それに気付いたのはいつだったか、ルーディアの様子がどうにもおかしかった。
食事にはあまり手をつけないし、常に体調が悪そうだった。
治癒魔術をかけても治らないのを見るに医者に診て貰ったほうがいいだろう、と受診した結果…。
『…妊…娠…?』
「二、三ヶ月くらい、ですかね。おめでとうございます」
女の医者はそう言ってこれからの注意点等を軽く説明していたが、私は勿論だが、珍しくルーディアの耳にも入ってないようだった。
時期から見ても間違いないだろう、あの夜に出来た、エリオットとの子供だ。
あたしがルーディアと行動を共にすると決めたのは、エリオットが明け方に飛び出すのを呼び止めた会話の後だった。
ルーディアを連れていくだろうから、あたしもそれに同行しようと思っていたのに、一人だけだったから不思議に思っていたのだ。
だが話を聞いて理解はした、エリオットは確かに立派になった。
思慮深くなり、物も知った。
賢さでは勝てないかもしれない。
だがそれは同時に、エリオットの強さであった思い切りの良さを打ち消すものでもあったのだろう。
あたしも物事を知るにつれてガムシャラさがなくなっていき、剣の鋭さが鈍ったように思う。
あたし自身はその変化に納得しているが、エリオットは強さを求めている。
それならば確かに甘えの象徴のようなルーディアがいては、エリオットは強くなりきれないだろう。
それについては納得した。
だが同時にあたしの鼻は、エリオットがルーディアを抱いた事を伝えてきていた。
ひとまずあたしは、抱いた女を捨てて去る等という、パウロのようなクズに成り果てそうな恩人の孫を、思い切りぶん殴っておいた。
そして本来なら付いていきたかった所を抑え、ルーディアは任せるように言った。
「お前の考えはわかった、ルーディアにはあたしが付く。必ず強くなれ。もし帰ってこなかったり強くなれなかったら、お前のアレは、あたしがサウロス様に代わって責任を持ってちょん切る」
ブルリと震え上がったエリオットは頼む、とだけ告げて去っていったのだった。
その後ろ姿を見送った後、剣士としてのあたしがこれでいい、と頷き、女としてのあたしがバカ!さっさと連れ戻せ!と叫んでいた。
どうするのが正解だったのか、あたしの胸の中でポロポロと涙を流すルーディアを見てもわからなかった。
そして新たな問題だ。
『デッドエンド』という名でルーディアとともに冒険者として活動して、だんだんと知名度もあがり順調だと思っていた時に、冒頭の状態に陥ってしまった。
こうなっては仕方がないと1年を目安に家を借り、そこでルーディアの出産を行うと決めた。
だが、そこからルーディアはひどく不安定になった。
妊娠した女はピリピリとするものとはいえ、聞くのと見るのとではやはり違うのだなと思う。
『ギレーヌ…私なんかに母が出来るでしょうか…』
ルーディアは事ある毎に不安そうに呟いていた。
時には取り乱し暴れる事もあるし、自傷行為をしそうになった事もある。
その度にあたしはルーディアを抱き締め慰めていた。
あたしにとってルーディアは真に尊敬に値する人物だった。
幼いながらに親元から離され、見知らぬ人達の中で過ごし、悪意に晒された日々。
にも関わらず腐らずにいたルーディアを、本当に尊敬していたし、素晴らしい大人になるだろうと、エリオットと幸せな家庭を築くと、欲を言えばそこにあたしもいさせて欲しい、等と夢想していた。
だが現実はどうだ?
転移事件でルーディアはこんなにも傷ついた。
自信家な面は成りを潜め、体を隠し、何処か怯えている。
それに対してあたしが覚えたのは失望だろうか?
違う。
庇護欲である。
ルーディアを護らねばならないという使命感だ。
事ある毎に周囲に牙を剥き、ルーディアの身も心も護る為に奔走した。
そしていつの間にかつけられた名前が『デッドエンドの母猫』だった。
…処女ではないが子はいないぞあたしには。
そう口を尖らせるあたしを、精神的に安定し始めたルーディアが笑った。