『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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スタンバイ

妹…ノルンから時折疑惑の視線がくるものの、穏やかに過ごして一月程経った時、オルステッドが家を訪ねてきた。

ロキシーやエリオットがビビりながら近付くなか、すててててーとルーシーが笑顔で駆けていって、その足元にすり寄る。

 

「おーすてっとさま!いらっしゃいましぇ!」

 

「ああ…邪魔をする」

 

体を大きく曲げて優しくルーシーの頭を撫で、笑顔を浮かべる。

その様子にロキシーとエリオットが少し困惑してるのが面白い。

 

『こんにちは、オルステッド様。帰っていらしたのですね』

 

「かたぐるま!かたぐるま!」

 

「ああ…シーローン王国周辺も落ち着いたからな…用が済めば直ぐに王竜王国に向かう。…ふむ、いいだろう」

 

「きゃー!」

 

ひょいと持ち上げられオルステッドに肩車をして貰うルーシー。

オルステッドの銀色の髪を掴んでご機嫌のようだ。

それにロキシーとエリオットが戦慄した顔となる。

端から見てるルーディアとしてはとても面白い。

 

『もう、ルーシーったら。すみませんオルステッド様』

 

「ふ、構わん。俺の龍聖闘気はこの程度ではビクともせん。それより、ロキシー・ミグルディアよ」

 

「はひぃっ!」

 

突然名前を呼ばれたロキシーが、可哀想なくらいに体をビクつかせる。

 

「お前の言っていた、遠くの者と連絡が取れる魔道具の試作品が出来た。拠点に置いてある。文字を対となっている石板に映し出すようになっている。二組あるので、後で確認しておけ」

 

「は、はい!ありがとうございます」

 

なんとこの短い間に、ロキシーが言っていた物を作り上げたらしい。

詳しく聞けば、冒険者ギルドのカードや七大列強の石碑等の技術を応用したものとの事。

野宿しながら焚き火の前で石を弄るオルステッドの姿を想像すると少し笑えてしまい、ルーディアは内心で笑みをこぼした。

 

「…それでは俺は王竜王国に向かう。彼方の状況も調べねばな」

 

オルステッドはそう言うと、肩車していたルーシーをひょいと抱え、ルーディアへと差し出した。

 

「きゃー、ママ!オーステットさまおっきかった!」

 

『良かったねルーシー。オルステッド様にお礼は?』

 

「あい!オーステットさまありがとー!」

 

「……ふ、構わん。ではな」

 

そう言ってオルステッドは踵を返して去っていった。

ロキシーが大きく息を吐き出し、ロキシーとエリオットの緊張はゆっくりと解されていく。

 

「…ふぅ、不意打ちで出会うとやはり怖いですね…でも流石ですね、僕が思いつきで提案した物をあっという間に形にするとは。活用方法は多岐に渡りそうですし、早速確認に行きましょうか!」

 

目をキラキラとさせながらロキシーか歩きだそうとする。

 

『…?今行ったらオルステッド様と鉢合わせするかもしれませんよ?』

 

が、ルーディアのその言葉で足を止めてしまった。

 

「……まぁ、まだ時間はありますし、日を改めましょうか…」

 

そう言ってすごすごと家の奥に引き返した。

その様子を見届けたルーディアとエリオットは顔を見合せ、苦笑をこぼしあうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は過ぎ更に一月後。

悪阻の最も辛い時期を乗り越えたルーディアは、事前に伝えられていたザノバがいる街へと向かう。

お腹が少し膨れているが故に、氷狼鎧の胴体部分を装着出来ず真価が発揮出来ない。

それ故にロキシーとエリオットが常に傍らにつき、そして街の近くにはオルステッドが待機している、万全の態勢でパックス達を待つ事になる。

一週間程前のエンド傭兵団の情報網では、ランドルフらしき男が目撃されたとの事。

そこと首都を結べば、ザノバ達がいる街をほぼ確実に通る、そんな場所。

という訳で、一先ずはザノバ達と合流するのであった。

拠点としているのはとある宿屋、最上級ではないが長期間過ごしても不自由しない程度の設備の揃った宿屋。

そこでザノバ達の泊まっている部屋へと、ルーディア達はたどり着いた。

ドアをノックする。

 

「誰だ?」

 

ドアの向こうからザノバの声がする。

無事である事に安堵しつつ、静かに答えた。

 

『私です、ルーディアです』

 

「ふぁっ!?ちょ、ちょっとお待ちくだされ!」

 

そんな慌てたような声が聞こえ、ドタンバタンと中が騒がしくなる。

どうしたんだろう、と首を傾げるルーディアに対して、両隣のロキシーとエリオットは気まずそうにドアから視線を反らしていた。

 

 

 

 

 

10分くらいだろうか、ドアの向こうから「どうぞ」という声が聞こえ、ドアを開いて部屋へと入っていった。

部屋は宿屋らしく殺風景…という訳でもなく、3体程の置物サイズの人形と、等身大の人形が1体置かれていた。

この二ヶ月の間もちゃっかり自分の趣味を貫き通すザノバに内心苦笑しつつ、ルーディアは小さげ頭を下げた。

 

『まずザノバ、二ヶ月お疲れ様です。私達はたっぷり休ませていただきました』

 

「いえいえ、余が好きでやった事ですからな、むしろ師匠こそ妊娠されておられる身でお疲れ様でございます」

 

『あれから何か進展はありましたか?』

 

「ふむ、ランドルフ殿が近くに来ている事…は知っておられるようですな。となると…この辺りの治安の悪化…を感じる話ですかな」

 

ザノバが語るのはこのあたりで活動し始めてすぐの話だ。

この辺りは首都が近い事もあって、比較的治安が良いという話を聞いていたのだが、どうにも空気が重い。

軽く聞き込みをすると、最近行方不明者が増えてたり、酒飲んでの乱闘等が増えているらしい。

 

「恐らくジンシン教の輩共の仕業でしょうな…余自身も絡まれたり、女性を誘拐しようとする暴漢共を引きちぎ……やっつけたりしましたぞ」

 

『今引きちぎったって言いました?まぁ…彼らに情状酌量の余地はないので別にいいですけども…』

 

「しかし、王竜王国にそこまでジンシン教が広まってるとはな…エンド傭兵団も王竜王国にある程度勢力広げてたと思うんだがな…」

 

「ラノアや周辺国では一度彼等が問題起こしたのもありますし、アスラでは国が撲滅に動いていたのが大きいと思いますよ。一方で此方は国の協力はありませんから…エンド傭兵団だけでは、広まるのを抑えられないのも仕方ないと思います」

 

「…そういうもんか」

 

不思議そうに首を捻るエリオットに、ロキシーが簡潔に答える。

ある程度の抑止力にはなるだろうが、結局本部はラノアにあるし、アレクのいるアスラの影響力には及ばず、勢力の力関係として治安維持も難しいのが今の現状であった。

故にこの中央大陸には紛争地帯を含め、ジンシン教が蔓延しつつあった。

アスラの例の通り全てが全て悪辣な者達ではないが…治安のそもそも悪い紛争地帯のジンシン教など、悪辣ではなかったほうが驚くだろう。

それらがこうして王竜王国に流れてきてるのか、王竜王国の情勢不安にかこつけて国内から発生してるのか、そこまではわからない。

確実に言えるのはジンシン教のせいで治安は悪化の一途を辿っているという事だ。

 

「黒鎧の集団や鼠色のローブの男の目撃情報もありませんでした。既に離脱したのか、王竜王国でパックスを待ち構えているのか…やはりここで必ずパックスと一度話さねばなりませんな」

 

『…そうですね。では、私達も部屋をとって来ましょうか。パックスがくるまではこの辺で探索でも…』

 

「ルディは部屋で大人しく、ですね。ザノバ様と人形作りでもして過ごしていて下さい」

 

『え』

 

思わずロキシーを振り替えるルーディア。

それを気にせずエリオットはザノバに問い掛けた。

 

「所でジンジャーは?買い出しとか情報収集か?」

 

「いえ、一人で動くのは現状危険ですので、この宿屋で働かせて貰っております。日が落ちる前くらいに二人で冒険者ギルドへ向かい、エンド傭兵団から話を聞くようにしておりました」

 

その答えにエリオットは成る程、と頷き少し考えた後口を開く。

 

「成る程な、ならギルドにはこれからは俺達が行こう。昼間も少し周囲の確認しておくか…。ザノバはルーディアといてやってくれ」

 

「わかりましたぞ。いやぁ、師匠に指導して貰うのはいつでも楽しみですなぁ。あ、そういえば此方お借りした指輪になります。結局使いませんでしたが、感謝致しますぞ。」

 

ザノバはその言葉に嬉しそうにして、ルーディアに笑いかけた。

ポヤポヤとしたご機嫌な雰囲気のまま身に付けていた指輪を差出し、、ルーディアは戸惑いつつ受け取りながら頷いた。

 

『えと……うん、わかりました。久々に人形作り、しましょうか。今後の事もありますし』

 

ルイジェルド人形の製造、販路の話もあるし…とルーディアは気を取り直す。

正直少し見て回りたい気持ちがない訳じゃなかったけれど…確かに治安悪化してジンシン教が潜んでいるなら、妊娠中の自分が迂闊に外出する訳にもいかない、か。

そう納得しつつ、一度自分達の部屋を取るため、部屋を後にするのだった。

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