『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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ナナホシの動揺

「おや、嫌そうな顔だね、僕を知ってるようだ」

 

「君の想像の通りさ」

 

「まぁまぁ一つだけ助言させてよ」

 

「こんな世界で自分の骨を埋めたくないだろう?」

 

「あ、聞く気になったかい?」

 

「そうだね、そろそろ妨害されるから一つだけね」

 

「ナナホシシズカよ、君がこのまま一人で転移装置に乗って帰ろうとしても、それは決して成功しません。貴方だけ転移しようとしても必ず失敗するでしょう」

 

「……興味出てきたかい?」

 

「じゃあ―――」

 

『ワン!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んんんーっ!」

 

ナナホシが、目を覚ました時、眼前は真っ白でフワフワした物に覆われていた。

温かく、柔らく、けれど顔中が真っ白い何かで覆われている為に声がまともに出せず、どうなってるのかわからないナナホシは、ただただ必死に目の前の白いものをどかそうと足掻くしか出来なかった。

不意に横に感じていた気配が動きだす。

 

『こら、レオ!』

 

そして、そんな声と共に、顔を覆う圧迫感は消え失せ、ふわふわもこもこした物は上へと動き、漸く新鮮な空気がナナホシを包んだ。

 

「っぷはっ!けほっけほっ…朝から、けほっ、何なのよ……」

 

軽く咳き込みながら上半身を起こしたナナホシは、隣に寝ていた筈のルーディアを見る。

するとそこには、もこもこの大きな犬、この家の飼い犬のレオがルーディアに片手で持ち上げられている光景だった。

 

「きゅーんきゅーん……」

 

片手一本で持ち上げられているレオは、情けない声をあげて体を震わせていた。

 

『もう、レオったら…朝からララの所から離れるなんて珍しい…大丈夫ですか?ナナホシ。レオもまだ子犬ですから、多分構って欲しかったんだと思います。朝からすみません…』

 

「……いえ、けほ。大丈夫よ。ビックリしただけだから…」

 

『ほら、レオ、ごめんなさいは?』

 

「くぅーん……」

 

『だって、じゃないの。もう。ほら、あと散歩行くでしょ?準備するから、あっちで待ってて』

 

「ワンワンワン!」

 

『もう、調子良いんだから』

 

降ろされたレオはご機嫌な様子でしゃかしゃかと床を蹴り、部屋を飛び出して行った。

その様子、レオと会話してるようなルーディアの様子にナナホシは暫し唖然とするものの、まぁ、ルーディアなら、と飲み込み、目を瞑って頷いた。

 

『んー…』

 

「ぴゃっ」

 

そして目を開いた時、目の前にルーディアの顔があり、ナナホシは変な声が出てしまった。

 

『顔とか髪とかレオの毛だらけですね…お風呂浴びちゃいます?』

 

「そ、そうね、朝風呂ってのも悪くないわね!」

 

『わかりました、それじゃ、アイシャにお願いしてきますね』

 

ルーディアはベッドから立ち上がると大きく背伸びをした。

てきぱきと寝巻きを着替え、あっという間に簡単な身支度を整えると、ナナホシに振り向く。

顔を真っ赤にしてその様子を見つめていたナナホシは、それにビクリと体を震わせた。

 

『それじゃ、私は他の子供達の様子見た後、レオの散歩に行ってきますね。ナナホシはゆっくりお風呂、楽しんでください』

 

「あっ…」

 

そう言って近くのベビーベッドですやすやと眠っているジークを抱き上げると、直ぐに部屋を出ていってしまうルーディア。

それに思わず手を伸ばそうとするも、届かずにその手は空を切った。

一人になり、静かになった部屋で、ナナホシは仄かな寂しさを感じてしまう。

そして、思い出してしまう、夢に出てきた人の話を。

空を切った手の平を見つめ、小さく呟いた。

 

「……帰れない…失敗する……?」

 

夢で見たその言葉は、お告げは、ひどくナナホシの心を苛んでいた。

その手を握り締め、胸に押し付ける。

ドクドクと心臓が早鐘をうち、どうしようもない恐怖がナナホシを襲った。

もしもそれが嘘だとしても、帰れたとしてアキがいないかもしれない事、それもナナホシを苦しめる。

 

「……こんな世界で、死にたくない……」

 

ナナホシの強く瞑った瞳から涙が溢れた。

不安で不安で仕方なく、ナナホシはベッドに潜り込んだ。

先程までいたルーディアの温もりの残るベッドにすがりつく。

 

「けほ…」

 

その布団を抱き締め、身に包み、お風呂の用意が出来たとアイシャが呼びにくるまで、ナナホシはそのままずっと肩を震わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆揃って朝食の時間。

いつものメニューに舌鼓をうち、談笑しながら頬張る穏やかな時間。

今日はノルンとロキシー、そしてルーディアはアルスを連れて魔法大学にいく予定だ。

ルーディアは今年で卒業、それと入れ替わる形でアルスは魔法大学に入学する事となる。

今日は下見…小さい頃に世話になった以来の登校である。

少し大きめの制服に身を包んだアルスは、少しウキウキしているようだ。

ルーシーはそんなアルスにちょっかいをかけている。

最近どうにもルーシーは悪戯にハマっているようで、そこかしこに悪戯の跡がある。

基本的には可愛らしいものではあるのだが、ルーディアとフィッツ、二人のブラシでレオの頬を挟んでいた時は、流石に叱っていた。

二人とも白いから、とはルーシーの談で、フィッツが感心して笑ってしまったせいで、暫く夜がお預けとなっている。

ちなみにそれは今も継続中である。

そんなフィッツはいつも通り、アスラ王国へと出勤である。

そしてエリオット、彼は朝食を食べ終えたら剣の聖地へと向かう予定だ。

もくもくと食べるララはルーディアの膝の上で、時折頭を胸に預け、その柔らかさにご満悦のようだった。

アイシャは食べ終わった皿から運んで洗い始め、自分の分をさっさと食べ終えたアルスが、自分の食器を集めて皿を運ぶアイシャの元に並ぶ。

 

「ご馳走さまでした!」

 

そう元気よく告げ、アイシャに洗い物を手渡したアルスはご機嫌にニコニコ笑ったまま、見学に行く準備をし始めるのだった。

そんな和気あいあいとした雰囲気の中、ナナホシは笑顔だった。

同時に少し寂しそうでもあった。

けれど、その寂しさを覆い隠し、朝食を食べ終えたナナホシは口を開く。

 

「ご馳走さま!それじゃ私は後戻るわ。明日、お願いね」

 

『あ、見送りを』

 

「大丈夫よ、ありがとね」

 

そう言ってそそくさとナナホシは退席してしまう。

忙しない様子にルーディアは首を傾げる。

そんなルーディアに対してルーシーとララは、ルーディアの服の袖を引っ張る。

そして、デザートを食べさせて欲しそうに口を開け見上げてくる二人の可愛さに、ルーディアは目を細め、それに集中するのだった。

 

 

 

「…なーんかナナホシさん、姉さんを見る目変わってない…?」

 

「私もそう思う…もしかすると、もしかするかもね」

 

「うーん、複雑…アレク様も怪しいし…」

 

「そうだね。トラブルにならなきゃいいけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既にノルンとロキシーは先に学校へと向かっていた。

ノルンは生徒会会長を立派にこなしているし、ロキシーも既に先生としてベテランの風格が漂っている。

二人揃って少しドジで、肝心な所で思わぬミスをする事もあるけれど、それもまた生徒に慕われる要因なのだろう。

現在、家の扉の前ではジークを抱っこしたアイシャが、ルーシーとララとレオを隣に、此方を見ている。

そして門の前ではアルスを連れたルーディアとエリオットがいる。

エリオットが剣の聖地に行く、最後の挨拶をする為だ。

 

「アルス、俺がいない間…頼んだぞ」

 

「はい!」

 

言葉少なに告げられたエリオットの言葉に、アルスは元気よく返事をする。

少し乱暴にアルスの頭を撫でるエリオットは、優しい笑みを浮かべていた。

そして、ルーディアと真正面から対面する。

エリオットは真面目な顔を作るとルーディアを躊躇いなく抱き締めた。

 

『ふぇ』

 

「暫くいないから…本当に気を付けてくれ。出来るだけ早く終わらせて帰る。子供達の事もそうだが、自分自身の安全をしっかり確保してくれ」

 

『ん……はい…』

 

強く強く抱き締められたルーディアは、エリオットの背中に手を回し、自分もそっと抱き締め返す。

暫し抱き締めあった二人は、通行人に冷やかされ、少し赤面しつつ名残惜しげに離れた。

 

「んんっ、それじゃ、行ってきます」

 

『ふふふっ、はい、いってらっしゃい』

 

「お父様、いってらっしゃいませ!」

 

挨拶を交わし、エリオットは手を降ってから踵を返した。

これからエリオットは馬を借り、真っ直ぐに剣の聖地を目指す。エリオットにとっては数年世話になった土地だ。

多少の懐かしさを感じながら、エリオットは旅立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃事務所の石板、ミリスのエンド傭兵団の拠点に設置する予定としていた通信石板の受信側に文字が刻まれ始めた。

その内容を、受付のファリアステアはしっかりと羊皮紙に書き移していた。

 

『ミリス神聖国 ラトレイア家より 速達の手紙有』

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