『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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赤竜の下顎にて2

あっという間に全員が地面に転がっていた。ルイジェルドでさえだ。

まず、「乱魔」の言葉から放たれた魔術で、ルーディアの左腕と左脚の氷が霧散した。

そのままバランスを崩したルーディアは胸ぐらを掴まれ、ルイジェルドへと放り投げられた。

避ける選択肢はルイジェルドにはなかったが、無防備に受け止める事を嫌い、ルーディアは左腕だけで受け止めようと槍から手を離し、右腕だけで強く踏み込んで突きを放った。

オルステッドはそれを左の手の甲をそえて肩口に流し、身を屈めてルイジェルドの懐に入り込み鳩尾に拳を叩き込んだ。

そこにエリオットの全力の斬撃が襲うが、それに対し見ることもなく、手を添えて流してやるだけでエリオットは地面に叩きつけられ、何回転か地面を転がった。

ルイジェルドは朦朧とした意識の中でもどうにかルーディアを受け止めるが、勢いは殺しきれず、腕の中からルーディアも地面に転がった。

その有り様にオルステッドは困惑したように後ろ頭をかいた。

どうしたらものか、と思っているとルーディアが動き出したのを見て視線を向けた。

 

『お前が』

 

「む」

 

最もダメージの少ないルーディアがヨロヨロと立ち上がる。

左脚の義足がビキピキと凍りつき動きを補助する。

 

『お前が転移事件を起こしたのか?母様を隠したのか?』

 

あくまでルーディアの声は魔道具で出力した声、感情は乗りにくい。

にも関わらず、その声には強い怒りを感じる。

 

『お前が、お前のせいで』

 

ルーディアが右手をオルステッドに向ける。途端に凍りつくオルステッドの脚。

 

『母様を返せ!優しかった父様を返せぇええええ!』

 

「乱魔!」

 

走りながら左腕を再度形成しようとしたルーディアにまた謎の魔術が放たれる。

それを察知したルーディアは自分の前に素早く氷の壁を生成した。

その氷の壁が魔術と衝突し消え去ると同時に、左腕の爪を生成し終え、オルステッドに肉薄する。

本命を通すために囮の魔術を用意していたか、と内心その機転に舌を巻く。

しかし戸惑う事はなく、勢いそのままに突きだされた氷の爪を、オルステッドは手刀を振り下ろす事でこたえた。

破砕音とともに容易く砕け散る氷の爪。

ならば、と次の行動に移る前にオルステッドの左の拳がルーディアの鳩尾にめり込んだ。

 

『あ…』

 

肺の中の空気が全て吐き出され、ルーディアの意識が急速に黒く染まっていく。

ピク、一度痙攣してからルーディアは頭を項垂れさせて気絶した。

オルステッドは気絶したルーディアをそのまま片腕で抱える。

その姿は完全に誘拐犯である。

エリオットとルイジェルドは意識こそ失っていないものの、受けた衝撃が強すぎてまだ立てていない。

 

「ぐっ…そぉ、ルーディアを何処に連れていく気だ…!何をする気だ…!」

 

「…危害はくわえん」

 

「そこまでの強さを持ちながら、子供に対し親を人質にとり脅すとは…!卑劣な…」

 

「人質…?なんの事だ」

 

精一杯睨み付ける二人の言葉に困惑しきりのオルステッド。

首を傾げる仏頂面に対し、同行者の黒髪の少女が恐る恐る声をかける。

 

「ねぇ…客観的に見てると、明らかに貴方が悪者なんだけど」

 

「何…?俺はただルーディアに力を貸してほしいと、俺の指示の元に力を奮ってほしい、その代わりに家族の無事を保証すると言っただけだろう?」

 

「はあ!?貴方そういう意味なの!?あれで!?」

 

そこからはこんこんと少女の説明が続く、突然初対面の人の名前をフルネームで言えば警戒される、と。

あんなに小さな子に対して必要だ、という発言は変態にしか思えないと。

あの言い方では明らかに人質の命が惜しいなら大人しくしろ、誘拐する、と解釈されて当然であると。

その様子をエリオットとルイジェルドはポカンと見詰めていた。

いや、未だにオルステッドに対しては強い恐怖を感じるし、警戒はしているのだが、少女に対しておずおずとしている様はなんとも哀愁を誘うものだった。

 

「しかし…」

 

「…まぁ、貴方、人とのコミュニケーション能力に難があるのは知ってたけど…あまりにもひどいわよ今のは。しかもそんな小さい子を結局殴って気絶させるし…可哀想に…」

 

少女はそう言って気絶したままのルーディアの頭を優しく撫でる。

それに反応したのかピクリと体を震わせ、魔道具がルーディアの思わず発しようとした言葉を再生する。

 

『母様…』

 

そんな様子にたまらなくなった少女は、オルステッドを見上げて言う。

 

「とりあえず、もう今はやめたほうがいいと思うわ。その子はそこの護衛とお兄さんに任せて、せめて日を改めて」

 

真摯に言う少女にオルステッドは少しだけ惜しみながらも頷いた。

 

「…仕方ないか」

 

オルステッドはそう呟くとルーディアを抱えたままルイジェルドに向かって歩く。

身を固くするルイジェルドだったが、ルーディアを抱え、差し出されていることに気付く。

腹の痛みに顔をしかめながらもルーディアを優しく受け取り、直ぐ様全力で下がった。

 

「ルーディア・グレイラットに伝えろ、その指輪を預ける。気が向いたら起動しろ、直接会いにいく。そして今回の詫びに出来る限りの便宜をはかる。すまなかったな、少し焦りすぎていたか」

 

そう言われたルイジェルドがルーディアをよく見ると、その手には確かに指輪が握られていた。

オルステッドは此方にと一定の距離をとると、そのまま少女とともにすれ違っていく。

 

「…伝えはする」

 

「感謝する」

 

そう言って去っていくオルステッドの姿が見えなくなるまで、ルイジェルドはルーディアを抱えながらじっと見つめていた。




よく見るとルイジェルドは龍神オルステッドを知らなかったので少し台詞修正
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