腹が大分大きくなったルーディアは、お腹を撫でて歌を歌う事が増えた。
聞いたこともない言語の歌だったが、その様子はとても穏やかでよい光景だな、と思った。
ルーディアは精神及び体調が安定して腹が大きくなってから、急速に母親になっていった気がする。
腹の子を慈しんでいるのが雰囲気でわかった。
とはいえお腹に子供を抱えている状態での義足というのが、かなり負担になっていたと思う。
歩く時によくバランスを崩していた。
普通の妊婦でもこの頃はよくバランスを崩してしまう…義足ならばなおのことだ。
故にあたしは出来得る限りルーディアの移動には付きっきりでいたし、兎に角母体を労った。
『ふふ…本当にお母さんみたい…』
「そうか…ゼニスには悪いが…悪くない気分だ」
こてりとあたしに身を寄せてくれるルーディアに愛しさを感じ、頭を優しく撫でた。
そしてそれは、ルーディアの妊娠がわかって8ヶ月たった頃…丁度掛かり付けの医者からはそろそろ産まれてもおかしくない頃なので注意するようにと言われた後。
未だに便りすら寄越さないエリオットのバカに向けて再度手紙を送り、買い物を終えて家に帰ってきた時の事だった。
部屋に入ると、ルーディアがお腹を抑えて顔をしかめていた。
「ルーディア!」
『痛い…痛いよ…』
あたしはすぐに医者を呼びに走る。
準備でき次第背中に乗せてまた走る。
「『母猫』さん今日も必死ね」
乗せた医者からそんな声がかかる。
結構本気で走ってるのだがな…この状態でそう言えるこの医者もなかなか強かだな。
家についてルーディアを見せると医者は、いつ産まれてもおかしくない状態だ、と言った。
「以前にも言いましたが、貴方ははまだ体が完全に出来上がってない。相当辛いですよ」
『わかって、ます』
そう、最初から言われていた事だ、ルーディアはまた成人前だ…そんな子を孕ませて様子見にもこないのかあのアホは。
不意に怒りがぶり返したが、それは今はいい。
兎に角、あたしはあたしに出来る事をするだけだ。
医者に言われた通りの事をして、ルーディアと手を繋いで、励ます…。
…それしか出来ない。
そして。
「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!」
元気な産声が響いた。
その時の感動を、あたしは生涯忘れないだろう。
産まれたエリオットとの子、アルスと名付けた男の子はよく泣く子だった。
特に夜泣きがひどい…ルーディアと出来るだけ交代で世話をしていたが、体力のあるあたしが少し辛く感じる程に泣く事が多い。
そしてそれは、ルーディアがアルスをあやしている時の事だった。
『よしよし、よしよし』
そう言いながら限界だったのだろう、うつらうつらと頭が下がり、ハッと顔をあげた拍子に仮面が外れ、床に転がってしまった。
右腕だけであやしている為に拾う事も出来ない。
その時、アルスの目がルーディアの左顔面…傷や火傷でひどい状態となっているそこを捉えている事に気付いた。
ルーディアはそこの醜さをかなり気にしていたので、あまりアルスには見えないようにしていたのだが、ろうそくの明かりで照らされたそれを見たアルスは。
「きゃは!あんま!きゃはは!」
笑ったのだ。
小さな手を伸ばし、ペタペタと火傷跡まみれの顔を触って、無邪気に。
立ち上がり仮面を拾おうとしていたあたしは、その様子に固まってしまった。
そして、当事者のルーディアは残った右目を目一杯に見開き、ふるふると震えていた。
「っ……!」
言葉にならない声をあげて、ルーディアの右目からはポロリと涙が溢れた。
次々と溢れていく涙に、なおもきゃはきゃはと笑うアルス。
ルーディアの感じた事等あたしにはわからない、けれど、その涙は悪いものではないのだろう、と思った。
その日からルーディアは仮面を顔の横につけるようになり、左目には眼帯をつけるようになった。
そして不思議とアルスが泣く頻度も下がっていったように思う。
『左右反対ですけど、お母さんとお揃いです…あっ、すみませんギレーヌ』
そう言ってくれたルーディアを、愛娘を、あたしは存分に撫で回してやった。