『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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少し遅くなりました。
うーむ、物語におけるご都合主義の塩梅って、難しいものですね。
万人が納得出来る展開というのは不可能ですけれど、せめて説得力は持たせたいものです。
日々精進ですねぇ…。


目覚め

ふわふわと雲の中に浮かんでる気分。

なんだか、騒がしいね。

ロキシー…?

部屋から出ないように……そう、なんかあったんだ。

でもなんかうまく体動かないし…仕方ないよね。

周りには、皆いるね。

よしよし、アルスもルーシーもララもジークもかわいいね…。

ノルンとアイシャもシャロンとシャルル、シャーレもいるの。

愛しい愛しい私の弟妹達…可愛いね、よしよし、順番に撫でてあげる。

母様とママ…なんか、難しい顔してどうしたの?

あれ、クリフ先輩とザノバとシズカ?それにジンジャーとジュリまで…皆部屋出ちゃった…。

どうしたんだろう…出ちゃダメって言われてたのに…。

 

……いや、違う、わかってる。

今、ここに危機が、迫ってる…援軍を呼びに行ったんだ…。

ここに、ろくに戦える人が、いないから…。

本当なら今すぐ立ち上がって、私が戦わなければいけない。

……でも、ダメ。

体が思うように動かない、魔力も動かせない、思考も纏まらない。

少し考えるとすぐにふわふわと浮かんで、ぼんやりとしてしまって…。

……仕方ない、仕方ないよ。

皆から恐怖の感情が伝わってくるけど。

怖がって身を寄せるルーシーとクライブ君を撫でて…両肩に乗って頬擦りしながらくるくる回るシャロンとシャルルを順番に撫でて…。

怯えてしがみつくシャーレをなだめて…。

きっと、大丈夫…オルステッド様もいる…皆が、どうにかしてくれる…。

お母さんと、ママと、ノルンと、アイシャが何か話してる…

なんだか、眠いな……目が覚めたら、きっと平和な我が家だよ…。

 

私には、もう、どうにも、出来ない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それなら、その体借りるよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識を失う寸前、そんな声が自分の中から聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファリアステアを抱えて家にたどり着いたロキシーは、時間の許す限り玄関や窓に結界を描き続けた。

皆を集めた部屋の結界は、一際強い結界魔術だが、そもそも侵入されないに越した事はない。

 

「……いざとなれば、優先目標となっているらしい僕が囮となる事も考慮に……」

 

そうなった場合の自分の末路が頭に過り、ロキシーは体を震わせた。

 

「死ぬ覚悟なんて、迷宮に潜っている時はいつもしていた筈なのに……」

 

幸せであればある程に、満たされていれば満たされているだけ、死ぬ事が怖くなる。

子供の為、愛する人の為、懸ける命に躊躇いはないけれど、恐怖は残り続ける。

ドッドッドッと心臓が高鳴り、ロキシーは思わず胸を抑えてしまう。

 

「……今、家族を守れるのは僕しかいない…ルディ…僕に勇気をください……」

 

そのまま暫し震えながら、ロキシーは気を落ち着かせる為に深呼吸を繰り返す。

そんな時。

 

ガチャガチャガチャ

 

外から聞こえ始めた鉄の擦れる音にハッとなり、ロキシーは目の前の魔法陣を仕上げてしまってから、玄関へと駆け出す。

無理矢理覚悟を決めたロキシーは、目元に残った涙を拭いながら、愛用の杖を手に持つ。

玄関の前に立ち、事前に用意していた外からの干渉を弾く結界を起動し、待ち構える。

やがてぞろぞろと現れる黒鎧を纏った者達。

明らかに裏の人間、という風貌の男に先導される形で、家の前に集まってきた。

 

「こ、ここですわ!グレイラットさんのお宅は!」

 

「そうか、ご苦労…約束のものだ、さっさと失せろ」

 

そんな男に対して黒鎧の一人が袋を手渡す。

その時にチャリ、とかなり重い音が鳴っていたのをみるに、恐らくは金だろう。

 

「へ、へへへ確かに…ではでは…へへへ…!」

 

中をちらりと確認した小汚ない男は、薄ら笑いを浮かべ、そのまま走り去っていった。

それを見送った黒鎧の一人が、口を開いた。

 

「不愉快な奴だったな…」

 

「そりゃそうだろ、今から一家全員やっちまうからその家族の家の情報寄越せっつって、直ぐに渡してくるような奴だぞ?」

 

「はー……気が乗らねぇってもんじゃないね、子供、赤子とかもいるんでしょ?」

 

「とりあえずは命令が『捕えろ』なのが幸いか?」

 

「どうだか…最終的にはあの『泥沼』に引き渡されるんだろ?死ぬよりひどいんじゃないか?」

 

「もしくはアトーフェ様の所に連れてったら首いきなり切られたりしてな…はぁ。やだね、まったく」

 

それを皮切りに、次々と言葉が出てくる。

統率は特に取れておらず、話を聞く限りどうにもモチベーションもそう高くないように見える。

 

「なら、やめるか?」

 

しかし、誰かが呟いたその言葉には、誰も賛同する事なく、静かに首を振られた。

 

「アトーフェ様の命令は絶対だ。下手をうてば二年の休暇すらなくなるかもしれないぞ?……胸糞悪いだろうが、行くぞ」

 

言葉もなくそれぞれ頷くアトーフェ親衛隊は、目の前の家の門を潜る。

そして、家の扉の前で仁王立ちする青髪の魔族、ロキシーと対面する事となる。

その隣には巨大な白い犬、レオが唸り声をあげていた。

 

「グルルルル……」

 

「ロキシー・M・グレイラットだな?……用はわかっているだろう。大人しくついてこい」

 

「……お断りします。家族は、僕が守ります」

 

憮然と言い放つロキシーに対し、先頭にいる男は言葉を続ける。

 

「例え守った所で無駄だ。いずれアトーフェ様がくれば容易く決着はつき、仮にアトーフェ様が来なくとも既に転移魔法陣は破壊している。お前達に援軍はこない。この国の戦力では我々の相手にもならない。無駄な足掻きだ。今なら手荒な扱いはしない、可能な限り助命を懇願してやってもいい。どうする」

 

「それでもお断りです。僕達は全員で笑う明日を求めていますから」

 

そう宣言し、杖を構えるロキシー。

足元が光り、結界であろう見えない壁が展開される。

その様子に男は内心感心しつつ、自らの剣に手をかけた。

 

「そうか…ならば力づくだ!」

 

同時にロキシーへ放たれる魔術、剣を構えて駆けていく親衛隊達。

魔術はその不可視の壁に遮られ、振るった剣も弾かれる。

ロキシーが放つ魔術は結界を素通りし、親衛隊達を弾き飛ばす。

しかし。

 

「(すぐに起き上がってきます、か…聞いたことはありましたが、やはりあの鎧は相当な魔法耐性がありますね…しかも下手な魔術ではレジストされて……。わかってましたが、倒すのは無理ですね、此方の魔力が切れるのが間違いなく早い…)」

 

結界に張り付く親衛隊をレオが殴りとはずのを視界に捉えつつ、間違いなくジリ貧な状態にロキシーは歯噛みする。

 

「(それでも…!)」

 

ロキシーは自分を鼓舞して目の前を睨み付ける。

結界がいつまで保つかわからない。

自分の魔術では、まだ一人も倒す事も出来ていない。

それでもロキシーは杖を強く握る。

家族を守るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ッガァアン!

 

どれだけ経ったろうか、ロキシーの放った魔術が親衛隊の一人を撃ち抜いた。

奇しくもそれは『岩砲弾』、ルーデウスの得意魔術の一つ。

圧縮回転等独自のアレンジをされた、人体で受ければ必死の一撃。

自身も一度受けたそれを、今ロキシーはようやく会得したのだった。

鎧が砕け、血を流す親衛隊の一人はそのまま崩れ落ちた。

 

「はぁっ……一人……はぁっ……」

 

だが、ロキシーの魔力は刻々と限界に近付いていた。

各所に設置した魔法陣も、魔結晶を用いているとはいえ描いて起動する過程である程度の消費はあり、結界を守る為に魔術を使い、今のように決定打を見つけるのに魔力を使いすぎてしまった。

息の荒いロキシーを見やり、親衛隊の一人は手を上げた。

 

「……やるじゃないか。攻撃一旦やめ!」

 

その声とともに攻撃が止まり、結界から一定の距離を取り、親衛隊はその場に佇む。

そして崩れ落ちた親衛隊に、一人近付き、取り出したスクロールを即座に使用した。

ロキシーはその様子に目を見開く。

倒したはずの親衛隊の一人は即座に立ち上がってしまっていた。

流石に黒鎧には穴が空いたままであるが、やっと倒した相手が起き上がる精神的ダメージは計り知れない。

まるで足元に突然穴が空いたような感覚を覚えながらも、ロキシーはまだ自分を鼓舞し続けていた。

 

「よし、連れてこい」

 

だが、それも表れた人物の顔を見て、揺れる。

親衛隊に手を後ろにされて掴まれ、歩かされている、薄汚れてしまっている、深青色のローブを着た壮年の男性。

 

「そ、んな、師匠……!」

 

ラノア魔法大学の教頭、ロキシーの師匠、ジーナス・ハルファスが多少傷を負った姿で現れた。

口元には布を巻かれ話せないようにされて、額には血が滲んでいた。

悲壮な表情を浮かべたロキシーは、すぐにキッと親衛隊を睨み付ける。

 

「なんで…!」

 

「ラノア魔法大学は既に制圧している。かなり抵抗されたそうだ。『グレイラット』は随分と慕われているようだな」

 

「むぐぅっ!」

 

ジーナスはそのまま地面に押さえ付けられ、苦悶の声をあげた。

 

「……言いたい事はわかるだろう。こいつの命が惜しいならば、自ら結界を解け。そうすればこいつも解放し、魔法大学の包囲も解く。だが、そうしないならば、大学の関係者一人ずつ始末する。さあ、どうする?」

 

「……えげつねぇ。流石は『泥沼』の策だよなぁ」

 

「……黙ってろ、その策を実行してる時点で俺達も同類なんだ。さあ、ロキシー・M・グレイラット、どうする」

 

「そんな、卑怯です…そんな……!彼等は、関係ないじゃないですか…!」

 

地面に押さえ付けられているジーナスは、ロキシーに目線を向けて、必死に首を振る。

その首元に、刃が突き付けられた。

ナイフのギラリとした光に、ロキシーの背筋に寒気が走る。

無意識に噛み締めた下唇が裂け、血が垂れた。

ジーナスは恩師だ、一度心無い言葉を吐いて決別したにも関わらず、また受け入れてくれた。

魔法大学の授業に悩む時は、教育者としてアドバイスをくれた。

ジーナスの視線は自分に構うなと言ってるように思う。

それでも、ロキシーには選べる訳がなかった。

 

答えの出さないロキシーに対し、親衛隊は視線をジーナスへと向ける。

 

「……そうか。ならばまずは一人だ。やれ」

 

「ああ」

 

その言葉と共に剣が振りかぶられ、ロキシーを見るジーナスの目が穏やかに閉じられ……。

 

カラン、カランカラン

 

俯いたロキシーの手から杖がこぼれ落ちた。

同時にロキシーは膝から崩れ落ち、足元の魔法陣が光を失う。

それを確認した親衛隊は、ジーナスへと振りかぶった剣を止めた。

 

「確保」

 

親衛隊は直ぐにロキシーに取り付き、その両手を掴み、うつ伏せに引き倒して後ろ手に拘束する。

 

「ガルルルル!グォウ!ウォンウォン!」

 

レオにも何人もの親衛隊が取り付くものの、吠えて暴れてそれらをなんとか振り払い、家の中へと逃げてしまう。

その間もロキシーは俯いたままだった。

 

「……もう、僕はどうなってもいいです。だけど、家にいる家族だけは見逃してください、魔法大学にも、これ以上迷惑かけないでください…!お願いします……お願いします……!」

 

地面に顔を擦り付けながら、ロキシーは懇願する。

僕はいい、せめて、家族だけでも、と。

 

「……魔法大学と、この男は約束通り無事解放する。だが、『グレイラット』を見逃す事はしない。行け。家の中を捜索しろ」

 

頭を下げるロキシーの横を親衛隊達が何人も通り過ぎて、家の中へと続々と入っていく。

家の中をバキバキと破壊しながら進む音が耳をうち、ロキシーの体が震え始める。

 

「う、うぅうぁああああぁ!!!ふざけるな!ふざけるなぁ!やめろ!やめろやめろぉおおおぁあ!!」

 

涙を流し吼えながら暴れるロキシーだが、体を押さえ付ける彼等は微動だにしない。

むしろ動く度に華奢なロキシーの体は悲鳴をあげ、強い痛みを訴えてくる。

 

「なんで!なんで!!何の権利があって!!!こんな酷いことを!!!あぁあああああああ!!!」

 

ドガン!バキバキバキ!

 

「ふざけるな!やめろよ!僕の家族に手を出すなぁあ!なんで、なんでだよ……」

 

ダンダンダンダン!ガガガシャーン!

 

「…………僕達はただ、ただ……幸せに、暮らしたかった、だけなのに……」

 

ダラダラと涙と鼻水を垂らすロキシーが意気消沈していくのとほぼ同時に、家の中からの破壊音は収まっていった。

家に背を向けた状態で体を押さえられている現状、ロキシーはどうなっているか確認は出来ないが…想像には難しくはなかった。

静寂に包まれた家を見て、親衛隊の男は手隙の一人に声をかける。

 

「…見つけたようだな。後はアトーフェ様の所に連れてくだけだ。おい、魔法大学の人員も連れてこい」

 

頷き去っていく男を見送り、男は振り返った。

そこで玄関先にいた存在に気付き、身を包む強い寒気に気付き。

鋭い眼光を最期に、意識を失った。

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