『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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前の話少し後ろに追加しました。


ポストウォー

ルーディア達はカロン砦で何日か様子を伺っていた。

ザノバが敵国の王族を使って停戦協定を結ぼうとしている為に、手持ち無沙汰であった事もある。

戦い…あの一方的な蹂躙の後、リコン砦からやってきていた増援は呆気なく終わった戦争にポカンとしていた。

とはいえ彼等の多くは傭兵、敵国の兵士の死体の処理と引き換えに、その身ぐるみを好きに出来ると言われれば、殆どの者達が喜んでその作業に従事した。

一部の律儀な者達は前金だけを受け取り、また新たな戦場を求めて去っていった。

本来ならばああいう事は紛争地帯に潜む盗賊のような者達がやるのだと、死体の処理をぼうっと見つめるルーディアへと一人の兵士が説明した。

国同士の戦争となると、身ぐるみを剥いで処理するのも一苦労な為に放置する事も多い。

けれどそれはアンデッドの発生や疫病の原因ともなる為、その死体の処理をするかわりに、装備等を剥ぎ取る事を黙認されている、専門の集団がいるのだという。

 

『成る程…わざわざ説明して頂いてありがとうございます』

 

「ハッ!大丈夫です、いつでも、なんでもお聞きください!」

 

まだ若い女の兵士はルーディアとロキシーの魔術行使にすっかり心奪われたらしく、今も憧れの瞳でルーディアを見つめていた。

そんな兵士は多く、ロキシーは簡単な魔術教室を開いてるらしい。

ただ、それも当然といえば当然。

元よりカロン砦に詰めていた兵士は、元々の作戦からして、命を失う覚悟をしていた集団だ。

それが数人の増援と凄まじい魔術行使により、一方的な、歴史的大勝で終わったのだ。

魔術に心奪われるのも当然と言えた。

今もリコン砦からきた兵士や傭兵に、ルーディアやロキシーの魔術の凄まじさ、その隙に敵陣に踏み込み重要人物を確保してきたザノバとエリオットの活躍が語られている。

少しむず痒いものを感じつつ、ルーディアは周囲の見回りに戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザノバが停戦協定が結ばれるのも間近、と朝食の場で語った時、パックスからの手紙が帰ってきていた。

内容としては此方の苦労を労う文と、停戦の許可、それと停戦協定が結ばれたら帰還するように、との命令だった。

勿論そのつもりでいた為に問題はなかったのだが、文の端々に感じる、パックスの苦悩が見て取れてしまい、ロキシーは苦笑いを浮かべていた。

 

「まぁ…犠牲なしでの完勝…信じられないのも当然ですよね」

 

立役者の一人が他人事のように呟くので、近くにいた兵士達はたまらず何か言いたげな視線をロキシーへと送るのだった。

 

「このままであれば明日明後日には王都へと帰れるかもしれませぬな。ふぁあ…もう一踏ん張りさせていただきましょう」

 

あくびを漏らしつつ、ザノバは気合いを入れ直したようだ。

一応この砦で一番偉い為に、色々な作業があるようで、日々忙しそうにしていた為に、少し寝不足のようだ。

ふと、ルーディアはザノバへと気になっていた事を問いかけた。

 

『そういえば、王都に帰った後、貴方はどうするのですか?』

 

その問い掛けに、ザノバは腕を組んで口を開いた。

 

「…そうですな、暫くはパックスの元で動く事になるでしょうな。どういう役職につくかはわかりませんが…もう少し落ち着いたらジュリも呼び寄せて…」

 

その口振りから、ザノバはそのままシーローンにて暮らす事を決めてしまっているようだった。

とはいえ、それは当然でもある。

帰る所があるのなら帰るべきだ、とルーディアは強く思った。

それに、何も関わりが終わる訳ではない。

転移魔法陣もあるし、エンド傭兵団の支部を置く予定もある。

パウロやフィッツのようにほとんど毎日転移魔法陣を使って、案外今までと変わらない頻度で出会うかもしれない。

 

『…そうですか』

 

それでも、一抹の寂しさを感じてしまい、ルーディアはそれだけ呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北の国との停戦協定が無事結ばれ、ルーディア達はカロン砦を後にした。

馬車に乗り込み去っていく一行を、カロン砦の防衛隊長であったガリック・バビリティを先頭に、カロン砦に詰めていた兵及び、リコン砦の兵がずらりと並んで見送っていた。

強い感謝の念と共に一斉に下げられた頭に、ルーディアとロキシーはひらひらと手を振り返していた。

道中は平和なものであった。

長閑な道をゆっくりと進む。

そうしてシーローン王国に着いてからいつの間にか一月の時間が経った頃、一行は再度王都にたどり着いたのだった。

着いたばかりの何処かピリピリとした雰囲気は鳴りを潜め、何処か明るげな雰囲気を感じる。

恐らく戦争に勝った事が伝わっているのだろう。

クーデターから戦争と、突然崩れてしまった日常。

それの心配がなくなったから、と意識的に明るく振る舞っているようだ。

 

『少し、雰囲気が良くなりましたね』

 

「そうですな、このまま平和となり豊かな国と出来るかは…パックスにかかっております。余も微力を尽くさせていただきましょう。何が出来るかはわかりませぬがな。パックスには余を上手く使って貰いたいものです」

 

そのまま街の様子を眺めながら、王城へと向かう。

途中、停戦の立役者がルーディア達だと知る何人かの国民が、手を振って感謝を告げるシーン等がありつつ…一行は王城へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身支度を整える時間を少し取り、一行は早速パックスとの謁見に臨んだ。

パックスは前と同じくランドルフのみを護衛とし、ベネディクトと共に二人で座り、此方を見下ろしていた。

一行はパックスの前で片膝をついてひざまづき、話を待った。

 

「…ご苦労であった、兄上。想定以上の成果だ…よくやってくれた、ルーディア、ロキシー、エリオット。お前達にも感謝する。よくぞ我が国を守ってくれた!」

 

「勿体なきお言葉」

 

笑みを浮かべて頭を軽く下げたパックスはそこまで言ってから、笑みを少しだけ苦いものに変える。

 

「しかし、報告書が早馬で来た時は驚いたぞ…勝利は疑っていなかったが、砦も兵士も無傷とはな…しかも停戦交渉まで…本当に、よくやってくれたが…正直今でも信じがたいな…5000をほとんど一人で、か」

 

『ロキシーのサポートもありましたから』

 

「それにしても、だ。余はお主達の力量を見誤っていたようだな…」

 

パックスはそこで一度言葉を切り、顎に手を当てる。

 

「兄上とエリオットの活躍も見事、5000もの兵士を無為に失った彼方の国に戦争を続ける気力等なかっただろうが、王族が人質…という事で早期に停戦協定を結ぶことが出来たのだろう」

 

そこまで言って、パックスは膝に手をつけ、前のめりとなって口を開く。

 

「…一応聞かせてくれ。余の下につく気はないか…?良待遇を約束するぞ?」

 

真剣な表情で問い掛けられたその言葉に、一行はそれぞれ静かに首を振った。

それに、そうか、と然程残念そうでもなく、玉座に座るパックスは背もたれに身を任せた。

食い下がる事なく引き下がった姿にランドルフは少し首を傾げているようだった。

 

「まぁ良い、わかっていた事だ。正直惜しいがな。…兎にも角にも、まずは疲れを癒してくれ。数日後…国民の前で新王として、挨拶を行う。その時の護衛までどうか頼む。それまでは…好きに過ごしてくれ」

 

そう告げるパックスは、何処かソワソワしているようにルーディアには見受けられた。

まるで楽しみな事があり、落ち着きのない子供のような姿だった。

 

『なんだか、少し嬉しそうですね?』

 

「む、そう見えるか」

 

パックスは口元を綻ばせながら続ける。

 

「折角王となったのだ、考えていたいくつかの政策を打ち出そうと思っていてな。漸くそれらに尽力出来るタイミングが出来たと、はしゃいでるのかも知れぬな」

 

そう言って笑うパックスは、とても良い顔をしているように思えた。

パックスには明るい未来が見えている…いや、見えてないとしても切り開く覚悟があるのだろう。

そんな姿が眩しく、ロキシーは笑みを浮かべながら目を細めた。

 

「さて、では好きに過ごしてくれ、余の挨拶の日程が決まれば伝えよう。今回の事…本当にご苦労だった。ここからは余の仕事だ。この国を素晴らしい国へと盛り立てて見せよう」

 

挑戦的な笑みを浮かべたパックスの言葉と共に、この場は解散となるのだった。

 

 

 

不安要素はいくつか残っている。

ヒトガミの使途の姿も『泥沼』の姿も見えず、特に問題なく砦の防衛も成功してしまった。

そして、王竜王国に向かった筈のオルステッドからアクションがない。

それらの不安要素を抱えるも、警戒以外出来る事がない事にむず痒さも感じてしまう。

ランドルフとベネディクトと共にお菓子作りをしながら、ルーディアは二人に気付かれないように、小さくため息を吐く。

二人ともお菓子作りを楽しみ…そしてパックスの為を思って作業している。

 

『上手に出来ましたね、ベネディクト様』

 

「……!……あり、がと、ごさい、ます…」

 

たどたどしく礼を言ういじらしい姿に、ルーディアは他の知り合いと同じように甘やかさないように自分に言い聞かせていた。

完成したお菓子を手ずからパックスに食べさせるベネディクトと、パックスの感想を聞いてメモを取るランドルフ。

そんな三人の絆を感じる微笑ましい光景。

失わせる訳にはいかない。

ルーディアは目を細めてその光景を見つめて、改めて気合いを入れ直すのだった。

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