これ短編か…?となったので。
フィットア領は消滅していた。
色んなものがあったはずの場所は草原となっており、長閑さが逆に残酷であった。
ルーディアは仮面を半分ずらし、エリオットと用意された部屋で二人で並んで座っている。
オルステッドとの遭遇は謎の指輪を貰ったという気味悪い結果で終わり、一先ずはルーディアが持っておく事になった。
勿論ルイジェルドとエリオットは捨てるようにと言ったのだが、気絶した後の話を聞いたルーディアは、疑いが拭えた訳ではないが一応一度は何処かで話を聞く、と言い切り、旅を続ける三人。
そしてフィットア領難民キャンプ前でのルイジェルドとの涙の別れ。
これが今生の別れではないと信じ、お互いのこれからの健闘を祈って別れた。
難民キャンプでのギレーヌとの再会という嬉しい事もあったが、それを塗り潰すひどい現状に二人は打ちのめされていた。
既に凄まじい数の犠牲者が出ている事、何よりサウロス、フィリップ、ヒルダの三人が亡くなった…つまり、エリオットは一人っきりになってしまった事。
「正直覚悟はしてた。そういう可能性もあるな、というよりはそう思ってたほうが逆に楽だったんだ。だってもし生きてたなら死んでたって思ってたほうが嬉しいだろ?」
『…エリオットは強いですね。私は家族がほとんど無事だったのに、母様がもしも…と考えただけで辛いです…』
「強くねぇよ、辛くない訳じゃねぇし…」
エリオットは見た目落ち着いているが、内心今にも泣き出しそうだった。
もうあの温もりを感じられないと思うと涙が出そうになる。
そうしないのは単に、自分の隣で手を握ってくれるルーディアに意地をはっているだけ。
『それでこれから、どうするつもりなんですか?』
「どうする、か…」
執事のアルフォンスからはフィットア領復興の為に婿入りするだの嫁を貰うだの、ひいてはルーディアを差し出すだの思わず殴りそうになる案がいくつか出ていた。
ギレーヌからは兎に角幸せになれと、ルーディアと結ばれ復興に尽力するもよし、難しいと思うならばルーディアを連れて逃げればいいと、エリオットを尊重したいという気持ちが溢れでていた。
『…私はどうなってもいいですよ、何も知らない貴族に嫁ぐのは嫌ですが、エリオットと一緒なら、何処へでも』
「ん…ありがとう」
ピタリと体を寄せて言われ、エリオットは小さく息を吐き出す。
「もし復興成し遂げたらお祖父様は喜んでくれるかな?」
『子供が変に気を回すな!とぶん殴ってきそうですけどね、サウロス様なら』
そうやって殴り飛ばされる自分がありありと想像出来たのか、エリオットは笑ってしまった。
「ははっ、確かに言いそうだ。けど多分それはお祖父様を理由にするな、っていう意味だろ?もし俺が本当にフィットア領を復興するって自分の意思で決めたなら、お祖父様は本気で褒めてくれたと思う」
『…ええ、サウロス様なら、きっと』
立派になったなエリオット!
そんな幻聴が聞こえた気がして、エリオットの眼から涙が一筋流れる。
ルーディアは黙ってエリオットの肩に頭を乗せ、握る手を強めた。
暫しの沈黙が流れる部屋、月明かりが照らす中、二人は不意に見詰めあう。
小さいほうの影がゆっくりと顔を近付かせていく途中、一回り大きな影がその動きを止めた。
ルーディアの両肩を掴み、自分から突き離す。
『エリオット…?』
「いや、ルーディア、やっぱ駄目だ、このままじゃ俺はお前を守れない」
『オルステッドの時の事ですか?一度立ち上がれたのは、私がオルステッドに攻撃を受けていなかったからだと言ったじゃないですか。それに相手は龍神ですよ?あの場に誰がいてもどうにもなりませんでしたよ』
「違う、違うんだよルーディア、俺は無意識にお前に甘えてるんだ。ルーディアは強い、俺が怪我しても治してくれるし、サポートも出来る。けど俺は違う、ルーディアより少し剣が速く振れるだけだ」
『それでいいじゃないですか、エリオットが前衛で私がサポート、そういう形にしつつエリオットは自分自身の力を高めていけば』
「それじゃ駄目なんだよ…もし俺が何か失敗しても、ルーディアなら必ずカバーしてくれる、そんな甘えた考えじゃ俺は強さを極められない」
『じゃあ…どうするの?』
「修行する。なんとなく俺は追い込まれないといけない気がするんだ。どうするかはまだ決められてないけど…まずは剣神流の門戸を正式に叩いてみようと思う」
『それだと…剣の聖地に?』
「そうする事になると思う」
『私も着いていきたい』
「いや、ルーディアは待ってて欲しいんだ」
『なんで…』
「俺が、甘えちゃうから…なぁ、頼むよルーディア、俺はお前を守れる男になりたいんだ。いつかオルステッドみたいな奴がルーディアを狙ってきた時に守りきれるように」
『…わかった』
そう頷いたルーディアは手を離して立ち上がると、ローブをしゅるりと脱いだ。
中から現れる扇情的なネグリジェ姿に、思わずエリオットは噴き出す。
「ルーディア!?」
『なら体で繋ぎ止める…15歳おめでとうエリオット、お祝いに私をあげる』
そう言ってネグリジェの肩紐さえ外すルーディア。
「いやいやいや!ルーディアはまだ13歳だろ!一旦落ち着いて」
そう言って狼狽えるエリオットに対して、ルーディアはふわりと抱きついて耳元で囁いた。
『ボレアスの男ならこんな感じで言えばイチコロさ』フィリップ様の声が聞こえたような気がする。
『エリオットとの子犬が欲しいわん』
脳と心臓にクリティカルを食らったエリオットは正に獣だった。
『一人にしないで…』
朝、隣に誰もいないベッドに横たわりながら、ルーディアは目覚めた。
涙を溢れさせながら小さく声が響いた。
『……嘘つき…』