『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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オーダー

与えられた一室に集まり、皆は顔を見合わせた。

思う所は当然一つ、オルステッドの行動がまったく阻害になっていない…むしろ加速させていたように感じる事だ。

 

「…あいつ本当に大丈夫なのか…?まさか今も王竜王国で王候補を殺して、また新たな火種作ってたりしないだろうな…」

 

不安げな表情で告げるエリオットに、皆もそれぞれ複雑そうに顔を歪めた。

 

「せめてこの現状を今伝えられればいいんでしょうけど…今僕達が動く訳にもいきませんからね、オルステッド様が何処にいるかもわかりませんし」

 

「ふーむ、パックスはやる気満々でしたな。なかなかどうして。王として様になっていた事には少々驚きましたぞ。皆殺しは過激でしたが…理由もまぁ、納得の出来るものではありましたな」

 

『とはいえ前回でもパックスは同じように王族を皆殺しにしていたようですし…ヒトガミが裏で操っている説を私は推します。それこそ王が崩御しながらも最大戦力を他国に派遣した、ステルヴィオという人が怪しく思いますね』

 

「ふん…まあこれ以上、あいつの動きで状況悪くならなければいいさ。俺が出来るのは結局斬るだけだ」

 

「気まずさだけが問題ですね…まさか説明する訳にもいきませんから、晩餐会までには切り替えていきましょう」

 

『そうですね…どんなのが出るんでしょうね、ランドルフさんの見た目は料理なんてしそうもないので、まったく想像出来ませんね』

 

「ふむ、ランドルフ殿の料理という事は、シーローンの料理はお預けですかな?少々残念ですな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晩餐会に並べられた料理は、一目見た瞬間に顔をしかめるようなものだった。

見た目もひどければ、匂いもひどい。

腐っていたり、食べ物ではない、といった匂いではないのだが、あまり美味しそうという感情は湧かないものだった。

そんなルーディア達の様子に、パックスは楽しそうに笑っていた。

 

「ははは、見た目も匂いも最悪だろう!だが騙されたと思って一口食べてみよ。驚くぞ?」

 

エプロンにコック帽をしたランドルフは、不気味な笑顔を浮かべていた。

ゆらゆらと揺れながら、此方の様子を伺っているようだった。

ルーディア達はスプーンやフォーク等をそれぞれ手に取る。

そんな中、ルーディア、ロキシー、エリオットは不意に何処か懐かしさを覚える匂いを感じた。

意を決し、ルーディア達はそれらを口に運び…。

 

「わ、美味しいですね!」

 

「…美味いな。見た目からは想像も出来ない」

 

『これ…魔大陸で食べた料理を思い出しますね。それより相当美味しいですけど』

 

「む、特徴的ではありますが、なかなか美味ですな」

 

それぞれが目を輝かせた。

その反応にランドルフは笑みを深め、更に不気味さを増しながら此方を見ていた。

傍目には何かを企んでいるように見えるが、ランドルフは純粋に喜んでいるだけである。

 

「あー、成る程…懐かしさを覚えた原因はそういう…うん、とても美味しいです、陛下」

 

ランドルフの作る料理は見た目も匂いも最悪であるが、味付けは魔大陸風の味付けで、食に一言あるパックスは気に入っていた。

魔大陸の食事に馴染み深い三人は懐かしさも加味され美味しく頂き、ザノバの口にもあったようで晩餐会は穏やかな雰囲気で進んでいく。

むしろロキシーはあの魔大陸風の味付けがここまで美味しくなるのか、と驚きながら、自分の狭い了見を恥じてすらいた。

 

「皆の口にあって何よりだ。こやつの料理は、ベネディクトとの逢瀬以外の数少ない楽しみであった。ベネディクトも気に入っていて、その姿がまた愛い」

 

黙々と料理を口に運んでいたベネディクトは、その言葉に反応し、パックスを見る。

パックスは笑みを浮かべながら手を振り、なんでもない事を示す。

それを見たベネディクトは一度首を傾げ、そのまま食事を再開するのだった。

 

「では食事を楽しんでくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を終えた所で、ルーディアは一つの箱を取り出した。

お土産として持ってきた…ちょっとした揚げ菓子だ。

ナナホシが食用油の販路を拡げていたので、シャリーアではそれが手軽に手に入る。

故にルーディアはアイシャに手伝って貰って、ポテトチップスを初め、前世の朧気な記憶から揚げるタイプのお菓子をいくつか再現に挑んでいた。

その完成品の一つを、ルーディアは晩餐会のお礼として差し出したのだった。

円形に整えられ、真ん中に穴が空いた小麦色の揚げ菓子。

ドーナツである。

しかも米粉を使ったふわふわもちもちの、ルーディア会心の出来の物であった。

一応、とランドルフが毒味として先に口にしたが、反応は劇的だった。

片目を目一杯に開いたランドルフは、あっという間に一つをペロリと平らげてしまった。

 

「…なんと、なんと甘美な。周りはサクッと小気味良く、中はふわふわで噛み締めるともちもちとした食感…!丁度よい甘味と鼻を抜ける風味…これは美味い…!」

 

そんなランドルフの反応に、ベネディクトは辛抱堪らないとばかりにドーナツを手に取り、頬張った。

もくもくと噛み締めていくにつれて、輝きを増すベネディクトの瞳。

 

「んー!」

 

ベネディクトの反応を見ながら、パックスもドーナツを口にした。

その口に頬張った瞬間に広がる美味しさに目を見開きながら咀嚼し、ゴクリと飲み込んだパックスは大きく頷いた。

 

「ルーディアよ…これのレシピを後でランドルフに渡してくれぬか?何かしら、後で礼を…褒美を取らすぞ」

 

視界の端で、凄い勢いで首を上下に振るランドルフが見えた。

 

『お口にあって何よりです。褒美はいいですよ。レシピは後でまとめておきますね。作った甲斐があります』

 

「そうか…感謝する。ならば代わりにお主達の移動手段については、言及を避けよう。こんな菓子を用意出来る程、シャリーアと近いとは思わなかったぞ」

 

そのパックスの言葉に、ルーディアは息がひきつった。

まるで転移魔法陣の事すら見透かしているような言葉に、ルーディアは恐る恐るパックスに視線を向けた。

もぐもぐとドーナツを咀嚼するパックスは、悪戯っぽく笑う。

 

「あまり気の知れた仲だと油断するな、余はこれでも王族としての教育を受けた身だ。お前達が国境を越えた事も、国内で目撃された事もなく…その上でこんな新鮮な素材を使い、作ってからそう時間も経っていない菓子を渡されれば、ある程度想像はついてしまう。……故に、これ以上は言わん」

 

『は、はい…ありがとうございます…』

 

ルーディアは調子に乗りすぎた自分を戒めるように、身を小さくし、俯いた。

余談であるが、10個差し出されたドーナツのうち、6個をベネディクトが平らげていた。

もくもくと嬉しそうに食べ進めるベネディクトに、途中からパックスが手ずから食べさせていた。

結局二つしか食べられなかったランドルフは、少しだけ残念そうに俯いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて兄上……ザノバ・シーローン。お主にカロン砦の守護を命じる。既に兵は配置してある。指揮官として明日から護衛達とともに出向き、北からの軍勢を抑えよ。今日は王宮でゆるりと休め。活躍を期待している」

 

「ハッ!お任せくだされ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、皆さんすっかり良くなったようですね」

 

ビヘイリル王国、森の中にあるスペルド族の村。

そこは、つい先日まで暗い雰囲気が漂っていた。

だが一人の人族がもたらした物によって、活気を取り戻しつつあった。

村の中を数人の尻尾を生やしたスペルド族の子供達が走り回る。

その子供の一人が、それを眺める茶髪の男に気付き、笑顔で手を振る。

 

「ルーデウスさーん!」

 

「ちゃんと前みなさーい。危ないですよー」

 

「はーい!」

 

元気よく去っていく子供達の姿を見て、ルーデウスは腕を組んでうんうん、と頷いた。

その先では獲物を仕留めて帰って来た大人達に駆け寄る姿が見えた。

それらを見届けたルーデウスは、ニコリと笑みを浮かべると踵を返して、粗末なログハウスの中へと入っていくのだった。

 

 

 

家の中では顔に傷のあるスペルド族の男性が座っていた。

 

「子供達は何処でも元気ですね。微笑ましい限りです」

 

そう呟き、男性、ルイジェルドの対面に、ルーデウスは座り込んだ。

 

「…ルーデウス、感謝する」

 

ルイジェルドは頭を下げた。

 

「お前のおかげでスペルド族は救われた…この恩は忘れん」

 

「いえいえ、治療法を見つけた時もお伝えしましたが、僕がいずれ用意する戦場で力を奮ってくれれば、それでいいですよ」

 

ニコニコと笑みを浮かべたままのルーデウスは、自分の荷物を漁りながら答える。

 

「そうか…その時はスペルド族の一人として、力になる事を約束しよう」

 

「ええ、お願いしますね」

 

ルーデウスは荷物から布のようなものを取り出す。

そしてその鼠色の布を羽織るように纏い…口元を吊り上げた。

そのまま鼠色のローブを纏い、フードを被った姿を見たルイジェルドの瞳が見開かれる。

 

「改めて。S級冒険者、『泥沼』のルーデウスです。これから、宜しくお願いしますね、ルイジェルドさん」

 

朗らかな笑みを浮かべて手を差し出すルーデウスを、驚愕で目を見開いたルイジェルドが呆然と見つめていた。

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