『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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パウロと神子様

ゼニスを神子とやらに見て貰う事を決めた後、パウロ達はラトレイア家に滞在する事となった。

決めたとはいえ神子はミリス神聖国にとってある意味一番の要人。

クレアの夫、カーライルは伯爵であり、現在神殿騎士団剣グループの大隊長を勤めている。

その権力と、パウロの前回魔族の襲撃から神級の解毒魔術を守った功績を使い、本来ならば個人等見ることのない神子に特例として相手をして貰う、そういう話となった。

とはいえ一応の身元調査やら向こうの都合もある為に、調整に時間がかかる。

その為暫くは待つ事になる。

そこでパウロはクレアから質問責めにあっていた。

 

「貴方の娘達は何故来なかったのですか?ルーディア、ノルン、アイシャは今何をしているのですか?ノルンとアイシャはもうすぐ成人でしょう、将来の事をしっかり考えていますか?ところで来るまでがあまりに早すぎませんか?一体何処にいたのです?貴方がアスラ王国でアリエル女王の直属の騎士となったという情報があったのですが、誤りでしたか?そもそも」

 

「あー…まぁ、色々と…うん…あっ!用事思い出した!それじゃ!」

 

答えにくい質問もありパウロは適当にはぐらかし、ゼニスとリーリャを抱えてクレアから逃げ出した。

折角時間があるのだから、ギースでも探してゆっくりと観光でもしよう。

パウロはそう考えて神聖区を飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギースは直ぐに見つかり、泊まってる宿も教えて貰い、日があるうちはギースと共に観光し、ラトレイア家へと帰る日々を送っていた。

とはいえゼニスを医者に見せる日もある。

そんな日はパウロ一人だけで飛び出し、適当にプラプラと歩き回っていた。

その間ゼニスの世話係として残っているリーリャがパウロの代わりにクレアに質問責めにあい、イビられていた。

今はパウロとゼニスのメイドとして自身を律しているので笑顔で受け答えをして、質問もやんわりと受け流している。

しかし、もしもシャリーアへ帰り夫婦に戻ったらひっぱたくとリーリャは密かに決意していた。

 

 

 

そんな最中、適当にぶらついてたパウロはミリス教団本部の一般開放されている中庭の下見にきていた。

四つある中庭にはそれぞれ、四季に合わせた木々が植えられているという。

今は夏だ、青々とした元気な木々や、太陽のような花が植えてあり、なかなかにいい光景だった。

次はゼニスとリーリャだけ連れてくるか…と思っていると、その太陽のような花の所々で少女が笑顔で立っているのが見えた。

その回りには青い鎧を装着した、恐らくは神殿騎士団の騎士。

そんな奴等が七人程、その少女の回りで護衛をしているようだ。

 

「大きいお花ね!見て見て、私と同じくらいあるわ!」

 

「そうですね!」

 

「お美しいです!ミコ様!」

 

「いつも無邪気で愛らしい…」

 

「……護衛…なのかありゃ…?」

 

パウロがそう呟いてしまうのも仕方ないかもしれない、彼らは確かに周囲に常に気を張っているのだが、少女を肯定し絶賛する姿は一般的な護衛とは少し違っているように見えた。

 

「…可愛い女守る為に、何人もの男が囲ってた冒険者チーム思い出すな…あの女抱いた時はやばかったな」

 

そんなまだチーム組んでなかった頃の死にかけた事を思い出しつつ、ぼんやりとその少女のほうを眺めていたのだが、ふとその少女が此方を見た。

すると、少女は顔を真っ赤にし、恥ずかしそうにその騎士の一人の後ろにパウロから身を隠すように移動した。

瞬間、その騎士達が一斉ににパウロを見て、次いでその視線が険しくなり、それぞれが剣に手をかけた。

 

「……おいおいおい…なんもしてねえって…」

 

過去を思い出す複数の男からの一方的な嫉妬と殺意に、両手を上げた。

ここで問題を起こす気はまったくなかったので、逃走も視野に入れてパウロは苦笑を浮かべる。

すると騎士の後ろに隠れていた少女は、その騎士の脇腹をつつく。

騎士は体を気持ち悪くぐねぐねさせながらも、少女に向き直り、何やら耳打ちを受けていた。

耳打ちが終わると、その騎士は他の騎士に抑えるように指示し、パウロへと近付いてくる。

 

「……ミコ様が数年前に貴方に救われた事があるので、礼を言いたいそうだ。何もせず大人しくこっちへこい」

 

「…ミコ様?数年前……ああ!まだ俺がミリシオンにいた頃怪しげな奴等に襲われてた子か?大きく、可愛くなったな」

 

パウロが思い出すのはルーディアと決別した後の事だ。

あの頃は少し離れたどころにはぐれ竜が出たからと、その対応に中堅ベテランがかなり少なくなっていて、森のゴブリン等の討伐が少し滞っていた。

それをパウロが受け、無謀にも森に一人でいた少年を連れて間引いていた時、戦闘が起こっている事に気付き、鎧姿の騎士と少女を怪しい奴等を切り捨てて助けていたのだ。

そう言ったパウロの元に、ミコ様、と呼ばれていた少女は顔を赤くしたまま、ゆっくりと駆け寄ってきた。

20代前後の可愛らしい、少しふっくらした少女だ。

 

「覚えていてくれて嬉しいです。ずっとお礼を言いたくて…あの時は助けてくれてありがとうございました」

 

嬉しそうに顔を綻ばせる少女は、そう言って頭を下げた。

同時に騎士達がそんな健気な少女に目元を綻ばせ、同時にパウロに殺気を向けてくる。

 

「ああ、気にすんな。大人として当然の事をしただけだからな」

 

パウロは笑って答えた。

本当なら頭の一つでも撫でてやりたいもんだが、周りの奴らがその次の瞬間剣を抜き放つのが容易く想像出来る為に、自重する事にした。

と、そこでもう一人同じような意匠の鎧の女性が近付いてきている事に気付く。

殺気立つ男達には目もくれず、その女のほうに目を向けるとパウロは一瞬驚いた。

その容姿がゼニスに似ていたからだ。

そしてすぐに思い至る、目の前の少女を助けた時、一人だけ生き残っていた女騎士。

 

「テレーズ…か?ゼニスの妹の」

 

「む、パウロ……さんか?本家のほうにゼニスを連れて来ていたとは聞いていたが、何故此処に?」

 

「いや、ちょいと神子様?とやらにゼニスを見て貰うって話になっててな、ただまぁかなり重要な人物らしいから調整とかで時間かかるって事でちょいとぷらぷらしてたんだ」

 

「「えっ」」

 

少女とテレーズがほぼ同時に呆けたような声を出した。

それに首を傾げるパウロに対し、テレーズは少女のほうを示し、口を開く。

 

「そちらにいらっしゃるのがミリス神聖国の神子様だ」

 

「うぇっ!?」

 

驚くパウロに対し、神子は目をキラキラとさせてパウロに詰め寄る。

 

「パウロ、というのですね。パウロ様、ゼニス様とは奥様のお名前でしょうか?確か十数日後にそのような名前のお方を見る予定が入ってました!お礼代わりに、連れてきて頂ければ、今にでも!」

 

「神子様、それは」

 

「っと、待て待て。そういうのはダメだ。国の重要人物なんだろ?自分を軽々しく使うのはやめとけ。俺も一応アスラの騎士って立場だからな。それをすると、ミリスがアスラを優遇する形になっちまう」

 

「でも、私はただ個人的に恩返しがしたくて…」

 

「本人同士がそう思ってても、他の奴等がどう思うかって話だ。それで国同士の関係がグダグタになるのは望んじゃいねぇだろ?」

 

「……はい…」

 

残念そうに俯く神子の頭に、パウロは思わず手をのせ、優しく撫でた。

 

「良い子だ。気持ちは嬉しかったぜ、ありがとな。」

 

耳まで真っ赤にして恥ずかしそうに、けれど何処か嬉しそうに神子はパウロを見上げる。

そして、周囲の男達からの殺気が膨れ上がったのを感じて、パウロは冷や汗を一筋かく。

救いを求めてテレーズを見るも、感心したように、パウロを値踏みするように見つめるだけで、男達の殺気に気付いていないようだ。

更には男達が「殺す?」「殺すか?」「殺そう」等と口だけ動かしているのに気付き、パウロは神子の頭から手を離し、この場から去る事を決めた。

 

「…さて、そんじゃ俺はそろそろ行くぜ。ゼニスの事見る時よろしく頼むぜ神子様」

 

「あっ……」

 

(残念そうな声をあげんなよ…また奴等の殺気が高まってやがる…)

 

内心毒づきながらも、パウロはそのまま踵を返して去っていく。

その背中に、神子は思わず言葉をかけた。

 

「あのっ、私数日に一度こうやって中庭で、少しだけ自由時間があるんです…あの、次は三日後で、その…」

 

段々と尻すぼみになっていく声に、いじらしい姿に、何故かまだ膨らむ殺気に、パウロはどうしろって言うんだよ、と内心嘆いた。

とはいえ女の子を悲しませるのは本意ではない。

パウロは少し振り返ると、頷く。

 

「ああ、次はちょっと話でもすっか。またな」

 

そうしてにっと笑うパウロに、神子様は嬉しそうに目をキラキラさせ、何度も頷いていた。

その様子を取り巻き達が穏やかな表情で眺めている間に、パウロはその場から立ち去っていった。

ラトレイア家への帰路につき、短時間で溜まってしまった気疲れから、ため息を吐いた。

 

「…ま、神子様が良い子そうなのは良かったな」

 

パウロは自分を納得させるようにそう呟いた。

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