『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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パウロの怒り

パウロは神子との約束を守り、数日後にゼニスとリーリャを連れて中庭へと来ていた。

護衛の殺気立っている男達には極力意識を向けず、パウロは神子と話しながら、中庭をゼニス達と共に楽しんでいた。

テレーズからは事前に「神子様は人と目を合わせる事で力を使う事が出来る」と教えて貰っていた。

その為に、ゼニスを連れてきてはいるものの、先日の言葉通り見て貰うような事はせず、同じベンチに座り、景色を眺めながら話をしていた。

当然背後の男達はパウロに殺気を向けていたが。

冒険者時代の話、結婚してからの話、転移事件からの話。

振り返って見ると恥の多い人生だと思いつつ、性的ではないクズエピソードを交え、けれど自分でも楽しかったような体験を語るパウロ。

神子としては自分を救ってくれたヒーローのような存在であった為に、過去のやらかしや、妻を複数迎えている事等、純粋な彼女としては眉を歪ませ、多少失望してしまう話も多々あった。

助けられてから十年近くの時間が経っていた為、理想が一人歩きしてしまっていた事もある。

けれどそれを苦笑しながらも隠さず話すパウロへの好感度は、話が進むに連れてむしろ上がっていった。

悩み、けれど進み続けたパウロは、妻を複数持っていようと、ミリス教徒から見てそう悪い印象ではないのだろう。

実際話をともに聞いていた騎士達の半数程はパウロへの認識を改め、中には騎士として尊敬の念を持つ者もいた。

テレーズもその一人で、神子と共に命を救われた事もあり、その好感度は高かった。

騎士としても、そして異性としても。

彼が独身だったらなぁ、と詮無き事と思いつつ、久し振りのゼニスとの対面に顔を綻ばせていた。

ゼニスはラトレイア家で話してから、たまに言葉を話せるようになっていた。

今もテレーズの名前を言葉にし、笑みを浮かべてその頭を撫でている。

テレーズも嬉しそうに自分の話をし、姉妹として交流していた。

やがて騎士の一人が時間だ、と伝えるまでその穏やかな交流は続き、神子だけではなく、騎士の一部も不満を示す程に打ち解けた面々。

 

「また、お話しましょう!次は…」

 

と次の自由時間を告げて去っていく神子達に、頷きながら別れを告げる。

皆笑みを浮かべた穏やかな時間。

 

「…また来るか?」

 

それに笑みを浮かべたゼニスは肯定し、パウロの首筋に顔を擦り付ける。

ゼニスのその頭を優しく撫でつつ、リーリャも抱き寄せて頭を軽く撫でた。

 

「そうだな、良い子達だったな…」

 

両手に花の状態で道行くミリス教徒達の視線は痛かったが、そのまま暫し中庭を眺めながら三人の時間を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして観光や、ゼニスの健診、神子達との交流を繰り返していたある日の事。

ゼニスを神子様に見て貰う当日の事。

クレアはゼニスとリーリャを連れて手続きをする為に本部内の別室へと向かって行った。

先日神子は「午前の自由時間の後、漸くゼニス様を見る事が出来ますね!」と語っていた為、手持ち無沙汰であるしと、ゼニス達を見送ったパウロは中庭へと向かった。

そして中庭へと辿り着いた時、パウロは違和感を感じた。

数人の人の気配がするものの姿は見えず、肌がピリピリとする。

戦意と緊張の気配。

それを感じつつも、パウロはあえてずかずかと中庭に歩を進めた。

そして、いつものベンチに腰を下ろし、悠々と脚を組んだ。

本来ならばこれから暫くすれば神子が護衛達を連れてやってくるのだが…そうはならないようだ。

足元にうっすらと青白い光が走り、それが魔法陣を描く。

 

「……結界か」

 

足元の小石を適当な所へと蹴りつければ、何もない所で壁に当たったかのように跳ね返り、地面にポトリと落ちた。

理由はよくわからないが、位置といいタイミングといい、自分を狙ったものらしい。

 

「パウロさん」

 

そこで声がかけられる。

声のしたほうを向けば、バツの悪そうな顔をしたテレーズと、無表情の神子の七人の騎士達が此方を見据えていた。

 

「散れ」

 

テレーズのその言葉とともにテレーズも含め騎士達は兜を被ると、素早く魔法陣の外、パウロを周りを取り囲んだ。

それを見ても、パウロはベンチに腰掛け脚を組んだまま…周囲をぐるりと見回し、首を捻った。

 

「…貴方に神子様を誘拐、または害する容疑がかけられている」

 

「おぉ?なんだなんだ、突然の犯罪者扱いか…結構仲良くなれたと思ってたんだかな?」

 

そんなおどけたようなパウロの言葉に、取り囲む騎士達が次々と言葉を紡ぐ。

 

「……それは私達の台詞だ」

 

「貴方は奥方の記憶を覗かれる事を恐れ、神子様がそれが出来ないようにするつもりだ、との信用出来る筋からのタレコミがあった」

 

「その為に、油断させる為に神子様に近付き仲良くなった」

 

「僕達としても残念だ」

 

「ですが安心してください、命までは取りません…」

 

「神子様を狙った事は許しがたい罪だか、寛大にも『術奪い』の刑で許してやるそうだ、感謝したまえ」

 

「……どうか大人しく捕らわれてください」

 

それらの言葉にパウロは一先ず現状を理解した。

何故かわからないが、神子の誘拐だか暗殺だかの容疑がかけられているようだ。

所々に本意ではない、という雰囲気を感じつつも、騎士達は覚悟を持って剣を抜いて構えていた。

誰がなんの目的で自分を嵌めたのか、パウロには見当もつかなかった。

 

「『術奪い』…ねぇ。このまま大人しく捕らわれたら、俺は何されんだ?」

 

「…両手を切り落とし、結界を編み込んだ布で封印し、その上から土魔術で固めさせる。魔術師ならば魔術も使えないようになる。そういう刑罰だ」

 

テレーズのその答えに、パウロはハッと笑う。

 

「そーかい。それされちまったら俺は二度と妻達を抱けなくなっちまうな…………やれやれ、聞く耳持ってなさそうだし、どうすっかな…」

 

ベンチに背を預けて天を仰ぐパウロに、周囲の騎士達がそれぞれ剣を握り直す。

兜の隙間から見える騎士達の目は例外なく覚悟を決めていて、どうあってもパウロを捕らえるという気概に満ちていた。

そんな騎士達の様子に肩をすくめながら、パウロは懐を探り、手の平で包める程の石を取り出す。

それに警戒を高める騎士達を尻目に、パウロは石を上に放り投げた。

 

「いいぜお前ら、神子様を守ろうと本気で、感情を殺して。騎士として満点だと思うぜ。これからも頑張れよ」

 

その石がコツンと不可視の結界の壁に当たり、地面へと、魔法陣へと落下する。

 

「さて、喧嘩すっか」

 

魔法陣へとその石が触れた瞬間、高い音が響いたかと思えば、結界魔法陣は跡形もなく消え去っていた。

こういう事もあるかと持参していた吸魔石だ。

ひょいっとベンチから立ち上がったパウロは、腰に差したショートソード…オルステッドから借り受けた魔剣『指折』を抜き放つ。

 

「ははっ、腕や足の二、三本は覚悟しとけよ」

 

歯を剥き、にぃと獰猛な笑みを浮かべ、パウロは剣を構える。

けれどその瞳は一切感情を含んでおらず、その視線の先にいた騎士が小さく身震いした。

凄惨な笑みを浮かべたパウロは、同時凄まじいスピードでテレーズへと一足飛びに接近した。

一瞬で目と鼻の先に現れたパウロの姿に、テレーズが目を見開く。

 

「……は」

 

「隊長!」

 

反応出来なかったテレーズに代わり、すぐ近くに構えていた騎士の一人が受けにまわる。

構えから熟練の水神流と判断したパウロは、そのまま剣を振り下ろした。

 

「『りゅ―」

 

「『朧十文字』」

 

振り下ろした剣を返そうとした騎士に対し、指折をわざと上空へと弾かせ、腰のもう一つの剣を抜き放ち、膝から下を両断した。

そのままパウロは目を見開き崩れ落ちる騎士をテレーズへと蹴り飛ばし、背後に迫る炎を避ける。

そのまま倒れ込むテレーズを尻目に、続いて迫る氷魔術。

それを、

 

「『流』」

 

そのまま弾き返した。

近くの騎士がマジックシールドでそれをどうにかそれを受け流したのを視界に納めつつ、駆け寄ってくる騎士に向き直る。

剣を構え、騎士が二人時間差でくるのに対し、パウロは迎撃を選ぶ。

先頭の騎士は剣神流のようで、全力を込めた無音の太刀か、光の太刀を放とうとしていたようだった。

しかし、振り始める直前に一歩踏み出したパウロに、

 

「『光返し』」

 

その手首を切り裂かれ、剣が地面に落ちた。

しかし、そこでパウロは剣を振り切り、体制が崩れている筈。

続いて接近していた騎士がそこに剣を振るう。

その剣がパウロの体に当たると思ったその直前。

パウロの空いていた手に、弾かれていた剣がすぽり、と収まった。

 

「『光の太刀』」

 

次の瞬間、当たる直前だった剣を持つ両手が、両肘を切り裂かれて宙を舞っていた。

だが、と腕を切り裂かれた二人は即座に身を屈めた。

二人が稼いだ時間で残った四人は、上級魔術を詠唱していたのだ。

二人も巻き込まれるかもしれないが、お互いに覚悟の上であった。

パウロはそれに対して、身を低くし、短剣を腰に納め、指折を斜め下にゆったりと構える。

そして、小さく呟いた。

 

「『剥奪剣界』」

 

同時に、凄まじいプレッシャーがパウロから放たれ、四つもの上級魔術はあっという間に切り裂かれて霧散してしまう。

動揺して追撃を放とうと魔力を集めた腕は切り飛ばされ、駆け出そうとした足が切り飛ばされ。

どうにか起き上がったテレーズは、即座に首の後ろを強かに峰打ちされて意識を一瞬で飛ばされた。

その凄まじい剣技に、特に水聖であった騎士が目を見開き、完全に動きを止めていた。

 

「そ、そんなバカな…」

 

それぞれ体の何処かを切り飛ばされたものの、騎士達、神殿騎士団最強の集団、『聖墳墓の守り人』は皆意識があった。

悔しさに身を振るわせながらも、戦闘の続行は皆難しい状態で。

あっという間に全員無力化された事に愕然とし、彼らは皆ガクリ

と肩を落とした。

全員が戦意喪失したのを確認したパウロは姿勢を起こし、指折を鞘に戻した。

 

「そのままじゃ血が出すぎちまうからな、治癒くらい使えるだろ?止血くらいしとけ。こちとら殺したい訳じゃねぇからな」

 

パウロのその言葉に、騎士達は皆強い敗北感を感じた。

悔しそうに顔を歪めるが、言われた通りこのままでは死んでしまう。

故に騎士同士で止血のみを行う。

手も足も出ない完全な敗北に、それぞれが悔しそうに歯を食い縛っていた。

そして、そんな場でパウロは元のベンチへと腰掛け、はぁ、と息を吐き出した。

 

「面倒な事になりそうだな…」

 

中庭にぞろぞろと現れだした人々…神子にクレアとゼニスとリーリャに、鎧姿の人達。

それらを軽く見渡したパウロは、それぞれがざわざわしだしたのを見て、もう一度息を大きく吐き出した。




ミリシオン編三話くらいで終わらせるつもりだったのに終わらんかった
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