誤用報告ありがうございます。逆でしたね。
それはルーディアがそう、なってしまってから一ヶ月程が過ぎた頃だった。
エリオットが剣の聖地から帰還した。
勿論ルーディアの現状について一晩中揉める事となった。
一晩明け、漸く落ち着いたエリオットを水風呂に放り込み、疲労を隠せないフィッツとロキシーは、やっと客人に向き直る事が出来た。
「えーっと、初めまして。フィッツ・グレイラットです。こっちはロキシー・M・グレイラット。妻のルーディアとはお知り合い、なんですよね?」
「ああ、初めまして。俺…は『剣神』ガル・ファリオンってもんだ。こっちは娘のニナと弟子のジノ・ブリッツ。ニナとは面識あるんだったか?」
ペコリと頭を下げた少女と少年に頭を下げ返し、フィッツとロキシーは少し緊張しながらその人を見る。
当代の『剣神』ガル・ファリオン。
意識的に圧は抑えているようだが、その身から溢れる強さに二人は少し緊張をしていた。
だが何よりも二人が緊張している理由は、そのガルの肩にそれぞれ乗っている存在がいるからだ。
「ニャー」
「ニャゥー」
尻尾をピンと立てながら、ガルの頬に頬擦りをする、ギレーヌの子供、シャロンとシャルルの姿があった。
朝訪ねてきた時から肩に乗る二人に、フィッツとロキシーは疲労もあってとても突っ込む事が出来なかった。
ただ、二人とも機嫌が良さそうではあるので、なんとなく大丈夫なんだろうな、とは感じていたのだった。
「しかし…ルーディアの嬢ちゃんがあんな事になるとはな…ニナも会うのを楽しみにしてたんだが、残念だ」
小さく俯くガルに合わせ、シャロンとシャルルもペコリと頭を下げる。
「ミャオ」
「ミー」
その様子に隣に座り、ほわほわとした笑みを浮かべたニナは堪らずガルに訴える。
「ねぇお父さん、そろそろその子達私にも抱かせてよ」
「こいつらが退く気がねぇだけだ。俺は別に乗せたくて乗せてる訳じゃねえよ」
それなら、とニナは大人しくガルの肩に乗るシャルルに手を伸ばす。
しかし。
「シャー!」
バシッ!
「なんでぇ?」
威嚇音とともにその手は叩き落とされた。
ニナは悲痛な声をあげ、悲しそうに眉を下げる。
そんなニナにジノがおろおろしている。
それらを気にせず、ガルは言葉を続けた。
「さて、エリオットは風呂だったか?あがったらちょっと連れてくぜ」
「ええと……何処に?」
恐る恐る問い掛けるフィッツに、ガルはああ、と気の抜けた返事をする。
「ちょっと…『龍神』に挑戦しに、な」
そう言って狂暴な笑みを浮かべたガルの圧力に、フィッツは思わず冷や汗を垂らした。
人気のない開けた広場。
いつも『デッドエンド』がいつも戦闘訓練を行っていた土地。
そこに今は一人、銀髪の男が佇んでいた。
いつもの服装に、最近常につけていた兜を外し、その凶悪そうな顔が露になった状態で、自然体で。
その状態で目を瞑り、何かを待つ様子のオルステッドに対し、ガルはそれを一度じろりと睨み付けた後、一度それに背を向けた。
後ろに控えるは自らが何度も指南した剣神流の剣王達。
ギレーヌ・デドルディア…いや、D・グレイラット。
肌の露出を抑えた今までを省みると考えられない服装で、真っ白い子、シャーレをその腕に抱いてガルを真剣な顔で見つめていた。
結婚したのも、子を産んだのも知ってはいたが、子を抱き母の顔をしているのをガルは新鮮に感じていた。
「ほれ、そろそろ母親んとこに行けチビ共。危ねえぞ」
「ニャ」
「ミャ」
シャロンとシャルルは最後にガルにすり、と頬擦りした後、ピョンと跳躍し、ギレーヌの両肩に飛び乗った。
それを困ったように笑いながらギレーヌは受け入れる。
改めてガルと視線を合わせたギレーヌは、ふっ、と柔らかく笑い、口を開く。
「師匠、皆で応援しているぞ。頑張れ」
「ハッ、ったく、随分と丸くなりやがって…」
悪態をつきながら、ガルは視線をギレーヌから反らす。
ここ数年、かなり目をかけた弟子…エリオット・グレイラットを見つめる。
「エリオット、お前にやった鳳雅龍剣、ちょっと貸してくれ」
エリオットは腰に帯びている、剣王昇格の時に渡されたその剣をに手をやる。
そして、む、と口をへの字にして腕を組み、顎を引いて足を肩幅に開いた。
「……アンタにはこの剣は合わなかったんじゃないのか?」
「まーな。だが俺様は天才だからな。一度はお前に託した打倒オルステッド…今一度俺様に返しちゃくんねぇか?」
それにエリオットは鼻を鳴らす。
鳳雅龍剣を鞘毎剣帯から外し、鞘を左手で抑え、右手で抜き放つ。
少しばかり反った薄刃を見つめ、ブン、ブンと軽く振るった。
それをそのまま鞘に納めた。
「ふん。別にアンタに託されてたつもりもないが…あいつに一矢報いる事、期待してる」
鞘の中程を掴み、ずい、とガルのほうに突き出す。
「ふん、誰に物言ってやがんだ。ったく、相変わらず生意気な奴だな」
それをしっかりとした手つきで受け取り、ガルは笑みを浮かべる。
その身に宿る狂気を理性で完全に覆い隠す事が出来る…誰よりも狂った男。
こいつなら、と思って託したものだが…それが間違い…とまでは言わないまでも、少し自分らしくない行動だった。
次に顔を向けた人物を師事していた時、ガルはそう感じていた。
「おう、ガルさん。頑張ってくれよ、今日の晩御飯のおかずがかかってるからな」
そいつがいる辺りにはシートがひかれ、その当人もメイド服姿の女性から手渡された茶を飲んで寛いでいる。
思わず飛び蹴りでも叩き込みたい気持ちになるものの、グッと我慢する。
そのシートにはそいつ、パウロ・グレイラットだけではなく、その妻のゼニスとリーリャ、その娘の虚ろな瞳のルーディア、その夫のロキシーと妹のアイシャ、更にはそのアイシャにもてなされているニナとジノの姿があったからだ。
ルーディアの近くにはその子供達も大人しく座っていて、ガルのほうを見つめているようだった。
いや、お前らは何してんだよ、とガルはニナとジノをじろりと睨み付けると、面白いくらいに体を跳ねさせていた。
「てめえパウロ~!何人の決闘の結果に賭けしてやがる!」
「ははっ、まぁいいじゃねーか。応援してるぜ?いっつもボコされてるからな、たまにはあいつの吠え面見たいからな!頑張ってくれよ!」
「ったく……」
調子の良い事を言うパウロに苦笑しながらも、ガルは意外な程穏やかだった。
パウロが聖地に来た時、その歳で上級剣士で、今更強くなろうとは、等と冷笑されていたが、パウロの実力と才能はそれらの声を一蹴した。
剣聖にパウロと打ち合える者はおらず、剣神流に限定しなければ剣帝達すら苦戦する始末。
流石にガルに勝てる程ではなかったものの、見取り稽古でメキメキと実力をつけていったパウロは、剣王達も打ちのめした。
そこでガルはパウロに剣王の称号と、『天剣』という名を与えたのだが、その時のガルは少し苛立っていた。
打倒オルステッドを任せたエリオットもオルステッドの元にいて、この才能に溢れたパウロも、戻ればオルステッドの元につくという。
「なんでてめえらは揃いも揃ってオルステッドに挑みにいかねぇ!」と苛立ち交じりに詰め寄った時、パウロはきょとんとした顔でガルを見返していた。
それに対してパウロは「そもそもガルさんは、なんでオルステッドの奴に挑みに行かねえんだ?」と逆に問い掛けて来たのだ。
そこでガルは自分が既に、オルステッドに勝つのを諦めてしまっていた事に気付かされてしまった。
眉を寄せるガルに対して、パウロはなんでもない事を言うように言葉を続けた。
「勝ちたいんだろ?居場所がわかってんだから、がっつり鍛えて、まずは一度挑んでみればいいんじゃねえか?俺はそうするぜ」
「挑んでみる、か」
それは不思議な程ガルの腑に落ちた。
勝ちたい、という欲を捨てたのはいつだったか、欲望が足りねえと見下してた奴等と同じように何処か諦めたように過ごし始めたのはいつからだったか。
強い者への挑戦、それをいつからか忘れてしまっていた事に気付き、剣神としての立場に囚われ、好きに振る舞えなくなっていた事に気落ちした。
歳の事もある。
だから心の何処かで勝手に諦めていたのだが…パウロの言葉はガルの心に火をつけた。
ガルはそこから自分自身を鍛え直した。
エリオットが聖地に着いた時、剣帝をボコボコにしていたガルの獣のような圧力は、思わずエリオットが狂気を解放する程のものだった。
その後、二人は笑みを浮かべ、ニナとジノが止めるまで思う存分に斬り合っていた。
獰猛な笑みを浮かべて踵を返したガルは、オルステッドを視界に捉える。
先程から微動だにしないオルステッドへと、数歩近付き、ガルは口を開く。
「よお、オルステッド。リベンジに来たぜ?」
「……ガル・ファリオン。闘う前に一つ聞く」
「あん?なんだ?」
「夢で何か御告げを貰った事はあるか?」
「そんなもんねぇよ」
「そうか……ならば良い。貴様の気が済むまで、相手をしてやろう」
そう言うオルステッドは自然体で、構えもしない。
しかしその身から発する圧は強まっていき、対面するガルの肌をビリビリと刺激した。
ガルは自分の愛剣『喉笛』と、エリオットの剣『鳳雅龍剣』をそれぞれ撫でる。
ふぅー、と息を吐き出し、険しい視線をオルステッドへと向けた。
固唾を飲んで後方で見守るニナとジノの後ろで足音がした。
目の前の光景から目を離せない二人は、意識だけは向けつつ視線はガルに固定されていた。
「ふう、間に合ったようですね」
「これを見逃す手はないでしょう。間に合って良かった」
「わぁ、本当にシャリーアに転移したんですね…」
「ガルの坊やの本気かい。一時も見逃すんじゃないよ」
ぞろぞろと現れた北神二世と三世、水神と水帝。
何故来たのか、どうやって来たのか、どうして来たのか、そんな疑問が頭に過るも、彼等もすぐに黙ってガルの背中を見つめて微動だにしなくなってしまった為に、タイミングを逃してしまう。
「さぁ、いつでも好きなようにかかってくるが―」
そんな挑発にも聞こえるようなオルステッドの宣言、その言葉が言い終わる前に、闘いは始まった。
オルステッドの右肩に向けて投擲された『鳳雅龍剣』が右手に弾かれ、左の手刀と瞬間的に近接したガルの『喉笛』が衝突し、火花を散らした。
地に落ちる剣に、エリオットが小さく舌打ちをしていた。
「ちっ!反応するよなぁ!」
「む…!」
オルステッドにとって予想外の攻撃、平然と対応自体はしているが、今までの今の時期のガル・ファリオンでは考えられない動きに、オルステッドは眉を寄せる。
「はっ、俺の全てをぶつけてやる!俺はガル!ただのガル・ファリオンだ!オルステッド、てめえに挑ませて貰うぜ!」
「いい闘いでした…さて、次は僕が」
「ズルいですよアレク君。私だって折角なら一手程…」
「わ、私の技術、通用するでしょうか…」
「胸を借りるつもりで行きな。ま、あたしもやるとするかね…」
「ニナ!ジノ!一緒に行くぞ!三人がかりであいつに吠え面かかせてやる!」
「そういうのアリなの!?」
「いや、悪くないと思う。行こうニナ」
「お、じゃあ俺も行ってくっかな!今度こそてめぇの闘気突破してやるよ!」
今言う事じゃないんですけど、正直もっとエグい話にするつもりだったんですよね。
でもなんか…書いてると愛着湧いて、かなりなぁなぁな展開になった気がしますね。
最終章ではかなりエグくかきたいですね。