『……わかりました、ナナホシ…いえシズカ。貴方が私を愛してくれるなら…私も、貴方を愛しましょう。愛していますシズカ』
「ありがとう…ルーディア。私は、幸せ者ね、こんな脅迫紛いの告白を受け入れて貰えるんだから…」
『いいえ、いいんですシズカ…貴方は幸せになるべきなんです。一先ず、苦しいでしょう?解毒しますから…』
「うん……ありがとう……ねぇ、キスしていい?」
『もうしてるじゃないですか…む、物凄い血の味』
「えへへ、ごめんなさい……ねぇ、私のこれは病気、なの?」
『……ええ、ドライン病というらしいです。その昔、魔力を持たず産まれてきた人間が体内に魔力を溜めてしまい、その結果発症する病です』
「…という事はあのお茶は」
『ええ、魔力を排出する効能があります。オルステッド様が栽培していると言っていましたから、後でアルマンフィにでも取ってきて貰いましょう』
「…そうね…」
『ただ、落ち着いて聞いてください。ドライン病は、完治しません…例えるならば前の世界のエイズのようなものです。溜め込んでしまった魔力が肉体を変異…恐らく免疫を低下させるのでしょう。この世界の人間が魔力に耐性をつけた事で根絶した病なので…有効な治療法も、オルステッド様ですらソーカスの葉しか知りません 』
「そう…なのね…いえ、大丈夫、むしろオルステッドが毎回真剣に渡してくる事の納得がいったわ」
『…ごめんなさい、黙っていて』
「ううん、そういう病気なら遅かれ早かれ、私は発症してただろうから…あのお茶を飲み続ける事だけが、発症しない可能性だったのね」
『…そうですね』
「でも飲み続けて、もし病気になっても治していけば、致命的な病にでもかからない限り…貴方といられるでしょう?今は…それでいいわ」
『シズカ……』
「それに、私姿変わらないじゃない?老いないし…生理も来ない。多分だけど、外的要因じゃないと死なないのよ今の私。どうせ貴方はあっちには帰らないんでしょ?ならこっちで貴方と生きてから考えるのも有りだと思うわ」
『シズカ…手つきがえっちいですよ…』
「折角結ばれたのよ、こんなエロい身体触らないでなんていられないわよ」
『ひゃっ、もう、えっちい子ですね…』
「んふふ、何処触っても柔らかいし、いい匂いするし…幸せよ私」
『よしよし…シズカ、幸せになりましょうね、一緒に…』
「ええ…」
ベッドの上、ナナホシはルーディアと指を絡め、そのまま折り重なるように、その身を重ねた。
唇が重なり、部屋に水音が響き出す。
ナナホシは恍惚とした表情で、ルーディアの身体に自らの身体をすり寄せた。
「二人きりで…ね」
ナナホシは、どろりと濁った瞳でルーディアを見つめた。
翌朝、ナナホシとルーディア、そしてルーディアの護衛をしていたアレクの姿は空中要塞になかった。
無人となったナナホシの部屋には、転移の後に残る魔力残滓が漂っていた。
ザザーン
波の音で目が覚め、その違和感に意識を覚醒させた。
目を覚まして初めに目に入ったのは見知らぬ木製の天井。
体を起こして周りを見渡すと、そこは見知らぬ部屋で、寝ていた所もシズカと共に眠った柔らかな大きいベッドではなく、硬い木製のシングルベッドだった。
体は寝る前のまま裸で、肌触りの良い布がその身を包んでいる。
ベッドの脇には寝る前に着ていた服が畳まれて置いてあり、傍らに義手と義足が置かれていた。
一先ず動きまわれるように、ベッドに横に座って義手と義足を取り付ける。
その間も部屋を見回す物の、見覚えはない。
『……ここは、何処なんでしょうか』
部屋は木製のログハウスのような内装で、少し古い感じがする。
匂いを嗅いでみれば少しすえた匂いが鼻につき、あまり日常的に人が使ってる感じではなさそう。
立ち上がりながら服を着て、二つある開け放たれている木製の窓から外を覗き込んでみる。
するとそこから見えたのは白い砂浜に、見渡す限りの大海原…太陽の光でキラキラと光る海と波打ち際には白波。
『わあ……綺麗』
その昔、何度か海は見たことがある。
けれどここまで余計な物がまったくない景色は初めてだった。
思わず感嘆の息を吐いて見とれてしまう。
真上から照り付ける日差しが心地好い…。
『……あれ、太陽真上……?昼間……?』
夜に眠った筈なのに、と不思議に思いつつも周りを見渡していると、砂浜との境目に人が座っているのが見えた。
身を乗り出して周りをよく見てみると、この建物はやはり木製のログハウスのようで、砂浜が一望出来る陸地、鬱蒼と繁る森の少し手前に建てられているのがわかった。
森、原っぱ、砂浜と続いている地面で、原っぱと砂浜の境目、そこに長髪の黒髪の少女が膝を抱えて海を見つめているようだった。
『シズカ!』
私はその窓からそのまま身を乗り出し、窓の外側の縁を指で掴んでそのまま一回転し、地面へと降り立った。
ベキリと音がしたけど気にしない。
そのまま草を踏み締めてシズカの所へと駆け寄る。
足音に気付いたのかシズカはゆっくりと振り向き、にこりと笑みを浮かべて私を迎えてくれた。
「おはよう、ルーディア」
『おはようございます…あの、ここは』
「綺麗でしょ?ここは魔大陸とミリス大陸の間にある群島の、とある無人島よ。時々…といっても百年に一度くらいらしいけど、誰かがバカンスにくる島らしいわ。今は誰もいないし、猛獣もいないらしい…一応アレクサンダーさんが島を見回りに行ってるわ」
『え、アレクもここにいるんですか?』
「ええ、私が貴方だけこの無人島に連れてくるつもりだったのに、無理矢理一緒に入り込んできたの。貴方と二人きりになるつもりだったのに…」
口を尖らせるシズカに、私は少し対応に悩んでしまう。
シズカが精神的に限界で、正しい判断が出来てないのを考慮しても、正直少し不愉快。
少し身勝手過ぎる…とは思うけれど、シズカの目元に刻まれた深い隈を見ると、言葉に詰まってしまう。
眠ってる私に睡眠が深くなるマジックアイテムを使ったみたいだし、使った転移魔法陣も一方通行で使い捨て…用意周到な計画的犯行。
ただ…。
「…長くても一ヶ月くらいでいいの、二人きり…ではないけれど、何もかも忘れて一緒に過ごしてくれないかしら…?」
膝に顔を乗せながら恐る恐る此方を見るシズカに、私は肩を落とした。
シズカの気持ちはわかった。
既に私は夫が三人もいて、しかもそれぞれが幼少期から交流があった。
けれどシズカと本格的に交流を始めたのは魔法大学に入学してから。
その過ごした時間の差はどうしようもない事だけれど、だからこそ一時的に自分だけのものになって欲しい…シズカはそう思ってる。
そこまで思ってしまったのなら、仕方ないかな…。
ふぅ、と息を吐き出し、シズカの隣に隣に正座をして、シズカの肩を掴み自分のほうに体を横たえさせた。
「……ん」
膝に頭を乗せてやり、その頭を優しく撫でる。
私はどうもこの子を見捨てられない。
膝枕に心地好さそうに目を細めるシズカの顔を覗き込む。
『……わかりました。一週間で良ければ』
「も、もうちょっと、せめて三週間…」
『…ジークの事も心配なんです、二週間で我慢してください。機会があればこういう時間も設けますから…』
「……わかった…ありがとう…帰還用の魔法陣、ちゃんと用意するから」
観念したのか、ゆっくりと目を瞑るシズカの頬を優しく撫でる。
穏やかに呼吸を繰り返すシズカを感じながら、指通りの良い髪をすく。
波の音と、気持ちのいい潮風。
穏やかな時間が過ぎていく。
帰るのは二週間後……か。
それまで、保って欲しいな。
「ねぇルーディア…本当は、本当はね?私、ヒトガミに少し唆されてたの。帰還が失敗する理由は貴方なんだって…貴方がいなくなれば帰れるって言われてたの」
『……そう』
「でも、貴方を殺すなんて考えられなかった。だって、貴方の事がこんなに好きなんだもの。今膝枕されて穏やかな雰囲気なのに、貴方の匂いがするだけでドキドキが止まらないの。眠れる気がしない」
『……どさくさに紛れて私のお尻揉んでるからだよ』
もにもにというより、わしわしと私の尻を掴む手に苦言を呟く。
「えへへ、そこに貴方のお尻があるから…それでね、昨日も言ったけど、もしも本当に私が帰れない原因が貴方なら…それこそ貴方と生ききった後に考えればいいと思ってね…」
『もしも途中で何かあって、それこそひどい病気にかかってしまったら、どうするの?』
「その時はその時よ。少なくとも私は貴方を喪ってまで帰りたいとは思ってないの。帰りたいのは本当だけれど…貴方と生きていきたいのも本当。それでいいの…」
悲しげな顔と声色で言われた言葉に、私はそれ以上何も言えなかった。
『……そう。わかった、ごめん、もう言わない』
「ん…」
太陽が傾き色がほんのり変わる頃まで、私達はそのまま、ただ海を眺めて過ごしていた。
ゼニスが正気を取り戻した時より、二週間前の話。
活動報告にルーディアというキャラの成り立ちみたいなものを書き捨てました