『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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ナナホシの暴走

「ラトレイア家からの手紙…ねえ。しかも速達の…」

 

アスラ王国から事務所に帰ってきたパウロとフィッツを迎えたルーディアは、ファリアステアの書いたメモを二人に手渡した。

 

『内容は見てないようですけど、エンド傭兵団が此方と繋がりがあると知って接触し、渡してきたみたいですね…すぐに向かうべきでしょうか』

 

「でも、すぐに行ったら明らかに怪しまれないかな。流石に早すぎるって」

 

フィッツのその懸念は最もであった。

転移魔法陣が禁術である以上、それが知られるきっかけとなる事も避けるべきだ。

本来なら往復で4年かかってもおかしくない距離を、それこそ数日で向かってしまえば…近くにいたと言い訳しても感付いてしまうかもしれない。

 

「…だが、ラトレイア家がわざわざ、しかも速達でっていうんだから、恐らくはゼニスの事だろう。もしかしたら治療法を見つけたのかもしれないぜ?となると多少怪しまれても…と思っちまうな」

 

「それで疑われて捕まって異端審問…なんて事になれば意味ないですよ…ゼニスさんの治療の目処が未だ立ってないから少しでもすがりたい気持ちはわかりますが、せめて少し時間開けたほうが…」

 

『……そうですね。それに母様の様子は良くなってるように思います。私としても、フィッツに賛成です。…でも、父様が行くと決めたなら止めません』

 

「ルディ!?」

 

『母様を一番愛しているのは父様です。父様は直ぐにでも母様を元に戻してあげたい筈です。それに、母様だって本当なら父様と語り合いたい、ノルンとアイシャを褒めてあげたい筈です。だから…私は反対はしません』

 

そう告げてくるルーディアをじっと見つめるパウロ。

暫し真面目な顔でルーディアと視線を交わし合い、パウロは瞑目して頷き、口を開いた。

 

「……そうか…ありがとうなルディ。とりあえず今は保留にしとくぜ。ちょいと一回帰って相談してみようと思う」

 

微笑むパウロに、ルーディアは力強く頷く。

その様子をフィッツが少し眉を寄せて心配そうに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、パウロはゼニスを連れてミリス神聖国へ行く事を決意した。

一緒に行くのはゼニスとリーリャだけ。

三つ子を抱えたギレーヌはその間フィッツ宅で共に住むことになる。

 

「少数で行ってパッと行ってパッと帰ってくるさ。ついでにリニアちゃんの様子も見てくるぜ」

 

パウロはそう語り、ゼニスとリーリャを連れてあっという間に転移魔法陣で旅立って行ってしまった。

ゼニスがもしかしたら治るかもしれない、その期待に居ても立ってもいられなかったのだろう。

転移する直前、パウロは何時もの飄々とした態度を引っ込めて、ゼニスを真剣な表情で見つめていた。

そんな父親に、ルーディアは心から応援を送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなり子供が増えて騒がしくなったフィッツ家。

流石にアイシャだけでは手が足りない。

ギレーヌの三つ子、特にシャロンとシャルルは目を離すとすぐにいなくなるので、ギレーヌがルーディアの護衛として動く事が難しくなってしまっていた。

そこをアスラのエンド傭兵団から応援として、一人の人物が送り込まれる事となった。

 

「成る程、お任せ下さい。エリオット君がいない間、ルーディアさんの護衛は僕にお任せください」

 

未だに木剣のみを装備している北神、アレクサンダーだ。

近場の宿屋に滞在し、外出時や空中要塞に赴く時に護衛として行動を共にする。

しかし、魔族嫌いであるペルギウスは良い顔をしなかった。

魔族の血が四分の一混じっている上に、その血はペルギウスと因縁のある不死魔王アトーフェラトーフェの物だ。

アレクを護衛として連れていった時のペルギウスの様子は、心底不愉快そうだった。

 

「実験中のみ、ルーディア・グレイラットの側にいる事で滞在を許す。ただし、有事以外ではあらゆる言動を禁ずる。まぁ、我が居城で有事、等という事は起こらんがな」

 

それをアレクは当然の事と受け止め、言葉を一切発する事なく護衛に徹していた。

 

『今日もありがとうございます、アレク』

 

空中要塞を出る度息を吐き出し、見るからに疲れを感じている様子のアレクを、ルーディアは労う。

 

「む、いえいえ、これも精神修行の一環と思えば。自分で言うのも恥ずかしいですが、僕に足りないのは主に精神面、心構えだと…久し振りに会った父さんにも言われましたから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナホシの実験は順調で、昨日はナナホシの三倍はあろうかという馬を無事に転移させる事に成功していた。

今日最終調整を済ませたナナホシは、いよいよ明日を本番とし、帰る事に挑戦する。

お別れという事で細やかな宴会なんかをする事を企画していたのだが、ナナホシはそれを断り、挨拶だけを済ませて別れとする事にしたらしい。

既にクリフやザノバには別れを告げ、今はフィッツ家でアルスに挨拶をしている所だった。

 

「ナナホシさん、幼い頃からお世話になりました。どうか、故郷に帰ってもお元気で」

 

「ええ、アルス君も。本当に大きくなるのはあっという間ね…元気でね」

 

「はい!」

 

元気よく返事をしたアルスの頭を撫で、微笑むナナホシ。

立派に受け答えをするアルスにナナホシはなんとも言えない感動と、一抹の寂しさ、そして…自分は何も変わらないのに、という少しの嫉妬を感じていた。

けれど、それを表に出す事なく、挨拶を続けていく。

ルーシーとルーシーの抱えるララを順々に撫で、きょとんと見上げる瞳に微笑む。

そして、アイシャとノルンに向き直った。

 

「アイシャちゃんにも沢山世話になったわね」

 

「いえ、ナナホシさんはお姉ちゃんのお客様で、私はメイドですから。むしろ色々なお話してくれて、面白かったし楽しかったですよ」

 

ナナホシはよく泊まりにきていたので、勿論アイシャに沢山世話を焼かれていた。

それのお返しという訳ではないのだろうが、ナナホシはよくあっちの世界の話を言って聞かせたり歌を歌ったりしていた。

それがアイシャがエンド傭兵団を纏めるようになった要因の一つである為、間接的に協力して貰ったようなもの。

他の話も面白く、アイシャもナナホシが来るのを割りと楽しみにしていた。

 

「ノルンちゃん、頑張ってね。二人とも、どうか元気で」

 

「はい。ナナホシさんもお疲れ様でした。お元気で」

 

ルーディアから見ると関わりが薄い印象だった二人だが、そこまでよそよそしい感じはなく、穏やかであった。

ルーディアは知らない事なのだが、ノルンも割りとナナホシの話を楽しんでいたという事と、もう一つ理由がある。

ルイジェルド人形にルイジェルドの話をかいた冊子を付ける事を考えた時、その本の内容の書き手としてノルンが立候補していたのだ。

ノルンはその文章を考える時や、ルーディアに提出する前に等にナナホシによく相談していた。

 

要は二人とも姉が増えるのは…と言いつつ、割りとナナホシを姉のように慕っていたのだ。

二人とも笑顔であるが、目の端には光る物があった。

 

「フィッツ…貴方にも沢山世話になったわね。改めて…ありがとうございました」

 

「うん、良かったねナナホシ…故郷に帰れる事、心からお祝いするよ。帰っても元気でね?」

 

「ルーディア、明日が最後よ…どうかお願いね」

 

『勿論です、全力を尽くします。…けど、大丈夫ですか?少し疲れてるように感じますけれど…』

 

「大丈夫よ、今日は早く寝てしっかり体を休めるから。…転移に成功してもあっちがどうなってるかわからないけれど、準備はしっかりしてるつもりよ」

 

『…わかりました。では、また明日』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異世界転移魔法陣は細かい転移先を指定する事は出来ない。

残滓の魔力である程度判別できるアーチでも、詳しい座標までは把握出来ないのだ。

地中や物体の中でも水中でもなく、陸の上で標高がそう高い所ではない、とまではする事が出来たので、後は運だ。

外国だと困るが、あちらでも金になる物品や大量の保存食に水、防寒着等があれば日本に帰る事も不可能ではないだろうが、険しい旅路になる。

それらを詰め込んだリュックを背負ったナナホシはよろめきながらも、決意の籠った表情で魔法陣を見つめる。

 

「……絶対、帰れる、そうよ、帰るのよ…げほっ…」

 

魔法陣の各所にペルギウスの下僕が配置につき、続いてペルギウスとルーディアも定位置につく。

ルーディアから一歩離れた所でアレクが静かに佇み、様子をじっと見つめている。

 

「…あんな、胡散臭いのが…げほっげほっ…言った事なんて、信じないわ」

 

咳き込みながら、ナナホシは魔法陣の中心へと向かって歩みだす。

挨拶は済ませた、後は帰るだけ。

歩む自分を心配そうな顔でルーディアが見つめている事に気付き、歩きながらぺこりと頭を下げて小さく笑いかけた。

それにルーディアは小さく頷き、魔法陣に手をつけた。

やがて、ナナホシは中心にたどり着き、辺りをぐるりと見回す。

何度も何度もチェックした、自分より大きな生物でも成功した。

転移先の不安はあるけれどどうにかする。

心残りは…。

 

「では、始めるぞ」

 

ペルギウスの宣言と共に魔法陣が端から光りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この魔法陣に魔力を注いでいるルーディアを、何処かぼうっとした頭で、私は見つめた。

出会った時は仮面をつけた変な少女で、再会した時はそのボロボロさに、私が原因かもしれない事に罪悪感を覚えて…。

そして関わっていく中で、こんな世界で人と関わる事なんてしないと決めていたのに絆されてった。

私の研究をいつも手伝ってくれて、いつも甘やかされて、研究室でのお喋りがあの頃の一番の楽しみだった。

…彼女が魔石病になった時、彼女が死ぬかもしれないと思った時、とても怖かった。

この世界に本当の意味で独りぼっちになったような気がして、生きた気がしなかった。

元気に再会出来て、心の底から安心した。

その後おっぱい揉んだ事も、抱き締められて眠った事も思い出すだけで赤面ものだけれど…いつからか、彼女とのふれあいを求めてる自分に気付いて…。

そう、私はルーディアがいつの間にか好きになってた。

女同士とか、アキの事も未だに好きだとか、ルーディアには夫が三人もいて子供もいるとか、日本に帰るなら彼女とは必ず別れてしまうとか…問題はいっぱいあった。

それでも、彼女とのふれあいの時間は心の底から心休まる時間だったし、彼女の裸体を見ると赤面してしまうくらい私は彼女を想ってしまっていた。

 

魔法陣が黒い光を放ちだす。

今まで見たことのない反応に、ルーディアの瞳が揺れた。

 

「…ルーディア!もっと魔力を寄越せ!」

 

『っ……!精一杯込めて、ます…!黒い光…何処か虚空に、吸い込まれているような…!』

 

ルーディアがアキかもしれない、そう思ってから私の行為は明らかにエスカレートしていた。

毎回実験終わりにルーディアと床を共にしてた。

胸に頬擦りしても優しく頭を撫でてくれるから、思う存分胸の感触を楽しんでいたし、ルーディアが先に眠ったらキスして、舌を入れたこともある。

腰を撫でてるだけで変な気分になるし、お尻もハリがあって柔らかくて。

こんな子を抱ける三人の夫達に嫉妬すら感じて。

…私はルーディアを愛してる。

女同士とか関係なく、ルーディアが好きで好きで堪らない。

例え…アキじゃなくても、ルーディアが欲しい、ずっと一緒にいて欲しい。

 

パヂッ…!

 

魔法陣が突然光を失った。

静寂に包まれる部屋、呆然とするペルギウス様の下僕達。

けれどルーディアは…何処かわかっていたような顔で私を心配そうに見つめていた。

割れた装置に、ルーディアへと詰め寄るペルギウス様を尻目に、思った以上に冷静な自分がいて、けれど足取りは不安定で。

 

「魔法陣が何者かに乗っ取られた…?魔力が虚空に消えていっただと…?何が起きたというのだ…!」

 

魔法陣から降りて荷物をそこらに放り出した私は、ふらふらと自室へと駆け込んだ。

 

失敗する、と言われていたからだろうか、想定していたよりも冷静だった。

自室の扉の横で、私は壁に寄りかかっていた。

あの夢の言う通り、帰還は失敗した…今までと明らかに違う反応を魔法陣が示して、転移自体が発生しなかった。

意味はわからない、けれどあの夢の、私一人で帰ろうとしても失敗する、それだけは事実だった。

…私は何処か心の一部で、こうなる事も望んでいたのだと思う。

 

『ナナホシ!』

 

自室の扉を開けて飛び出してきたルーディアに足をかけて、姿勢を崩れさせた。

そのまま困惑するルーディアに抱きつき、ルーディアを下にして床に倒れこんだ。

 

『痛っ……!?』

 

そのまま私は仰向けに倒れたルーディアに体を乗せながら、その顔の横に手をついた。

押し倒すような格好となり、私はルーディアをジッと見つめる。

 

「ねぇ…けほ…知ってたの…?」

 

『え、え?ナナホシ…?』

 

「失敗する事、知ってたの?」

 

困惑して目を白黒させるルーディアに、そう問い掛ける。

ルーディアはそれに目を微かに開くと、小さく頷いた。

 

『……はい、オルステッド様が、前回、最後の最後にナナホシの帰還だけが失敗していた…と。ただ、その、時期も違うので…絶対ではないと、上手くいけば、それでいいと思って…』

 

なんとなく、そんな気はしてた。

たまに寂しげ?憐れみ?そんな目で私を見ていたから。

私が帰るのが淋しいのかもと、自分に都合の良いように解釈していたけれど、あの夢を見てからもしかして、と思っていた。

 

「そう…」

 

そしてルーディアのその感情の理由はきっと…そのショックかなんかで私に何かがあったんだろう。

夢で事前に知ってなければ、ここまで落ち着いてなかったと思うし。

帰れない…それは改めて考えても私にとって絶望だ。

それを知ったルーディアはずっとそれを抱えて…それでも私に殆ど察される事なく付き合いを続けてくれた。

それが嬉しくて堪らなかった。

…ああ、なんかそれにしても、なんか調子悪いなぁ。

 

『あの…ごめんなさいナナホシ、騙すつもりでは、なかったんです。だ、大丈夫ですナナホシ!何度でも協力します!原因を探るために、オルステッド様や…クリフやザノバにも協力を仰ぎましょう!それむっ』

 

「ねぇ」

 

ルーディアが何か言ってたけれど、今はどうでもいい。

その唇に人差し指を突き立てた。

 

「責任取ってよ…げほ」

 

体が熱い。

咳が止まらない。

 

「げほっ、ゲホッ…がはっ!」

 

突如込み上げる物があって、私はそれを吐き出してしまう。

 

『な、ナナホシ!』

 

私の口から吐き出された鮮血が、ルーディアの顔を濡らしてしまった。

綺麗な顔が…勿体無い。

その血を手で拭い、私は続ける。

 

「けほっ…あのね、私、貴方の事が好きになっちゃったの。帰りたい思いと釣り合うくらい、貴方が好きなの…こほっ、ごぼっ」

 

また喉の奥から血が溢れる。

ああ、鬱陶しいなあ、私の大事な告白のタイミングなのに、私の体が言うことを聞いてくれない。

 

『…もしかして。ナナホシ!ソーカス茶を飲んでいなかったのですか!?オルステッド様から定期的に貰っていた筈です!』

 

ああ、あれ。

 

「あれなら、ルーデウスが欲しがっていたから、残ってたの全部あげちゃったわ。げほっ」

 

私の言葉に、ルーディアが顔を歪める。

頭がふらついて、視界が揺らぐ。

口内にたまった血が口の端から垂れた。

 

「ねぇ…だから帰れないなら、貴方が側にいてくれれば、げほっ、それでいいわ…」

 

『…私は、アキじゃないですよ』

 

もうそれも。

 

「どうでもいいわ…ルーディア、貴方が欲しいの、私と一緒に、ずっと一緒にいて。げほ。貴方の事が好き、好きよ、愛してるの。女同士とか、どうでもいいでしょ?ごほっごほ…」

 

体が熱くて、意識が朦朧としてきた。

苦しさに、知らず目から涙が溢れてくる。

ポタポタと、ルーディアの顔を涙と血が汚してしまう。

 

「お願いルーディア、私を受け入れて、受け入れてよ!貴方以外何もいらなっごほっ!貴方もげほ、私を愛して…?お願いよ…」

 

私は、ルーディアの頬に手を当て、顔をじっと覗き込んだ。

ルーディアはナナホシを

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