リニアは激怒した、あの新入生に目にもの見せてやらねばと意気込んだ。
「やめておいたほうがいいの」
プルセナはそう言うが無理矢理に巻き込み、新入生、ルーディアに決闘(2対1)を挑んだ。
「片目片腕ないうえに片足は義足な子供に負けて悔しくニャいのかニャ!ここいらでボコボコにして思い知らせてやるのニャ!」
「嫌な予感がするの…」
決闘の見届け人としてザノバを置き、準備万端、リニアは腕をグルグル回しながらルーディアに話しかけた。
「降参するニャら今の内ニャー今ニャらたまに言うこと聞くくらいの舎弟で許してやるニャー」
『いえ結構です。始めましょう』
ザノバの始めの合図とともにリニアは先手必勝とばかりに駆け出す。
咆哮魔術を警戒しルーディアの左側に回り込んで一気に近付いた。
まったく視線は向いていないし、左側は無防備。
「ワン!」
プルセナの咆哮魔術も放たれ、これは最早必中。
「貰ったニャ!」
そう叫んで殴りかかったリニアだったが、次の瞬間殴る筈だったルーディアが忽然と消えてしまった。
「ニャニャ!?」
「わ、速」
ルーディアはリニアが拳を振りかぶった瞬間身を屈め、左腕を氷で生成、左足の義足を氷で補強し、既にプルセナに近接していた。
プルセナは即座に四つ足となって離脱しようとするが、ルーディアの右足がプルセナの地面を叩こうとする腕を払い、バランスを崩した所で襟を掴まれた。
ぐん、と持ち上げられたプルセナはそのままルーディアの頭上をこえ背中から強かに打ち付けられた。
「むぎゃっ!っぶぁっあぶないのぉおお」
次の瞬間にプルセナの顔面に氷の爪が迫っていて、慌ててプルセナは転がって避けた。
『そこ危ないですよ』
「へ」
ドポン
その転がった先にあった水溜まり、プルセナはそこに見事にはまって撃沈した。
「ニャニャニャ!?あの腕はニャに!?足は!?あの速さは!?魔術師じゃニャかったのかニャ!」
『魔術師ですよ一応』
いつの間にやら目の前にいたルーディアは飛びこんだ勢いのまま、飛び回し蹴りをリニアの頬に容赦なく叩き込んだ。
「ふぎゃあ!」
その蹴りを受けて倒れこんだリニアの襟を掴むと、ルーディアはそのまま生成した水溜まりへと放り投げた。
「ぎゃにゃにゃにゃ!」
ドポン
二人仲良く水溜まりにて撃沈である。
「師匠の勝利ですぞ!流石ですなぁ」
ザノバのその言葉と同時に氷は砕け、水溜まりはただの地面となって、びしょ濡れの二人が放り出された。
『とりあえずこれでロキシー人形(♀)の仇という事でいいですかね…獣族は水濡れを嫌いますからね。気は済みましたかザノバ?』
「正直申し上げますとあんまりですな!ですがこれ以上は禍根を残さないように致しますとも。彼方次第ではありますが」
その次の日から、リニアとプルセナの二人はよくルーディアに体を擦り付けるようになり、ボス、と呼ぶようになった。
ルーディアはいきなりの事に困惑していた。
「ボスの強さに惚れちまったニャ…男だったら絶対放っておかニャいニャ…」
「リニアに同じなの。ボスの左目になるの」
「ああ?ボスの左目にニャるのはあちしニャ」
「注意力のないリニアには無理なの」
―――――――――――
そこは北方大地の雪に包まれたとある森。
鼠色のローブに身を包みフードを目深に被って、もこもこのマフラーをしている男が雪を踏みしめて歩いていた。
そして、そんな男を呼び止める銀髪の男がいた。
「待て、貴様がSランク冒険者『泥沼』だな?」
「そういう貴方様は…『龍神』オルステッド様、ですかね?こんなしがない魔術師にどんなご用でしょうか?」
仰々しく振り返りペコリと頭を下げる泥沼。
背中にはほのかに青い大きな魔石が取り付けられた大きな杖を背負っている。
「貴様、ヒトガミの名に心当たりはあるな?」
「ヒトガミ…?聞いたことはないですね」
腕を組んで首を捻って考えている様子の泥沼。
惚けてるのか本気なのか、顔がまったく見えず声色に変化はない故に判断は難しい。
「問答無用だ、ヒトガミの使徒は殺す」
「なんと暴力的な…言葉を操る種族なら言葉で解決しましょうよ?」
泥沼はそう言いつつも腰につけていたのだろう、何か筒を取り出し、その筒の穴をオルステッドに向けた。
「まぁ殺すと言うなら抵抗しますよ、流石にね」
にぃ、と笑ったとオルステッドは思った。
一気に泥沼へと駆け出そうとした次の瞬間、自分の目の前に小さな岩の塊が飛んできていた事に目を見開く。
とっさに手を挟んで受けたが、その凄まじい威力に眉があがった。
そして気付けば既に周囲には大規模な砂嵐が巻き起こり、雪を巻き上げ視界はゼロ。
何処からくるのか警戒し耳を澄ませ身構えていたオルステッドだったが、全く攻撃の気配がないおかしさに気付き、泥沼がいたであろう場所に駆け出した。
するとそこには誰もおらず、足跡もそのほとんどが消されていた。
「逃げの一手か」
対応を間違った、とオルステッドは思った。
確かに凄まじい威力ではあったが、警戒し過ぎた。
真正面からいけばどうにでも出来ていただろう。
イレギュラーに対し様子を見てしまうのは悪い癖だ。
「『泥沼』は明らかに俺から逃げ続けている…漸く接触出来た今始末出来なかったのは痛いな…」
だが同時に、自分が追うことでヒトガミの手を一つ潰せるだろうと前向きに考える事にしたオルステッド。
それにしても、とオルステッドはコンパスのような魔道具を取り出した。
ルーディアに渡した指輪が起動した場合、探知する魔道具だ。
ピクリともしない。
「…まだなのか」
少しだけ寂しそうに呟いたオルステッドはその魔道具をしまい、雪の森を歩きだした。
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