『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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【地竜谷の決戦】

金色の闘神鎧がバラバラとなって谷底へと落ちていく。

勝った、誰かが思わず言った、死闘を制したのだと叫んだのだ。

冥王、剣神、北神、鬼神、そして闘神鎧。

数多の手練れを打ち破り、ヒトガミ打倒への道筋が開ける。

龍神オルステッドは決戦の地より離れた場所で、勝利の報告を聞いて拳を握りしめた。

これで、届くかもしれない、今までとは明らかに違う流れに手応えを感じた。

 

決戦の地地竜谷、その崖をふと見た緑髪の男が、冷や汗を流しながら呟く。

 

「皆…敵だ」

 

谷の縁に金色の鎧が見えた、みるみるうちに現れるその姿に、死闘を制したばかりの仲間達は顔を青ざめた。

 

「英雄は、どれだけ追い詰められても、復活し、逆転する。やっぱり、そういう風にできている!」

 

北神が闘神鎧を装着して谷底より現れたのだ。

王竜剣を構える北神に、皆が武器を改めて持ち直した時だった。

 

『いえ、貴方の役目はここで終わりです』

 

何時の間にか闘神鎧の横に、白髪の女が立っていた。

魔術師である女は鬼神の拠点を凍り付けにして降伏させたり、闘神との戦いでも本体は凍らせられずとも周囲を凍らせる事で戦いに貢献していた。

不意の一撃で気を失っていた筈の彼女がいつの間に。

女は北神が反応するより前に鎧の隙間に指を突っ込んだ。

同時に闘神鎧の動きが止まった。

得意の氷魔術で中身を凍り付かせたのだろう。

 

「よくやった!ーーーーー!今のうちにもう一度闘神鎧をバラバラにするぞ!」

 

茶髪隻眼の男が硬ければ硬い程切れ味を増す魔剣を掲げ、駆け寄ろうとする。

 

『いえ、その必要はありません』

 

女は何故かそれを断ると、白い仮面を取り出した。

少女時代につけていた仮面、それをカポリと女が顔に被った瞬間、闘神鎧がみるみるうちに女に取り付き始める。

言葉を失う一同に、女は続けた。

 

『最後の戦いですね、ヒトガミの使徒としての役割を果たしましょう』

 

顔を覆う兜は狼のような形となり、両手両足には鋭い爪が現れる。

大きさこそ成人女性より一回り大きいだけで大した事はないが、威圧感は先程の闘神鎧との戦いよりも強い。

何よりも、皆の中心人物だった彼女の、そもそもこの決戦の敵の目的の一人だった筈の彼女の突然の裏切りに、誰も現実を直視出来ていなかった。

 

初めに犠牲となったのは北神、凍結を解除し鎧を返せと王竜剣カジャクトで切りつけた所で、カウンターで体をえぐられ、体内から凍らされて粉々にされた。

そして王竜剣をその手にした女は、此方を見つめてくる。

鎧の隙間、仮面の奥から見える瞳に温度はない。

 

「闘神鎧を引き剥がす!それしかない!」

 

緑髪の男が叫び、それぞれが最後の力を振り絞って、女へと攻撃を繰り出した。

次に水帝の女が犠牲となった、剣を振り下ろす攻撃を受け流そうとした瞬間に王竜剣の重力制御でバランスを崩され、流しきれずに肩口から斜めに切り裂かれた。

血を撒き散らしながら崩れ落ちる水帝の女を視界の端に捉えながら、攻撃後の隙を見逃さずに剣神流『光の太刀』を繰り出し無防備な背を攻撃しようとした褐色獣族の女だったが、出だしを後ろ手に止められ驚きたたらを踏む。

捕まれたままの剣を持つ腕が、振り上げた王竜剣に両断され、思わず上体を反らした獣族の女の胸に、自らの剣が突き刺さった。

心の臓を的確にとらえられ、貫かれた獣族の女は幾度かもがくも、そのまま仰向けに倒れた。

瞬間咆哮をあげながら赤髪の男が『光の太刀』を放つ。

しかしそれは王竜剣の重力制御で少しだけはねあげられ、肩鎧を切り裂くだけに終わった。

そして無防備な腹を左の爪が薙いだ。

上半身と下半身に別れた男は何かを言おうとするものの、そのまま地面に落ち、ごぽりと血を吐くと動かなくなった。

その背中に緑髪の男が槍を、茶髪の男が魔剣を構えて飛び込む。

槍は王竜剣でさばいたが、魔剣はそのまま左腕の鎧に食い込んだ。

その手応えに生じた一瞬の隙に、王竜剣の柄部分で殴り飛ばされる。

緑髪の男は槍の連打が放つが、全てが対応され、一瞬息をついた隙をつかれ、槍と自らの手を凍らされる。

王竜剣の大上段からの振り下ろしにどうにか対応したが、触れた瞬間に凄まじい衝撃が走り、凍った腕ごと槍が粉々になった。

その衝撃に一瞬呆然とした男の首を、王竜剣がはねた。

一瞬で先程まで死線をともに潜り抜けた友を全て失った現状に、茶髪の男は最早笑うしかなかった。

 

「はは、ははははは…なんだよこれ…これが」

 

ガシャン、と目の前の闘神鎧が音を立てる。

 

「こんな光景がお前の求めてた事なのかよ!ーーーーー!」

 

左手の爪に切り裂かれた男の意識はそのまま闇に塗りつぶされた。

 

 

 

『オルステッド様』

 

黄金の鎧、足元に散らばる死体と血の海。

何故このような事になったのか、オルステッドにはわからなかった。

 

「何故…」

 

『またヒトガミの使徒になったのか、ですか?』

 

スペルド族の村の中で、血塗れの闘神鎧を纏った女は、いっそ朗らかに続ける。

 

『当然家族の為です、私は徹頭徹尾変わりません』

 

「その家族を…踏みつけているようだが?」

 

緑髪の男の生首に手を伸ばしながら力尽きた金髪の女、その背中に足の爪を突き立てたままの女は笑う。

 

『ああ、これは家族じゃありませんし。他の家族はオルステッド様と戦う邪魔をしてしまいますから…仕方なく殺しました』

 

「…そうか」

 

既に闘神鎧に呑まれはじめているのだろう、最早救う事は出来まい。

オルステッドは神刀を取り出す。

これを使わなければならない。

確信だった。

 

『あは、それですそれ、それを今私なんかの為にいっぱい使わせればオルステッド様はヒトガミの元に辿り着けません、そうすれば!家族の無事は保証してくれるのです!』

 

「…奴が約束を守るとは思えんがな」

 

『いいんですもう!私が信じて幸せに終われば!それで!もう!」

 

今までの魔道具から聞こえる声ではない、肉声が響く。

そうか、奴の肉声はこんな声だったのだな。

闘神鎧が最適化した事で結果的に声が出るようになったのだろう。

後は命が尽きるだけだというのに、皮肉なものだ。

 

「ロキシー!クリフ!パックス!ザノバ!ナナホシ!彼らを救えなかった私にはお似合いの最期です!」

 

叫ぶ彼女は泣いてるような気がした。

 

「さぁオルステッド様、始めましょう!ご安心下さい、ヒトガミの駒は私で最後ですよ!」

 

「今は、か?」

 

狼の頭がニヤリと笑みを浮かべ、猛烈な冷気が周囲を包む。

血の海となっていたスペルド族の村がみるみるうちに凍り付いていく。

 

「さぁ私の最期の晴れ舞台!推して参ります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりだ」

 

決着は差程かからなかった、白髪の女は四肢の全てを根元から切り裂かれ、仰向けで胸部を神刀に貫かれ、地面に縫い付けられている。

だが、オルステッドも無事ではない、体は所々がオーラを貫通して凍り付き、王竜剣で胸部を大きく切り裂かれていた。

 

「ごほっごぷっ…流石、ですね…」

 

苦しそうに血を吐く女、王竜剣は離れた所に転がり、闘神鎧は全て吹き飛ばされ、つけていた仮面は右側を砕かれ顔が露になっている。

今までは無表情だったその顔は、苦痛に歪んでいた。

女は嫌らしい表情を無理矢理作ると、声色をつくって言葉を紡ぐ。

 

「『お疲れ様オルステッド、まんまとひっかかったね、茶番劇にお付き合いどうもね!君の負けさ、ざまあみろ!』だ、そうです…」

 

そこまで言って、女はふっと空を仰いだ。

 

「…そうか…」

 

確かに、今回は、もう無理だ。オルステッドは内心で呟く。

 

「ねえ、オルス、テッド様…私の、人生って、なんだったんでしょう、ね」

 

自嘲しながら言う女に、返す言葉はなかった。

 

「でも、そう、残った家族さえ、生きていけるなら…それで、全てを切り捨てても、それで…いいって…」

 

やがて女の目から生気が消えていく。

命が尽きようとしている。

 

「ああ、でも、出来れば、もっと、皆と…生きていたかった…なぁ…みんな…ごめん、ごめんなさい、ごめ…なさ…ご…」

 

ヒュゥと小さな息が吐き出され、白髪の女の呼吸と心臓は止まった。

女の右目からは涙が一滴こぼれていった。

女は死んだ、自らの愛する者をほとんど殺して。

 

「…それで幸せだったのか…?」

 

オルステッドは女に問い掛ける、既に死んでいる女から返事はない。

女の自分への献身を思い出す。そこに偽りは感じられなかった。

子を抱いて無表情で、けれど幸せそうにしていたそれに。

是非抱いてやって欲しいと、自分のような者に子を預ける時の慈しみの雰囲気に。

抱きかたに慣れず四苦八苦する自分への苦笑いに。

 

何故そんな女を自ら手にかけねばならなかったのか。

女の死体は答えない、死体ばかりのこの土地で答える者はいない。

 

彼女は自分にとって鍵となる人物だった。

そんな彼女を何故守れなかった、何処がターニングポイントだった?

見つけなければならない、何かがあるのだ、ヒトガミが仕掛けた何かが。

聞いた話を全て思い出せ、きっかけとなる何かがある筈だ。

彼女の為ではない、自分の為に。

 

「ヒトガミの策は…全て叩き潰す」

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

「オルステッド?起きてる?」

 

「…ああ、そろそろ行くとしよう」

 

目の前で真っ白な仮面をつけた黒髪の少女、ナナホシが此方を見ている。

ああそうか、そうだったな。

前と変わらないのであれば、この後に会うことになる。

小休憩を終え、ナナホシとゆっくりと歩きだす。

 

「ねぇ…本当に竜がいるの?」

 

「今から行く所にはいない。山脈に入ればわんさかいるだろうな、行くか?」

 

「冗談止してよ」

 

「ならば行くぞ、赤竜の下顎へ」




なぁルーディア、龍神は本当に信じられんのか?
俺には恐ろしい男にしか見えないんだがなぁ…。
まぁお前がそういうならそうなのかもな。
所でよルーディア。俺、ヒトガミの使徒なんだよ。
まぁまぁ待て待て、少し話聞けって。龍神なんかとは手をきったほうがいいって話をしにきたんだよ。
あ?何故ヒトガミに従うのかって?
だってお前、ヒトガミに助けられた事あるだろ?
裏切られたとしたって、恩がある事は変わらねえ。
まだ、返さなきゃ行けない恩がある、だから俺はヒトガミを全力で助けんだよ。
覚えあるだろ?なぁルーディア。それじゃ筋が通らねえ。
確かにヒトガミはゲスで外道だ、だが助けられた恩が消える訳じゃねえ。
なぁルーディア、俺にもちっとした貸しがあるだろ?
それを返すと思ってさ。話だけは?…助かるぜ。
まぁ、安心しな、本当に細かい条件つきでのみお前には動いて貰う。
それ以外は本気で抵抗してくれ、そもそもお前らに宣戦布告したヒトガミの使徒って奴はこの話知らねえしな。
だが油断すんなよ?あいつには闘神鎧がある。
やべー鎧さ、装着者の生命力を吸いとって絶大な力を与える鎧だ、俺が着ても神級と渡り合えるかもしれないらしいぜ。試す気はないけどな。
ま、兎に角俺が求めるのはある条件を満たした時に龍神を裏切って欲しいって事なんだ。
『闘神鎧を装着した北神が王竜剣カジャクトを構えた時その二つを奪ってヒトガミの使徒として全力を出せ』
それだけ頼むぜルーディア。
…なんだ、まだ不安なのか、いいかルーディア。
ヒトガミはしつけーぞ。絶対に諦めねー。種族単位で国単位で狙われる事になる覚悟あんのか?龍神は本当に守ってくれんのか?仮に守れたとして未来でヒトガミを倒す為にお前の家族を使い潰さない保証でもあんのか?
なぁルーディア、要請に答えてくれたならヒトガミは流石に手を出すのをやめるぜ?なぁ。龍神はもう既にお前の家族を利用する事を考えてんじゃねえのか?
なぁルーディア。条件も複雑なんだ、そう深刻に考えんな。
ん?闘神鎧を装着したらどうなるのか?
外から壊して外さない限り死ぬぜ、間違いなくな。
少し考える、か。いや、答えはわざわざ言わなくていいぜ。
それがジンクスだ。
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