『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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守護術師シルフィとナナシ

それは僕、フィッツの最終的な処遇を決める時の話し合いの時だったと思う。

なにか怖い顔で此方を見るおじさん達、第二王女守護騎士ルーク・ノトス・グレイラット、そして第二王女アリエル・アネモイ・アスラ。

そんな人達に囲まれながら、誰も彼もが行方不明で何もかもがわからないなか、その人は現れた。

 

―――――――

 

「こんにちはーただいま帰りましたよ」

 

重い場に合わないあまりにも朗らかな声に、全員の視線がその人物に向いた。

そこにいたのはローブを身に纏い、鼻までマフラーを巻いてフードを目深に被った完全な不審者だった。

背中に杖を背負う姿はまさに魔術師であり、声や体つきは大人の男のように見える。

 

「おまっ…今まで何処にいたんだ!」

 

途端にいつも静かなルークが声を荒げさせてその人に掴みかかった。

それにビクッと体を震わせるフィッツを尻目にルークは続ける。

 

「お前がいない間に庭園に魔物が現れて、デリックが死んだ!お前がいればどうにかなった事だろう!」

 

「ルーク君は久しぶりに会ったのに相変わらず当たりが強いですね、一応お暇いただきますとは伝えてありましたよね?その間に起きた事を僕に当たられても困りますよ」

 

「貴様っ!」

 

思わず拳を振り上げるルークだったが、アリエルの眼前だと思い直し震える拳をゆっくり下げた。

 

「賢明ですね、さて、それで、その子は誰でこれは何の集まりなんですか?」

 

ビシリと指差され体を震わせるフィッツ。

それに対してルーク、更には貴族連中が状況を説明する。

最後にアリエルが出来れば共にいて欲しい、としめた。

それに対しその男はパン、と手を叩く。

 

「成る程!それならそのままこの子を守護術師にしちゃいましょう!無詠唱魔術を使えるなんて心強いじゃないですか!将来有望!」

 

目をニコニコとさせながら言う男に、貴族は反論する。

それをうんうんと頷きながら聞き流し、フィッツの前にしゃがみこんだ。

顔はちゃんと見えないが愛想よく笑ってるように見えるし態度は柔らく、フィッツは不思議と安心感を覚えた。

 

「初めまして、アリエル様の護衛の一人の…本名は名乗れないのでナナシとでも呼んでください。魔術師やってます。教える事も教えられる事も色々あると思いますので宜しく…」

 

「聞いているのか!」

 

「五月蝿いなぁ、聞いてますよ、最終判断はアリエル様がする事でしょう?それの正誤はどうでもいいんです。それを間違いとしない為にどう動くかが僕達の、ひいては貴方達の仕事でしょう」

 

正しく聞こえる言葉であった。

確かにアリエルがそう、と決めた事であるならば問題が起こらないようにするのが我々の務めか、と思い直す。

そこから様々な話し合いがあり、紆余曲折あり、なんやかんやあり、アリエルが太鼓判を押し。

フィッツは守護術師シルフィとして女装する事となった。

 

「…なんで?」

 

見た目は確かに麗しく、女子に見えなくもないが、本人として自分は男子であるし、幼い頃からの想い人であるルーディアをいずれ嫁に貰うと本気で思っている為、気は進まなかった。

しかしそれ以外にここにいる方法はないとアリエルに鼻息荒く言われてしまえばどうしようもなかった。

おずおずと女物の服を着て照れるフィッツ改めてシルフィに、アリエルとナナシは親指を立てた。

 

「見目麗しい男の娘が女装で照れてるのは最高ですね」

 

「まったくもって同意します」

 

「…俺にはわからん世界です」

 

純粋な女好きのルークにはわからないようだ。

 

そしてフィッツは様々な事を学んだ、礼儀作法、剣術、魔術。

行方不明者の捜索こそ出来なかったが、魔術に関してはナナシは無詠唱魔術こそ使えないものの、かなり優れた魔術師であり、かなり身になった。

更に驚く事に剣も扱え、魔術師といえど護身程度に剣術は扱えるべき、と諭してくれた。

接する中では最も愛想よく、いつもニコニコと朗らかに話してくれるナナシに教えて貰える時間は、フィッツの中では気が休まる時間だった。

様々な事が起きる、アリエルのフィッツへの夜這い、撃退されてのマゾと友情の目覚め、アリエルとナナシの会瀬(SMプレイ)を覗き見てしまうフィッツ、基盤が揺らぎ始めた事による暗殺騒ぎ、どうにか撃退した代わりにフィッツ、シルフィの強さが広まってしまい、それによって迫る更なる脅威。

異国の地へ避難を決め、改めて友情を確かめあうアリエル、フィッツ、ルーク。

ナナシはそんな三人を微笑ましそうに見つめていた。

道中襲ってきた刺客を撃退し続けるアリエル一行ではあったが、あまりにも多い襲撃に護衛が一人また一人と倒れていく。

そんな最中赤竜の上顎で行われた大規模な襲撃で、ナナシが囮をかって出る。

大規模魔術で混乱に陥れ、どうにか敵を誘導する、その隙に、と。

嫌がるフィッツと力強く頷くルーク。

アリエルは真剣な表情でお願いします、とだけ言った。

既に辺りは前準備として雨が降りだしていた。

大嵐が発生し、風と雨が一行を覆い隠す。

 

「アリエル様をお願いします」

 

その後アスラ王国からの襲撃はなかった。

それがフィッツとナナシという男の関わりの全て。

自分の魔術の2人目の先生として慕っていた存在の最後は、フィッツに護衛としての生き様を示しているようだった。

やがて三人と残った護衛の二人は強い絆で結ばれ、目的地へとたどり着き、ラノア魔法大学に入学する。

ここで力をつけ、アスラの王へと返り咲く為に、何より犠牲になった者達に誇れるように。

アリエル達は進み続けていた。

 

「…そういえばナナシさんの素顔は結局見れなかったな」

 

ラノア魔法大学の図書室で、フィッツは女装の為に伸ばした白い髪を弄りながら、空を見上げてそう呟いた。

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