まぁ一応前の世界ではあんな感じで一年くらいはやきもきしてたんですよ、フィッツがヘタレてて。
…といいつつ、ルークに迫られるシーンがあったり、それでトラウマ刺激されて泣いたり、その当時泣きつけるのがエリナリーゼしかいないので泣きついたら、抱かれたばかりの彼女から男臭感じて吐いたりするすんごい話があったりしますけど、かく気はあんまりないです。
誤字修正しました、ご報告ありがとうございます。
次の日の朝、フィッツは外の騒がしさで目を覚ました。
ピクピクと耳を震わせ、寝巻きのまま窓を開ける。
すると目の前の通りを騎士が、鎧をガチャガチャと鳴らしながら駆けていくのが見えた。
何を急いでいるのかな、と視線遠くに向けていくと、城壁の向こうで黒煙が至る所にあがっているのが見えた。
耳を済ませばあちこちで怒声があがり、更に遠くからは悲鳴や何かの破壊音が響いていた。
雲一つない晴天なせいで、いくつもの黒い煙が青い空にくっきりとうつっていた。
明らかな異常事態が起きている。
「わわわ、大変だ…!」
フィッツは寝巻きのままパウロとエリナリーゼに伝える為に、部屋を飛び出していった。
パウロとエリナリーゼを叩き起こしたフィッツ。
身支度を簡単に済ませた三人は、屋敷の前で丁度伝令にきたらしい兵士と顔を合わせていた。
「おい!何が起きてる!」
「はっ!現在王都アルス各地でジンシン教と思われる勢力が暴徒化しているとの事です!詳細は不明ですが、以前のジンシン教捜査時に逃走していた者達の姿が確認されているようです!」
「なぁにぃ…!?ジンシン教だと!?ギースの奴、あいつらに目ぇつけやがったか…!」
顔を歪ませたパウロは思わず声を荒げる。
びくりと肩を跳ねさせた兵士に多少同情しつつも、フィッツは続きを促す。
「それで、僕達に何を伝えにきたんですか?」
「っ…はっ、はい!アリエル様のお言葉をお伝え致します!『貴方達は首謀者の捜索を優先しなさい』だそうです!アリエル様はこれらの襲撃を囮だと考え、容疑者の確保を優先するように、との事です!」
「囮……。アリエル様が狙われる可能性は?」
「アリエル様はそれも考慮し、自らの身の安全は確保なされております!ご安心ください!」
アリエルの読みとしてはこれを引き起こした何者かには、本命があるとの事。
それが何かはわからないものの、まずはその何者かを確保しなければ始まらない。
故にそれをパウロ達に頼みたい、との事だった。
「……成る程な。なら、さっさと行くぞ!」
パウロは納得したように頷くと、伝令の兵士を置き去りにして走り出した。
「うわっ!が、頑張って下さい!」
咄嗟にパウロから離れようとして、転びそうになりながらも激励の言葉をかけてくれた兵士に軽く頭を下げ、フィッツとエリナリーゼもパウロを追って走り出すのだった。
「それでパウロ、何かアテはありますの?」
「ねえな!なんも!」
「ありませんの!?いきなり駆けだしておいて!?」
「動かねえと始まらないだろ!まぁ貴族区画にはいねえだろ」
「……それ、勘ですわね?まぁ、わたくしもそれには賛同しますわ」
「俺達がさっさと見つけりゃ、これ以上の悪巧みも出来ねえだろ」
「見つけたら、どうしますの?今のこの国、酷い惨状ですわよ…?」
「……斬るさ。こんな状況だ、死人が出ててもおかしくねぇ。…いや、楽観的すぎるな、既に出てんだろ…。なら、首謀者だろうギースは…斬らなきゃならねぇ」
「そう、ですね……。……ん?今……」
「あ?どうしたフィッツ」
「あっち、あの、町の外にある、あそこ、あの小高い丘で何か光ったような……」
「…あんな所でなんか光ったってのか?成る程、町の外か…」
三人はフィッツが見たという謎の光、それを確認しに王都の外へ向かっていた。
町の中は酷い状況だった。
城壁内の一段目まで既に侵入を許していて、あちこちで騎士が暴徒を取り押さえている光景があった。
だが、それがマシな光景だと、町人区画や冒険者区画を抜けている間、ひしひしと感じていた。
破壊された町並み、逃げ惑う人々。
商店からは商品が次々持ち出され、抵抗する店員が殴り飛ばされ、子供を抱えて逃げる親子を追う暴漢、連れ去られそうな女性。
まるで世界が明日終わるのではないかという程にひどい光景に、三人は顔をしかめていた。
勿論目の前で起きた暴挙は見過ごす事なく犯人はぶちのめしているものの、明らかに騎士だけで対応できる状況ではなかった。
故に、エンド傭兵団や冒険者が自発的にそれらの対処に回り、力無き人々はある程度纏められ、水神流らしき剣士達がそこを守っている様子が見えた。
怪我をした子供に簡単な治癒を施して騎士に任せ、フィッツは下唇を噛む。
心苦しいが、自分達の使命を果たさなければならない。
三人は悔しさに顔を歪めながら、そんな街中を駆け抜けていった。
フィッツが光ったのを見たという小高い丘、そこにたどり着いた三人は辺りを見回す。
パッと見たところ誰もいないが…エリナリーゼはすぐに違和感に気付いた。
丘の頂点辺りに、1メートル程、草の色や生えかたがおかしい地点がある。
「あの辺りですわ」
指差しながら呟かれた言葉にパウロが頷き、そこに近付いていく。
エリナリーゼが示した地点まであと10メートル程。
そのタイミングで、その場所がもぞり、と動いた。
「はぁー…やれやれ、目敏いな、おい」
ばさり、と緑色の布が放り投げられ、そこから一人の男が姿を表す。
片手に筒を持った男、猿顔の魔族、ギース・ヌーカディアは呆れたようにため息を吐き、パウロ達のほうを振り返った。
「「ギース!」」
パウロとエリナリーゼの声が重なる。
二人は武器を手にし、ギースに詰め寄る。
「おーっと、こえぇよ。俺がお前達に勝てる訳ねぇだろ?乱暴はやめてくれよ」
両手をあげ、手に持った筒も放り投げ、ギースは首を振った。
「わりぃが今はんな事聞いてられる状態じゃねぇ。あの町の惨状!お前がやりやがったのか!?」
パウロのその問い掛けに、ギースは肩を落とし、王都のほうを見た。
「ああ、俺が仕組んだ。紛争地帯に逃げ込んだアスラから追い出されたジンシン教や、紛争に疲れた小国を焚き付けて…豊かな大国であるアスラ王国から物資を奪う、ってな。他の領地でも起こってる筈だぜ」
なんでもない事のように言うギースに、パウロは声を荒げる。
「てめぇ!何考えてやがる!?そんな大それた、無意味に人が傷つくような事仕組むような奴じゃねえだろお前は!ヒトガミとかいう奴に、何を言われやがった!」
「……そうだな。まぁらしくはねぇか」
パウロに背を向けながら、頭を掻く。
その間も三人はジリジリと距離を詰めていく。
ギースは不意に空を見上げた。
雲一つない晴天から降り注ぐ光を浴びながら、ギースは口を開く。
「……でもな、戦う事が出来ねえ能無しでも、何かやれるって事見せたかったんだよ。そうしたら、見返してやれる、って思ってな…お前達に恨みはねえけど、ヒトガミがやれって言うなら…仕方ない、ってな」
「ギース…お前、んな事思ってたのかよ…」
「ははっ、意外か?ま、それももう失敗だ。お前達に見つかってこんな距離まで詰められて…逃げれると思う程頭お花畑じゃないんでな」
振り返ったギースは、両手をあげて諦観を滲ませてヘラりと笑った。
そんなギースの目の前に、パウロは歩み寄る。
「とりあえず…捕らえさせて貰うぜ。アスラをこんなにしちまった責任は取らせる。何が狙いだったのか、細かい話後で洗いざらい聞かせろよ?」
パウロはギースの手を掴む。
真剣な表情で、しっかりと目を合わせて。
ふっ、と小さく笑ったギースは一度目を瞑り、息を吐き出す。
そうして……飄々とした、胡散臭い笑みを浮かべた。