『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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緑色の4人目

戴冠式の間に起きた、行った出来事がいくつかある。

先ずはオルステッドのいる、拠点の転移魔法陣。

それを緊急時や、時短が望ましい事態の時にエンド傭兵団の移動にも使えるようにした事。

とはいえ信用の置ける人物のみに絞っている為、そこまで活用されている訳ではない。

本来この世界では禁忌であるし、敵に知られれば急所となり得る為に、そこは慎重にならなければいけない。

続いてそれに付随し、オルステッドのいる拠点をエンド傭兵団事務所とし、受付に人を雇う事となった。

ファリアステアという名のハーフエルフの少女だ。

オルステッドの秘書であり、転移魔法陣の使用や事務所にある装備品や魔道具の管理、通信出来る石板の情報整理等の事務を行う役割がある。

今は一人だけだが、通信石板の数や纏める情報が多くなっていく事が予想されるので、いずれは増員を考えている。

しかし、オルステッドにとても近く、転移魔法陣の管理というとても大事なポジションなので、ここの人員選びも慎重に行う予定である。

そしてアスラ、アリエルは未来のラプラス復活に備えてくれると約束してくれた。

いくつかの貴族と『龍神』の名代として渡りをつけられた、との事。

その貴族達は兎も角、王であるアリエルの本格的な協力は有難いものだ。

オルステッドの作成した通信出来る石板も設置し、これから様々なやり取りを密接に行えるだろう。

その後は水神流、ついでに剣神流だ。

水神流とはパウロが主に話をつけたのだが、レイダは一応頷いたものの、水神が代替わりしてから改めて来い、と話を打ち切っていた。

レイダとしては今自分が水神でいる事自体が不服である為、水神として何かを決めたり強制したりはしたくないらしい。

あたしが生きてる間は個人的には手伝ってやるよ、が結論であった。

剣神流とはニナはあくまでも剣王の一人でしかない為、あまり明確な言葉は貰えなかったが、話だけは通しておくとの事。

いずれは剣の聖地に向かう事を改めて決定づける事となった。

後はお祭りを子供達が満喫してた事や、イゾルテとニナから伝言を貰ったり、くらいだろうか。

特にこれといった問題もなく順調だ。

リニアが何人かのエンド傭兵団の人員を連れ、転移魔法陣で大森林へと旅立ったのを見届け、ルーディアは重たい腹を撫でた。

もう既に臨月…いつ産まれてもおかしくない時期。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「いただきまーす」」」

 

「いただきます…」

 

皆揃っての朝食の時間。

朝からランニングしていたアルスとエリオットは元気よく次々とご飯を口に運び、出来るだけ早く学校に向かいたいノルンとロキシーも黙々と食べている。

ルーシーとララはゆっくりと味わっているのを見つつ、頬についた食べ滓を拭っていたルーディアは、ふと自分を見る視線に気付く。

フィッツが何処か心有らずといった様子で此方を見ていた。

ご飯を食べる手も止まっていて、どうにも疲れているように見えた。

 

『……フィッツ?どうかしたの?全然食べてないみたいだけど…』

 

「…え?あ、ううん、なんでもないよ」

 

そんな返事も上の空でルーディアは心配そうに眉を寄せるものの、視線を反らしてパクパクと食べ始めてしまった事で追及する事は叶わなかった。

どうにも疲れているというか…あまり寝れていないのかもしれない。

今日は一緒に寝て話聞いてみようか、なんて思い、ルーディアも自身の食事を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな日の昼下がりだった。

今日はギレーヌがリーリャとゼニス、そして三つ子を連れて遊びに来ていた。

シャロンとシャルルは既に元気よくハイハイを始めていて、なかなかに手がかかる、とリーリャが嬉しそうに語っていた。

苦労している話を彼女は何処か嬉しそうに話す。

それもリーリャの個性と思い、ルーディアはそれを微笑ましく聞いていた。

シャーレはまだハイハイしないし、いつも眉をハの字にしているらしい。

ちょっとした事ですぐに泣いてしまい、そこもまた手がかかり大変だ、との事。

此方をジッと見つめるシャーレに、ルーディアがその頭を優しく撫でた、そんな時だった。

 

『……んっ…!』

 

ビクッと体を跳ねさせたルーディアは、前傾姿勢のまま、お腹を押さえた。

その様子に何かを感じ取ったギレーヌは、元気にハイハイしていたシャロンとシャルルを両手に抱え込むと素早く立ち上がった。

 

「ルーディア、もしかして、そうか?」

 

『っ……はい。多分、産まれ、ます』

 

「…!わかった、少し待っていろ!」

 

途切れ途切れに答えるルーディアに、ギレーヌは二人を抱えたまま部屋を出ていってしまった。

ほんのりと感じる苦痛というか違和感に、少し顔をしかめる。

そんな時、頭を撫でていたルーディアの手の指が、シャーレの小さな手でキュッと掴まれた。

顔を向けると、赤い瞳でじいっと見つめられ、ルーディアは小さく笑みを溢す。

 

『…ありがとシャーレ…頑張るよ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出産が始まる。

何度もお産を経験しているリーリャにアイシャ。

回りの対応も手慣れたもので、子供達はルーディアに声援を送った後、レオと共に自分達から部屋を後にし、三つ子を抱えたギレーヌは子供達の待機場に三つ子を寝かせたら来る、と告げて部屋を後にした。

リーリャとアイシャはテキパキと必要なものを用意し、ロキシーは何かあった時の為の治癒術師として待機。

ゼニスは子供達の待つ部屋に連れていくつもりだったが、ルーディアの頭のほうに自分から率先して動き、その頭を優しく撫で始めていた。

エリオットが抱えて運んできたララの時と同じ医者は、呆れか疲れか大きく一息だけ吐き、すぐにお産の準備に取り掛かっていた。

そして、ルーディアの左右にはエリオットとフィッツ…。

四方をしっかりと囲まれ、万全の状態。

不意に、フィッツに右手を握られた。

以前出産時に、ロキシーの手の指をへし折った前科のあるルーディアは、危ないとフィッツに伝えようと視線を向けた。

しかし、そこで言葉に詰まってしまう。

視線の先のフィッツの顔は青白く、まるでフィッツが今から産むんじゃないかと思うくらいに顔をしかめていた。

ルーディアはその様子に驚きつつも、出来る限り安心させるように、フィッツの手を優しく握り返した。

 

『……フィッツ、大丈夫。そんなに心配しないで』

 

「ルディ…違うんだ、僕は…」

 

『私達の子供だもん…大丈夫だよ…信じて?』

 

その言葉にフィッツは目を見開く。

自分の抱え込んだ全てを見通すような言葉に驚いて言葉に詰まり、目を閉じる。

天井を見上げて息を吐き、肩の力を抜いたフィッツは、小さく頷いて微笑みを浮かべた。

 

「…ルディには、なんでもお見通しなんだね…うん…信じるよ」

 

それにルーディアも瞳を閉じて頷き、フィッツの手を強く握った。

パキ、とフィッツの小指の骨が音をたてたが、ルーディアは気付く事なく、自分のお腹に意識を向けた。

微笑みを崩すことなく、悲鳴もあげなかったフィッツは、ルーディアの出産を終えるその時まで、手を握られ続けたのだった。

 

 

 

後にフィッツはこの時の事を、脚の骨が粉々になった時と同じくらい痛かったと語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいよ!その調子だよ!頭が見えて…うっ……」

 

出産は段取り良く進み、頭が見えたその時、医者が戸惑うように小さくうめき声をあげた。

部屋にいる皆の視線が医者に向き、ロキシーが杖を取り出す。

 

「何かありましたか…?」

 

「…いや、大丈夫だよ。すまないね、気にしないでおくれ!さ、もう一踏ん張りだよ!」

 

明らかに何かあった様子ではあるが、分娩を続ける医者に、皆もこれまで通り続けていく。

医者の言う通り、もう一踏ん張りなのだ。

ルーディアを励ましながら順調に続けていき、そして。

 

「……あー、あー!」

 

医者に取り上げられた赤子は、産声をあげた。

ララの時のように呑気に寝ているという事もなく、高らかに声をあげていた。

だが、医者は少しだけ眉を寄せた。

原因はその赤子の髪…それを視認したフィッツの顔が蒼白となる。

その赤子の髪は、緑だった。

医者は目を瞑り首を振ると、笑顔を浮かべてルーディアへと赤子を差し出す。

 

「おめでとう、元気な男の子だね」

 

泣き続ける赤子を抱きながら、未だ息の荒いルーディアはポロ、と涙を流した。

頭を優しく撫でていたゼニスの手が止まり、その顔に笑みが浮かんだ。

ルーディアは顎を少しだけあげ、その動作に気付いた、リーリャはすかさずその首にチョーカーを取り付けた。

 

『ああ…懐かしいねフィッツ…綺麗なフィッツの色…』

 

泣き続ける赤子の髪に触れながら、ルーディアは涙を流す。

再開した時お互い髪が真っ白になってて、言わなくてもわかった相当な苦労と苦悩。

あの丘の上の大きな木の下で、必死に本を覗き込むフィッツの緑色のつむじを見つめていた日々。

 

『ほら、フィッツ…貴方の子だよ…抱いてあげて…大丈夫、だから』

 

差し出されたその赤子に、フィッツは手の震えを感じる。

ルーディアにとって緑色はフィッツの色だし、ルイジェルドの色だ。

この家には、家族には、どんな髪色をしてるからと気にする人は誰もいない。

ただし、フィッツにとっては少し違う…緑髪はフィッツにとっては苦い思い出だ。

けれど、とフィッツは昔の自分とよく似た髪色をしている、泣き続ける赤子を見つめる。

大丈夫、そう強く言い聞かせながらフィッツが赤子に手を伸ばそうとした、その時だった。

 

「…お前、何してんだ…?」

 

エリオットのドスの効いた声に、フィッツの肩が跳ねた。

何かまずい事をしてしまったかと、咄嗟にエリオットのほうを見たフィッツは、視線が此方を向いていない事に首を傾げた。

見ればエリオットだけではない、ギレーヌも部屋の一点を見つめ、強く警戒しているようだった。

その警戒を強くする二人の視線の先には、いつの間に現れたのか一人の人物が立ち、ルーディアを、緑髪の赤子をじい、と見つめていた。

いや、厳密には人ではない。

狐のような黄色い仮面をした、ペルギウスの使い魔、光のアルマンフィ。

転移事件の時の事を思い出すその姿に、エリオットとギレーヌは知らず気をはり、その何か言いたげな視線に、フィッツは遮るようにルーディアの前に立った。

 

「……ルーディア・グレイラット。空中城塞に来い。ペルギウス様がお呼びだ」

 

三人のその反応を無視するように、アルマンフィは静かに告げたのだった。




シリアスな文面だから入れられなかった、医者が顔をしかめた理由。
医者はルーディアが三人の夫を持っている事を知っていて、その誰とも似つかない髪色に浮気等を考えてしまい、気まずさを感じていました。
ルーディアが髪色を懐かしそうに語っていたから、問題ない事なんだな、と理解出来て密かにほっとしています。
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