『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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戴冠式と留守番

卒業式の次の日、クリフはエリナリーゼと息子クライブと共に家を訪ねてきた。

夫三人が揃って腰を押さえている様子を見たクリフは眉を潜め、ルーディアに苦言を呈す一幕がありつつ、順々に出掛けていく夫三人とノルンを見送り、クリフ達とルーディアは応接室で向かい合って座った。

 

「どうぞ」

 

「ああ、すまない」

 

アイシャから茶を受け取り、早速とばかりに一口啜り、カップをテーブルに置いた。

クリフはルーディアに視線を、向けて真剣な表情を作ると、口を開いた。

 

「これからの僕の動きについて話しておこうと思ってな。これから『デッドエンド』は忙しくなるようだからな」

 

ルーディアはずず、と茶を啜りコクリと頷いた。

それを見てクリフは話を続ける。

 

「僕は元々ミリスに直ぐ戻るつもりだというのは伝えていたと思う。それは変わらないんだが、普通に向かえば二年近く掛かる旅路だ。本来はそうするのが当然なんだが…その時間が勿体無く思ってしまったんだ」

 

要約すると、転移魔法陣、あれがクリフの価値観を少し変えてしまったらしい。

あれは本来禁忌とされているものだし、ルーディアの魔石病を治す時に利用した時は、緊急事態な上にペルギウスという偉人の膝元だったから自分の中で納得は出来ていたのだが、『デッドエンド』で実に日常的に活用されてるのを見て、その「長い移動時間で色々と出来そうだ」と頭に過ってしまうとの事。

エリナリーゼや未だ乳飲み子のクライブの事も勿論あるだろうが、簡単に言えば時間が勿体無い、と思ってしまったそうだ。

故に一年、ザノバと氷狼鎧の強化に勤しみ、エリナリーゼとオルステッドの呪いの研究を続けてある程度の成果を出したい、と言い切っていた。

そしてそこから一人で転移魔法陣を使ってミリスへと向かい、成り上がっていく、と。

 

「お爺様から手紙がきたんだが、教皇派はかなり劣勢らしい。やはりあの時の魔族襲撃が今も尾を引いているのだろうな…。あまり気は進まないが龍神配下のしたっぱとして、少しくらいはオルステッド様の威光にすがろうと思う。そうでもしないと、家族が守れそうにないからな」

 

苦笑しながら言うクリフ。

その表情には並々ならぬ葛藤の跡が、いや今も悩んでいるのがよくわかった。

クリフは本当ならば自分の力だけで成り上がり、自分の力だけで家族を守りたかった。

けれど情勢不安や客観的に見た自分の力不足…それらを認識した結果、そのような結論に至ったのだった。

それを理解したルーディアは、その覚悟に強い尊敬の念を抱き、小さく頷いた。

 

『…わかりました…クリフ先輩も悩んで決めたのでしょうから、私からは何も言いません。…むしろクリフ先輩がまだ一年も協力して下さるなら心強いです。あと一年、改めてよろしくお願いします』

 

「ああ、此方こそ」

 

頭を深く下げるルーディアに、クリフも小さく下げて応えた。

そこで空気が弛緩したのを感じたのか、ずっと目を瞑ったまま黙っていたエリナリーゼが、パチリと目を開いた。

 

「さ、真面目なお話は一先ずおしまいですわ。今日は息子自慢しにきましたのよ。あとギレーヌの三つ子にもまた会いたいですわー!この後ルーディアの子も連れて行きませんこと?」

 

『ふふ…ずっとそんな事考えてたんですか?勿論いいですよ』

 

笑顔で囃し立てるエリナリーゼに、ルーディアも頷いた。

さっきの話ではミリスに旅立つのはクリフだけ、エリナリーゼとクライブはここシャリーアで暫し待つ事になる。

話し合って決めて、エリナリーゼも理屈では納得しているのだろう。

ただ、感情ではまだ納得仕切れていないようで、少し空元気気味のようだった。

とはいえルーディアにはただ共に過ごすしか出来ない。

せめて楽しく過ごそう、そう思って差し出されたクライブを優しく抱き上げ、その柔らかな頬を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戴冠式のお祭りが始まる時期が来た。

案の定ルーディアのお腹は張り、身動きが取り辛くなっていた。

悲しいけれどルーディアはお留守番である。

 

「ママ!おみやげ、たのしみにしてて!」

 

ルーシーが元気よく告げる。

その腕の中には不服そうなララが抱えられていた。

ついこの間五歳の誕生日を盛大に祝われ、自分より小さな子も増えたからか、姉としての自覚が強くなったようで、ララを抱っこしている姿をよく見る。

ただしララは不満顔で、よくララを乗せて歩いていたレオは寂しそうだ。

女性の豊満な胸に抱かれるのが好きなララなので、まだまだぺったんなルーシーに抱かれるのはあまり好んでいないらしい。

 

「母様、行って参ります」

 

アルスももう七歳…言葉もはきはきと喋るし、剣術も魔術も順調に習得している。

けれど今のアルスにとって一番気になるのは、自分の名前と同じ首都で行われる戴冠式だ。

今も目をキラキラとさせて、何処か落ち着きない様子。

寝物語に語った様々な物語に出てきた王様、それの誕生を楽しみにしているようだ。

そんな三人の子供達をまとめて抱き締め、ルーディアはそれぞれの頭を優しく撫でた。

 

『皆、楽しんできてね。お父さん達の言う事をしっかり聞くんだよ?いってらっしゃい、気を付けてね』

 

三人とも素直にこくりと頷いたのを見て、ルーディアは口元に笑みを浮かべてもう一度それぞれの頭を撫でた。

 

「じゃあ…ごめんねルディ。オルステッド様にはお願いしておいたから、安静にね」

 

『うん、フィッツも、子供達をお願いね』

 

「寝室には上級の結界の魔法陣を仕込んでおきましたので、いざという時は逃げ込んで起動してくださいね」

 

『ありがとうございますロキシー…少し過剰な気もしますけど』

 

「レオ、ルーディアを頼んだぞ。今度ルーディアも動ける時は、また一緒に旅をしよう」

 

「ワオン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戴冠式には家族の殆どが向かう事になっている。

残るのはリーリャとゼニス、そしてルーディアだけだ。

外や玄関先にはアルマとジロー、そしてレオがいる。

この期間中、ルーディアはパウロの家で世話になる事となる。

ノルンやアイシャ、三つ子を抱えたギレーヌまで向かった事で互いの家は、何時もの喧騒が嘘のようにがらんとしていた。

パウロが「俺の晴れ姿見にきてくれよな!」と笑顔で語った際に、特に自分の娘達に見て貰いたかったのか、その時他人事のように反応の薄かったノルンとアイシャをチラチラと見ていた為、ルーディアが気を利かせて二人の背中を押して、このような形となっていた。

 

『……ふふ』

 

椅子に座り、後ろからゼニスに髪を梳かして貰いながら、ルーディアは笑いを漏らした。

パウロが騎士の仕事で家におらず、ルーディアと、ゼニスと、リーリャだけがいる家。

こじつけに過ぎないが、ブエナ村を思い出すシチュエーションに、ルーディアは不思議と郷愁の念を感じていた。

 

「ん……?」

 

首を傾げて此方の顔を覗き込んでくるゼニスに、ルーディアは首を振る。

 

『ううん、なんでもないよ』

 

「ん……」

 

家事をこなすリーリャを眺めながら、優しくゼニスに髪を梳かされる穏やかな時間。

肩甲骨辺りまで伸びた、真っ白な髪をゼニスに梳かして貰っているルーディアは、終始ご機嫌だった。

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