『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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甲龍王の戯れ

「どういう事だペルギウス様?なんでルーデウスがあんたの傍らにいやがる?そいつがアスラで指名手配されてるのは知ってる筈だろう」

 

裏切ったのか?

パウロはそう告げそうになるも、あくまでペルギウスはアリエルの後ろ盾。

アスラの政争に嫌気が差して一度アスラから距離を置いた存在だ。

全面的な味方という訳ではない…故にそこでパウロは口を閉じた。

 

「ふん、我―」

 

「あー、なんかこじれて面倒な事になりそうなんで!僕から説明しますよ」

 

ペルギウスの言葉を遮り、ルーデウスが一歩前に歩みでる。

それに反応して手に力を込める一行に対し、ルーデウスは手のひらを向けて両手を上げ、目を瞑った。

 

「ルーデウス…」

 

「ほら、なーんもしませんよー。ペルギウス様が話すといつまで経っても本題にいかないでしょう?僕もいつまでも突っ立っていたくないんで。いいですよね?」

 

目を瞑ったままペルギウスに問い掛けるルーデウスに、ふん、と一つ鼻を鳴らしたペルギウスは頷く。

 

「…任せる」

 

不服そうではあるが、頬杖をつきながら許可を出す。

 

「はい、言質頂きました、と。いやぁ、皆さんお久し振りですね、ルーデウス・ノトス・グレイラットです。本日はお日柄も良く、皆さんもお元気そうで」

 

そんな今まで何事もなかったかのような言い分に、こめかみに青筋が浮かんだ剣王が三人。

 

「さて、話進めないと切り殺されそうなので、まず何故僕がこの空中要塞ケイオスブレイカーにいるのか…多分皆さんがしているであろう誤解から解きますけど、今回は僕主導で何かしていた訳ではなく、ペルギウス様から言われて一ヶ月程滞在させられてただけなんですよね」

 

ルーデウスはそう語り、ひらひらと手のひらを振る。

 

「そちらの…白い仮面の人、サイレント・セブンスターとかいう胡散臭い名前の人の作った装置、その実験に膨大な魔力がいるとの事で、ペルギウス様に昔教えを受けていたこの僕に白羽の矢が立ったという訳です」

 

偽名とはいえ悪し様に言われたナナホシがピクリと反応していたが、それよりも気になる情報が提示された。

 

「なに…?お前がペルギウス様に教えを受けてた…だと…?」

 

「ああ、まぁ『黒狼の牙』が解散してからの話ですからね。田舎に引っ込んで、折角の腕を鈍らせながら弛んだ暮らししていた兄さんは知りませんよねぇ?」

 

「オメーは人をいちいち煽らないと喋れねぇのか? 」

 

「おっと失敬失敬。まぁそんな訳でしてね、本来は貴方達が来るのを知ってれば会う気はなかったんですよ。一応敵対してますからね。ただ…なんだか戦闘準備した集団が来るとか言うから、仕方なく並んでたんですけど…はぁ…あの時アスラで見ていた癖になんで顔合わせさせますかね。趣味悪いですよね」

 

単純に言えば、ルーデウスは過去ペルギウスと師匠弟子と呼べる関係で、その伝でペルギウスはルーデウスをなんらかの実験でその魔力を利用していた、との事。

そしてこうして対面しているのはルーデウスの本意ではない、と言うのが節々から見て取れた。

 

「とりあえず、実験は今のところ順調…ただ次のステップに進むのに彼女が僕の力を借りる事に不服らしく…貴方を呼ぶ事にしたそうです。貴方がつき次第僕もお役御免…会う前にさっさと退散するつもりだったんですけどね…」

 

そこまで言うとルーデウスはペルギウスに視線を向ける。

ペルギウスはそれに気付き、引き継ぐように言葉を紡ぐ。

 

「……そういう訳だ。ルーデウスはかつて我の教えを受けていたにも関わらず、アトーフェのようなうつけ者を従えていた故に不愉快だったが…アスラでの即席転移魔法陣は見事だった。故に今の弟子、サイレントの実験の手伝いをさせる事で相殺としたのだ。そして今回の呼び出した用件もそれだ、ルーディア・グレイラットよ」

 

「……え?」

 

フィッツの気の抜けた声が小さく響く中、仮面の集団の中から白い仮面の少女が進み出てくる。

 

「…帰還用の魔法陣が完成しました。何度か実験を繰り返し、生物を送る所まできたので、どうか協力をお願いします」

 

仮面を外した少女、ナナホシが頭を下げた。

それに反応したのは三人。

 

「そうか、やったな……随分と早かったな…」

 

後半は本当に小さく呟き、すぐ近くにいたルーディアにしか聞こえてないようだった。

けれど前半の感情のこもった言葉はナナホシに確かに届き、その瞳に涙が浮かんだ。

オルステッドから見て一時期世話をした相手であるし、前回は彼女の本当の最後は見届けてはいない。

だからこそ今回は…と思う。

何故失敗したのか、後に資料を読み込んだオルステッドにもわからなかったからだ。

 

『そう、なんですね、良かった。勿論ですよ、私の力で良ければいくらでもお貸ししますよ』

 

ルーディアはそう言って、一抹の不安を感じつつ頷いた。

脳裏に浮かぶのは「ナナホシが最後の最後に失敗してしまう」という前回の末路。

失敗の原因がオルステッドにすらわからなかった、世界間の人間の転移。

とはいえ自分に出来る事は少ない。

魔力を惜しみ無く使い、ナナホシのメンタルケアをするしかない。

…そう考えれば今までとそう変わらない事なのかもしれない。

 

「サイレントさんの顔初めて見ましたね」

 

【……あれ、日本人?どっかで会った事あります?】

 

そんな中で突然発された、ルーディアとナナホシにとっての懐かしの言語。

反応した三人目、ルーデウスが日本語を話した事に、二人は顔に驚きを浮かべて見つめた。

その二人の様子に、オルステッドも眉を寄せた。

 

【んー…ああ、思い出しましたよ、トラックに轢かれそうになってた子じゃないですか。男の子二人と言い争っていた】

 

【は…?え…?】

 

ナナホシはルーデウスの言った言葉が直ぐに理解出来なかった。

不意にナナホシは、この世界に飛ばされる直前の事を思い出した。

迫るトラック、自分を抱き締める篠原秋人、誰かに引っ張られてトラックの進路の外に倒れる黒木誠司、引っ張っただろう眼鏡をした太った男…。

ナナホシはルーディアがこの男だったのだろうと思っていた。

朧気な記憶と言ってはいたけれど、そのルーディアが語っていた視点はその男のものっぽかったから、と。

なのに、日本語を話せるだけでも驚いたのに、ルーデウスの言い方ではまるで彼があの場にいたような、その男だったような言い方で。

ナナホシはルーデウス・ノトス・グレイラットを確かに転生者、転移者ではないかと疑ってはいた。

時折垣間見える日本らしい言い回しも、その説を裏付けていた。

けれど、先程もそうだけど節々から感じる悪意ある言動に、自分の知り合いではない、まったく関係のない別口での存在だと思っていた。

けれどそれは先程の言葉で否定されてしまった。

思わず出てしまった、という様子のルーデウスの顔を見るに、どうにも嘘にも思えない。

ナナホシはわからなくなってしまった。

自分の記憶違いか、ルーディアの記憶違いか、ルーデウスの記憶違いか。

それとも秋人と誠司、二人のうち誰かが、それとも二人ともが?

頭の中をグルグルする答えの出ない問いに、ナナホシはたまらず言葉にしてしまう。

 

【貴方…なんなの…!?誰なの!?】

 

ナナホシは混乱する頭でルーデウスに問い掛けた。

それに対してルーデウスは首を傾げると小さく頷く。

その顔は少し気まずそうだった。

 

「…ちょっと余計な事言った気がしますね。じゃ、ペルギウス様、もうお役御免でしょう?僕はこのまま帰りますから」

 

顔を少し歪めながら、ルーデウスは直ぐにそそくさと移動を始める。

一行は警戒しつつも、一応ここは謁見の間で、ペルギウスの目の前で、更には使い魔達に牽制されていて動く事が出来ない。

ここでそれを無視して暴れてしまい機嫌を損ねれば、どんな結果をもたらすかわからず、動けなかった。

居所のわからない神出鬼没の泥沼を捕える千載一遇のチャンスにも関わらず、動けない事に歯噛みする一行だが。

この男にとっては関係がない。

 

「逃がすと思っているのか?」

 

ルーデウスの前に立ちはだかるのは銀髪の偉丈夫。

オルステッドは既に呪いを抑える兜を外し、手刀をルーデウスの胸へと突き出していた。

 

「ですよねー…」

 

ドシュッ!

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