『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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モメント

「ふふふ、あははははは、それにしても見ましたか?あの民衆の無様な事愚かな事。ちょっとサクラを散らして煽動してやるだけであの暴れぶり、貴方達が戦争において活躍して、目の前で王を救ったのにも関わらず…はははは!本当に人ってのは愚かですね!」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべるルーデウスは、杖の先に岩を作り出しながら続ける。

 

「これからシーローン王国はどうなりますかねぇ、王族だと騙って誰かを擁立するか…パックス王は生きてると信じて待つか…くくく、あの愚かな民衆の選択が、それを泥沼の争いに発展させるのが、今から楽しみですよ」

 

杖の先の岩が高速回転を始める。

 

「それでは、さようなら」

 

そう言って余裕綽々で岩砲弾を放とうとした。

ルーディアはそれに対して手を向ける。

 

『…乱魔!』

 

放つ寸前のそれを、ルーディアは魔力を乱して霧散させた。

 

「…おぉ?」

 

感心したように呆けた声をもらす。

それと同時に周囲の黒鎧が動き出し、それぞれが剣を構えて駆け出した。

そこでルーデウスの右目の色が変わる。

ルーディアは駆け出す黒鎧に向け、直ぐ様両手を広げて魔術を放った。

 

『『絶対零度!』』

 

ルーデウスは身動ぎひとつせずに自分の周囲に熱気を纏い、それを無効化するものの、周囲の黒鎧は一瞬で森毎氷付けになった。

氷像と化した黒鎧に目もくれず、エリオットがルーデウスに駆け寄る。

そこをルーデウスはエリオットの足元に泥沼を発生させた。

泥沼を跳んで越えようと跳躍したエリオットだったが、宙に浮いた瞬間に、目に見えない衝撃波を食らい、後方に弾き跳ばされた。

痛みはないものの、距離を取らされた事に舌打ちをする。

 

「…ちっ」

 

そしてルーデウスは杖を地面に叩きつけるように押し付け、そこから炎を溢れさせた。

溢れた炎は瞬間的に周囲に広がる。

 

『『氷壁』!』

 

自分とエリオットの前に氷の壁を生成してそれは防いだものの、広がった炎は周囲の黒鎧の氷を溶かしてしまう。

けれど、一時的にせよ、ルーデウスの視界を遮った。

炎を見て悲鳴をあげそうになりつつ、どうにか冷静に判断し、ロキシーとジンジャーを抱える。

問題なく着地したエリオットはルーディアの判断に気付き、左肩にザノバを乗せる。

右手では剣を持ったままで、二人は同時に踵を返す。

氷壁で防いだ事から炎がろくに届いていなくて溶けていない、背後の氷像の横をすり抜け、包囲網から抜けようと駆け出した。

しかし、そこを解凍された黒鎧の一人が直ぐ様駆け寄り、剣を振りかぶった。

 

「せせらぎの濁流よ!『水流』!」

 

その黒鎧を、ルーディアの腕の中で目を覚ましたロキシーの水魔術が押し流した。

 

『ナイスですロキシー!』

 

「ルディ!今は一体どういう状況ですか!?」

 

『今は兎に角逃げる所です!』

 

「わかりました、濃霧を発生させます!」

 

手早く短縮した詠唱を終えたロキシーは、複合魔術の濃霧を発生させる。

視界が悪くなると同時に、ルーディアは自分達と同じくらいの高さの氷柱をいくつか作り出し、囮とする。

時々進む方向を横に反らしたりして、見通しの悪い森の中をどうにか駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、ルーデウスの言う通り、オレの親衛隊とルーデウスから逃げきったか!」

 

森を抜けた先で、同じような黒鎧を纏った、見るからに魔族の女がルーディア達の前に立ちはだかった。

青黒い肌に白い肌、額の一本角とコウモリのような羽に、背中と手にそれぞれ大剣を持った、不敵な笑みを浮かべた女。

それを見たルーディアの腕から降り、自分の足で立ったロキシーの体がぶるりと震える。

 

「ふ、不死魔王、アトーフェラトーフェ…様…」

 

「ほう、オレの名を知ってるか。その通り!オレこそが不死魔王、アトーフェラトーフェ・ライバック!死力を尽かしてかかってくるが―」

 

そんな大口を開けてペラペラと喋るアトーフェの頭が、次の瞬間に砕け散った。

ルーディアが手を向け、容赦なく氷の礫を放ったのだ。

ルーデウスの岩砲弾を何度も見た事で、その異常な威力の出し方を自分なりに研究した、氷撃の発展魔術、氷砲撃。

頭が吹き飛んだアトーフェではあるが、その肉片は黒いスライム状のものとなり、直ぐに首に集う。

そしてあっという間に頭を再生したアトーフェは、首をコキコキと鳴らすと、目の前に誰もいない事に、不機嫌そうに顔を歪めた。

ルーディア達は既にアトーフェの横を通り過ぎ、駆け出していたのだ。

 

「ふん、オレが話してるというのに忙しないな。知らなかったのか?魔王からは、逃げられん!」

 

振り返ったアトーフェが大剣を大上段に構える。

同時にルーディアの目に、見た事もない特殊な魔力の流れが映り、ふわり、と体が宙に浮いた。

 

「うおっ!?なんだっ!?」

 

「体が浮いてる!?」

 

『これは!アレクの言っていた、王竜剣カジャクトの重力制御ですか!』

 

「お、アレクの名を知っている…いや、その呼び方、随分親しそうだな?なんだ、もしやアレクの女か?」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべて問い掛けてくる。

そういえば、アトーフェはアレクの祖母だという話だったか。

 

『……そうだ、と言ったら、見逃してくれますか?』

 

エリオットとロキシーの物言いたげな視線がルーディアに突き刺さる。

アトーフェはそれに対して、顔を真顔にして答えた。

 

「ないな。オレはオレより強い奴の下につく。ルーデウスはオレと単騎で戦い、打ち破った男だ。そいつがオレにお前達を逃がすな、と命じた。故に逃さん。例え孫の番だろうとな」

 

少し気になる情報がありつつも、ルーディアはエリオットと目を合わせる。

ふわふわと浮いてまともに身動きが取れないなか、エリオットはザノバを掴んで、腕の力だけでアトーフェへと投げつける。

 

『でしょうねっ!』

 

「ザノバ頼む!」

 

浮かされた辺りで目を覚ましていたザノバは、メガネを煌めかせながらアトーフェへと飛んでいく。

 

「お任せくだされ!」

 

放り投げられたザノバに対して、ルーディアは衝撃波を放つ。

背中に衝撃波を受けたザノバは拳を振りかぶった。

 

「うぉおおおおお!!!」

 

「なっ、仲間を放り投げぶえっ!」

 

突如加速したザノバに反応仕切れず、アトーフェの顔面が衝撃波及びザノバの全体重と神子としての力が集約された拳により、再度砕け散った。

アトーフェの体にぶつかり、ゴロゴロと横に転がったザノバは、土まみれになりつつ、素早く立ち上がって振り返る。

アトーフェの意識が一時的にでも消えたからか、ルーディア達は王竜剣の重力制御から解放され、すたりと地面に降り立つ。

 

「師匠!パックスはどうなりましたか!?」

 

『不意を突かれたせいで死にかけたけど治した!今はランドルフさんが、ベネディクト王妃と一緒に抱えて逃げてる!無事!』

 

「ザノバ!今は逃げるぞ!あまり俺達も状況が良くない!」

 

「わかりましたぞ!逃げま、しょう!」

 

アトーフェの頭のない体に黒い粘体が集っているのを見たザノバは、その頭の無い体を持ち上げると、ぶん殴り、弾き飛ばした。

つい先程まで気絶していたザノバだが、まだ体が動いている事や、得体の知れないものが首に集ってるのを見て、時間稼ぎも兼ねて距離を離したのだ。

ジンジャーのみ気絶したままの為に、ザノバが担ぎ、また走り出そうとした時。

 

『…!皆、止まって!』

 

ルーディアは目の前の地面に魔力が走ったのが見え、思わず皆を止める。

皆が足を止めたその瞬間、周囲の地面は泥沼と化していた。

更には泥沼の手前の地面が盛り上がり、岩壁となって立ちはだかる。

同時に森からガチャガチャと鎧の擦れる音が響いた。

追い付かれてしまった…!

ルーディア達は歯噛みしながら振り返った。

 

「ふー危ない危ない。王竜剣持たせても逃がしかけるとは、本当にアトーフェさんはアテになりませんね」

 

森からゆらりと現れたルーデウスと、アトーフェ親衛隊。

そして頭の再生の終わったアトーフェがそこに並び立つ。

 

「むう、面目ない」

 

「まぁ、いいですよ。さて、これで本当にチェックメイト」

 

ルーデウスは杖を構え、周囲の黒鎧も、アトーフェも剣を構える。

悪化した状況、絶望的な状況に顔を青くする。

特に王竜剣に抗うのが難しく、それの対処に出来た隙を、周囲の親衛隊が黙って見てる事は考えづらい。

何よりも、ルーデウスの魔術のレジストを失敗すれば…それは致命傷となりえる。

諦めている者は誰一人いないものの、苦しい戦いになる。

全員が死を覚悟し、抗う決意をしようとした所で。

 

「……と、言いたい所なんですけど、退きますよ皆さん」

 

ルーデウスは首を振り、杖を空に向けた。

その左目の色は変わっていて、魔力を上空へと放つ。

そして、ルーデウスの魔力により、みるみるうちに雨雲が集い出す。

 

「退く…だと?何故だ、奴等を倒すのではなかったのか!?」

 

「いえ、タイムオーバーって奴です。これ以上戦うと、こわーいお人がやってきますからね」

 

『…!まさか』

 

ルーディアは自分が嵌めていた指輪を見やる。

オルステッドを呼びだす、その指輪を。

黒鎧達が剣を納め、森の中へと消えていく。

集まる雨雲から、雨が振りだした。

恐らく今オルステッドが此方に向かっている。

それをどうやってルーデウスが把握しているは不明だが、ルーデウスはオルステッドから逃げ続けている事から、対面したくないと思っているのは明確。

ならば、今自分がやるべきは、オルステッドがくるまでの時間稼ぎ…!

 

『させません…!逃がしません…!』

 

両手を空へと向け、その雨雲のコントロールを奪おうと、魔力を籠める。

ルーディアが妨害を始めた事に気付いたのか、ルーデウスはちら、と視線を向け、面白そうに笑みを浮かべた。

そして、ルーデウスは高く杖を掲げる。

杖の先の青い魔石が強く光り始め…ルーディアからの干渉を弾いた。

 

『っぐ…やっぱり、その杖……!「傲慢なる水竜王」!水魔術の主導権の競り合いでは、勝てませんか…!』

 

ルーデウスの操作する雨雲から雨と風が発生し、視界が一気に悪くなる中、エリオットの怒号が響く。

 

「アクア・ハーティア…だと…!?ふざけんじゃねぇ!それはお祖父様が、俺の家族がルーディアの為に用意した杖だ!お前みたいな奴が使っていいもんじゃねぇ!」

 

ルーディアの10歳の誕生日に、ボレアス・グレイラット家が用意したルーディアの為の杖。

転移の後見当たらなかった事から、盗賊達に既に売り払われたか、火事で既に燃えていたと思っていた。

ルーディアにとっても、エリオットにとっても、思い出の一品。

ある意味唯一残った、ボレアス・グレイラット家の遺品と言ってもいい杖。

それをあんな下衆が使っている事実に、エリオットの奥歯がギリ、と音をたてた。

 

「あはは、あの時盗賊の根城で大事に保管されてた上物でしたが、気に入ってずっと使ってたんですよ。成る程、アクア・ハーティア、というんですね…大事にしますねぇ?ふ、ふふふ、あははははははは!」

 

ルーデウスの嘲笑う声が、雨脚が強まり既に嵐となった周囲に響く。

 

「てめえ…てめぇえええ!」

 

『ダメですエリオット!雷光がくるかもしれません!ロキシーが唱えている土砦に身を隠しましょう!』

 

ルーディアは、飛び出そうとするエリオットを掴んで止める。

豪雷積層雲の操作権をルーディアが奪えなかった時点で、ロキシーは既に防ぐ方向にシフトしていた。

ルーデウスの姿は既に確認出来ないが、今も此方の様子を伺っていて、雷光で一網打尽にしようとしている可能性もあり得る。

 

「『土砦』!」

 

みるみるうちに土で覆われる中、雨の向こう、ルーデウスが立っていた所をエリオットはずっと睨み付けていた。




『沼の蓮の葉』にクリフの独白を追加しました。
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