『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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サンセット

シーローン王国に設置された転移魔法陣までは普通に移動しても日が暮れる前には辿り着く。

一行は転移魔法陣までは見送る、と言うオルステッドを先頭に、移動していた。

口数はそう多くない。

オルステッドの求めた条件のパックスを生かす事には成功したものの、シーローン王国から『デッドエンド』と共に追放されるような形となってしまった。

良い結果とは言えないだろう。

ただ、エリオットの言った通り、誰も死んでいないない…そこだけは喜んで良いと思えた。

 

「…ところで、アンタが事前に処理していたとかいう王竜王国の王様とシーローン王国のジェイド将軍…それらが死んでたせいでパックスがやる気満々で張り切ってた訳なんだが…そこん所どう思うんだ?」

 

道中、不意にエリオットがオルステッドへと問い掛けた。

それに皆の顔が気まずげに歪む。

皆がパックスの話を聞いて思いつつも、本人には聞き辛い話。

容赦なくエリオットは詰めて行った。

 

「む…そうだな、レオナルド・キングドラゴンについては兎も角、ジェイドに関しては俺の判断が悪かったかもしれん。すまんな」

 

足を止めずに話すオルステッド。

口をへの字にするエリオットだが、オルステッドはそのまま続ける。

 

「…王竜王国に着いてみれば『泥沼』の目撃情報が多数あった。しかもアトーフェ親衛隊のもな。調べれば王竜王国に雇われているという。…それによって王竜王国の戦力は嘗てない程高まっていた。故にパックス・シーローンに戦力を貸し出せたのだと判断した俺は、『泥沼』の処理を優先するべきだと思い、出来うる限り奴を追った。だが、俺でも追いきれなかった。ジンシン教の撹乱が厄介で、何より奴の逃げ足が早すぎる。つい先刻いたと思われる場所に既にいないのだからな…」

 

背中を向けているので表情は見えないが、相当不機嫌である事が察せられる雰囲気を放ちだす。

どうにも随分と煮え湯を飲まされたらしい。

 

『確かに…今回も彼は突然引きました。まるでオルステッド様が来てるのがわかっていたように…』

 

口元に手をやって首を傾げるルーディア。

一応理由の候補ばあるものの、ただただルーデウスの厄介さが増すだけであるし、正直どうこう出来る物でもない。

一応後で話しておくとは決めておく。

 

「そして先刻の森の中、不自然な土塊を見つけたんだが…それで一つ合点が行った事がある。その土塊に含まれていた粉々の魔力結晶と、その描かれた模様でな」

 

「模様…?」

 

「…土塊には、転移魔法陣に必要な部分が記してあった…そこから推定するに、奴は即席で転移魔法陣を描く事が出来る可能性が高い。正直に言ってかなり面倒だ。…俺から逃げ回っている事を考えれば、俺が動く事を奴も嫌がってるのは事実なのだろうが、流石に一度飛ばれれば暫くは自由に動かれてしまう…実に厄介だ」

 

『なんと…だからあの時アスラで忽然と…そういえばペルギウス様が訳知り顔だったような気がしますね…?あの時残った土塊を回収してたように思います』

 

思い出すのは配下に土塊を抱えさせるペルギウスの姿。

何をしていたのか疑問だったが、ルーデウスがあの場で転移で逃げた事を見ただけで把握していたのだろう。

 

『…わかっていたのなら、ペルギウス様も一言くらい言ってくれても良かったですのにね』

 

「…奴に聞いた所で、回りくどいやり取りをするだけだろう。兎に角、『泥沼』の危険度、処理の優先度は依然高い…いや、最も高いかもしれんな。奴の動きに気を付けつつ、出来れば…奴を処理しろ。それが勝利に…」

 

『うぷ…』

 

そこまで話していた所で、不意にルーディアが顔を青くし、道の端へと駆け出していった。

突然の事に皆が視線を向ける中、口を大きく開いてしゃがみこんだルーディアは、手を振って見ないように求める。

 

『あまり見ないください…』

 

びしゃびしゃ

 

そしてそのまま、吐瀉物を吐き出した。

おぇ、と気持ち悪そうにするルーディアは、水を作り出して口に含み、すすいで吐き出した。

 

「ルディ…!大丈夫ですか?何か不調でも…」

 

『…わり…です』

 

「ルーディア!どうしたんだいきなり?」

 

『多分…これ…悪阻です…』

 

そのルーディアの言葉に、皆は強い衝撃を受け、目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスラでの大捕物のあの日…ルーディアが三人を吸い付くしたあの日から、月のモノが来てなかったとの事らしい。

そんなルーディアを横抱きにしながら、エリオットは呆れ顔だ。

 

「いや、言えよ…流産したらどうすんだ…」

 

『すみません…まさか三人でシた時に出来たかもなんて…その、誰の子かもわかりませんし…」

 

顔を手で覆いながら、耳まで真っ赤にしたルーディアが身を縮こませる。

はしたない…と小さく呟いた。

 

「前も言ったと思うが…妊娠中は運命が弱くなる。大人しくしておけ」

 

オルステッドも厳つい表情で忠告する。

実際に一度妊娠中に酷い目にあったのだ、皆心配そうに見つめている。

 

『わかりました…あ、でもパックスとの挨拶はさせてくださいね…?』

 

「わかったわかった。さっさとシャリーアに帰るぞ…まったく、疑いがあるなら無理するんじゃない!」

 

『でも…私が―』

 

「でもじゃありませんよ、ルディ。貴方だけの身体じゃないんですよ?妊婦はもっとゆったりしてていいんです。というかしてください…心臓に悪いんですよ…」

 

ロキシーに泣きそうな顔で言われてしまえば、ルーディアは口をつぐむしかない。

小さく俯き、謝罪の言葉を口にする。

 

『う…ご、ごめんなさい…』

 

「いいですかルディ?今回は本当の本当に出産まで大人しくして下さい。皆そう言う筈ですよ?ちゃんと僕と約束してください」

 

『はい…約束します…指切り』

 

「ん、ルディこのおまじない好きですね?久々にやりましょうか」

 

二人は小指を絡ませあい、上下に軽く振る。

 

ゆびきりげんまん

うそついたら

はりせんぼんのーます

ゆびきった

 

「こっわ。なんだその歌」

 

ルーディアを抱き上げたままなので至近距離でその歌を聞いたエリオットは思わず口に出す。

針千本飲ますはやばいだろ、とエリオットが呟く。

 

「ルディが小さい頃に教えてくれた約束のおまじないですよ、ルディが好きでよくやってました。懐かしいですね…」

 

過去を懐かしむように目を細めるロキシー。

思い出すのは「おっきくなっても、せんせーに恋人いなかったら私がおよめさんになってあげる」と言って満面の笑みを浮かべる幼いルーディアの姿。

思いだし笑いでニヤニヤし始めたロキシーに、エリオットがドン引きの視線を送る中、一行は転移魔法陣でシャリーアへと帰還するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャリーアの拠点に帰った一行だが、ザノバとジンジャーはそのまま王竜王国へと向かうという。

 

「…では師匠。また二ヶ月後にお会いしましょうぞ」

 

今手持ちにある金だけは一先ず渡し、後はエンド傭兵団に頼る事となる。

一応転移先には簡素な保管庫もあるので、後で金や日持ちする食糧、衣服等を置いておくと告げ、二人が転移していくのを見送った。

あとは二ヶ月後…此方の知らないルートでランドルフが王竜王国に向かい、合流出来ない…等という事態が起こらないのを祈るだけ。

 

「…とりあえず、帰ろう」

 

ルーディアは抱き抱えられながら拠点を出る。

既に外は暗くなり始めていて、沈みかけの夕陽が眩しかった。

エリオットの腕の中で夕陽を眺めながら街中を行く。

今回、完璧にこなす事が出来なかった後悔がやはり募る。

ただ、そう、取り返しのつかない事態にだけはならなかった。

それだけは誇って、家に帰ってもいいだろう。

そう、少しだけ明るく考えて、夕陽が沈みきった空を見つめていた。

 

 

 

家に着く頃にはすっかり暗くなっていて、外の小屋ではアルマとジローがひっついてすやすやと眠っていた。

着いた時、家の玄関は丁度開いていて、木剣片手に汗をかいているアルスと、隣にはレオとレオに跨がるララ。

それを迎え入れているアイシャ、制服姿のノルンが玄関に入る直前で振り向いている。

家の中からすてててーとルーシーが走り寄り、その後ろからフィッツが駆け寄ってきた。

そして、皆が此方を見る。

 

『ただいま戻りました』

 

そうルーディアが告げると、皆はそれぞれ笑みを浮かべ、ほぼ同時に口を開いた。

 

「「「おかえりなさい」」」

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