『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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スワンプ

「死んだ人間が蘇る訳がない!そいつは悪魔だ!!!」

 

民衆の中から叫ばれた声。

それを周りが理解しきる前にその声は続ける。

 

「戦争を終わらせる力があるのに、パックス王一人守れないなんておかしいじゃないか!」

 

その言葉に民衆は困惑とともにざわめきだす。

 

「確かに」「言われてみれば…」「まさかわざと…?」

 

「ふざけるな!」「彼女達は戦争終結の立役者だぞ?」「勝手な事を」

 

疑惑、反感、民衆の感情が渦を巻く。

 

「それに知っているぞ、こいつらは『デッドエンド』って名乗っている…魔大陸で悪魔と呼ばれ忌避されてる存在の名前だ!わざわざ悪魔と名乗る奴らが、まともな訳があるか!」

 

「悪魔…?」「聞いたことあるな」「もしかして本当に」

 

ざわざわ…ざわざわ…

 

「蘇ったパックス王は、パックス王じゃない!悪魔が乗り移って…この国を滅茶苦茶にするつもりなんだ!パックス王の全てを踏みにじるつもりなんだ!」

 

「そんな…」「なんてひどい」「もしもそうなら…」

 

民衆の意見が偏りだす。

 

「…パックス王子が目にかけてたジェイド将軍の死体も胸を貫かれてた…もしかして同一犯なのか…?」

 

兵士の一人が呟く。

 

「…レオナルド様も胸を貫かれて…もしや、下手人は同じ…?彼らが裏で糸を…?」

 

ロキシーの近くに立つ、王竜王国の騎士が呟く。

 

『ち、違います!私達はそんな事してなー』

 

ザノバの治療を終えて、民衆のざわめきと溢れ始める敵意に、呆然としていたルーディアが、立ち上がりながら弁明する。

しかしそこに、ルーディアに何かが投げ付けられる。

早い訳でも力強い訳でもない、ただの小さな小石。

ルーディアはそれを容易く受け止めると、飛んできた方向を見返す。

小さな、三歳くらいだろうか、男の子がルーディアを睨み付けていた。

 

「パックスさまをかえせ!この、バケモノめ!」

 

ガン、と頭を殴り付けられたような衝撃がルーディアに走る。

 

『っ……!』

 

もう気にしてなどいない言葉の筈、けれど、敵意とともに子供から放たれたその言葉は、ルーディアを狼狽させるのに充分だった。

 

「言葉に詰まったぞ!やはりそうなんだ!こんな小さな子供までも怒ってるぞ!戦争もこいつらが裏で糸を引いていたんだ!奴等は悪魔だ!」

 

すかさず響く言葉に、ルーディアはよろよろと後ろに下がる。

エリオットはザノバを掴んで引っ張りながら、ルーディアの前に立って剣を構えた。

民衆の目は忌々しいものを見るような、そんな感情の籠った目となり始めている。

 

「……嫌な流れだ、どうする」

 

『っ、私、はっ……でも、一般人に手を出す訳には…!』

 

口元をおさえ、ルーディアは苦悩する。

どうすればいい?

無意識に振り返りロキシーに助けを求めるものの、痛みでか意識を失ってしまっているようで、騎士の一人に介抱されている。

その様子に歯噛みしてしまう。

 

「奴等を許すな!パックス王を亡き者にした奴等を許すな!民衆達よ、パックス王の意志を無駄にするな!自分の思う通りに生きろ!歯向かえ!正しいと思う事をするんだ!」

 

大多数の民衆からの敵意が、殺意が、ルーディア達に向けられる。

黒竜騎士団やシーローン国兵士達のほとんどは、そんな荒唐無稽の煽動に従いはしないが…揺らぎはしている。

故に民衆を制圧できず、落ち着かせるように立ちはだかる程度にしか踏み切る事が出来ない。

 

「さあ、シーローン王国の民達よ、我らを利用しようとする悪魔達を追い出せ!決して許すな!パックス王は死んだ!弔い合戦だ!立ち上がれ民衆達よ!さすれば…」

 

ルーディア達のほうへと詰め寄り始める民衆達の奥、そこで一人の男とルーディアは目があう。

鼠色のローブの男と。

 

「神のご加護があるかもしれませんね」

 

胡散臭い笑みを浮かべたそれに、ルーディアの頭に一気に血が昇る。

 

『泥沼…ルーデウス!お前ぇえええ!』

 

同時、雄叫びをあげる民衆達が突っ込んでくる。

時折冒険者も混じっているのか、武器を構える者までいる。

その感情は敵意殺意、そして恐怖…それらに駆られた民衆館が迫る。

騎士に兵士、一部の者達は民衆は止をめるように立ちはだかっているものの、明らかに止めるほうが少ない。

 

「これは…ひどい。陛下、ここは逃げましょう…黒竜騎士団!時間稼ぎだけでいい!無理せず、危機を感じれば逃げよ!王竜王国に、各自帰還せよ!」

 

「なっ、ランドルフ!何を」

 

「まずは御身の安全を…貴方が倒れた時、生きた心地がしなかったんですよ?…心苦しいでしょうが…ああまで民衆が我を失っては…一度、引きましょう。皆さんも、逃げてください」

 

「まっ」

 

ランドルフはベネディクトとパックスを抱えると、背中を見せて全力で走り出す。

二人も抱えているというのに、それを感じさせないスピードで去っていっていった。

 

「…これは、無理か。全員斬れって話なら別だけど…俺も逃げたほうがいいと思うぞ…」

 

エリオットは気絶したままのザノバとジンジャーを担ぎ上げ、ぼそりと呟く。

それにルーディアは悔しそうに俯き、ギリと奥歯を鳴らした。

 

『くっ…私達も引きます!逃げましょう!』

 

ルーディアは踵を返し、寝かせられているロキシーをひょいと抱き上げる。

 

『騎士の皆さんも、兵士の皆さんも、私達の事なんて気にしないでください!危なくなったら逃げて!…でもありがとう!』

 

ルーディアはそう言って、素早く駆け抜けていく。

騎士や兵士はその言葉に、王も、国も救ってくれた恩人を追い出す形になってしまった事に顔を歪める。

逃げだす彼等の背後からは民衆の怒号。

逃げるな、悪魔め、騙しやがって。

それに振り返る事なく、ルーディア達はシーローン王国、王都ラタキアから脱出したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…くそ、面倒な事になったな」

 

ラタキアから程よく近くも遠くもない、小さめの森の中、ルーディア達はここで身を隠していた。

町の外まで民衆が来るとは思えないものの、念の為に。

ザノバ、ジンジャー、ロキシーの三人を一度地面に置いて、息を整える。

ルーディアは魔術で器と水を作り出してエリオットに渡し、自分もまた水を飲んで一息ついた。

三人は気絶したままで、目を覚ます気配はない。

 

『…完全にしてやられましたね…パックスは生きていはいますが…シーローンは、ダメかもしれませんね。…立て直す者がいませんし、パックスが戻る事も難しいかもしれません…』

 

座り込むルーディアは、膝の上で拳を握った。

 

『私達の警戒が足りてませんでした…パックスをもっとちゃんと守る方法はあった筈です。何事も起こらない事を不穏に思いながらも…油断してたんです…そこを完全に泥沼につかれてしまった…猛省です』

 

エリオットは、そう言って俯くルーディアの肩に手を置く。

 

「…ルーディア、そう気に病むな。確かにこれは…明らかに俺達の負けだ。けど、取り返しのつかない事態にはなっていない。俺達は生きてるし、パックスも生きてる。ここからどうするかを考えよう」

 

その慰めの言葉に悔しさに口を引き結んでいたルーディアは、こくりと頷く。

 

『……はい…まずはパックス達と一度合流したいですね。王竜王国に行くと言ってましたが…いや、荷物も置いてきてしまいましたし、一度戻ったほうが…』

 

ルーディアが今後の動きを思案し始めた、その時だった。

 

「あ、見つけましたよ」

 

木の陰からゆらりと、鼠色のローブの男が現れた。

その姿を視認した瞬間、ルーディアは立ち上がり、気絶したままの三人の前へ立って小太刀を作り出し、エリオットは剣を抜いて構えた。

キッと睨み付ける二人を見ても、ルーデウスはへらへらとした態度のまま笑みを浮かべた。

 

『泥沼っ…!お前よくも!』

 

「これ以上お前に好き勝手されてたまるか!…ここでお前は斬り殺す…!」

 

「あはは、すごい気迫。出来るといいですね?」

 

へらりとルーデウスが笑った時、周囲からガチャ、と鉄同士が擦れるような音がした。

驚愕とともに辺りを見渡すと、ガチャガチャガチャと音を立て、黒い鎧を身に付けた集団がいつの間にかこちらをぐるりと包囲していた。

 

『なっ!?』

 

ルーディアとエリオットは目を見開く。

そして状況の悪さに歯噛みする。

黒い鎧の集団、以前にルーディアが魔石病に罹った時、ミリスに襲撃をかけた黒鎧の集団、アトーフェ親衛隊。

アレクの話から、不死魔王アトーフェラトーフェと共にルーデウスの下についているとは言われてはいた。

身につけた黒い鎧は硬く、魔術を軽減し、全員が北神流を使う、魔大陸最強の親衛隊。

方法を選ばない戦い方をする北神流の集団にして、数の利はあちらにあり、此方は三人も意識を失ってしまっている者を抱えている。

 

『くっ…アトーフェ親衛隊とやらですか…』

 

「おや、北神様から聞きましたか?その通りです」

 

周りを包囲する黒鎧は数十人程、更に目の前には自分と同等かそれ以上の魔術師…状況が、悪すぎる。

ルーディアとエリオットは辺りを忙しなく見渡す。

そして、いくら考えても打開策の浮かばない現状に、冷や汗を浮かばせた。

 

「ふふ、チェック、ってやつですね。」

 

ルーデウスはその手に持つ杖をルーディアとエリオットへと向け、片頬をつり上げた。

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