『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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なんか気付いたらアトーフェと対面したロキシーのセリフ完全に同じでした。
……まあいいか。


シャリーアを襲う黒い危機

「クククク…!お前とはシーローンで会った以来だな!おお、アレクも!久しいな!」

 

「お久しぶりです、お婆様……どうしてここに…?『泥沼』はビヘイリル王国にいる筈では…?」

 

いっそ朗らかに話し掛けてくるアトーフェに対し、アレクは警戒を解かず、慎重に話し掛ける。

まずは何を目的としているのか探る為に。

元々敵対している相手であるが、此方の拠点を問答無用で瓦礫へと変えたのだから、害意があるのは当然。

ロキシーは杖を構えたまま、緊張感を保ち固唾を飲んでその様子を見守った。

 

「む?ビヘイリル……?知らんな!オレはここでルーデウスの頼まれ事を果たすだけだ!」

 

「頼まれ事、ですか」

 

「そうだ、ところでそこのお前!」

 

アトーフェはアレクから突如ロキシーへと視線を移し、王竜剣の切っ先を向けた。

 

「はいっ!な、なんでしょうか?」

 

突然話し掛けられ、更には剣先も突き付けられ、ロキシーは驚きつつも言葉を返す。

 

「名前はなんだ?」

 

「は、え、と。ロキシー・M・グレイラットと申します陛下…」

 

恐る恐ると言った感じで返すロキシーに、アトーフェは眉を寄せた。

何か失礼があったかとビクビクとするロキシー。

アトーフェは一度瞑目すると、口をへの字にし、少しだけ上を向いた。

 

「そうか……」

 

アトーフェが小さく呟き、徐にコキリ、と首を鳴らした。

ロキシーは緊張の面持ちでそれを見つめ、たらりと垂れた汗が目に入ってしまう。

うっ、と不意の痛みに思わずギュと目を瞑ってしまう。

そして、目を開いた瞬間、目の前には振り下ろされる黄金色の刀身があった。

 

「え―」

 

遅れて気付き逃げようとするものの、地面に縫い付けられたようにピクリとも足が動かず、ロキシーの脳裏を幼少期のルーディアの笑顔が過った。

同時にロキシーの目に映る景色が一気に横に延びた。

 

「ぐぇっ」

 

ぐん、と首に負荷がかかった事で無様な悲鳴を残しながらも、どうにか真っ二つになる事を避けられたロキシー。

アレクに抱き抱えられる形で死地から脱したロキシーは、自分のいた場所がアトーフェの振り下ろした大剣によって抉れている事を目視して、背筋に氷柱が入ったような寒気が走る。

ブワリと嫌な汗が滲み、真っ青な顔で、それを成したアトーフェに視線を向ける。

アレクはロキシーを背中に隠すようにアトーフェとの間に立ちはだかり、改めて剣を構える。

 

「グレイラット、か。残念だ。ああ、実に不本意だ…」

 

アトーフェはゆらりと体を反らし、不服そうな感情を隠そうともせず、眉をひそめた。

 

「ルーデウスからは、この街にいるグレイラットを一人残らず殺すよう、言われている」

 

その言葉に、ロキシーとアレクの瞳が見開かれる。

 

「特に…ルーディアという白髪の女と、ロキシーという青髪の男…そしてその子供は必ず処理するようにというお達しだ…」

 

不本意で仕方ないとばかりに髪をかきむしるアトーフェに対して、アレクは驚愕から気を取り直し、瞳を鋭くさせて問い掛ける。

 

「不本意なら、見逃して貰えませんか…?僕もお婆様とこういう形で剣を交えるのは本意ではありません」

 

アレクの言葉にアトーフェは間髪入れずに答える。

 

「それは出来ん。オレを下したルーデウスはこれをオレに任せた。ここで任せられた仕事を放り出すようでは、親父に顔向けが出来ない」

 

そこまで言ったアトーフェは一度言葉を切り、ふぅ、と天を仰いだ。

そしてギロリ、瞳を鋭くさせた。

 

「さあ、問答は終わりだ!しかしアレク、お前は対象外だ!お前だけが逃げるならば追わんぞ?」

 

アトーフェはその言葉を告げると、王竜剣を目の前に突き刺し、両手を柄の先に置いた。

少しだけ待つ、との動作にアレクは直ぐ様ロキシーに耳打ちをする。

 

「今すぐ姿を隠すようなマジックアイテムを使い、彼女を連れて逃げてください…狙いはグレイラット…ならばすぐに家にいる家族を守る為戻るべきです。転移魔法陣も通信石板も…あの様子では無事ではありません。丸投げで申し訳ないですが、どうにか対処法を考えてください……」

 

アレクはそこまで言うと曲げた体を起こして、改めてアトーフェに向きなおった。

 

「ま、待ってください!わかりましたが、アレク君はどうするんですか…!?」

 

ロキシーの言葉にアレクはフッと小さく笑みを浮かべた。

 

「お婆様を…王竜剣を持ったアトーフェラトーフェを放っておけば、シャリーアはあっという間に更地になってしまいます…誰かが相手しなくてはいけません。さあ、急いで下さい」

 

「ですが…」

 

「早く!」

 

アレクの鬼気迫る圧に、ロキシーは小さく頷き、直ぐに隠密用のマジックアイテムを起動する。

直ぐに姿がボヤけ始めたのを確認すると、ロキシーはまだ目を回したままのファリアステアに駆け寄った。

 

「む?姿が…消え…」

 

怪訝そうなアトーフェに対して、アレクは一気に距離を詰め、剣を振り下ろした。

それを苦もなく受け止めたアトーフェは、首を傾げ、アレクに問い掛けた。

 

「逃げない、という事でいいんだな?」

 

「ええ…ここで背中を見せて逃げるなんて、英雄の行いではありませんからね!」

 

そうな啖呵を切るアレクに、アトーフェは笑みを深めた。

 

「フハハハハハ!いい度胸だ!なぁに安心しろ、お前はオレの血を引いてる!これからバラバラにしてやるが、死にはしないだろう!」

 

ギィンッ!

 

「っ…!嬉しくない保証ですねぇっ…!」

 

力任せに振られた王竜剣に弾かれ、アレクはたたらを踏む。

ビリビリと剣を握る手に痺れが走った。

 

「ご武運を…!」

 

そこでファリアステアの回収が終わったらしいロキシーの声が、微かにアレクの耳をうつ。

あとは、少しでもアトーフェを止めるだけ、と剣を持ち直し、再度構える。

 

「ふん、ロキシーは逃げたか。ならば、親衛隊達よ!」

 

アトーフェがそう叫んで左手を挙げると、森の奥からぞろぞろとアトーフェ親衛隊の証である黒鎧をまとった者達が現れた。

その様子にアレクは歯噛みする。

瞬時にわかってしまったのだ、この戦力差を。

 

「この街にいるグレイラットを捕らえろ!一人残らずだ!行けぇ!」

 

「「「はっ!」」」

 

アトーフェの号令と共に動きだす黒鎧の集団。

ここで誰かを止めに入れば、自分はアトーフェにその隙を突かれて、確実に負ける。

だが、止めなければ…今この街ににいる戦力で、親衛隊全てを相手出来る戦力はない…!

ギリ、と奥歯を噛み締める。

ガチャガチャと音を鳴らして走り出す集団を、アレクは止めず、アトーフェを睨み付ける事しか出来ない。

むざむざと想い人とその家族を危機に晒してしまう自分の情けなさに、今にも叫びだしそうだった。

 

「止めないのか?ふん、オレを一人で相手取れるつもりか?」

 

だが、アレクの冷静な部分が今の最適解を叫ぶ。

アレクの目測ではあるが、守る形さえ上手くいけばロキシーを含めた戦力で親衛隊から身を守る事が出来る可能性はある。

しかし、アトーフェと王竜剣は無理だ。

どちらか片方でも絶対に不可能と断ずる事が出来る。

つまり、自分がアトーフェに敗北した瞬間…確実に終わる。

この街にいるグレイラットは全員殺されてしまうだろう。

あの幸せな家庭が終わる…。

やがて黒鎧の集団の姿は消え、遠くのほうで鎧同士がスレる音と、人々の悲鳴が聞こえ始めた。

 

「…彼らは殺させない。あなた方の思う通りには絶対にいかせません!この、アレクサンダー・カールマン・ライバック三世。全霊を持って貴方を倒します!」

 

「はっ!アーッハッハッハッハッハー!よく言ったぁ!ならばかかってくるがいい!不死魔王、アトーフェラトーフェ・ライバックが受けてたとう!」

 

決意を込めた目で睨み付けるアレクを、心の底から嬉しそうに笑うアトーフェは、両手を広げて待つ。

その目線、覚悟、気合い。

ピリピリとした心地好い闘志に、アトーフェが剣を握り直し、王竜剣がカチャリと鳴った。




『TSルディ子ちゃんが絶望しながら幸せになろうとするお話』
とかいうラノベみたいなタイトルだったらもっと増えて…いや、減るのか…?タイトルって難しいですよね。
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