「つまり…ルディには、呪いを吸収する力があるって事…なんですか…?」
「恐らく、だがな。ゼニス自身はそう感じていたらしい。ミリスの神子様曰く、ゼニスは神子、祝福を受けて特殊な力を得た存在になってるらしい。まぁ、祝福だなんて言ってはいるが、呪いも祝福も本質はほとんど同じらしいけどな。待てよ?だったらエリナリーゼも神子って事になるのか?」
パウロは途中で腕を組んで首を捻った。
ま、それは置いといて、と呟き、言葉を続ける。
「兎に角、ゼニスは迷宮から解放された後、ルディからずっと何かを吸われているような気がしていたらしい。んで、ゼニスのその特殊な神子としての力は、心を読むこと…なんとなく合点が行くだろ?元々優しくて賢くて気配り上手な子だったが、察しが良すぎる時、あっただろ?」
「それは、確かに……」
「ありましたね……」
フィッツとロキシーは顔を合わせて頷きあう。
思い当たる節は沢山あった。
赤ん坊の世話が完璧だったり、ペット達とまるで意志疎通出来てるように会話していたり、夜の時に自分の一番良い所を…。
二人とも同時にその事に思い至ったのか顔を見合わせたまま赤くする二人に、パウロが怪訝な顔となる。
「なにお前ら男同士で見つめあって顔赤らめてんだ…」
「「なんでもないです!」」
「ルディの様子を見る限り、ほとんどゼニスさんと同じような状態なんだ。だけど逆に言えば呪いをどうにか出来ればゼニスさんのように正気を取り戻す事が出来るかもしれないから…お願い、出来ないかな?」
フィッツはルーディアを連れて、クリフの家を訪ねた。
ルーディアは今、義手も義足も使えなく、昔の義足を使うのも不安な為に、移動は全て誰かが抱えて行わなければならない。
軽いので苦にはならないが、移動方法は少し考えなければならないだろう。
「…成る程、理には適ってるな。ただ、保証はしない。未だに呪いの緩和しか出来ていない身だからな、あまり期待しないでくれ。一先ず、リーゼと同じ物を用意するから、それを着けておいて欲しい」
「ありがとう。でも、お祖母ちゃんと同じで大丈夫なのかな、呪いと一口に言ってもそれぞれ違うみたいだし…」
フィッツは心配そうに呟くも、クリフはそれに不思議そうに首を傾げた。
「……?ルーディアが呪いを吸収する力を持つなら、ゼニスさんより関わりが長いのはリーゼだ。ルーディアがリーゼの呪いを吸収してる可能性は充分にある。確証を得るためにあえて着けず、体調の変化を見守るのもまぁ…悪くはないが、そこは任せる。ザノバの怪力を吸収してる可能性もあるか…色々と気を回す必要があるな。もしもルーディアを見て恐怖なんかを感じるのかならば、オルステッドの呪いを吸収してる可能性も…」
「え、あ。そっか…そういう可能性もあるのか…ありがとう、クリフ。もっとルディの為に考えないと…」
クリフのその発言に、フィッツは虚を突かれたような気分だった。
フィッツ自身では、ただゼニスの身代わりになったというだけの考えしかなかった。
他の呪いも吸収してるかも、なんて考えもしていなかった。
そして、そこまで一瞬で冷静に想定出来るクリフを、改めて尊敬し、相談して良かった、と小さく頷いた。
「ああ、ルーディア…なんでこの子にばかり、こんな試練が訪れるのでしょう…神様はいつも残酷ですわ…」
「リーゼ。そろそろ一度ルーディアを診させてくれ…」
エリナリーゼはずっと虚ろな瞳のルーディアを抱き締めながら、はらはらと涙を流していた。
そんなエリナリーゼに少しだけ呆れながら、クリフが苦言を呈す。
まだまだ考えなければいけない事が沢山あると、フィッツは覚悟を新たにした。
「……なに?前の時はそんな様子、微塵も…」
オルステッドは難しい顔をして俯く。
そんな様子を気にする事なく、パウロは口を開いた。
「そうかい、あんたも知らなかったか…とりあえず、ルディは完全に戦力外になっちまった。あんたは、どうすんだ?」
質問の意図が掴めず、オルステッドは顔をあげつつも、疑問を呈した。
「……どう、とは」
「元々俺達の関係は、ルディがお前に従う代わりに、お前が家族を守るっていうルディとの契約だろ?ルディがああなっちまっても、その契約を続けるのかって事だよ」
それに面食らい、オルステッドは暫し考える。
それは確かにそうだが…今は…内心オルステッドは呟く。
答えはすぐに出て、パウロを見つめて答えた。
「……続けるとも。ルーディアを含めた家族を守る。そして方針も変わらん。ラプラスの産まれる場所が確定出来ない今、協力者を増やしてラプラス復活に備える…。ルーディアとの約束は果たそう、例え彼女が二度と元に戻らぬとしてもだ」
そのオルステッドの言葉に、パウロはへらりと笑う。
「それを聞いて安心したぜ。それなら俺達もあんたに安心して付いていける。…さて、そんなら二つ、あんたに報告がある」
パウロは懐から手紙なようなものを二つ程取り出す。
それぞれ手に持ちひらひらと振るのを見て、オルステッドは眉を寄せながらも適当に右側を指し示した。
「お、そっちはミリスの神子様からのあんたへの手紙だ。あんたの配下になりたいんだってよ」
その手紙を受け取りつつ、オルステッドは内心納得していた。
ミリスの神子の運命は非常に弱い。
ほとんど30になる前に殺され、前回等10歳前後で暗殺されている。
話を聞けばパウロは龍神の名を出したようだし、ミリス神聖国自体がパウロ、延いてはアスラと龍神に借りを作ったような状態だろう。
そこで神子が龍神の庇護下に入ったとなれば…彼女の身はかなり保証される事だろう。
「ふむ…いいだろう。手紙は後で読んでおくが、前向きな返答を約束しよう。守護魔獣でも召喚させてみるか…それで運命の強化を…」
ブツブツと呟き出したオルステッドを気にせず、パウロはもう一つの手紙をヒラヒラとさせる。
その表情は先程のへらへらした顔ではなく、かなり神妙なものだった。
それに気付き、オルステッドは一つ咳払いし、その身を正した。
「……俺達の仲間、ギースがヒトガミの使徒だったらしい」
「なんだと!?バカな…!」
オルステッドは思わずテーブルに手を叩きつけながら立ち上がる。
珍しく狼狽するオルステッドの様子に、パウロは少し驚き目を瞬かせたつつ、言葉を続ける。
「……ゼニスの居場所が迷宮都市ラパンだと知れたのは、ロキシーの情報…キシリカとかいう奴の力だったが、そこからどこにいるのか、どの迷宮なのかってのはまったくわからなかった。それが転移迷宮だって確定出来たのは…ギースの情報からだった。ゼニスらしい姿を見た、ってな。だが、ミリスの神子様にゼニスの記憶を見てもらった時、ゼニスの記憶は転移事件の瞬間途切れた後、見知らぬ家…まぁ馬車なんだが、そこで目覚めた時から再開していて、その間はずっと真っ暗だったそうだ。だよな?」
パウロの隣ずっと黙って、オルステッドをじっと見つめていたゼニスが、コクリと頷く。
「…朧気ではあるけれど、ちゃんと全部覚えてるわ。迷宮のような所で目覚めて歩いたような記憶はないわね」
「だからギースに問い詰めるつもりだったんだ、丁度あいつミリシオンにいて少し行動を共にしてたからな…だが、あいつの姿は影も形もなく、手紙だけが残されてたって訳だ」
パウロはその手紙をオルステッドのほうに乱雑に放る。
その表情はなんとも言えない、様々な感情がない交ぜになった表情だった。
「……正直複雑だ、なぁ、あんた知らなかったのか?何度も繰り返しててギースの奴がヒトガミの使徒だったって」
「いや、疑った事はある。その際…殺した事も。だが奴は決して口を割らなかったし、そもそも俺がどんな動きをしようと動きを変えた事がなかった。故に使徒ではない…そう判断していた……」
殺した、という言葉にパウロとゼニスは複雑そうに顔を歪める。
これから敵対する相手とはいえ、仲間だった…いや、今も仲間だと思っているギースの死を感じさせる言葉はやはり少し不愉快だった。
「今までも、ずっと奴は使徒だった…という事か。勝てん訳だ…」
俯き拳を握るオルステッドを後目に、パウロは言葉を続ける。
「……それでその手紙の内容としては、まぁ…色々あるが、あれだな、いずれ戦力を整えて俺達『デッドエンド』を正面から叩き潰す…だとよ。一先ずギースはミリスと、リニアちゃんに頼んでドルディアを始めとした大森林で指名手配を頼んだが…どうせ捕まんねえだろうな」
諦めと少しの誇らしさを感じつつ、へらりと笑う。
ギースが逃げに徹して捕まるなど、微塵も思っていなかった。
「そうか…此方もあちらに戦力を取られぬように、動く必要があるな。アトーフェだけでも面倒だが、『不快の魔王』ケブラーカブラーなんかが敵に回れば更に面倒だ。せめて魔王達には中立を求めねばならんな。後は―」
「ビヘイリル王国には、行かないの?」
そのゼニスからの問い掛けに、オルステッドは言葉に詰まった。
じっとオルステッドを見つめるゼニスの瞳に、オルステッドは視線を反らしてしまう。
「貴方が本来優しい人なのはわかる。けれど、時間が経てば経つ程、苦しくなるだけよ…」
「む、う……」
戸惑うオルステッドはふと前の時のルーディアとのやり取りを思い出してしまう。
それを読み取ったゼニスは頬を膨らませた。
「……もう!前のルディにも失望されてるじゃないの!貴方が今まで経験してきた時間とは違うのでしょう?なら、もっとさらけ出してもいいと思うわよ」
腰に手を当ててオルステッドを指差すゼニス。
オルステッドはたじたじで、戸惑うように身を縮こませていた。
「なんだなんだ、なんの話だよゼニス?」
「ビヘイリル王国にあるスペルド族の村…そこが不治の疫病に犯されていて、あと数年もしたら壊滅してしまうのよ…ルイジェルドさんも一緒に……」
それにパウロは驚く。
なんでそんな事こいつ伝えてねえんだよ、とオルステッドのほうに顔を向けて、顔を歪める。
「……はぁ?アンタなぁ…そういうのは伝えとけよ!呆れるぜまったく…」
「…すまない」
夫婦の呆れたと言わんばかりの態度と自分を見る瞳に、オルステッドは気まずそうに小さく呟いた。