『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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穏やかに続く日々

「……さて、ギースさんも行きましたし。僕も留まり過ぎましたね、そろそろ行きましょうか」

 

 ……そうかい。

 君が余計な事をしたせいでルーディアは解放されて、君のあげた目のせいでオルステッドが来るまで持ちこたえられて、結局ルーディアを排除出来なかった事に関してはどうするんだい?

 

「はははっ、残念でしたねぇ。

 まぁ仕方ないでしょう、諦めて次の手を考えるべきですね」

 

 他人事だと思って。

 ならせめて、何かアイディア出して行きなよ。

 

「鬼神には事前に恩を売っておきましたし、王竜王国や紛争地帯ではまだまだジンシン教が蔓延っています。

 魔大陸もアトーフェラトーフェの名前で、龍神様への警戒度をあげるよう広めていますよ。

 あとついでにベガリット大陸にも、火種だけは用意してましたよ。

 それらを上手く使ってみる事ですね」

 

 ……なんでそれだけ用意していて使わなかったんだい。

 

「策が実るかは運次第……使える程にまでは実ってませんでしたからね。

 あの時点ではあれが最善だったと思いますよ。想定外は僕とアトーフェさんの敗北でした。

 いやぁ、龍神配下の方々は強かったですねぇ」

 

 手心でも加えたんじゃないだろうね?

 

「そう思いますか?貴方から見て、僕が本気ではなかった、と」

 

 ……。

 

「はは、ま、結果が全てです。僕は負けて死にました。

 そして、ヒトガミの使徒としてではなく、ルーデウス・ノトス・グレイラットとして、全てを彼女に託しました。

 それで僕の物語はおしまいです……。

 いやぁー……こんな欠陥人間にしては、上等な人生だったんじゃないですかね?」

 

 無責任だね。

 

「貴方の使徒としては確かにそうですね。

 それは確かに、少し申し訳なく思わなくもないです。

 けど一個人としては……彼女にアリエル様の事を任せられましたし、悪くはないと思ってます」

 

 それも無責任だと思うけどね……はぁ、もういいよ。

 さっさと行きなよ、結局どいつもこいつも役立たずだ。

 僕は次の手を考えることにするよ。

 

「ははは、手厳しいですね……。

 ……ヒトガミ、貴方は欠落人間である僕から見てもどうしようもないクズでしたが……」

 

 喧嘩売ってるのかい?

 

「貴方と過ごした時間、嫌いじゃありませんでしたよ」

 

 ……。

 

「頑張って下さいね。僕の、たった一人の悪友」

 

 …………。

 

「それでは――」

 

 

 

 

 

 

 はぁ……。

 

 ……なんなんだあいつは。

 最後に笑って消えて。

 面白くない、ああ面白くない!

 

 オルステッド、ルーディア・グレイラット。

 この不快感はあいつらへの不快感だ。

 諦めるものか、垣間見えた未来のようになってたまるか。

 その為に、ルーデウスの残した物を活用させて貰う。

 絶対に、絶対に僕は諦めない。

 覚悟しておけ、オルステッド、ルーディア・グレイラット。

 お前達は、必ず……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オルステッドは仮設した事務所で腕を組んでいた。

 思い出すのは、闘神鎧に宿った前回のルーディア。

 今のルーディアが自分を止め、懇願した事でトドメを止める事になった。

 その後は不思議な事に闘神鎧は勝手に動く事はなく、宿ったルーディアの狂気は感じられなくなっていた。

 過去のルーディアと今のルーディア。

 二人が顔を突き合わせて交わした会話は、二人しか知らないが、その会話内容によっては、安全な闘神鎧として再現性が……。

 

「……いかんな、こんな考えだから足元を掬われたのだ」

 

 オルステッドは頭を振る。

 今回自分は完全に手玉に取られてしまった。

 致命的な事態こそ起こらなかったものの、それは前回のルーディアという奇跡的なイレギュラーがあったから。

 気が抜けていた、油断していた、そんなものは今までいくらでもしてきて、その度に戻り、絶望していたというのに。

 

「……気を引き締めなおせ、今度こそ約束を守るのだろう……」

 

 自分に言い聞かせるように、オルステッドは呟く。

 次にヒトガミは、もっと悪辣な手を使ってくるかもしれない。

 そうなった時、自分がこんな腑抜けた様では話にもならない。

 

 オルステッドは改めて、気を引き締めた。

 必ず、今回のループでヒトガミの全てを叩き潰す。

 そう自分に言い聞かせ、誰もいない空間でオルステッドはゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ディ」

 

「ル……ディ……」

 

「ルディ」

 

「ん……」

 

「起きた?ダメだよ、校長先生のお話中だよ?」

 

「うん……ごめん……ポカポカ……しちゃって……」

 

「仕方ないなぁ、ルディは」

 

 今日は、ラノア大学の卒業式。

 そこでルーディアは同級生に囲まれ、フィッツと共に話を聞いている所だった。

 車輪のついた椅子に座り、暖かな陽気にうつらうつらとしてしまい、椅子を押す役目を担っているフィッツに優しく起こされていた。

 そして、そうして起こされていても、ルーディアの頭は、すぐにこっくりこっくりと船をこぎだしてしまう。

 それをフィッツは困ったように笑って肩を叩く。

 周囲の同級生達は、微笑んで見守っていた。

 

 あの戦いから数ヶ月……事態は収束を見せていた。

 まずビヘイリル、主にスペルド族について。

 ルイジェルド、スペルド族は龍神に頭を垂れた。

 一度放棄した村を再度整備し、彼らはそこで暮らしていく事になる。

 主にノルンが張り切り、ドルディア達も手伝って建て直し等を行っていた。

 ビヘイリルとの関係等まだ問題は残っているものの、事態は一段落したと言っていいだろう。

 スペルド族のうち希望者は、髪と額を隠してエンド傭兵団として雇う事も視野にいれているようで、ルイジェルド人形と合わせてスペルド族のイメージ向上を目指していくようだ。

 

 ドルディアの戦士達はその段階で大森林へと帰っていったが、ギュエスとプルセナは残り、聖獣様への挨拶と、ギレーヌの子供を見にラノアへと足を運んでいた。

 そして一方でラノアでは曾孫にデレデレのカーライル・ラトレイアがいて……生まれるとは思っていなかった姪と甥を見てデレデレのギュエスと意気投合していた。

 その後、改めて聖獣様の意思を確認し、ララと対面。

 ポヤッと見上げるララに対して、成人したら儀式を行いたいと頼み込むギュエスの姿があった。

 

 シャリーアに援軍に来た神殿騎士団は家の片付け……アトーフェ親衛隊の死体及び、破壊された壁や床等を急ピッチで片付け、その日のうちにはカーライルを残し、ミリスへと帰っていった。

 魔法大学のほうはジーナスを筆頭に逆らった者達が痛め付けられていたが、人死にはなかった。

 とはいえ事務所もそうだが、所々町並み等に破壊された跡等が残ってしまった為に、そこはオルステッドの懐から修理費として各所に配られる事となった。

 

 その後、カーライルとギュエスは三日程滞在し、それぞれ交流を楽しんでいた。

 カーライルは転移魔法陣の存在をミリス教徒としてはあまり黙認したくなかったが、娘、孫、曾孫に通常では考えられないスパンで会えるという魅力には打ち克てなかった。

 黙認する事にしたカーライルは、是非また遊びにきて欲しいと言い残してシャリーアを後にした。

 一方でギュエスは妹と仲直り出来て、聖獣様の意思もしっかり確認、救世主候補とも会えてご満悦で大森林へと帰っていった。

 なのだが、そこではリニアとプルセナが戦士団を掌握しかけており、隠居という形で排除される寸前であった。

 笑顔で舌打ちする愛娘の姿に涙しながら、ドルディアの意識改革の為に奔走する羽目になったギュエスだった。

 

 アトーフェ親衛隊は旗色が厳しくなった所で撤退。

 アトーフェ本人と筆頭のムーアはアレクが捕らえていた為に、そちらの拘束に力を入れなくてはならず、結果的に他は見逃す事となった。

 とはいえかなりの数が討ち取られ、トップもいない。

 規模の小さくなったアトーフェ親衛隊では、まともに事は起こせないだろう。

 

 アスラ王国は、一先ず敵対勢力の排除に成功したものの、幾人もの国民が行方不明となってしまっていた。

 紛争地帯の小国や、アスラの裏に流れてしまったそんな国民達を救うために、アリエルは奮闘する事となる。

 裏組織へのガサ入れから、それらと繋がりのある貴族の告発、小国への抗議、等々、等々……。

 それに伴いパウロとフィッツも忙しかったのだが、今日は休みを取り、ルーディアの付き添いとして魔法大学に来ていたのだった。

 アスラ、アリエルとしてもルーディアが防いだ洪水がそのまま直撃していれば首都アルスは壊滅状態となっていた事を加味して、ルーディアに便宜を図るのは当然とも言えた。

 まだ終わってはいないが、遠からず一段落つく事だろう。

 アリエルは、やる気と……亡き者達から受け取った責任感に満ち溢れていた。

 

 そして、ルーディアは……無理が祟って療養中であった。

 全てが終わった日、家につき、子供達にじゃれつかれて倒れたルーディアは、体が一切動かないという異変に見舞われていた。

 鈍った体で無理矢理限界以上に動き、傷付き、無理矢理治し、短時間とはいえ闘神鎧すら纏った弊害だという。

 医者やクリフには、絶対に安静に、と言われている。

 治りきるかは、わからない。

 ただ、声帯と表情筋については治っていたようだ。

 厳密には変に治癒した傷口をナイフで抉り、肉を使って成形し直したような荒業で、治ったとはまた違っていたようだが、問題はないようだった。

 意志疎通は問題なく出来ていたとはいえ、これには家族皆大喜びであった。

 ルーディアはそうして卒業式までの間を安静に過ごしていた。

 現在も弱った体は治りきっておらず、ふとした拍子によく眠る、そんな状態であった。

 フィッツはそんなルーディアを心配そうに、けれど穏やかな気持ちで眺めていた。

 今は目立った問題もない、これまで頑張ったのだから、ゆっくりと穏やかな日々を過ごして欲しい……。

 フィッツはそう思って、うつらうつらと船を漕ぐルーディアの肩を揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後校長の話は終わり、ルーディアはフィッツに車椅子を押して貰い、学園内をゆっくりと見て回っていた。

 所々にフィッツとの思い出があり、目を細めて微笑んだ。

 

「ふふふ、まだフィッツがシルフィちゃんだった時、かぁ……懐かしい」

 

「うっ……当時の事は忘れてくれていいんだよ……?」

 

「いや。フィッツとの大切な思い出の一つ。女の子の格好のままシたのは結構背徳的で――」

 

「わー!わー!」

 

 二人は思い出話に花を咲かせ、学園中をゆっくりと練り歩く。

 途中、ロキシーがそんな二人に合流した。

 少し服装が乱れていた。

 恐らく、ロキシーを慕う卒業生にもみくちゃにされていたのだろう。

 毎年の事ながら、人気者である。

 

「ロキシー。仕事は終わったんですか?」

 

「ふぅ……ええ、今日の所はおしまいですね」

 

「そうですか。じゃあ、もう少しだけ学園を見てから……一緒に帰りましょうか」

 

「ええ、ご一緒します」

 

 ロキシーも加えて学園を見ていく……とはいえもうほとんど見て回ってしまっていた為、最後に図書館を眺めて、帰路に着く事となる。

 

「大学で教鞭を取るようになって、ロキシーは生き生きし始めましたよね。

 やはりロキシー師匠は先生が天職だったんでしょうね」

 

「そう、ですかね?……いえ、そうかもしれませんね。

 教える喜びというものを、ルディにいっぱい教えられましたから」

 

「ロキシーに教われる子達は運が良いね。僕も色々教えて貰いたかったよ」

 

 感傷に浸りながら、ゆっくりと歩いていく。

 やがて、和やかな雰囲気のまま門にまで辿り着く。

 ふと、横を見れば、エリオットが腕を組んで仁王立ちして待っていた。

 

「ん……来たか」

 

「エリオット、もしかしてずっと待ってたの?」

 

「いや、さっき来たばっかりだ」

 

「嘘ばっかり。手、すごい冷たい」

 

 ルーディアが露になっている手に触れるとそれはとても冷たく、とてもさっき来たとは思えなかった。

 少しばつが悪く、視線を反らしながら、エリオットはルーディアの横に並ぶ。

 手は掴まれたまま。

 ルーディアはその冷たい手に、自らの頬を擦り付けた。

 

「ちべたい。無理して待ってなくて良かったのに」

 

「……悪かったよ。でも無理はしてねぇ」

 

「そう?まぁ、待っててくれたのは嬉しい。ありがとう」

 

「ああ。……一緒に帰ろう」

 

 笑みを浮かべて、ルーディアはエリオットを見上げた。

 

 今日はいい天気だ。

 ポカポカと日差しが暖かくて、どうしても意識が薄れる。

 

「ルディ?眠たいなら寝てても大丈夫だよ?」

 

 車椅子を押すフィッツの優しい声がする。

 右側にはエリオットがいて周りを見渡していて。

 左側にはロキシーがいて、微笑んでいて。

 

「ん……好きな人に囲まれて、幸せだから……もうちょっと、だけ……」

 

 ルーディアが眠そうに薄目で呟く。

 それに対して、エリオットは身を寄せて右肩に手を乗せ、ロキシーも身を寄せて左肩に手を乗せて。

 そしてフィッツは立ち止まり、その両頬を手で包み込んだ。

 

 ルーディアはその手から皆の、夫達の存在を感じ取って、急速に安心感に包まれてしまう。

 

「くぁ……」

 

 可愛らしく欠伸をして、ルーディアは細めていた瞳を閉じる。

 胸の奥から湧き出ていく安心感に身を委ね、ルーディアの意識は微睡みに溶けていく。

 

 この先、まだまだ問題は起きるだろう。

 ヒトガミの事、子供達の事、人間関係の事、国家間の事……。

 まだまだ問題は山積みだ。

 けれども、ルーディアには家族が、仲間がいる。

 何があっても、きっと切り抜けていける。

 ルーディアはそう心から思い、眠りにつく。

 カクン、とルーディアの頭が下がった。

 

「すー…………すー……」

 

 静かに寝息をたて始めたルーディアを、三人は笑みを浮かべて見つめ、頭をあげたそれそれが視線を交わし、小さく頷いた。

 三人はゆっくりと、ルーディアを起こさないように歩いていく。

 家族の待つ家へと、歩いていく。

 こんな穏やかな日々がいつまでも続くようにと、願いながら。

 

 

 

 

『氷狼』ルーディア―終―




最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次は後書きとキャラ設定をかいていきたいと思います。
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