『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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アンケート拮抗してて面白いですね。
皆様投票ありがとうございます。


ウォークライ

カロン砦の防衛を任された一行は、カロン砦への道で馬車に揺られていた。

広い街道等はなく、細い道をひたすらに進んでいく。

 

 

 

パックス曰く、本来はカロン砦は捨て、後方のリコン砦にて兵力を集めて叩く予定であったそうだ。

故にカロン砦には最小限の兵のみを残し、遅滞戦闘を命じていたらしい。

ザノバが参戦したとてその作戦は変わらず、精々カロンから退却する兵の手助けを命じた程度だろう。

しかし、ザノバが連れてきた予定外の戦力によって、パックスは作戦をより攻撃的に変更する事となった。

つまり、カロン砦での敵勢力の撃退である。

 

 

 

『デッドエンド』の噂はシーローンにも届いていた。

その直属の組織と言える『エンド傭兵団』にも兵力を求めて声をかけていた為、ある程度の情報を得ていたのだ。

それによればなんと、アスラの情勢安定に彼らが絡んでいる、と。

嘘か真か水神を抑え、北神三剣士を撃破したと。

『龍神』の配下として動いていると。

『北神』を従えている等々、俄には信じられない情報であった。

それらの真偽の裏付けを取りつつ、けれどあの姉弟子ならばやるかもしれんと、何処か誇らしい気持ちと少しの嫉妬を抱きつつ、今回の作戦変更に踏みきったのであった。

 

 

 

まずはカロン砦にザノバ達を送り、砦の人員はそのままに、予定通り防衛させる。

砦の人員は敵国に既に割れていると仮定しており、それを見越して攻めて来ると考えていた。

故に目立つ増援は送らず対応して貰う事となる。

しかしそれは罠、リコン砦に集めていた戦力を密かに冒険者のように偽装し移動。

戦端が開かれたら、戦場に敵国が入り込んだのに合わせて挟み込む。

それまでの時間稼ぎ…囮をカロン砦が担う事になる。

本来ならば流石にそこまでは人員が、砦がもたない。

故にそれと似たような策を少し後退したリコン砦で行う予定であったのだが、ザノバ達の戦力ならばカロン砦わもたせる事は可能であろう、という判断となった。

この策にて敵国を完膚なきまでに叩き、シーローン王国を平定させる。

パックスは確信していた。

彼らならば、必ずや役目を果たしてくれるだろうと。

だが、そんな期待は、良い意味で裏切られるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

移動から十数日…戦争が、敵国の進行が始まった時、砦の前、これから戦場となる場において、数人の人影があった。

その一人、ルーディアは遠くで巻き上がる土煙や事前に此方が用意していた落とし穴等を埋めようとする砂嵐を、ぼんやりと見つめていた。

 

『…こういう場は初めてなので緊張しますね』

 

「余は久し振りですな。戦場の空気…ふむ、やはり悪くはありません」

 

何処か浮き足立つザノバを横目で見つつ、ルーディアは落とし穴を埋めきった敵軍が進行するのを見る。

 

『…そろそろですかね』

 

ルーディアはそのまま上空を見上げた、

雨雲が集まり出し、ごろごろと音を鳴らしていた。

ロキシーの全力の豪雷積層雲だ。

敵もそれに気付き、レジストしようと足掻いているようだが、ロキシーの全力の魔力操作に抗えないようで、やがて空からは雨が降りだす。

やがてレジストを諦めたのか、敵軍はそのまま進軍を始める。

雨はまだそこまで強くなく、視界を奪う程ではない。

故に当然砦の前に立つ数人に気付き、相手方は遠距離攻撃…魔術や弓を構え出す。

それを見たルーディアは体に氷を纏いながら、敵軍の方へと一歩一歩、ゆっくりと歩き始める。

見えるだけで数百、更にその後ろには数千の兵が控えているのだろう。

そんな、圧倒的な数から放たれる無数の矢、魔術。

それに対してルーディアは、至極ゆったりとした動きで右手を掲げ、手の平を向けた。

 

『絶対零度』

 

瞬間、全ては凍り付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ザノバ、行くぞ。敵将を捕らえに行くんだろう?」

 

「え、ええ…その通り。…行きましょうぞ」

 

ルーディアの成した事に、ザノバは呆然としてしまい、言葉に詰まった。

戦場にはロキシーの豪雷積層雲による嵐が吹き荒れ始め、視界を奪い始めている。

 

「…あれが師匠の放つ帝級魔術ですか…聞くと見るでは大違いですな。…よし、今敵軍は混乱どころか動けん。迅速に指揮官を見つけ出し確保する!エリオット殿に続け!」

 

「「「は、はっ!」」」

 

ザノバは背後の兵士達に告げ、走り出す。

兵士達も今起きた現象に呆気に取られていたのだろう、一瞬おくれてから、彼らもザノバの後を追って走り出した。

彼らはこれから、敵軍から少し離れた所を迂回しながら、敵軍の奥…恐らく指揮官がいるだろう所に、少数で突っ込むのだ。

先を走るエリオットの背中を見つつ、ザノバはちらりと横目で敵軍に視線を向けた。

先程まで意気揚々とカロン砦へと向かっていた敵軍の兵士達は、それぞれが氷像へと姿を変えていて、本格的に降りだした嵐の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凍りついた戦場を、氷狼鎧を纏ったルーディアが歩く。

氷像と化した兵士達の一部は、氷に包まれながらもまだ息はあり、ガタガタと震えながら、目の前を歩く存在に恐れの視線を向けていた。

魔術が使えるものや、力の強いものは少しずつその氷を溶かしたり砕いたりしているが、その間も強く吹き付ける雨と風に、否応なしに体力を奪われ続けていた。

生半可に砕いた者など、雨に濡れた部分が周囲の氷の冷気によって再度凍りついてしまっていた。

そんな彼らの動きを気にする事もなく、それを成した氷の狼は、やがて兵士達に四方を囲まれた位置でピタリと立ち止まった。

すぐ側で右手だけ自由になっていた兵士が、恐怖に顔をひきつらせながらも右手だけで剣を振るい、ルーディアに叩きつけているものの、その身に纏う鎧に傷すら出来ない。

そんな抵抗を見ることもせず、ルーディアは両手を広げて、胸を反らした。

すぅ、と大きく息を吸い込み、空を仰ぎ、かぱりと氷の狼の口が開いた。

 

『アォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!』

 

大咆哮。

雨が一瞬止んだと思う程の強大な衝撃波が戦場を包んだ。

いや実際、その咆哮の衝撃によって、雨は一時的にに押し留められていた。

咆哮をまともに受け、どうにか意識を保っていた兵士は気絶し、一部の自由になっていた兵士は平衡感覚を失い、その場に崩れ落ちた。

 

「こっ…のぉっ!」

 

それでも、と気合いのみで抗い、一人の兵士がルーディアに矢を放った。

しかし、その矢がルーディアに到達したと同時に、放った兵士の眉間には自らの放った矢が突き刺さっていた。

ルーディアの手にはいつの間か、小太刀が握られていたのだ。

放たれた矢をそのまま打ち返した、それだけ。

放った兵士は何が起こったのか理解出来ぬままに、地面に倒れこんだ。

やがて、砦のほうから声や足音が聞こえ始める。

カロン砦に控えていた兵士達が、咆哮を合図に向かってきたのだろう。

あとは凍らされ、咆哮による麻痺、更には強大な嵐で体力を根こそぎ奪い取られて身動きの取れない兵士達を順々に処理していくだけ。

そんな時、ルーディアの背後に轟音とともに雷が落ちた。

ゆっくりと振り返れば、そこには敵兵士が、剣を振り上げた状態で黒焦げになって倒れ込む所だった。

ルーディアは、砦の屋上で此方をしっかりと見ていてくれたロキシーを見つめ、ペコリと頭を下げる。

やがて視界を遮っていた嵐は勢いを弱め、雲の隙間から微かに日が差した。

数百数千という敵軍の氷像が、日を受けて光輝いていた。

 

『後は、戦場を見て回りますか…動けそうな人がいたら…トドメをさしておきましょう』

 

ルーディアはそう呟き、背後に兵士達が到達したのを確認しつつ、ゆっくりと周りを見渡しながら歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリオットとザノバも無事に目的を果たし、敵国の王族とやらを確保してきた。

多少の抵抗は受けたのだろうが、兵士の鎧の一部が攻撃を受けた跡がある程度で、他は返り血…エリオットが一刀の元に切り捨てた敵兵士の血がついてる程度のもので、ほぼ無傷であった。

兵士の犠牲はなし、敵国はほぼ全滅。

氷像と化した兵士達の一部は解凍して捕虜に。

完全勝利だと言えるだろう。

懸念事項があるとすれば…ヒトガミの使途の影がなかった事だろう。

大規模魔術を使い、魔力をたっぷりと使い、隙も見せた。

にも関わらずヒトガミの使途も、前回はいたという『泥沼』も姿を見せない。

少し不穏な物を感じるものの、 ルーディアは此方を畏怖の表情で見つめ、今にもひざまづきそうな程に恐縮しているシーローン王国兵の間を歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな開戦から数日後、カロン砦からの定期連絡を確認したパックスは、そこにかかれた言葉、ルーディア達の今回の成果に、飲んでいた紅茶を噴き出したのであった。

ただでさえロキシーが手を加えた事で魔術への理解が深く、学習意欲の強かったシーローン王国兵だが、もっと学ぼうと思う者が増えたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

王竜王国の属国の一つキッカ王国と、王竜王国が混乱してる隙をついた紛争地帯のとある小国、その戦端が今にも開かれそうな、これから戦場となる場にポツンと、黒い人影があった。

その人影のシルエットはとても人とは思えなかった。

背中から羽のようなものが生えているのが遠目からでもわかったからだ。

そんな人影はふわりと浮くと、キッカ王国のほうへと凄まじいスピードで飛んできた。

ざわりと戦争前でピリピリしていた兵士達の間に緊張が走る。

その姿が視認出来た時、ざわめきは更に大きくなった。

青黒い肌に、額の角、背中から生えたコウモリのような羽。

そんな明らかな、魔族の女であった。

 

「オレはおーりゅーおーこくからの増援!お前達は、おーりゅーおーこくの敵か!!?」

 

突然魔神語で放たれた問いに、偶然にも魔神語が出来た指揮官が反射的に答えた。

 

「違います!我々は王竜王国属国の、キッカ王国の者です!」

 

「そうか!ならばあっちか!邪魔したな!」

 

女はそれだけ言うと空中で姿勢を変え、キッカ王国が対面している軍隊へと、また凄まじいスピードで飛んでいった。

そうして遠くの方から、女のでかい声が戦場に響き渡った。

 

「おーりゅーおーこくの敵よ!オレの全力を受けてみろ!」

 

女は敵国のど真ん中で大剣を両手で大上段に構え、そう叫んだ。

当然矢や魔術が容赦なく飛び交うものの、女は微動だにしない。

見に纏う鎧に当たった矢や魔術は弾き、生身に当たってもすぐに再生してしまう。

そして、目を疑う現象が起きた。

敵兵が不自然に宙に浮き出したのだ。

遠くからでもわかる程に手や足をバタバタと動かし足掻く敵兵。

そんな真ん中へと、女は剣を振り下ろしながら、一気に落下した。

 

「『重力破断』!!!」

 

閃光、爆音、衝撃。

 

 

 

土煙が晴れた時、キッカ王国は理解した。

その一撃で、戦争は終わったのだと。

敵国のいた場所に現れた数十メートルもの巨大なクレーターを見て、彼等は思わず身を震わせたのだった。

そしてそんな気もなかったが、彼等は誓った。

王竜王国には逆らわない、と。

 

「アーッハッハッハッハハハハハハハ!!!」

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