方も今までとは違うように感じる…。よく警戒しておけ」
『わかりました』
パックスの手紙には前と同じようにシーローン王国の上層部を一掃し、王となった事が書かれていた。
ただ、そのせいで弱っていると思われ、北の国からの攻撃を受ける恐れがあるとして、神子であるザノバの力を求める、と。
魔法大学卒業直前で申し訳ないが、と謝意はかかれていたが、これは勅命である、ともかかれていた。
「俺達の目標はなんだ?シーローン王国を守ればいいのか?」
「それもある。だが、一番はパックス・シーローンを生かす事だ。仮にパックスがヒトガミの使徒だった場合でも、決して殺すな。パックスは未来において非常に重要な役割を持つ」
「パックス王子…いえ、パックス王の生存が重要という事ですか…貴方の話だといずれクーデターを起こされるという話でしたね?それを主導した者は…」
「使徒だったかどうかは定かではないが、クーデターを指揮していたジェイド将軍は処理している。奴が担ごうとしていた王子は処理していないがな…」
「そ、そうですか…でしたらとりあえず攻めてくる敵国さえ対応してしまえば、どうにかはなりそうですね。油断は…禁物なのでしょうが」
方向性を整理した後、準備の話となる。
ザノバはルーディア、エリオット、ロキシー、ジンジャーを連れてシーローン王国へと帰国する事となる。
「……ジュリの事は、師匠のご家族にお願いしてもよろしいですかな?流石に連れていく訳にもいきませぬ。鎧なども必要かもしれませぬな、移動時間が短縮出来るなら装備に時間をかけていきましょうぞ」
「装備は俺から提供しよう。既に拠点の倉庫にはある程度揃っている。そこから好きに見繕うといい」
「…感謝致しますぞ。さて、では早速拝見させていただきましょうか」
そう言って立ち上がるザノバに、ルーディアが声をかける。
『意外と…やる気ですね?貴方は…パックスにそこまで強い感情は抱いていないと思っていました』
ザノバはきょと、とルーディアのほうを向いて暫し考える。
「……いえ、オルステッド殿の話が本当であるなら、余も死んでますからな。パックスと共に殉じたという話は、あまり実感はありませぬが…人形が愛でられなくなるのは困りますからな!更には師匠を悩ませる悪神に一泡吹かせられるかもしれぬ機会、やる気も出ましょうぞ!さ、師匠達も共に見に行きましょうぞ、良い物が見つかるやもしれませぬ」
そう言って歩き出すザノバ。
照れ隠しなのか何なのか、とはいえ表情はいつも通りであったから自覚はないのかもしれない。
けれどルーディアは感じていた、ザノバがパックスへ何処か情のようなものを感じていると。
それは肉親の情か、ルーディアをシーローンで共に手助けした事で芽生えた仲間の情か。
はっきりとした事はわからないが、悪い感情ではなさそうだ、とルーディアはザノバの変化に小さく口元を吊り上げた。
ザノバは魔法大学を退学という事となった。
ルーディアの義足と義手の作成、その功績と各レポートで卒業は問題ないというのに、とジーナス教頭は残念そうにしていた。
また、ロキシーはザノバが半ば無理矢理連れていく形にする事で、長期間休む事も問題ないようにした。
クリフとエリナリーゼに別れの挨拶を行った時に、二人が黙って見つめあい、握手していたのが印象深かった。
男同士、研究でかなりの時間を過ごしていたからだろう、個性的な二人ではあるが、そこには強い絆が結ばれているように思えた。
「…君にミリス様のご加護があらんことを…」
そう告げるクリフは、少し寂しそうであった。
移動の途中、丁度シャリーアに戻ってきていたリニアとも鉢合わせし、ザノバが故郷に戻る事を告げた。
「まぁ…あちし達の間では色々あったけど…国に戻っても元気にやるニャ」
そう当たり障りのない言葉ではあったが、ザノバは気にする事なく、別れを告げた。
一番渋ったのは、実はペルギウスだったかもしれない。
昼頃にペルギウスに挨拶に向かったザノバだったが、帰って来たのは次の日だった。
そうなるかも、とは言われていたが、相当気に入られていたのだと改めて認識する話であった。
そして、ジュリをフィッツの家に預け、出発する日。
この日はフィッツがいる日で、ザノバは二人で家を見回っていたようだった。
家を買うときのいざこざを二人で思い出して懐かしんでいたのだろう。
ルーディアは、めそめそと泣くジュリをアルスと共になだめながらそれを眺めていた。
「…頑張ってね。幸運を祈るよ」
旅支度を済ませ、別れを告げた一行は旅立つ。
既に先に旅立ち、誰もいないオルステッドの拠点から、転移魔法陣で向かう。
目的地はシーローン王国。
目的はシーローンを、パックスを助ける事。
お互いの顔を見合わせ、コクリと頷きあう。
そして一行は転移魔法陣へと、足を踏み入れたのだった。
―――――――――
「よぉ、ルイジェルドの旦那。久し振りだな」
「お前は…ギースか…何故こんな所に」
「いや、悪魔が出るって小耳に挟んでよ。もしかして、と思って来てみたんだ。そしたら、案の定旦那だったって訳だ。…にしても随分と…疲れてんな?」
「ああ…そうだな、あまりこちらに近付くな。ここスペルド族の村は今…原因不明の疫病が発生している。まだそう蔓延している訳ではないが…お前にまで伝染るとまずい」
「おっと、そりゃ怖い怖い…冒険者にとって病気、疫病は死活問題だからな…」
「疫病…ですか。少し診せて貰ってもいいですか?」
「…お前は?医者なのか?」
「いえ、しがない魔術師ですよ。ただ、治癒や解毒にはそこそこ詳しいつもりなので、お役にたてるかもしれません」
「旦那、こいつは胡散臭いけど腕は確かだせ。Sランク冒険者だしな」
「そうか…お前が言うなら…わかった。俺はルイジェルド・スペルディアという。皆を見て貰えないだろうか」
「任せてください、微力を尽くしましょう。ルイジェルドさん、ですね。改めて初めまして」
「ルーデウス・ノトス・グレイラットと申します」
にぃ、と頬が不気味につり上がった。