『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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最近曇らせてないなぁ


ラノア魔法大学2

とりあえずルーディアはもう一人の特別生に目を向ける。

入った時は熱心に書き物をしていた少年は、手を止めて此方を見ていた。

その表情は不服そうであったが。

 

「…君、ルーディアと言ったか?」

 

『はい、ルーディア・グレイラットです。貴方は?』

 

「僕はクリフ・グリモル。天才魔術師だ」

 

『まぁ』

 

聞けばあらゆる魔術に精通し、そのほとんどを上級までおさめたのだという。

天才と自分で言ってた事で少し気の抜けた返事になってしまったルーディアだったが、その態度は失礼だったと思い直した。

 

『すごいですね…』

 

「そう言う君は、無詠唱魔術の使い手だろう?」

 

『ええまあ、けどそれと様々な魔術を上級まで覚える事は別の話ですから。私は冒険者としては兎も角、魔術師としてはほとんど成長していませんし…』

 

ルーディアはクリフの視線がチラ、と自分の左袖に向いたのがわかった。

クリフはバツが悪そうに視線を一度反らしてから、ルーディアをしっかりと見据えて言う。

 

「まぁ…僕のわかる範囲であれば教えられる事もあるだろう。強さはひけらかすものでも威張り散らすものでもない、弱きもの、大切なものを守る為のものという持論があってね…あの二人を簡単にのした君には不要かもしれないがな」

 

『いえ、嬉しいです。私に出来ない事なんでいくらでもありますから、頼りにさせて貰います、クリフ先輩』

 

フン、と小さく鼻を鳴らしてまた書き物に戻ったクリフを、思ったよりもいい人だなぁとルーディアは呑気に思った。

 

そしてまだ床で蠢いている獣娘二人の元にルーディアはしゃがみこんだ。

 

『どうも先輩、私はルーディア・グレイラットと言います。ドルディア族の村で冤罪で捕らわれて獣族にとっての辱しめを纏めて受けた事があります。村の話されると、とても、不愉快になるので宜しくお願いします』

 

「ひぇっ…あちしはアンタの前ではただのリニアニャ!よよよ宜しくお願いしますニャ!」

 

「プルセナなの!私達は二人とも今の族長の孫だけど今はただのプルセナ!宜しくお願いするの!」

 

ルーディアの無表情から発されるプレッシャーに、二人は人間族のように頭を下げた。

そんな様子にルーディアは今は一段落、として視線を外し、教室を見回した。

 

『おや…?そういえばもう一人いませんね』

 

「サイレントはホームルームの参加も免除されておりますからな、まぁ、機会があえばいずれはお会いになれるでしょう」

 

そういう事らしい。

兎に角ルーディアは現状会える特別生と顔繋ぎを済ませたのであった。

 

 

 

ホームルームを終え、フラフラと魔法大学を見回るルーディア。

別段アルスの世話をする事を大変だとは思っても苦痛だと思ってはいなかったものの、久々に一人で気楽にいれる時間に新鮮なものを感じていた。

学校の雰囲気、というのを楽しんでいるのもあるだろうか。

やがてルーディアは図書室に向かう。

折角なので蔵書を読破、までは難しいとしてもある程度は読めるものなら読んでみたいと思っていた。

この世界は本が貴重なので、何冊も読めるだけで希少な経験になるだろう、と。

その下見として軽く説明を聞いたり本を本棚の間で物色していると、不意に声が聞こえた。

 

「あれっルーディアさん?」

 

ルーディアが振り向くと、そこには入試の時に模擬戦を行ったシルフィが本や巻物を持って目を丸くして見ていた。

 

『こんにちはシルフィ先輩』

 

「こんにちは。調べものですか?」

 

朗らかに問い掛けてくるシルフィに、ルーディアはこくりと頷いた。

 

『はい、兎に角色々と知りたくて…子育ての事、魔術の事、歴史の事…ああ、転移事件の事も調べてみたいですね』

 

「その為に大学に?」

 

『いえ…正直冒険者を続けながら子供を育てきれると思えなくて、推薦状を貰ったの契機に少し身を落ち着けようと』

 

「そう…なんですね…」

 

心なしかしゅんとしたシルフィを怪訝に思い、ルーディアはシルフィに近付く。

と同時にピク、とルーディアは何かに気付いたように更に近付き、シルフィの目の前に立った。

今更だが、ルーディアは割りと背が高い。

170はあり、近くに立つと小柄なシルフィは見上げる形となる。

 

「な、何か…?」

 

思わずシルフィが後ろに下がろうとすると、トンっと本棚に背をぶつけてしまい下がれなかった。

ルーディアは黙ったままシルフィの顔の横に右手をつくと、ずい、と顔を寄せた。

シルフィ…いやフィッツは突然想い人の顔が至近距離にきたことに顔を赤くして身を固くする。

 

「は、はわわわわわ」

 

『ちょっと失礼しますね』

 

ルーディアはそう言うと、フィッツの顔の横に顔を近付け、首筋の近くでスンスンと鼻を鳴らした。

 

「ん、んんんんん!?」

 

フィッツは、女装しながら幼い頃に別離した想い人に匂いを嗅がれているという倒錯的な状況に、耳まで真っ赤にして、けれど久々に嗅いだルーディアの匂いに耳をパタパタさせていた。

 

『やっぱり』

 

首筋から顔を離したルーディアは、フィッツを瞼を少し下げて胡乱な瞳で見つめた。

 

『こんな所で女装して何してるのフィッツ』

 

確信を持ったその言葉に、混乱してしまうフィッツ。

パクパクと口を開いたり閉じたり、目をグルグルにして、じわ、と涙が出てきた。

やがて羞恥やら何やら様々な感情が決壊したフィッツは。

 

「わぁあああ!違うんだよルディいい!」

 

と叫んで走り去って行ってしまった。

ルーディアが止める間もない疾走に、図書室の守衛さんの怒号が響いた。

 

『まさか逃げられるとは思いませんでしたね…おや?』

 

ふとルーディアは先程までフィッツがいた場所に巻物が一つ転がっているのを見つけた。

 

『ふむ』

 

ルーディアはそう呟いてその巻物を手に取った。

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