『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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闘神バーディガーディ

「はぁああああ!」

 

その時、僅かに闘神鎧の足が浮いた。

動きの止まった黄金の鎧に、間髪入れずに黄金の大剣が叩き込まれる。

 

「ふんっ!」

 

それを闘神鎧は、バーディは複数の腕で受け止める。

しかし黄金の大剣、王竜剣カジャクトを叩き込んだアレクは、そのまま力を込めて、その巨体を弾き飛ばした。

 

「むおっ!」

 

バーディは姿勢こそ崩す事はなかったものの、想像以上の威力にたたらを踏み、数メートル後退し、改めてアレクを見た。

そこで、アレクの周囲に数人の人物がいる事に気付く。

ルーディアの前に立ち塞がる、四人の人物はそれぞれの得物を手に、バーディの前に立ち塞がる。

 

「やれやれ……これが相手かい?老骨には荷が重いよ」

 

水神、レイダが愛剣を握り締める。

軽口を叩くが、その顔には緊張が走っていた。

 

「アリエル様の命です、微力なれど助力致しましょう」

 

北神二世、アレックス、現在はアスラ王国黄金騎士団長のシャンドル。

何の変哲もない鉄の棒を構え、自分の叔父に当たる人物と相対する。

 

「お婆様に続いて大叔父上とも戦う事になるとは……相手にとって不足なしです。行きましょう、父さん」

 

北神三世、アレクサンダーは取り戻した愛剣を構えた。

その瞳は真っ直ぐバーディを捉え、油断なく見据えていた。

 

「治ったばかりだからちとキツイが、病み上がりのルディがここまで気張ってんだ、父親の俺が弱音吐いてられねぇよな」

 

パウロはちら、と背後の娘を見る。

平然と立っているように見えるが、これ以上無理はさせられねえ、と剣を構える。

 

そんな四人の登場に、最も驚いているのはギースだった。

 

「おいおいおいおい、嘘だろ?本当にアトーフェも『泥沼』も負けちまったのかよ!?」

 

今回の襲撃、策はギースが練ったものだった。

紛争地帯で小国や残党をその気にさせたのは、ギースの話術による影響が大きい。

そうして各地で同時に襲撃を起こす事で戦力を分散させ、此方の突出戦力によって叩き潰す。

更には『泥沼』による龍神の無力化の策。

事前のヒトガミの仕込みによるルーディアの無力化。

万全だった筈だった。

 

「よぉ、ギース。お前の策、惜しかったぜ?後は、お前達だけだ、覚悟しやがれ」

 

軽口を叩くものの視線は鋭く、その目線だけでギースの背筋には寒気が走った。

現役以上に強くなるとか反則だろうがよ、ギースは内心で吐き捨てた。

 

「ちっ、ルーディアの嬢ちゃんがいるだけでも想定外だってのに……」

 

そう呟いたギースの目の前に、突然黄金の手の平が差し込まれた。

なんだ、と疑問に思う間も無く、何かが閃いた。

 

ガギンッ!

 

金属音と共に何かがその手によって防がれ、ギースの額に冷や汗が滲んだ。

 

「ちっ」

 

舌打ちをして、剣を振り切った格好で此方を睨むギレーヌを見て、ギースは苦笑を溢した。

 

「離れているがいい。こやつらは我輩がお相手しよう」

 

「ああ、容赦なくて笑っちまうぜ。当然だけどな。バーディの旦那、後は頼んだ」

 

ギースはそう言い捨てると、森のほうに駆けていく。

パウロとギレーヌは一瞬それに反応するも、改めて足を踏み鳴らしたバーディによって、その動きは止まってしまう。

先程までの見境なく圧を放っていた時とは違う、敵対者に対して強く放たれるその迫力に、圧されてしまっていた。

 

それぞれ構える者達と、バーディが相対したまま、暫しの静寂が流れる。

緊張の中、始めに動いたのは、バーディだった。

 

「フハハハハハ!我輩が暫し眠っている間に状況が動いていたようだな!」

 

六本の腕それぞれで腕を組み、此方を見極めるように見渡していた。

 

「眠ってた……?さっきまで滅茶苦茶動いてただろうが」

 

エリオットが思わず口に出す。

 

「うむ、赤毛の小僧よ、貴様の疑問は最もだ。この鎧は自我を持っているのでな?我が寝てようがある程度活動出来るのだ!まぁ、普通の人間ではそのまま目覚めぬが、我輩は不死魔族故にまたこうやって動けるという訳よ!フハハハハハ!」

 

「闘神鎧、か。オルステッドは、装着者はやがて力尽きるから持久戦に持ち込むって言ってたが……装着者が不死魔族の場合ってのは聞いてねえな……」

 

たらりと冷や汗が流れる。

オルステッドから聞いた話だけで厄介な鎧だというのに、装着者は不死魔王。

一度アトーフェと対面し、その血を引いてるアレクの再生力を知っているパウロからしたら、厄介さが痛い程わかった。

 

「……獣族の方が情報を伝えてくれて助かりましたね。対応策は一応用意してくれてる筈です。……クリフさん達を信じましょう」

 

アレクの小声に、パウロは小さく頷いた。

一つ、用意している策がある。

それを信じて戦うしか道はない。

 

「エリオット!ギレーヌ!ルイジェルド!詳しい話は後でいいな!?この金ピカ、俺達でなんとかするぞ!」

 

パウロの言葉に、三人も頷く。

気になる事は多くある、だがそれを置いておかなければならない事も理解出来た。

相手は七大列強三位、闘神バーディガーディ。

七大列強二位である龍神オルステッドに次ぐ強さ。

これだけの実力者が増援にきたものの、油断ひとつ出来ない。

 

バーディは相対する此方が構え出すのを見て、ゆっくりとその腕組みを解きはじめる。

 

「ふむ、そろそろ良いか?ならば始めよう!我こそがヒトガミの使徒、闘神バーディガーディである!ヒトガミの命により、龍神オルステッドの手駒である貴様達を倒させて貰おう!」

 

その宣言と同時にバーディから放たれる圧が倍増し……いくつもの剣閃が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いは場所を変えつつ続いていた。

魔法はまるで効かないものの、ルーディアの氷の礫は別。

ルーデウスの岩砲弾を参考にした氷砲撃は、鎧の中のバーディの 肉体すら抉った。

更にはルーディアが凍結させた物は壁として、ほんの少しではあるが動きの妨げとなっている。

バーディの一撃一撃は必殺の威力を誇り、一撃受ける事が致命傷となり得る為、少しでも動きが鈍ったり、一瞬でも視界から逃れられるだけでも剣士達からすれば有難い。

氷を壁に、目隠しに、臨機応変に使ってルーディアはサポートに徹していた。

 

レイダは主に受け流し役に回っていた。

剥奪剣界では再生する硬い相手に効果が薄いのは、アスラでルーディアと相対した時に痛い程理解していた為に、使う気はなかった。

しかし、守りだけに専念しているとはいえ、老いによる体力の低下と、相手が相手だ。

そう長く保つとは思えなかった。

 

「あたしも老いたね……!パウロ、あたしが限界になったら、あんたが受けるんだよ!」

 

「了解……!」

 

パウロは消極的な攻撃を繰り返していた。

治療したとはいえ、やはり先刻までのルーデウスとの戦いで氷付けにされ、背中一面に火傷を負った事がかなり負担となっていた。

酸欠と火傷の後遺症で高熱が出ていて、ひどい頭痛に苛まれていた。

しかし、バーディの攻撃を受け流す事、これはほぼ捨て身で攻撃してる面々にとって必要不可欠な事だ。

 

「なら……わりぃ、少し休ませてくれ!」

 

パウロはいずれレイダが限界を迎えて離脱する事に備えて、出来るだけ万全でその時を迎えられるように体力、体調の回復に専念する事にした。

それに文句を言う者はいない。

レイダだけが眉を潜めたものの、治療前の様子を知っている為に舌打ちだけに留めていた。

 

残りのエリオット、ギレーヌ、アレク、シャンドル、ルイジェルドで矢継ぎ早に攻撃を繰り返す。

だが、エリオットの剛剣から繰り出す光の太刀を持ってしても闘神バーディガーディには力不足だった。

腕一本ですら完全に切り裂く事が出来ず、ルーディアの張った氷の壁がなければエリオットの下半身が泣き別れする所だった。

 

「っ……わりぃ、ルーディア!」

 

『…………』

 

おまけに再生能力が高く、直ぐ様追撃に入ったアレクの剣が振るわれる頃には、既に黄金の鎧に包まれてしまっていた。

 

「っ……!やはりまともな手段では敵いませんか……!」

 

「フハハハハハ!アレクよ、弱音か?」

 

「このままでは勝てはしませんが、まだ負けた訳ではありません!大叔父上こそ、そのような言葉は僕達を倒してから、言って下さい!」

 

ガギィイイイン!

 

「フッハハハハハハ!これは一本取られた!言うではないか!」

 

アレクの振るった剣を轟音を響かせながらも容易く受け止め、お返しとばかりに無数の拳でラッシュを放つ。

 

「ふんっ!」

 

「アレク君、あまり叔父上を喜ばせないでください!」

 

主にレイダが、サポートとしてルイジェルドとシャンドルがその拳の連打を捌ききる。

 

そこをギレーヌが低く構えた姿勢から、脚を断とうと抜刀した剣が閃く。

 

「おっと、危ないではないか」

 

膝関節を狙ったものだが、それはバーディに寸前で気付かれて避けられてしまう。

 

「ちっ……!」

 

ギレーヌは舌打ちしつつも、それを続けていく。

素早く移動を続けて撹乱も兼ねて、機動力を少しでも削ぐために。

 

そうやって、戦いは場所を少しずつ変えて続いていく。

けれど、このままではいずれ力尽きるのは此方が先、その現実は変わらないだろう。

不死魔族の血を引く者が二人いるとはいえ、純粋な不死魔族に比べればどうしても何段も劣ってしまう。

更には誰も彼も大なり小なり消耗している。

そのままではじり貧なのは目に見えていた。

 

だが、流れはここで変わる。

少しずつ誘導していたのだ、策を施した場所へ。

ここ、地竜谷へと。

 

ルーディアの瞳が仮面の中で僅かに揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わかった。君がそこまで言うなら、行ってくるよ」

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