ガキィン!
振り下ろされた王竜剣を、ルーディアは完璧に受け流す。
しかしそれでも、刀身にかかる負担は尋常ではなく、氷の刃は直ぐに砕け散ってしまう。
即座に下から切り上げてくる刃は、即座に生成し直した刃で再度受け流す。
バキィン!
再び氷の刃が砕け散った瞬間、闘神鎧の周囲にいくつもの氷の礫が浮かんだ。
次の瞬間、それらは凄まじい速度でルーディアへ……避ければノルンへと当たる軌道で迫る。
そして同時に、躊躇なく振り下ろされる剣。
一斉に放たれた攻撃に対してルーディアは、
バキキキキキィンッ!
『ナニ……?』
氷の礫を、ルーディアは見事に全て打ち落として見せた。
振り下ろされた剣すらも受け流して。
闘神鎧は戸惑う、先程の攻撃はルーディアでは対応しきれない筈の飽和攻撃だった。
様々な軌道をえがく氷の礫は見切り切れず、少なからず手傷を負う筈で、そのままその場から排除するつもりだった。
だが、現実は完全に対処されてしまった。
理由を探るように見たルーディアの顔、左目が開いてるのが見えて、その黄色い輝きに覚えがあって……闘神鎧は叫ぶ。
『泥沼ァアアアア!貴様、貴様かァアアアアああ!!!
ワタシの事ハあれだけ、アレダケ弄んダのに!!!
ふざケルな、フざケルナァアアア!こいツト私、何が、違ウ!!!」
闘神鎧は大上段に構えた剣を、怒りのままに振り下ろす。
やり場のない怒りが渦巻く魔力となって、周囲の地面がはぜた。
ギィンッ!
それでもルーディアはそれを受け流す。
冷静に、全てを見極め、一秒先を見て。
『ユルサない!』
ギィンッ!
『殺シテやる!!!』
「うぐっ……!」
強い、強い憎しみの籠った一撃に、ルーディアは呻く。
受け流してるにも関わらず、受けた腕が痺れ、体の芯にまで衝撃が響いていた。
「お姉ちゃんっ……!」
「ノルンは絶対に私から離れないで!」
背に庇うノルンの悲痛な声が響く。
直ぐにでも逃げ出したいだろうけど、離れた瞬間守れなくなる未来が、見なくてもわかった。
「(今どうにかなっているのは……悔しいけど、泥沼からの贈り物のおかげ……!それでもこのままじゃ間違いなくジリ貧……!)」
ルーディアは現在、左目を常に光らせていた。
何故こうなっているのかはわからない、何故か左目があり、それが魔眼で、それも未来を見れる予見眼で。
しかもまるで使い慣れた物のように、使い方が手に取るようにわかる。
チラリと目を覚ました時に見た自分の腕に龍神の腕輪は嵌まっておらず、やはりヒトガミと泥沼とのやり取りはあったのだと嫌でも理解してしまっていた。
故に泥沼の贈り物、それを有効活用していたが、それでも自分に出来る限界という物があった。
ギィインッ!ギィンッギィンッ!ギィンッ!
一手受ける度に砕ける氷、ノルンに一切の被害が出ないよう庇い続け、ひび割れる氷狼鎧。
いずれはこの剣が自分を切り裂く。
そう遠くないうち起きるだろう未来が見え隠れし出した。
そんな時に、ルーディアにとって救いの手が伸びた。
「がぁああああああああああ!!!」
『っ……エリオット……!』
ガキンッ!
左手が垂れ下がったままのエリオットが、咆哮とともにその刃を闘神鎧へと放った。
その刃は王竜剣に受け止められる。
エリオットの左腕は、ブランと力無く揺れていた。
折れているか、外れているか……まともな状態ではなかった。
そんな姿を見てか一瞬硬直する闘神鎧に、更に攻撃が加えられる。
「うぉおおお!」
ガギャンッ!
ルイジェルドが槍の一撃を見舞った。
全体重の乗せられた突進で、僅かに闘神鎧が後退した。
ルイジェルドの額には夥しい出血があったようで、乱暴に拭った跡があった。
「ルイジェルドさんっ!」
ルーディアの背後から喜色に満ちたノルンの声が発された。
「ノルンっ……!今のうちに離れるぞ……!」
そこで、どうにか立って動ける、最低限の状態になったパウロがノルンの肩を叩いた。
「お父さん……!でも、私治癒魔術使える!二人とも怪我して……!」
「駄目だ!戦いながらじゃ、直ぐにボロが出て足を引っ張る事になる……!俺も含めて、ここにいても足を引っ張るだけだ!」
その叱咤に、ノルンは悔しそうに唇を噛み締めた。
ノルンもわかってはいた、姉が自分を守る為に……戦い難そうにしていた事を。
故に、悔しいけれど、それ以上迷惑をかける訳にはいかなかった。
「っ……!負けないでっ!」
ノルンにはそう言う事しか出来なかった。
踵を返し、パウロが一応の警戒をしながら、二人はその場から離れていく。
『ッ……ノルン!』
闘神鎧は一歩踏み出すも、その全身は一瞬で分厚い氷によって凍り付かせられた。
「行かせない!」
ピシピシと即座にヒビが入るも、一時的にその動きは止まる。
それを確認したエリオットとルイジェルドが凍らせ続けているルーディアに駆け寄った。
「ルーディア!無事で良かった……けど、ならあの鎧は、なんだ」
「ああ、既に攻撃してしまったが、あの鎧は今誰が……」
怪訝そうな二人は今にも氷をうち破って暴れだしそうな闘神鎧を見る。
そんな二人をチラと見たルーディアは一瞬悩むも、直ぐに答えを告げる事にする。
下手に誤魔化す意味もない。
「……あれは、私。あり得た可能性、全てを失った未来の、過去の私……」
「……ルーディアってたまに、意味わからない言い回しするよな」
「……エリオットが読解力ないだけ。ルイジェルドならわかってる」
「いや……俺もよくわかってはいないな。すまない」
「ほら」
「……」
ルーディアは不服そうな顔で2人の手を握る。
そして、治癒魔術を全力でかけながら……エリオットの外れている左肩を入れた。
ガコッ!
「いってぇえ!やるならやるって言えよ!」
八つ当たり交じりの行動だった。
エリオットは文句言いつつも、左腕の調子を確かめるように、グルリと肩を回した。
「兎に角!あれは、別の世界の私!闘神鎧に取り込まれて、意思だけが暴走してる!だから……止めたい」
少し弛んだ空気を引き締めるように、ルーディアは真剣な面持ちで改めて説明し、2人に懇願した。
ルーディアのその言葉に、2人は何の躊躇もなく頷く。
「わかった。止めるぞ」
「ああ」
1も2もなく頷いた2人に、ルーディアは一瞬面食らった。
けれど、2人は当然だといった様子で……それを見たルーディアはここで何かを言うのは野暮だと察する。
ルーディアは小さく笑みを浮かべて、今にも氷をうち破ろうとしている闘神鎧を見据えた。
「……二人とも、お願い」
「この三人だけで戦うのは久し振りだな」
「……うん、懐かしい」
「色々と祝い事が重なってんだ、さっさとカタをつけて……パーティーでもしようぜ」
バッキャァアアアアアン
「ヴォオオオオオオオオオオオ!」
氷が砕け散り、闘神鎧が咆哮をあげながら三人へと襲いかかってくる。
相手は健在、此方は怪我は治したとはいえボロボロでガタガタ……。
それでも不思議と不安はなかった。
「久々の、『デッドエンド』での出陣だ、行くぞ!」
「うん」
「ああ!」
その言葉と共に、三人は武器を構え、闘神鎧を迎え撃つ。
悲痛な叫びをあげる闘神鎧を、止める為に。