『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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パウロ、衝撃を受ける

最後に雨季が来る前に大森林を抜けたのだと締めたルーディアに対し、俺が素直に抱いたのは落胆だった。

家族が見つからず手掛かりもない状態の苛立ち、それと、家族を見つけれてこそいないが魔大陸からここまで無事に何事もなく来れた要領の良さに対する…嫉妬だろうか。

俺にはこの歳でそんな事出来たと思えねぇ。

にも拘らず、俺の優秀な娘はまだまだ余裕があるように見えた。

それなら、そんなに余裕があるなら、家族が、ブエナ村がどうなっていたのか気にする余裕くらいあったんじゃねぇか?

全員を探す名目での捜索隊だ、俺の家族だけに時間を割くわけにもいかない、ノルンもいる…余裕のない俺には無理だった。

だからこそルディに、俺よりもよっぽと優秀な娘に捜索を頼みたかった、余裕があったなら捜索してて欲しかった…それは、高望みだったろうか?

 

「…なぁ、ルディ…家族を、探そうとは思わなかったのか…?」

 

『…そうですね、正直に言えばそこまで頭が回りませんでした、自分達の事で精一杯で…』

 

「精一杯…って言う割りは余裕そうじゃねぇか。…その魔族はこの町にもいるんだろ?」

 

『…ええ、勿論、今は個人的な用という事で別行動してますが…』

 

「そうかい、なら後で礼の一つでもしてやらねぇとなぁ、娘が大分世話になったみたいだしなぁ」

 

そう表情を嫌らしく歪めて言ってやれば、今もまだ俯いたままの娘は片眉をピクリと動かし、反応を返してきた。

俺も別に本気でそう思ってる訳じゃなかったが、どうにも感情が押さえきれない。

まだ酔いがおさまっておらずに気が高ぶっている事も、その言葉が娘の気に障ってる事も自覚してはいた。

だがここままじゃ娘自身にわめき散らしそうで、それは嫌だとなけなしの理性がその方向をねじ曲げようとしていた。

…後から思えば、そもそもあの優しい娘が恩人を悪く言われて傷付かない訳がないんだが、この時の俺はそんな事すらも気付けなかった。

そのまま続けてその恩人とやらを遠回しに罵る俺だったが、ルーディアの反応はほぼなかった。

ずっと同じ、軽く俯いたまま、目線も合わせないまま。

その様子を見て歯噛みする俺に対して最初に反応したのは離れた所で様子見をしていた筈のエリオットとかいうガキだった。

 

「…いい加減にしてください」

 

久々に再開した娘に嫌味をいうダメ親父を止める為に声をかけたにしては、苦虫を噛み潰したような、耐え難い痛みを堪えるような、そんな歪んだ表情をしていた。

 

「…っは、ナイト気取りか?お前もお前だ、ルディに手を出してねぇだろうな?」

 

「な、ふざけるな!出すわけない!ルイジェルドだってそうだ、ルーディアを傷付けるような事を!俺達がするわけないだろ!」

 

「どうだかな!ルディみたいな可愛い女が近くにいて、何も思わなかったってのか?」

 

「いや、それは…!」

 

「ほら見やがれ!お前、猿だとか呼ばれてたんだろ?どうせ旅の途中で手出しやがったんだろ?ええ?人の娘に手を出しやがって!流石ボレアス家は教育が上手だなぁ?」

 

「このっ…!糞野郎が!言わせておけば!」

 

何か罫線に触れたのだろう、エリオットのガキの手は自然な動きで腰にある剣に伸びた。

それに対して反射的に俺の手も腰に帯びた剣の柄を掴んで臨戦態勢を取る。

簡単にあしらえる奴ではない、瞬時に判断した俺は座っていた椅子をアイツに向けて蹴り飛ばし、先制してやろうと柄を握る手に力を込めた。

 

パキン

 

その瞬間だった。

剣を握る手にヒヤリと寒気が走ったと思ったら、腕がピクリとも動かなくなった。

ヤバイ、とガキのほうを見ればあいつも剣が抜けずに困惑しているようだった。

見れば俺とエリオットのガキ、どちらの手も剣と鞘ごといつのまにやら凍っていた。

そのとんでもない光景に驚愕に眼を見開くが、一番驚くべきは凍らせられた腕の状態だ。

腕も指すらビクともしないにも関わらず、少しひやりとするだけで痛みも何も感じないのだ。

 

『二人とも落ち着いてください』

 

そんな異常な事を仕出かした自分の娘、ルーディアの感情のない声が出鼻を挫かれ固まる俺達二人にかけられる。

同時に背筋に寒気が走った。

気を向けていないし本気であった訳でもないが、戦闘態勢に入った剣士にまったく気取られる事なく命である武器ごと凍らせられた…テーブル越しという短い距離で、だ。

その現実を理解した俺はため息を吐き、降参の意を込めて凍っていない手を上に上げてルーディアを見た。

すると小さく頷いたのを合図に何事もなかったかのように腕を覆っていた氷は消え、簡単に自由となった。

手を見て何度か様子を確かめても何の異常もない。

改めてルーディアの成長を感じるが…内心の憤りは晴れる所か募る一方だった。

ガキのほうは一切見ずに椅子を掴み起こし、舌打ちをしながらどかりと座り込む。

そして目の前で変わらず無表情のルーディアをじろりと睨み付けた。

1ページの文字数どのくらいが丁度いい?完結後1ページの文字数を調整していく予定なので、その参考にもします。

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