『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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スピーチ

「シーローン王国の民達よ!」

 

シーローン王都ラタキア、その広場にて。

新たな王となったパックス・シーローンが声を張り上げた。

 

「余がシーローン王国の新たな王、前王パルテン・シーローンの第七王子、パックス・シーローンである!」

 

豪華な服装、声には強い覇気が込められていて、ピンと張った背筋と堂々とした態度に、国民達は一般的に広まっていた前評判を改めた。

 

 

 

シーローン王国において第七王子パックスの印象は良いものではない。

市井に流れる噂だと我が儘な王子、という印象が強い。

出来もそう良くなく、教師は長続きしない。

ロキシーという限定宮廷魔術師に教えられてマシになったと思えば、我が儘を言って出奔させた。

更には親衛隊を気紛れにクビにし、更には別の王子から親衛隊を奪う。

国の重要参考人に手を出そうとし、そこを別の王子に阻止され…しまいには王竜王国へと留学していった。

大っぴらには言われていないものの、人質としてであるのは明らかであろう。

そして今回…帰ってきたパックス王子は国の上層部の殆どを一掃するクーデターを引き起こし…混乱に乗じて攻めてきたビスタ国を手勢の者が見事撃退した。

それが、市井の者達が知る第七王子パックスである。

 

 

 

「パックス王子…いえ、陛下!」

 

「む…おお!久しいな!壮健であったか?」

 

そこにパックスの元へと駆け寄る人物があった。

元パックスの親衛隊の一人であり、上記のパックスのわざと悪い方に受け取れる印象操作されている噂に、歯噛みしていた人物の一人だ。

今も一人のシーローン王国兵として働いている。

その人物は涙ぐみながら、パックスの近くで膝をつき、頭を下げた。

 

「陛下こそ、ご無事で何よりです。ご無事の帰還…そして、王となられた事、心から祝福を申し上げます…!陛下への荒唐無稽な噂の数々、業腹でしたが、今こうして陛下へ祝福の言葉を紡げた、それだけで長年の苦悩が報われました…!」

 

「そうか…貴様のような忠臣を持てて、余は幸せ者だな…」

 

「陛下…!」

 

男は涙を流し俯き、パックスはその男の肩に手を乗せ、その苦労を労う。

感動の再会…という演出である。

とはいえ全てが嘘という訳ではない。

ただ、これが初めての再会ではないというだけだ。

具体的にはクーデターが成功した時点で、何人かの兵士とはこのようなやり取りを既にしていたのだ。

パックスはお世辞にも出来は良くなく、容姿も優れている訳ではない。

けれど誰になんと言われようと、努力を続けているのを見ていた一部の兵士や親衛隊は、いつの間にかパックス自身を慕っていたのだ。

そんな親衛隊の一人であった彼によって、国民の意識が変わる。

もしや、パックス王子とは噂通りの人ではないのか…?と。

ざわざわと少し騒がしくなる広場。

掴みは良し、とばかりにパックスの背後にずらりと並んで陣取っている一人であるルーディアが小さく頷いた。

やがて涙を拭った兵士が頭を深く下げてから去った後、パックスは国民達をゆっくりと見回した。

その行動によって、広場に集まる国民達はゆっくりと静かになっていく。

それに満足そうに微笑んだパックスは口を開く。

 

「ありがとう、愛すべき国民達よ」

 

そんな此方を慈しむ声色と表情に、国民達は揺らぐ。

前の王を慕っていた者達も、クーデターという暴挙に出た事に不信感を持っていた者達も、そもそも王なんて誰でもいいと思っていた者達すらも。

国民達は無意識に思ってしまったのだ、少なくとも、今のシーローン王国の王はこの人しかいないのだと。

 

「まず…余がどうしてここに立っているのか…諸君達には聞く権利がある。できるだけ手短に話そう。何故余が王として立つ事を決めたのか…その軌跡を」

 

広場に集まった者達は静かにパックスの話に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…よし、と」

 

『終わりましたか?』

 

「あ、ルディ。はい、終わりましたよ。上級の二重結界。結界魔術を覚えられたのは、オルステッド様の下について良かったと思えた数少ない事柄ですね」

 

『あはは…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、では貴方は陛下の演説中に何かが起こると考えておられる…と」

 

『はい…私達が『龍神』の配下として活動しているのはご存知ですよね?私個人として、ザノバとパックス陛下の力になってる面もありますが、パックス陛下を手助けするのは『龍神』からの指示でもあります』

 

「成る程…『龍神』と敵対している人物が陛下を狙う可能性がある、という事ですか」

 

『はい…勿論私達も警戒して近くで護衛しますが、ランドルフ様もどうかお願いします』

 

「勿論ですとも。パックス王を何故『龍神』が気に掛けるのか気になる所ですが…今は置いておきましょう。後で説明を貰えると嬉しいですねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余が作りたい国、それは誰しもがチャンスを掴める国だ」

 

「身分の違いに関係なく、等しく学べる学舎を作り、身分関係なくあらゆる役職に着く事が出来る…そんな国に」

 

「最初は上手くいかぬだろう、初めての試みであるし、今特権を持つ階級は反発するだろう」

 

「それでも余は諦めたくない」

 

「現実的な問題として誰にでも等しく…とは言えん、まともに機能するまでには十年、数十年かかる事だろう」

 

「それでもだ、それこそ、いずれは王族すら無くしたいのだ」

 

「シーローンは、我が国は淀んでしまっていたのだ。流れぬ川はいずれ腐るように、停滞を良しとしてしまった」

 

「我ら王族が流れを塞き止めてしまったのだ」

 

「故に、故に!余はいずれ新たな形に国を作り替える!」

 

「学舎はその第一歩だ、民に教育を受ける権利を与え、血筋による世襲を絶対では無くし、新たな流れを作りだし続ける!」

 

「それが余の思い描く未来だ!」

 

「才ある者は才を伸ばせ!才無き者は才を探せ!それでも見つからなければ足掻け!余は足掻いた、そしてここにいる!」

 

「シーローン王国の民達よ、愛すべき民達よ。今はまだ何もなく、才もない。ないない尽くしの、掲げる目標ばかり聞き心地の良い、そんな愚かな王を、どうか支えてくれ」

 

「余は諦めん。我が身が朽ちるまで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王族を皆殺しにした簒奪者である余を信じられぬ者もおるだろう。その汚名はこれからの余の行動で濯いで行こうと思う…どうが見ていて欲しい。…以上で、余の新王としての挨拶を…」

 

「パックス陛下!ザノバ様!」

 

パックスが話を終わりにしようとした時、此方を呼ぶ声が響いた。

広場の国民を掻き分け現れたのは、ジンジャー。

情報収集をすると言って一行から離れ…そのまま姿を消していた。

そんなジンジャーは身体中がボロボロな様子で、足を引きずりながらも、パックスへと駆け寄った。

 

「ジンジャー!?その傷はどうした!?」

 

「今すぐっ…!お逃げ、くだ、さい…ねら、わ……」

 

ジンジャーはどうにかそれだけ告げ、足を縺れさせてその場に倒れこんでしまった。

ピクリとも動かないジンジャーに、近くにいた治癒術師がしゃがみこんで軽く診察をしたが、ただ気絶しているだけだったようだ。

パックスとしてもジンジャーは恩人の一人…無下には出来ない為にその無事に胸を撫で下ろした。

 

 

 

 

「パックス!伏せろ!」

 

そして次の瞬間、いくつもの出来事がほぼ同時に起きた。

ランドルフが何かを弾き、ベネディクトを守るように背に隠し、視界の端でロキシーが血を撒き散らして崩れ落ち、バキン、という音とともにパックスの前に飛び出したザノバが、顔を仰け反らせて仰向けに倒れこんだ。

額からどろりと血が流れ、ザノバの顔を染めた。

 

「ベネディクト!ロキシー!?兄うっ」

 

パックスがそれらを確認しようと体を動かそうとした時、胸に衝撃があった。

それによって言葉に詰まり、そして酷い虚脱感に襲われたパックスは、その場に両膝をついてしまう。

 

「ごぼっ」

 

口から溢れた鮮血。

足元を染める夥しい血。

下を向いて見えたのは、ポッカリと空いた胸の穴。

血濡れのパックスは、涙を浮かべて此方に手を伸ばすベネディクトに応えるように手を伸ばし、そのまま意識は闇に包まれ、自らの血の中に倒れこんだ。

広場に、悲鳴が響き渡った。

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