『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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短めの幕間として複数の話まとめてやるつもりだったけど、なんか色々長くなったので、暫く数話は情報整理という名の幕間です。


人々の営みと幕間の出来事
アレクサンダーの再会


それは戴冠式の後、アスラ王国とエンド傭兵団の警備の打ち合わせの時の事。

アレクは数人のエンド傭兵団員を連れて、その打ち合わせの為に城の会議室へと案内されていた。

 

「今日は噂によると、新たなアリエル様の騎士との顔合わせも兼ねてるそうですよ、どんな人なんでしょうねー」

 

連れてきた人員の一人、まだ若い、少年と言っていい年頃の男が少し浮かれた様子でアレクに話し掛ける。

少年はここ首都アルスの一般人であり、騎士に憧れを抱きつつも途中で挫折した、よくいる少年の一人である。

 

「そうですね…アリエル様が選んだ騎士ですから、まぁ間違いなく優秀な人でしょうね」

 

当たり障りのない言葉を返したが、少年の瞳はキラキラと輝く。

 

「楽しみですね!」

 

そう笑顔を浮かべる少年にアレクは笑みを返す。

その隣にいる壮年の男性が失礼のないようにな、と少年の額をつつく様子を眺めていれば、案内を請け負っていた騎士が足を止めた。

 

「此方です」

 

そのまま目の前の扉を開く騎士に軽く会釈をし、アレクは気持ちを切り替えた。

 

「行きますよ」

 

その言葉に付いてきていたエンド傭兵団員も表情を変える。

浮わついた雰囲気は誰一人おらず、真剣な表情となり、背筋を伸ばした。

 

「「「はい!」」」

 

息の合った返事を心地好く思いながら、アレクはその扉を通り、会議室へと足を踏み入れた。

そこでアレクは思いがけない再会を果たす事となった。

早速とばかりに数人が立ち上がった騎士達の内、一人が話し出す。

 

「エンド傭兵団の方々ですね、お噂は予々…アリエル様の新たな騎士となりました、シャンドル・フォン・グランドールと申します」

 

「初めまして。エンド傭兵団、アスラ支部支部長、アレクサンダー・カールマン・ライバックです」

 

新品の鎧に身を包んだ黒髪の男が此方へと頭を下げて挨拶してきたのに合わせ、アレクも頭を下げて自己紹介をし……顔を見合わせて固まった。

目の前の男に非常に見覚えがあり…アレクは少し戸惑う。

しかし今はエンド傭兵団とアスラの騎士としての対面。

出来る限り動揺を隠し、視線を反らしつつ、用意された席に着く。

そんなアレクに気付いてか、固まっていたシャンドルと名乗った黒髪の男も少し慌てたように席につく。

そこで、アレクの隣に座った少年がアレクに対して小声で話し掛けてきた。

 

「なんか騎士様と支部長少し似てますね」

 

その言葉が聞こえたのか、シャンドルがピクリと一瞬だけ肩を震わせた。

アレクはそれを出来るだけ気にしないようにし、ニコリと笑みを浮かべて言葉を返す。

 

「確かに、黒髪は珍しいですからね。でも初対面ですよ。彼方に失礼ですから、静かにしてくださいね」

 

「はーい」

 

小声で返すアレクに同じく返した少年は背筋を伸ばし、正面を向いて真面目な顔を作る。

アレクはちら、とシャンドルを見る。

どうやら動揺は収まってるようで、キリっとした顔で此方を見ていた。

その様子に胸を撫で下ろしつつ、アレクは口を開く。

 

「さて、では今後の警備計画ですが…」

 

一先ずは会議を終わらせるべく、話を進める。

後で話は聞きますからね…?

父さん…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場末の酒場のカウンター席に、黒髪をした二人の姿があった。

時間は既に日も落ち、周囲は冒険者や一般人が入り交じり、わいわいとした最も酒場が騒がしい、時間。

目の前に無造作に置かれたエールを二人は無言で打ち付け、ぐーっと一気に呷った。

 

「「っぷはー!」」

 

よく似た顔で息を吐き出す二人は、同時に空になったジョッキを掲げて口を開く。

 

「「おかわりお願いします!あと干し肉を!」」

 

まったく同時に口にした二人は顔をきょとりと見合わせると、破顔する。

直ぐに置かれた新たなジョッキを再度ぶつけ、今度は一口だけ飲み、その場に置く。

そして、笑みを浮かべたまま、アレクは目の前の男に対して口を開く。

 

「…正直噂をまったく聞かなかったので、死んだのではないかと思っていました、父さん」

 

「ああ、すみません。名を変えて旅をし、気ままに北神流を教えていましたから…今はアリエル様に感銘を受けて騎士となりました。むしろアレク君、君が噂の傭兵団の支部長でビックリしましたよ。君は英雄を求めて各地を彷徨っているものだと…」

 

アレクはその言葉に目の前に置かれた、塩っからい干し肉を齧りながら不服そうに返す。

 

「それはそうです、僕にとって英雄の父さんは憧れでしたから。突然全てを投げ出して姿を消した父さんの影を追いつつ、僕も英雄になろうと精進……はしてなかったかもしれませんが、自分なりに探し求めていたんですよ。ただまぁ…ちょっとした出来事がきっかけで思う事があり、今はこうやって支部長をやっています」

 

そのアレクの様子にシャンドル…いや、アレクの父親北神二世、アレックス・カールマン・ライバックはおや、とアレクの変化に驚いていた。

どうにも慢心や自惚れが感じられず、怒られると思っていたのにかなり穏やかだ。

そんな息子の成長に、アレックスは内心かなり喜んでいた。

 

「成る程…アレク君も色々と経験を積んだ、という訳ですか。喜ばしい事で……あれ?カジャクトは、今持ち歩いていないのですか?」

 

不意に気付いた、託した剣をアレクが持っていない事に、きょとんとした顔をして頭を捻った。

 

「ああ…それについては父さんに謝らなければいけませんね」

 

アレクは体ごとアレックスへと向けると深く頭を下げた。

なんだどうしたと困惑する間もなく、アレクは告げる。

 

「父さんに託された列強七位の座と王竜剣カジャクト…どちらも奪われてしまいました…申し訳ありません」

 

それにアレックスは目を丸くする。

奪われた事、それ自体は構わない。

だが単純に息子が負けた事、そしてそれを素直に認め謝罪した事に驚いていた。

相手の事は気になるものの、アレクのその成長が嬉しかった。

アレックスは非常に穏やかな気持ちだった。

時折聞く噂でアレクを少し心配していた所での思わぬ再会と、想像以上の成長に、心から喜びが涌き出ていた。

頭を下げたままのアレクの肩に優しく手を置き、笑みを浮かべてアレックスは口を開く。

 

「あれらはもう既に君にあげたもの、君の物です。気にする事はないですよ。それに…諦めてはいないのでしょう?君が真の意味で七大列強になると、心から信じているよ」

 

アレックスはアレクの腰にある木剣に目をやる。

壊れないように使い込まれたその剣に、アレクの今の心が映し出されているようだった。

 

「勿論です父さん。父さんから受け継いだ大切な物です…必ず取り返して見せますよ」

 

そう宣言するアレクの顔には強い覚悟があった。

アレックスはそれに嬉しそうに頷くと、微笑みながらエールを呷った。

アレクはその嬉しそうな父の様子に、知らず笑みを浮かべていた。

父が自分に様々なものを託して姿を消した時は憤った。

英雄、北神カールマン二世の影を追って、ただただ名声を求めて、いつの間にか英雄への憧れは、ならなければならないという義務感に変わっていた。

そんな父を、怨みすらしていたかも知れない父と再会した時、想像していた以上に穏やかな気分だった事に、自分で驚いていた。

再会した父は実力を鈍らせておらず、記憶の父の影を悠々に越えているように思えた。

とはいえ、今の自分で勝てるかはわからないが…カジャクトがあれば確実に勝てる。

けれどそれはカジャクトを所持していた、あの頃の自分でも変わらない…か。

そこまでアレクが思考した時、朧気ながら父がカジャクトを手放した理由が、なんとなく、心で理解出来た。

ほぼ同時に飲み干したエールのおかわりを頼もうとする父を止め、少し高い酒を二人分頼む。

運ばれてきたそれを掲げ、アレクは父に微笑む。

 

「僕はもっともっと強くなってみせますよ、父さん。再会に」

 

「ああ…誇らしいね。だが私もまだまだ若いもんには負けませんよ。再会に」

 

ジョッキを打ち付け、晴れやかな顔の二人はその酒を呷る。

二人は今まで会っていなかった時間を埋めるように、ゆっくりと話をし、穏やかな夜を過ごしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばアレク君、いい感じの人は見つかりましたか?」

 

「んっ…ぷはー。…そうですね、好きな人はいますよ」

 

「おお!どんなお方なので?」

 

「優しく、強く、可愛らしい人ですよ。彼女に相応しい人間になる為に鍛え直してる所もあります」

 

「あんなに色恋に興味のなかったアレク君が…ベタ惚れですかぁ」

 

「ええ、いずれ相応しい男になれたら告白して…玉砕する為に頑張っていますよ」

 

「……え?」

 

「彼女、人妻ですから」

 

「えぇえええ?略奪愛はダメだよアレク君!」

 

「だから玉砕する為に頑張ってると言ってるじゃないですか」

 

「ええ?それなら……いいんでしょうか……?」

 

「彼女が幸せであるならいいんです。僕は彼女の幸せを守る。守り続けます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……守り続けます、か」

 

「情けない、情けないですよ僕自身が」

 

「あんなに近くにいたのに、彼女の異変に気付けず、みすみす彼女も、周りも傷付けて…」

 

「確かに、魔術も呪いも、何もかにも専門外な僕に出来た事なんてなかったかもしれません」

 

「でも…何か出来たんじゃないかって、ずっと頭の片隅に残ってるんです」

 

「……悔しいなぁ……強くなってる手応えを感じているのに、本当に守りたいものが守れない……」

 

「……くそっ」

 

「……せめて、これ以上は、彼女を傷つけさせません。させてなるものですか…!」

 

「今度こそ、守り抜きます。彼女を、彼女の守りたいものを!」




シャンドル「この棒なら、自分が強くなっていくのを実感できる。そして成長を実感することで、人はさらに強くなる」
原作アレク「……意味がわからない」
本作アレク「わかります」(ボロボロの木剣を眺めながらしみじみ
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