『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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お久し振りです。
「陰鬱曇らせ杯」に参加していました。
改めて、こちらの更新を頑張っていきたいと思います。


二つの決着

(身体中が痛い)

 

「フーッ……フーッ……!」

 

まるで獣のように姿勢を低くして、アレクは相対するアトーフェを下から睨み付けた。

その息は荒く、肩からは血が流れ続け、顔は青い。

 

(……まるで四足の型。……パウロさんの四足は恐ろしかったな……どの体勢からでも光の大刀が飛んでくるんだから、とんでもない人だ……)

 

思わず口の端を吊り上げたアレクを見て、アトーフェも楽しそうに笑った。

 

「そうだアレク!不死魔族の血を引く者ならどんな時も笑え!俺も笑う!そしてお前を叩き潰そう!ククク……クハハハハ!アーッハッハッハッハッハーッ!!」

 

アトーフェは高笑いしながら、王竜剣を大上段に構える。

北神流の奥義の構え……全力で自身を叩き潰しにかかる様子のアトーフェに、アレクは奥歯を強く噛み締めた。

やがて、アトーフェの笑い声は止まる。

歯を見せ獰猛に笑うアトーフェと、歯を剥き出しにして見上げるアレクの視線が交差した。

 

その瞬間アレクは地面を蹴り、瞬時にアトーフェの目の前に、左足を前にして、腰をひねり、背中を向けた状態で移動していた。

 

「ハッ!見切ったぁ!」

 

そこをアトーフェは見逃さない。

王竜剣の力を開放し、アレクの体を重力操作で浮かせようとし、即座にそのまま振り下ろした。

 

「ふ、ぉおおおおおおお!!!」

 

だが、それがアレクの狙いだった。

体が浮く寸前に、伸びきっていた右足で無理矢理もう一歩地面を蹴った。

アトーフェの懐に入り込んだアレクは、浮こうとする体に合わせて左足で一気に上へと跳ね上がる。

 

「なにっ!?」

 

振り下ろされる王竜剣は空振り、そのアトーフェの腕に対し、アレクは腰を回してその咥えた剣を叩き込んだ。

伸びきった肘を狙って放たれた斬撃に、比較的薄い関節部分……アトーフェの肘は見事に切り裂かれ、その手から王竜剣が離れた。

同時に重力操作から開放されたアレクは、アトーフェを見下ろしながら、反動でヒビの入った歯をより強く噛み締める。

そして、未だに不敵な表情で見上げるアトーフェの目を狙い……咥えた剣、アルスによって毎日丁寧にピカピカに磨き上げられた刀身によって日の光を反射させた。

 

「うっ!?」

 

咄嗟に目を閉じたアトーフェに、アレクはその剣を脳天へと振り下ろした。

 

「っぐぅっ!なめ、るなぁ!」

 

バキィイイイン…!

 

アトーフェは風切り音でタイミングを計り、その額に生える角でその剣の振り下ろしを迎え撃つ。

結果、その刀身は砕け、砕ける音が響き渡った。

しかし。

 

「(想像以上に、手応えが、ない)」

 

そう思ったアトーフェの回復した視界が見たのは、回る自らの視界だった。

 

ぼとっ、カラン

 

ほぼ同時にそのような音がして、アトーフェの首、砕けた剣の柄が落ちた。

そして、頭の失ったアトーフェの体の前には、王竜剣を横に振り切ったアレクが、佇んでいた。

 

「はぁっ……【朧十文字】……はぁっ……」

 

アレクの左腕は未だに血を流しているにも関わらず、右腕だけが再生されていた。

アトーフェはその光景を見て、直ぐに状況を把握した。

自身の脳天に剣を振り下ろしたアレクはそれを直ぐに放し、地に落ちた王竜剣を即座に拾い、首を切り裂いたのだと。

あえて剣を意識させ、自分は右腕を集中して治して。

剣を口に咥える事といい、光の目潰しといい、今までのアレクには考えられない動きだった。

 

アレクは大きく息を吐くと、王竜剣を地面へと突き立てた。

 

「むおっ!?」

 

その瞬間、詠唱をしていたムーアの体がふわりと浮かび上がる。

アトーフェの体と、その生首も。

 

「これ以上、何もさせないっ……!この町は、僕が守る。お前達は、邪魔だぁあ!カジャクト!僕の魔力、ありったけ持っていけぇえ!」

 

ギュゥウン!

 

バキバキバキバキバキ!

 

アトーフェとムーアの鎧と体から凄まじい音が響き始める。

鎧が砕け、四肢がねじ曲がり、身動きも、何も出来ない程にひねり潰されていく。

 

「アトーフェ、さまっ!」

 

「ムーア!」

 

グシャ!

 

兜ごと頭がひしゃげたムーアが、ほぼ肉塊となって転がる。

その様子を眺め、既に自分の体もそうなっているのを視認しつつも、アトーフェは笑顔を浮かべていた。

楽しそうに、誇らしげに。

 

「アーッハッハッハッハッハー!素晴らしいぞアレク!俺は誇らしいぞ!お前がここまで強くなっていたとは思わなかった!お前は、勇者だ!誇れアレク!お前は、強かったぞ!アーッハッハッハッハッハー!ハハ――」

 

グシャ!

 

二つの肉塊が出来たのを確認したアレクは、王竜剣を突き刺したまま、その場にガクリと膝をついた。

その髪は所々が白く染まり、全身が強い脱力感に包まれていた。

 

「ウィ・ター……オーベール……恥知らずにも、君達の技を借りた僕を、許して欲しい……」

 

歯を食い縛り、震える膝を叱咤し、アレクはフラつく足で、歩いた。

北神奇抜派を否定していた過去の自分が、どれだけ視野が狭かったのか思い知らされていた。

 

「けれど、君達のおかげで、この、小さな英雄に報いる事が出来た……ありがとう……」

 

アレクはアルスの元にたどり着き、その場にしゃがみこんだ。

強い失意……これ以上の犠牲はアトーフェを倒したから起こりようはないだろう。

だが、失われた命は戻らない。

俯き顔を歪めていたアレクは、ゆっくりと顔を上げていく。

そして、そのアルスの顔を見て、その目を見開いた。

 

「ホッホウ……」

 

「ふ、フクロウ……?」

 

アルスの頬に身を擦り付ける、銀色の梟がアレクを見つめていた。

 

「ホーッホホホゥ……!」

 

「うわっ!?」

 

その梟は突如その翼を大きく広げた。

思わず目を覆うアレクが細目で様子を伺っていると、その姿は銀色の粒子となって、アルスの体に吸い込まれていった。

同時にアルスの身につけていた赤茶色のペンダントと、肩のブローチ。

それらがパキンと砕け散る。

そして、アルスの胸が微かに膨らんだ。

 

「っ……げほっ、ごほ、ごぼっ」

 

「!あ、アルス君……アルス君!」

 

とたんに咳き込むアルスは、苦しげに血を吐き出した。

続けて咳き込み続けていたが、血はすぐに止まる。

肺に入り込んでいただけなのだろう。

 

「う……アレク、様……?」

 

アルスはそのまま意識を取り戻した。

何処か呆けた様子でアレクを見るアルスは、きょろ、と辺りの様子を伺った。

その、何事もなかったかのような様子に、アレクの瞳には涙が浮かぶ。

何が起きたのか……アレクには正しくは理解していないが、今砕けた道具のお陰でアルスが目覚めた、それだけは理解出来た。

アレクはアルスへと手を伸ばす。

 

「うっ……アルス、君……良かった、良かった……!」

 

アレクは堪らず、その小さな体を片腕で抱き締めた。

ぽたぽたと流れる涙が、アルスの肩を濡らす。

何が起きたのか理解仕切れていないアルスは、きょとんとした顔で、されるがままだった。

 

そのアルスの視線の先で銀色の梟が羽ばたき、そのまま空に溶けるように消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルー……デウスゥウウウウ!!!」

 

突然の雄叫びに、ルーデウスは思わず首だけで振り返った。

 

「なっ……ぶっ!」

 

バキィッ!

 

予想外の、意識外からの攻撃に、もうすぐ目的を果たせる高揚感に、ルーデウスは反応が遅れた。

パウロの渾身の拳がルーデウスの頬を撃ち抜き、ルーデウスの体は地面に前から倒れた。

その拍子に魔力は霧散してしまい、岩の欠片がその場に散らばった。

 

「くっ……!」

 

ルーデウスは直ぐ様肘をたて体を起こそうとしたが、そこを空かさずパウロが腹を蹴り上げた。

 

ドゴッ!

 

「ぐっ……ぶ!」

 

「俺の、娘に、手ぇ出してんじゃねぇ!」

 

そう叫んだパウロだが、すぐに顔を歪めてふらついた。

背中からは未だにしゅうしゅうと白煙があがり、まともに動ける状態ではなかった。

 

それに気付いたルーデウスは腹部の痛みを感じながらも、歪んだ笑みを浮かべて素早く杖を向けた。

 

「はは!死に損ないですか!ならばここで、完全に引導を――」

 

ゴッ

 

カッ

 

カランカランカラ…

 

ルーデウスの杖を持つ右手の甲を、氷の礫が穿った。

貫通もしない、怪我もない、ただその手から杖を弾いた。

視線を向ければ、ルーディアが此方に手だけを伸ばしていた。

その隙が、致命的だった。

 

「終わりだ!ルーデウス!」

 

ザンッ!

 

パウロの剣が、ルーデウスの右腕を肩口から切り裂いた。

ルーデウスは目を見開き、たたらを踏む。

ボトリと落ちた右腕を見て、それでもなお、ルーデウスは笑みを浮かべた。

 

「あ……あははは……お見事……」

 

ズバァッ!

 

更に右肩から袈裟懸けに切り裂かれ、血が噴き出す。

 

「ごふっ……」

 

口から血を吐き出し、ルーデウスはそのまま背中から地面に倒れた。

ドクドクと流れる血、動く様子のない姿に、パウロは息を吐いて、その手に持つ剣をその場に落とした。

 

「はぁ……はぁ……ざまぁ、みやがれ。……ルディ!」

 

ひとつ悪態をついたパウロは、自分の娘の安否を確かめる為に振り向く。

どうにか立ち上がっていたルーディアは、その視線に気付いてよろよろと体をふらつかせながらパウロの隣に並んだ。

 

「ルディ、大丈夫なのか?」

 

『……大丈夫です。それより、彼には話を訊かなくてはなりません』

 

「ああ、そう、だな」

 

ちら、とルーディアを心配そうに見るも、本人は何も言わずに首を振った。

仕方ないとばかりにパウロはルーデウスの倒れているほうへと足を運ぶ。

倒れている場所で既に血だまりを形成しているルーデウスは、青い顔でパウロを見上げていた。

 

「……ルーデウス。てめえは、何がしたかったんだ?なんでこんな事しやがった……!」

 

「ごぽっ、ぼえっ……げほ、げほ。言いませんでした、か?僕が、ヒトガミの――」

 

「ちげえ、なんでそんな奴に従ってたって話だ。てめえはそんな柄じゃねえだろうが……」

 

眉を寄せ、複雑な顔で見下ろすパウロに、ルーデウスはきょとんとした表情を浮かべた。

 

「まさか、そんな事を聞く為に、ギリギリ生かしてるん、ですか?」

 

ルーデウスの問いに、パウロは小さく頷く。

その様子に、ルーデウスは頬を吊り上げた。

 

「バカですね……だから――」

 

「お待ち下さい」

 

ルーデウスの言葉を遮り、涼やかな声がその場に響き渡った。

その声の主、それに即座に思い当たったルーデウスは目を見開き、その口を閉ざした。

パウロはその声のほうにゆっくりと振り向き、その姿を視認して呆れた声を出した。

 

「おいおい……なんでアリエル様がここに直接来てやがんだよ……」

 

アスラ王国女王、アリエル・アネモイ・アスラが、柔らかい笑みを浮かべてそこに立っていた。

右にはシャンドルと名乗っている騎士と大柄な騎士を、左には水帝であるイゾルテ・クルーエルと水神であるレイダ・リィアを引き連れて。

パウロのズタボロな様子に、何か言いたげなレイダの視線を無視し、パウロはアリエルに半目を向けた。

 

「……最期に、私もナナシとお話をさせて頂きたかったのです。アルスが暗雲に包まれた時点で、ナナシが、ルーデウスがいるのはわかっていましたから、精鋭を連れてきたのですが……余計なお世話でしたね。パウロ、そして皆さん、ご苦労様でした」

 

アリエルはそう言うと、何の躊躇いもなくルーデウスへと近付いていく。

 

「おいおいおい!確かに死にかけだが、そんな無防備に近付くんじゃ……」

 

「いえ、むしろ私が近付かなければ危険、です。そうでしょう?ナナシ」

 

「は?」

 

アリエルの言葉に、ルーデウスは苦々しい顔となる。

じっと近くで見つめるアリエルに、ルーデウスは観念したように口を開いた。

 

「っぷ。そうです、正解ですよ……まったく、逞しく育ちましたね……」

 

その口から魔力結晶を吐き出し、ルーデウスは完全に四肢から力を抜く。

吐き出された魔力結晶は地面に落ちていった。

思わず声を出してアリエルを抱えて逃げようとするが、アリエルにそれを手で静止させられた。

 

「最後の最後に自爆するつもりで仕込んでいたのですが……まさか、見破られるとは思いませんでしたよ……」

 

ルーデウスははぁ、と大きくため息を吐くと、体から力を抜いた。

ジトリとした目でアリエルを見るも、穏やかに微笑んだアリエルを見て、その視線をパウロへと移した。

 

「……僕が、ヒトガミに従っていた理由、聞きたかったんですよね?」

 

ルーデウスは自嘲するように笑う。

パウロはその表情を歪ませたまま、言いたい事の数々を飲み込み、小さく頷いた。

 

「……ああ」

 

「……僕は、とある時から、一つの目的の為に生きてきました。ヒトガミと契約し、その目的を果たす為……」

 

「それは、なんなんだよ。自爆しようとしてまで……」

 

そこでパウロは違和感に気付く。

自爆、そうルーデウスは俺達を最後に道連れにしようとした。

そこまでして果たしたかった目的なのに、アリエルが近付いたら、やめた……?

まさか、とパウロはアリエルに視線を向けた。

 

「アリエル様が、無事に不自由なく生き続ける事……それが僕の唯一の目的、生きる意味です。アリエル様にこの命を救われた時から、僕はその為に生きていました」

 

その言葉に、アリエルは一瞬目を見開き、困ったように笑みを浮かべた。

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