地竜谷には、クリフとザノバ達がとある仕掛けを施していた。
結界魔術、中に閉じ込めるタイプのものだ。
それは今回の消極的協力者であるペルギウスからのアドバイスによるものだった。
クリフ達はシャリーアのフィッツ宅にて、このままではマズイと判断をした。
そこで助力を求めたのはペルギウスだった。
シズカ、クリフ、ザノバ、ジュリ、ジンジャーの5人でシャリーアからひっそりと出て、ペルギウスの居城へと向かったのだ。
しかし、たどり着いたは良いものの、ペルギウスはアトーフェとの殺し合いを禁じられている為に直接手は出せない。
だが、転移魔法陣を自分で描くのならば、場所、通路として城の一部の使用を許可された。
そこでシズカは再度それぞれの転移魔法陣を繋げる為に魔法陣を描き、クリフはミリスへと増援を求めに、ザノバはペルギウスからアトーフェの対処法のアドバイスを貰っていた。
それらは上手く働き、シズカは転移魔法陣を繋げ直す事に成功し、クリフはドルディアとミリス教団の一部の協力を得る事が出来た。
特にミリス教団は転移魔法陣を禁忌としている為、予想外の増援となった。
カーライル・ラトレイアやミリスの神子が乗り気であり、ミリス教団としても恩と負い目がある事から、一度それには目を瞑る事にしていたようだ。
数はそう多くないとはいえ、神殿騎士の中でも精鋭揃い。
心強く思いながら、ドルディア戦士団とミリス教団神殿騎士団達をそれぞれ増援として送り込んだのだった。
そして、ザノバはアトーフェの対処法として、体をバラバラにしてそれぞれ封印していく、という方法を伝授されていた。
不死魔族の対処法としてそれを教えられたザノバは、増援を連れてきたクリフに伝え、クリフは結界魔術の用意に取り掛かっていった。
だが、その用意は良い方向で裏切られた。
アレクがたった一人でアトーフェラトーフェ及び、アトーフェ親衛隊のムーアを無力化したからだ。
これにはそれを知ったペルギウスは笑みを浮かべ、アトーフェの封印には手を貸した。
それで終われば良かったのだが、バーディガーディが闘神鎧を身に纏い敵対しているという情報がもたらされたのだった。
眉をひそめたペルギウスに気付いたザノバは、いきり立ちそうな雰囲気を出すクリフを諌めた。
ペルギウスの目的は復活したラプラスを殺す事。
それ以外を些事、とまで言う程情がない訳ではないが、勝ちの目が見えない戦いに身を投じる事は出来ない。
それは自らの今までの軌跡の裏切りとなるからだ。
ザノバはそれを感じ、ペルギウスの助力を諦めた。
ペルギウスはその心遣いに対し、アトーフェの為に用意した策が通用する可能性を示唆した。
一筋縄ではいかないだろうが、少しずつ切り取り、結界にて封印していく。
それしかない、そう判断し、クリフ達は策を施していく。
少しでも戦力を求めアスラからの増援を送り、結界を設置していく。
そこまでがクリフ達に出来る限界だった。
一応クリフだけは治癒魔術を使える為に、近くに身を潜めてはいるか、ザノバとシズカに関しては後は祈る事しか出来なかった。
そうして、最後の戦いが、ここ、地竜谷で始まった。
「っ……!」
バーディを地竜谷に誘い込む事、そこまでは成功した。
しかし、そこからその体を分割する事が容易ではなかった。
闘神鎧は硬く、生半可では切り裂けない。
更には腕が六本もある為、一本二本切り裂いた程度では直ぐに立て直してしまい、バーディの本来の体格の良さから、腕を切り落とす事も難しい。
だが、エリオットの剛剣や、アレクの王竜剣、パウロの魔剣等、通用する要素は多数存在している。
そこを活かしきる事、それが勝利条件だった。
しかし。
「っぐ……」
レイダに限界の兆しが見え始めた。
バーディの一撃は他の者が受ければひと溜まりもない一撃、受けるレイダが離脱すれば……崩壊は早い。
「レイダさん!交代だ!」
そこを直ぐ様パウロがカバーする。
レイダの直弟子のような立場になっていたパウロの水神流の腕前は、既にイゾルテと並んでいた。
ギィイイイイ!
息も絶え絶えに離脱するレイダを庇うように、その拳を受け流す。
「ちっ……あたしもヤキが回った、もんだねっ……」
息を荒げ、悔しそうに下がるレイダ。
息を潜めているクリフの所に撤退するものの、体力をギリギリまで削ったレイダの復帰は絶望的だった。
パウロは確かに優秀な水神流の使い手となったが、本質はどちらかと言えば北神寄りの剣神流。
レイダに比べればどうしても読みや受けが甘い所がある。
それをルイジェルドやシャンドルが見事にカバーしているのだが……それは同時にバーディへの攻め手が減る事、引いてはバーディが防御にさく割合が減る事に繋がってしまう。
そして、エリオットが攻めに入った瞬間、その余った拳が振るわれてしまった。
シャンドルもルイジェルドもカバーが間に合わず、パウロも三つの拳を捌いた直後。
ギレーヌとアレクはそれぞれ腕を一本ずつ相手していて、対応出来なかった。
その瞬間エリオットは覚悟を決め、捨て身で傷跡を残す事を決める。
自分を省みず、振るおうとした刃がバーディの拳と触れる、その時。
バーディの拳が氷に包まれ、エリオットの身体が横に押し出された。
「ルッ……!」
ドガンッ!
バキバキバキバキッ!
エリオットの悲鳴じみた声が響く前に、轟音が轟き、木を薙ぎ倒して吹き飛んでいった。
エリオットの身代わりとなり弾き飛ばされたルーディアの姿に、誰しも一瞬動きが止まる。
「むっ……!」
だが、それはバーディも同様だった。
あの一瞬で体全体を分厚い氷で包まれ、足元を地面毎凍らせられたバーディは、その態勢を崩していた。
「っ……!今だぁ!叩き込め!」
それを視認したルイジェルドが叫ぶ。
今しかない、千載一遇の好機。
皆それぞれ攻撃態勢を取り、バーディへと襲い掛かる。
パウロが魔剣で咄嗟に【剥奪剣界】を使う。
腕を動かして防御の体勢を取ろうとするバーディの腕鎧に、見事に裂傷が走った。
それを視認したパウロは即座に構えをやめ、同時にギレーヌとエリオットがそれぞれその切れ込みに、渾身の【光の太刀】を叩き込んだ。
「がぁあああああっ!!」
「っだぁああああああ!!!」
見事に宙を舞う二本の腕を、ルイジェルドとシャンドルがそれぞれ弾き飛ばす。
「ニャア!」
「ナイスパスなの!」
その腕を、合流していたリニアとプルセナが体全体で抱え、運び出す。
「うわっ!動いてるニャ!急ぐニャ!」
「キッモイの!」
二人は急いでクリフが用意していた魔法陣に駆け寄って行った。
「成る程……良い策だが、まだ我の腕は……!」
「『重力』……」
ビキリ、バーディの二本の腕の動きが止まる。
王竜剣の局地的な重力制御により無防備を晒した腕に、アレクが大上段に構えた剣が、振り下ろされる。
「アレク……!」
「『破断』!」
アレクの今の全力を込めた一撃、それは王竜剣の力も相まって、見事にその二本の腕を断ち切った。
「むぉ……!」
そこで切り飛ばされた腕を、エリオットとギレーヌがそれぞれ掴み取り、即座に離脱していく。
これで、腕はあと二本……。
「父さんっ!」
アレクは力を使い果たし、地面に倒れこみながら、シャンドルへと王竜剣を投げつけた。
「っ!使わせんぞ!」
「やらせっかよ!」
「それは、通さん!」
それを阻害しようとするバーディに、パウロとルイジェルドが立ち塞がる。
パウロの振るった魔剣で深く切れ込みが入った腕の裂傷に、ルイジェルドの槍が捩じ込まれ、引きちぎられる。
それをパウロが抱えて離脱した所で、シャンドルの手に王竜剣が渡る。
「……また握る事になるとは」
懐かしい感覚にシャンドルは、北神二世アレックスは大上段に王竜剣カジャクトを構える。
「ぬぅうん!」
遂には一本となってしまった腕でアレックスへとバーディは拳を振り上げた。
それに対して、アレックスは落ち着いた態度で、王竜剣に魔力を込める。
「『重力破断』」
そう静かに呟いて振り下ろされたその剣は、バーディの拳を容易く砕いた。
バキバキバキバキッ!
黄金の鎧は砕けていく。
防ぐ事も叶わず、耐える事も出来ず、身に纏う黄金を剥がされていく。
鎧を纏わない腕を再生させて防ごうとするも、焼け石に水、直ぐにひしゃげてしまう。
「っ……!」
そして、剣がバーディの闘神鎧の兜を捉える。
捩じ込まれるように振り下ろされた剣から、凄まじい破壊が放たれる。
瞬間訪れた破壊に、バーディの上半身は声もなく飲み込まれた。
バキバキと闘神鎧が内側にひしゃげていき、砕けていく。
ドスン
そうして、上半身を失ったバーディの下半身が鎧を纏ったまま、音をたてて倒れこんだ。
「……はは、やはり父さんは英雄だ」
力なく地面に倒れたアレクは、明らかに自分以上に王竜剣を使いこなした父に、改めて尊敬の念を深めた。
バーディとの、決着はついた。
いっそ呆気ない程に。
「ふぅ……さあ、封印してしまいましょう。再生されては元もこもありません」
シャンドルはその一撃に全てを込めたようで、疲労困憊の様子を見せつつも、そのバーディの下半身を魔法陣へと運ぼうと促す。
手にある黄金の剣をシャンドルはアレクへと返還して。
そうやって、漸くバーディの体及び、闘神鎧の全ての封印が終わった所で、皆が一斉に一息をついた。
上手くいった、その達成感と疲労に、誰からともなく笑みを浮かべあい、互いの健闘を称えあっていた。
アレクは王竜剣を支えに、よろめきながらもどうにか立ち上がった。
すぐ近くに闘神鎧の破片を見つけ、念の為にそれを封印する為に。
そんなアレクに、同じく足をふらつかせたルーディアが近付く。
森のほうまで木々を薙ぎ倒して吹き飛ばされていたルーディアだったが、そう怪我はしておらず、少しだけ息を荒げている程度だった。
「ああ、ルーディアさん、無事で良かった」
アレクはルーディアの無事に喜び、笑みを浮かべる。
そんなアレクにルーディアは反応する事なく、周囲を見回し、闘神バーディガーディがいない事、ひいては打倒した事を察して、安堵の息を吐いた。
「どうにか、なりましたね。あとはギースとやらを探しだすだ―――」
その瞬間、アレクの持つ王竜剣、その金の装飾の一部がべろりと剥がれた。
そしてその黄金は、即座にアレクの顔面へと飛び掛かってきたのだった。
あまりにも想定外で突然の出来事に、アレクはまったく反応出来ず――。
トン
思わずアレクを庇ったルーディアの顔面に、その黄金が張り付いた。
唖然としたアレクだったが、即座に切り替え、もがくルーディアの顔面へと手を伸ばす。
だが、その次の瞬間、アレクの体は一瞬で凍りついた。
「っ……!?」
黄金を顔に張り付かせたルーディアは、冷たく無感情な瞳をアレクに向け、ギン、と眼光を光らせた。
王竜剣がアレクの手から奪われ、ルーディアはそれを無造作に手に取る。
黄金の鎧兜だけをしたような状態となったルーディアが、黄金の剣を地面へと叩きつけた。
突如、地面が隆起し、魔法陣がそれぞれ砕け散る。
突然の事に皆が呆気に取られる中、バーディの肉体を置き去りに、その黄金の鎧はとある一点へと吸い込まれるように集っていく。
ギースの最後の策が、牙を剥く。
『う、あぁああああ…………』
その一点……ルーディアへと集ったその黄金は、鎧を形作っていく。
それを誰も止める事が出来なかった。
やがて、金色の狼のような兜が、その口がパカ、と開いた。
『アォオオオオオオオオオォォォン!!!』
ルーディアから放たれた遠吠えが空気を揺らす。
ビリビリとした圧を感じて、皆のその視線はルーディアに釘付けとなる。
そして黄金の鎧を纏ったルーディアの咆哮とともに、周囲が急速に凍りつきはじめていた。
「ルーディアの嬢ちゃんに引っ付くのは想定外だが……」
少しは離れた場所で、ギースは様子を伺っていた。
その手には双眼鏡が握られていた。
「これが、最後の俺達の策だ……頑張れよ?」
そう、呟いて、ギースはその場から立ち上がった。