『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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沢山のここすきありがとうございます。


パウロと目覚め

「これは…!パウロさん、一体何があったのですか…!?」

 

「あー、クレアさん…わりぃな、ちょっと頭にきて暴れちまった…」

 

疲れたように苦笑を浮かべるパウロに呆れ、眉を吊り上げて声を荒げようとしたクレアの肩に、ゼニスの手がそっと乗せられた。

驚き振り返ったクレアにゼニスは微笑みを浮かべ、その様子に毒気が抜かれたクレアは自分を落ち着かせるように息を吐き出した

そして、姿勢を正して改めてパウロに向き直り、口を開いた。

 

「…何があったのか、一から説明なさい」

 

「あぁ、実はな…」

 

その周りでは白い鎧の騎士達に次々と運び出されるパウロが切り捨てた騎士達と、それを心配そうに、気絶してるテレーズの傍らで泣きそうな顔で見守る神子。

そしてその白い鎧の中でも立派な鎧を纏った騎士が、パウロのほうをじろりと見つめていた。

よく見れば騎士達は皆パウロを警戒しているようで、出口はしっかりと固められていた。

ベンチに深く腰掛けている事から包囲こそしていないが、パウロに動きがあれば即座に動けるように意識しているようだった。

それに気付きながらも、パウロは平然とクレアに説明を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……事情は、わかりました。軽率であったと言わざるを得ません。今この本部には私も、カーライルもいました。例え捕らわれたとして、貴方に術奪いが執行されるまで時間もあったでしょう。貴方の姿が見えなければ見つかるまで探しましたよ」

 

「うっ…そう、だよな…すまん、クレアさん」

 

頭をかき気まずそうにするパウロに、クレアは冷徹な表情で続ける。

 

「貴方はその軽率さを反省してくれれば良いです。ですが…貴方が謂れ無き罪の容疑をかけられた事…これはラトレイア家の名誉に関わる問題です。一応の確認ですが、神子様を誘拐または害そう等とは考えてもおりませんよね?」

 

「そりゃ勿論だ。なんでゼニスを治療する手掛かりかもしれない人を、わざわざ傷つけんだよ」

 

「……わかりました。では我がラトレイア家の客人を、私達の娘の夫を侮辱した事、徹底的に抗議させて頂きましょう。誰が指示したのかわかりませんが…ご安心下さい、貴方は私達ラトレイア家が責任を持って守りましょう」

 

クレアの表情は鋭く、自分を睨んでいる訳でもないのにパウロの背筋に寒気が走った。

溢れる怒気に、リーリャが思わず一歩後退りしていた。

 

「こ、心強いぜ…」

 

そう呟いたパウロに小さく会釈をすると、クレアは背筋を伸ばしながら豪華な白い鎧を纏った騎士達のほうへと歩き出した。

パウロはそれを見送り、額に滲んだ冷や汗を拭った。

少し離れた所で、白い騎士達や目を覚ましたテレーズに淡々と話すクレアに、恐ろしさと頼もしさを感じる。

そんなパウロの横にゼニスが座り、その頭を優しく撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い鎧の騎士達は聖堂騎士団で、枢機卿から要請があって中庭にきていたとの事だった。

「神子を殺害し、国に損害を出そうと目論んだ者の亡骸を引き取れ」との要請だったようだ。

来てみれば神子の護衛の聖墳墓の守り人が打ち倒されていたので緊急事態と思い、直ぐに下手人と思われる剣士、パウロの確保を考えた。

けれどなんとも奇妙な話で、倒れている聖墳墓の守り人達からそれを止められていた。

そのどうにもチグハグな状態に首を傾げていると、ラトレイア家からの抗議まで入り、軽く話を聞けば冤罪だと主張している。

目を覚ました聖墳墓の守り人のリーダーも叱咤されて縮こまり、気まずそうにしている為に、状況のわからない聖堂騎士団としてはそれ以上、干渉する事は出来なかった。

結局その後、教皇、枢機卿、聖堂騎士団、それに加えてラトレイア家からカーライルとクレア、そして当事者である聖墳墓の守り人とパウロ、ゼニス、リーリャ、更に神子まで連れ、用意した部屋での話し合いとなった。

こちらの主導はクレアが名乗りをあげた。

パウロはほぼ黙って頷いたり否定したり、たまに補足したりするだけで、ほとんどクレアが話をしていた。

端から聞いていたパウロの認識としては、ミリス教団の権力争い、それに巻き込まれてしまった形になっているようだった。

現在ミリスは魔族排斥派が優勢だが、神子が亡き者になればそれな容易く引っくり返される。

故に排斥派は神子周辺の情報収集は非常に手早く行われていた。

そんな中、パウロの過去の悪行を把握すると同時に、神子を害そうとしている、という通報があり、枢機卿が焦って指示を出していた…らしい。

しかし枢機卿は、前回の魔族襲撃の功労者であるし、念の為の拘束の指示しかしていない、何処かで伝達がズレた、と言い張っていた。

責任の所在と詳細をのらりくらりとした態度で、有耶無耶にしようとしているの雰囲気がが見て取れた。

そのグダグダと続く話し合いに業を煮やしたパウロは、途中で口を挟んだ。

 

「俺もかなり暴れしたし…それでおあいこって事でもいいぜ?」

 

パウロは現在アスラの騎士で、ラトレイア家の庇護下にいて、ついでに『龍神』との繋がりがあり、更には神殿騎士団最強の集団を歯牙にもかけない強さがある。

そんな存在のその提案は、ミリス教団としても渡りに船だった。

一も二もなく飛び付き、ミリス教団からの謝罪でパウロの冤罪事件は決着する事となった。

パウロが求めるのは謝罪と、パウロがこの本部の中庭で起こした暴力沙汰を不問とする事。

勝手な提案と行動にクレアが渋い顔して、後にパウロを叱責する姿があった。

実際この形ではラトレイア家が客人を守れなかったという事実はそのままの為、ラトレイア家としては面子に泥を塗られたままとなる。

クレアは意気揚々と証文にサインをする枢機卿と教皇の姿に歯噛みしていた。

兎も角、主犯も、パウロを通報したという信用出来る筋の情報とやらもわからず、モヤモヤが残る結果となってしまった。

 

「……もしかして俺やっちまったか…?」

 

「そうですね、軽率だと言ったばかりでしょう…?」

 

その言葉にも怒気を感じ、パウロは気まずそうに頬をかいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クレアの怒りは置いておき、元々の予定通り、神子にゼニスを見てもらう事となった。

本来神子には他に予定があり、時間が限られていたものの、今回の謝罪の一環としてか、かなりの時間を許されていた。

案内された部屋には神子とその護衛の七人の騎士とテレーズ。

見てもらうゼニスと、カーライルとクレア、パウロ、リーリャ。

 

「まず始めに…私には過去を見る力はありますが、治すような力はありません。そこはあまり期待しないでください」

 

それは最初から言われていた事だった。

だかそれでも何かのきっかけになるかもしれないと、頼んだ形なのだ。

 

「構わない、頼むぜ神子様」

 

そう言って笑うパウロに笑みを返し、神子はゼニスと向かい合うように椅子に座る。

 

「では、始めます」

 

虚空を見つめるゼニスの頭を騎士の一人が抑え、その瞳を開かせる。

それに神子が顔を近付け、その瞳を覗き込んだ。

やがて、二人の瞳を光が繋ぐ。

その神秘的な光景に、部屋の人々が小さくざわめく。

護衛の騎士達がほぅ、とため息を吐く音が聞こえる。

神子が能力を使う光景等そう見れる物ではないのだろう、カーライルやクレアもその光景に祈りを捧げるように胸の前で手を組んだ。

そしてパウロとリーリャは、その様子を固唾を飲んで見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神子が小さく息を漏らした事で、ゼニスの頭を抑えていた騎士がそれをやめ、神子の肩を支えるように触れた。

小さく震えている神子は、目を見開いたまま立ち上がり、パウロへと視線を向けた。

 

「パウロ・グレイラット…ゼニス・グレイラットの記憶を見ました」

 

「……ああ、どうだった?」

 

何処か神々しい雰囲気の神子に、佇まいを正したパウロは続きを促す。

 

「彼女は…転移事件が起こるまで、ノルンとアイシャを育てながら村の治療院を手伝う日々を送っていましたね?」

 

「ああ、そうだ」

 

「彼女の記憶は、離れた所で家庭教師をしていたという娘…ルーディアを心配した所で真っ白に染まり、一度途切れます」

 

「…転移事件の時、か」

 

「恐らく。そしてその後しばらく、彼女の記憶は真っ黒な視界に閉ざされます…長い時間、夢を見ずに寝ていた時のような時間が流れます…」

 

「……となるとやっぱゼニスは、いきなり迷宮の奥に囚われてずっとそのままだったのか…辛かったろうな」

 

そう呟き、ゼニスを見据えるパウロの脳裏に違和感が過ぎる。

いきなり、迷宮の奥に…?

 

「彼女はそこから夢を見ます。ぬいぐるみになったかのような感覚で過ごしていく、そんな幸せな夢を」

 

俯くパウロに構わず、神子は言葉を続ける。

それは優しい穏やかな日々の夢。

 

「見知らぬ家で、リーリャとひなたぼっこをして、庭の手入れをして…時折遊びにくる娘達を可愛がって…皆良い子に育って嬉しいわ」

 

神子の口調はまるでゼニスのように変化を始める。

 

「やっと会えたルディがひどい姿になっていた時は本当に悲しかったけれど…フィッツ君と結婚して子供も出来て幸せになってくれて本当に良かった。でもパウロに似なくていい所ばかり似て、ロキシー君にエリオット君に、どんどんお婿さん。増やしていったの…パウロもパウロでギレーヌまで妻に迎えちゃうし、信じられない!もう!…でもギレーヌからパウロを取っちゃった引け目もあって許しちゃったけど、これ以上は本当に許さないからね」

 

違う意味でざわめき、パウロを見る視線が厳しくなるが、本人は神子の話に集中して見ていないふりをした。

 

「ルディの子供達も皆良い子達ばかりなの。アルスはもう立派なお兄ちゃんしてて、いつも魔術に剣術に頑張ってて…私がもう少し気を抜いてもいいのよ?と声をかけても家族を守る為だからとずっと頑張ってるの。すごいわよね。ルーシーは少し困ったちゃんね。よく皆に悪戯をしてるの。今日は誰に何をしたって嬉しそうにわざわざ報告に来るから対応に困っちゃうわ。本当は叱らないといけないのに、ダメなおばあちゃんね。ララはパウロに似ちゃったのか、すごくおっぱいが好きな子なの。よく私のおっぱいに抱きついてくるの。でも一番私に懐いてくれてるから困っちゃうわね。最近はよくララを胸に抱いてお話しながら、ひなたぼっこするのよ。レオも一緒に。好奇心旺盛だから、色んな話をねだられて、大変だけといつも楽しいわ。ジークはまだ産まれたばかりでまだまだよくわからないけれど、ペルギウス様に名前をいただいた子だから、きっと立派になるわ。ジーク・サラディン・グレイラット…良い名前よね」

 

パウロやリーリャの知る景色とは少しズレたゼニスの記憶に、パウロは思わず涙を流す。

ゼニスのその記憶が、虚ろな瞳に映る歪んだ優しい光景な事に気付いて。

 

「ギレーヌが三つ子を産んだ時は本当にビックリしたわ。シャロン、シャルル、シャーレ。みーんな可愛いの。シャロンとシャルルはもう四つ足で色んな所に飛んでいくからお世話が大変!でも気付けばリーリャが苦もなく確保して寝かせちゃってて、頭が下がるわね。シャーレだけは大人しい子だけどすぐ泣いちゃうの。でも私があやしてあげると直ぐに泣き止むのよ。ちょっと二人に自慢しちゃったのは二人に悪かったかしらね…」

 

「そんな事、ありませんよ奥様…」

 

涙を流しながらリーリャは呟く。

やがて話は続き、起きた物事を語り始める。

その時系列がシャリーアを旅立ちミリスに旅立つ事を決めた時。

ルーディアに挨拶をする時に、異変は起きた。

 

「あ、いや、ダメ、ルディ!」

 

「……?」

 

「それ以上はダメよ、お願い、誰かルディを止めて!」

 

様子のおかしい神子に、騎士達が神子の元へと歩みだす。

 

「なんだ、どうしたって…」

 

怪訝な顔をして同じようにパウロが近付いた時だった。

 

「ルディ!ダメェ!」

 

その叫び声は、神子の口からではなく、ゼニスの口から発せられた。

驚き固まるパウロを余所に、座ったまま俯いて叫んだゼニスは、バッと顔をあげた。

焦点のあった瞳で、機敏な動きで立ち上がると、パウロに振り返る。

 

「ぜ、ゼニス…!?目がさめ」

 

「ルディは何処!?」

 

歓喜に震えるパウロに対して、ゼニスはその身に掴みかかりながら、険しい表情を浮かべた。

周囲は突然の出来事に驚き、動きを止めてしまっていた。

それに面食らい、焦りながらパウロは答える。

 

「な、ル、ルディか?シャリーアにいる筈だぞ…ど、どうしたっていうんだ?」

 

「っ……!ルディ、なんでなの!私はあのままでも充分幸せだった!貴方が、貴方がこれ以上苦しむ必要なんて…!」

 

パウロに掴みかかったまま、眉を寄せたゼニスはポロポロと涙を流す。

襟首を握り締められて、パウロが少しだけ苦しそうに顔を歪める。

 

「ゼニス、何があったってんだ?ルディに何が起きてんだよ?」

 

そのパウロの言葉に、ゼニスではなく、くたりと椅子にもたれかかっていた神子が答えた。

 

「パウロ様…ゼニス様は神子です……先天的か後天的かはわかりません…けれど、夢を見ている間、ゼニス様は人の思考を読む力を持っていました…その力は、少しずつ…何処かへ流れていたのです」

 

ゼニスが神子だという衝撃の事実、思考を読むというとんでもない力。

それ以上に気になる流れているという言葉に、パウロは眉を寄せる。

 

「何処かに、流れて…?」

 

「引っ張られるように、違和感もなく。けれど、シャリーアでルーディア様と対面した時、ゼニス様は気付いたのです。自分を覆う夢のモヤ、それをルーディア様が吸い込み、モヤが彼女を覆い始めるのを…」

 

「……は……?」

 

呆然とした声を溢すパウロ。

ゼニスがボタボタと涙を流し、床に崩れ落ちた。

 

「ルディ…!」

 

「奥様!」

 

それをリーリャはすかさず駆け寄り、その震える肩に手を乗せる。

 

「……出来るだけ早く、ルーディア様の所へ向かって下さい…ルーディア様はきっと今頃……」

 

事態を把握してしまったクレアはゼニスが正気を取り戻した事を喜ぶより先に顔面蒼白になり、手で口元を抑えた。

その震える肩をカーライルが支え、顔を険しくした。

 

「……わかった、さっさと帰るぞ、シャリーアに……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パウロさん!大変ニャァア!サイレントがボスを連れて行方を眩ましたのニャァアア!!!」

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