疲れきって座り込んでいた面々。
パウロ、ギレーヌ、エリオット。
特にパウロの憔悴具合は酷かった。
当然だ、元より動ける体ではないのに、無理矢理治癒魔術をかけさせ、強引に戦いに参加しにきたのだから。
「お父さん!」
そんなパウロの元に、娘の一人であるノルンが駆け付けた。
「ノルン……?なんでお前が、危ねぇだろ……」
「これでも治癒術師として、上級までしっかり修めてるんだから。お父さんは明らかに無理し過ぎ……空中要塞で休んでて」
ノルンは大学でクリフのアドバイスを受けつつ、治癒魔術を主軸に学んでいた為に、治癒術師としてかなり優秀な腕を持っていた。
故に治癒術師として、少しでも力になりたいと此方に来ていた。
そんなノルンから見ても、パウロは明らかに重傷……直ぐにベッドにでも叩き込みたかった。
「はは……そうだな、ちょっと張り切りすぎちまった、か」
「いや、お前がいた事で助かったタイミングがいくらでもあった……礼と言う訳じゃないが、あたしが連れて行こう」
実際の所パウロがいなければ危うい場面はいくつもあった。
それをわかっているギレーヌは、パウロに手を伸ばして、柔らかく微笑む。
「もしかして俺、お前に担がれんのかよ」
「嫌か?」
「ありがてぇけどな、夫としてのプライドがなぁ……ま、今更か。頼むぜギレーヌ」
ニヒルに笑うパウロの腕を掴み、肩に担いた。
一方で、ノルンはルイジェルドの姿を見つけ、傍らに駆け寄った。
「お久し振りです、ルイジェルドさんっ」
「……ノルン、か。大きくなったな」
微笑み、ルイジェルドは昔のようにその頭を優しく撫でた。
「えへへ、怪我とか大丈夫ですか?治癒しますが……」
「いや、酷く疲れているだけだ。問題はない……これからの事は問題が山積み、だがな」
ふぅ、と疲れたように息を吐くルイジェルド。
そんな姿に心配そうに眉を寄せるノルンだが、同時に今自分に出来る事はないのだと理解してしまう。
「……何かあったら力になりますから。なんでも言ってくださいね!」
「ふっ……感謝する」
本当に大きくなった……ルイジェルドは内心で呟き、その柔らかな金の髪を撫でた。
それを目を細めて受け入れつつも、辺りの様子を伺っていたノルンは、姉の姿を見つける。
「姉さんも、無事みたいですね……」
ほっ、と息をつくノルン。
その様子を見て、ルイジェルドも安堵していた。
ルイジェルドが知る限り二人の仲は非常に不安定だったが、その様子を見る限り仲直りは出来ているらしい。
小さく頷いて、ルイジェルドは体をルーディアへと向ける。
「まだ再会してまともに話していないからな、謝罪も含めて話を……」
そう呟いた時だった。
ルイジェルドの目が、第三の瞳が、不穏な魔力の流れを検知した。
その出所は、アレクの持つ、王竜剣。
しかし、本体ではなく、その表面。
嫌な予感がして、ルイジェルドはルーディアのほうへと足を進めようとしていたノルンの手を取り、その動きを止めた。
「?どうしたんですかルイジェルドさん?」
ノルンは不思議そうな顔で振り返り、首を傾げた。
その瞬間だった。
ルイジェルドが止める間もなく、事態は起き、無慈悲に進んでいく。
結界の魔法陣が隆起した地面によって壊され、黄金の闘神鎧がバーディガーディの肉塊を置き去りに、集っていく。
『アォオオオオオオオオオォォォン!!!』
ルーディアの、闘神鎧に取り込まれたルーディアの咆哮が響く。
空気がビリビリと震え、急激に温度が下がっていく。
バーディは理性を持っていたが故に、もしかしたら敵対してる訳ではないのでは、という微かな期待も、此方を見る眼光と放たれる圧力に霧散する。
バーディが纏っていた時のような圧倒的な圧は感じないものの、氷のように冷たいその雰囲気に背筋がざわつく。
「くっ……!」
「よせパウロ!お前はもう限界だ!」
「ざけんな!娘が危ねぇってのに黙って見てろってのか!」
「あのルーディアは明らかに正気ではない!今のお前ではまともな戦いにもならん!娘に父親を殺させるつもりか!?」
「っ……!くそっ……!ギレーヌ……!」
「ああ。任せろ。ルーディアは必ず生かして連れ帰る……ノルンを連れて逃げろ」
パウロはフラフラの体に鞭をうち、顔を青くしたノルンを連れて背を向ける。
ノルンはパウロに手を引かれながらも不安げに姉を振り返った。
『ノルン』
ぽつり、ルーディアが呟いた。
その瞬間、その場にいる全員に凄まじい寒気が走った。
今までに感じた事のない程の強い殺気、体が勝手に身構える程の殺気を突如としてルーディアが放ち出したのだ。
その眼光は、ノルンを真っ直ぐに捉えていた。
『ノルン!』
まるで物理的な圧が生じたような気がする程の殺気に、各々はルーディアへと武器を振りかざしていた。
「やめろ、ルーディア!」
エリオットは、悲痛な声をあげて、先頭で無手のままルーディアへと掴みかかろうとした。
ルイジェルド、シャンドル、ギレーヌは次いで武器を叩き込もうとした。
『ヴゥウウウウゥゥゥ……邪魔、すルナァぁああアア!』
ルーディアが振りかざした王竜剣によって、四人はあらゆる慣性を打ち消され、ふわりとその場に浮かびあがってしまった。
一瞬でまったく身動きの取れなくなったシャンドルは、驚愕に目を見開いた。
「バカなっ!制御が精密過ぎる……!」
王竜剣を使っているアレク以上の、下手したら長年使っていた自分以上に重力制御を使いこなしている様子に、驚きを隠せなかった。
ルーディアは四人を浮かせた後直ぐ様上体を反らす。
そして、その兜の狼の口がカパリと開いた。
『ヴァアアアアオォオオオオオオオオオン!!!』
鼓膜どころか物理的に体すら揺れる程の巨大な咆哮に、咆哮魔術が乗る。
それを至近距離で受けた四人は、体は麻痺し、一瞬思考が完全に真っ白に染まった。
『ヴァアア!』
ブンッ!
バキバキバキバキッ!
そうして一瞬気をやった四人を、ルーディアは王竜剣を大きく凪、力任せに弾きとばした。
それぞれが凄まじい勢いで吹き飛んでいき、ルイジェルドとギレーヌは木々を薙ぎ倒しながら森の奥へと消えていき、エリオットは地面に落下して何度も転がり、シャンドル等は地竜谷へと落下していった。
あっという間に戦える者達を無力化した、黄金の鎧を纏ったルーディアは、その視線をノルンへと戻した。
離れていたにも関わらず、ルーディアの放った咆哮魔術によってパウロとノルンの体は麻痺していて、まったく動く事が出来なかった。
「ル……ディ……!」
どうにか剣を手に取ろうにも、疲労と蓄積したダメージによって、パウロは意識すら朦朧としており、倒れたまま、指が僅かにしか動かなかった。
「はっ……はっ……!」
生まれてきて感じた事のない程の殺気を受け続けているノルンは、その体を震わせ、恐怖に歯を鳴らしていた。
瞳からは涙が溢れ、ペタリと座り込んだ地面は濡れていき、呆然と自分に近付いてくる黄金の鎧をただたた見つめていた。
その様子を、鎧の隙間、仮面の奥からルーディアは眺め……その目の前に立った。
『ノルン!』
「ノルン!」
無機質な声と、酷く憎しみに満ち溢れた声が重なる。
『許さナイ、許サナい!ユルサナイ!!絶対に許サナイ!』
「その命で、ロキシーに、私の子供に償え!ノルン!」
ルーディアは、ノルンの目の前で、その黄金の大剣を大きく振りかぶった。
「やめ……ろ、ルディ……!」
パウロは倒れたままどうにか手を伸ばすも、その体は震え、まともに動かない。
カタカタと震えたままのノルンも動く事は出来そうもなかった。
憎しみに溢れた叫びに、ひくりとノルンの喉が鳴り、頬を涙が伝った。
「お姉、ちゃん……」
「やぁ、久しぶりだね」