『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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言及する感想こそこないものの引かれてる気がする。
大丈夫かなこの展開。


フィッツの怒り

ドン!

 

「ふざけるなよ、ナナホシ!」

 

白髪のクォーターエルフ、フィッツは胸ぐらを掴み壁に押し付けた。

壁に強かに背中を打ち付けた黒髪の少女、ナナホシは苦しそうにしながらも、その自分を見る険しい瞳に、気まずそうに視線を反らした。

 

「……ごめん、なさい……」

 

フィッツは奥歯を噛みしめ、憎しみの籠った目でナナホシを睨み付ける。

ギリギリと、胸ぐらを掴む右手が強く握り締められる。

 

「お前がルディを好きになるのは自由だよ、そうなるかもしれないなんて話してた事もあるし、ルディが受け入れるなら僕達は何も言う気はなかった!でも、これはなんなんだよ!お前ルディに何した!」

 

「し、してない、何もしてない!私は、私はただ、ルーディアと少しだけでいいから、二人で過ごしたくて…!」

 

目の端に涙を浮かべながら言うナナホシに、フィッツは更に顔を険しくさせる。

 

「それで…通る訳ないだろ!なんでルディが、ゼニスさんみたいになってんだよ!」

 

そのままナナホシを壁に押し付け、苛立ちのまま力を込め続ける。

ナナホシは自分を締め付ける腕に、両手で掴みかかるものの、ビクともしない。

 

「っ…ホントに、知らなっいっ……ぁっ……」

 

顔を歪めるナナホシは苦しそうに声を漏らす。

 

「ルディは隠してたみたいだけど、転移事件もお前が関係してたんだって…?何回僕達を苦しめれば気が済むんだよおまえぇえ!」

 

苦しそうに顔を歪ませていたナナホシはその言葉に目を見開く。

そして、何かを諦めたように目を閉じて、抵抗をやめてだらりと両腕を垂らす。

目に溜まっていた涙がつたい、頬を濡らした。

その全てを受け入れるとでも言いたげな仕草に、フィッツは眉を寄せる。

けれど、フィッツの激情は収まらない。

左手をナナホシへと向ける。

 

「っ……!罰は受けるってか…!?そんなに殺されたいなら、望み通り…!」

 

フィッツの左手に風が渦巻き始める。

その風でナナホシの髪が揺れ、閉じた瞼がピクリと震えるものの、抵抗を見せない。

そんな姿が逆にフィッツの苛立ちを加速させた。

奥歯をギリ、と鳴らしたフィッツは本当に風魔術を放とうと風を収束し始めた。

その時。

 

どたん!

 

「母様!」

 

何か重い物が落ちるような音とともに、アルスの焦った声が響いた。

フィッツは反射的に音のしたほうを見てしまう。

そしてその手の魔術を霧散させてしまった。

 

「……ルディ…」

 

「……」

 

ルーディアは言葉を発しない、首のチョーカーも何も発しない。

目はフィッツのほうを向いていても、何処か焦点は合わず、虚ろ。

それでも何かを伝えたいのか、口だけがパクパクと動きベッドから床に倒れ込みながら、右手をフィッツへと向けていた。

うごうごと右足だけで動こうとするその姿に、フィッツは思わずナナホシの胸ぐらを掴む手すら離し、涙を流した。

 

「ゲホッ、ゴホッゴホ…」

 

ナナホシはその場に崩れ落ちながら、苦しそうに咳き込む。

ルーディアの傍にしゃがみこんだアルスは、その身を支えようと手を伸ばす。

ベッドの上で先程まで悲しげな顔でくっついていたルーシーは、その瞳をフィッツへと向けていた。

ただ黙って自分を悲しげな瞳で見る愛娘の姿に、フィッツの怒りも霧散してしまっていた。

 

「っ……!僕は…」

 

「…許してあげて、ってママは言ってるよ、白パパ…」

 

ララはロキシー譲りのジト目をフィッツに向けながら呟いた。

ララにはテレパシーのような力が産まれた時からある、という自覚があった。

恐らくミグルド族の血が色濃く出たのだろう。

 

「ララ…!ルディの言う事がわかるのですか?」

 

ロキシーは驚きながらララに問いかける。

 

「うん、青パパ。ママは…ずっと謝ってるよ」

 

廃人となっていたお祖母ちゃんの時折浮かべる言葉はわかったし、自分のママは力を使って伝えれば、自分のして欲しい事をわかってくれた事から、自分はそれにあまり疑問を持つ事はなかった。

ただ、ママもお祖母ちゃんもいない時、口を動かして音にしないと他の人には伝わらないという事がわかり、驚くと共にそれを学習していた。

つまり、ママの言葉は自分以外、誰にも届かない。

だからこそ、その言葉を口にして皆に伝えてあげる。

『私が悪い』『誰も悪くない』『だから許してあげて』

全部は伝えないけれど。

自分の言葉を聞いて難しい顔をして俯く白パパ。

ずっと謝ってばかりのママに、お兄ちゃんに抱えられてベッドの上に戻されたママに体をすり寄せる。

同じようにママに体を寄せるお姉ちゃんが、震えて涙を流すのを見て、自分もママの体に顔を埋めた。

 

「……そっか…」

 

フィッツはそう呟くと、ナナホシを泣きそうな顔で見つめた。

 

「ごめん。ナナホシ…八つ当たりだった」

 

それにナナホシは首を振る。

 

「いいえ…ルーディアを連れ出した事は、明らかに私が悪いもの…こんな事になるなんて、思わなかったけれど…」

 

「…きっと誰にもわからなかったよ、多分、ルディだけはわかってたんだと思うけど。原因はわからない…だよね?」

 

「ええ…ペルギウス様に聞いて、見てもらっても…原因不明。本当にゼニス様みたいな状態だ、って」

 

ベッドに座っているルーディアは、グズりだしたジークを器用に右手だけで抱える。

揺すってあやしながらも、左肩がもぞもぞと動く。

 

「あ、母様、授乳?少し待ってて」

 

それでも何も起きず、不思議そうに首を傾げるルーディアに、アルスがその背中側から左手を回した。

そして、ルーディアの胸元を器用にはだけさせる。

するとそれを確認したのか、ルーディアはそのままジークに授乳を始めた。

ルーディアはああやって、まるで四肢があるように振る舞う。

義手義足があると思っているのか…はたまた腕と脚を喪わなかった世界を見ているのか。

どちらにせよその様子は痛ましく、フィッツもナナホシも、その様子に顔を歪めた。

そんな時だった。

 

「ルディ!ここか!?」

 

部屋の扉が勢いよく開き、フィッツの義父であるパウロが飛び込んできた。

それに目を一瞬丸くしたフィッツは、直ぐに気まずそうに顔を俯かせた。

パウロは部屋を見回し、ルーディアが授乳している事と…瞳が虚ろな事を確認して顔をしかめた。

 

「やっぱ……そうなのかよ、くそ…」

 

悪態をついたパウロは、ルーディアから視線を外すと、フィッツに体を向けて歩み寄る。

それと同時に、もう一人扉から人が飛び込んできた。

 

「はぁっ、はぁっ!ルディ!」

 

額に汗を浮かばせながら息を荒げた妙齢の金髪の女性。

その姿にフィッツとロキシーは驚愕に目を見開き固まった。

それは、つい数週間前、ミリスに旅立つ時も廃人のままだったゼニスの、正気を取り戻した姿だった。

 

「やっぱり、ルディ…」

 

丁度授乳を終えたのか、これまた器用にジークを片手で抱えながら背中を叩くルーディアの露出したままの胸を、アルスが直す。

そんな光景を見たゼニスはゆっくりとルーディアの座るベッドへと近付いていく。

 

「ただいま、ルディ。アルス、ルーシー、ララ、ジーク……」

 

虚ろな瞳で此方を見上げる愛娘に、ゼニスはほろりと涙を流す。

少し驚いたように此方を見上げるルーディアの子供達、自分の孫達。

そしてルーディアは、首を傾げて、少しだけ頬を吊り上げたように見えた。

ルーディアは、満足そうに口をもにゅもにゅさせているジークを傍らに寝かせる。

ゼニスは涙を溢しながら、無理矢理笑みをつくった。

 

「ルディ、おはよう…貴方のおかげで、私、目を覚ませたわ…ありがとうね」

 

ルーディアの顔を手のひらで包み込むように沿える。

親指でルーディアの火傷痕をなぞり、目の傷をなぞり、その苦労を思ってまた涙が流れた。

 

「こんな、こんなに苦労したのに…なんで私の為に…貴方はもう、貴方だけの幸せだけ求めてれば良かったのに…」

 

ゼニスは顔を歪め、肩を震わせる。

もう、耐えきれなかった。

愛娘が自分の身代わりになって今、苦しんでいる。

今も謝り続けているルーディアの頭を抱え込む。

 

「変な所で頑固で…バカなんだから…そんな所パウロに似なくていいのよ……うっ、ううぅう……!」

 

泣き出したゼニスはルーディアの顔を胸に押し付け、抱き締める。

そんなゼニスに抵抗する事なく、けれど殊更に反応する事もなく、大人しく抱き締められていた。




バッドエンドに少し票が入ってる…。
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