『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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エリオット歓迎会

「やぁ」

 

ルーディアはこれが夢だとわかった。

眼前にいるのはモザイクがかかったような白い顔、ヒトガミだ。

 

「…どうも」

 

ルーディアはこの空間にいる時間は嫌いではなかった。

髪は長く茶色だし、五体満足だし、肉声を出せるし、普段見えない左側の視界が開けているから。

失ったはずの自分の体がここでは全部ある、それは悪い気分ではなかった。

…まぁ、ここで視界がひらけていようと特に何か見えるわけでもないし、声を聞かせたい人がいる訳でもないが。

そんな事を女性特有の丸みを帯びた体を軽く撫でながら思う。

 

「自分の体を撫でて、ナルシストかい君は」

 

「もうここに来ることも多分ないですから」

 

そう言い捨て、左手をじっと見つめた。

 

「色々助言してやったろう?役に立たなかったかい?」

 

「いえ、助かりましたよ、とても役に立ちました」

 

顔の左半分を撫でてもツルツルで、泣きそうな気持ちになる。

 

「龍神は信じられるのかい?皆警戒してるだろう?」

 

「私にはやはり不器用なだけで優しい人に見えます」

 

足を動かしてもカシャカシャ言わないし、バランスも取りやすくて。

ポロリと両目から涙が溢れた。

 

「…後悔するよ、恩知らずめ」

 

「…貴方は私に何をして欲しかったんですか…」

 

はぁ、と一際大きくため息を吐いたヒトガミ。

輪郭が薄れてきて夢が覚める、そう思った瞬間にヒトガミは一言呪いを吐いた。

 

「頼むから死んでくれ」

 

 

 

 

 

ルーディアが目を覚ました時、右隣に小さな温もりを感じた。

見ればザノバが人形作りのために買った炭鉱族の奴隷、ジュリが隣で寝入っていた。

子供の体温は温かいな、なんて思っているとバチリとジュリが目を覚まし、目があった。

途端隣から飛び出したジュリは部屋の外へと駆け出していった。

 

「ぐらんどますた、め、さました!さました!」

 

ラノア大学の寮の自室、そこで目を覚ましたルーディアは、胸に手を当て傷が無い事に気付いて、ほぅ、と安堵の息を吐いた。

途端に溢れる冷や汗と、ドッドッドッと強い動悸に胸を抑える。

 

(生きてた…生きてた…!)

 

ポタポタと涙がシーツに垂れる。

死にかけた時の事がフラッシュバックし、体が恐ろしさでガタガタと震えた。

 

(怖かった、怖かったよぉ…!)

 

「ルディ!」

 

部屋に飛び込んできたフィッツは、脇目もふらずにルディを抱き締めた。

 

「ルディごめんね!ごめん!肝心な時に一緒にいれなくて、ごめん!」

 

ぎゅうといっそ苦しいくらいに抱き締めてくるフィッツ。

肩が濡れていくのと同時に温もりを体全体に感じて、それにどうしようもない安心感を得て。

ルーディアは右手をフィッツの背中に回し、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

落ち着いたルーディアはフィッツから皆がアルスの所にいるから、と連れていかれる事になった。

一日寝ていたらしく、皆心配してたよ、と言われれば選択肢はなかった。

仮面がないから言葉は発せないが、不思議とフィッツは自分の言いたい事をわかってくれるから嬉しいなぁ、とルーディアは思った。

部屋に辿り着くと、アルスが大音量で泣き叫んでいた。

どうやらエリオットが泣かせたらしく、おろおろと戸惑っている。

そんな様子を呆れたように見てるギレーヌと、エリナリーゼ、子供の泣き声は苦手だと耳を塞いでいるリニアとプルセナ。

そして此方に気付いて声をかけてくれるザノバとジュリとクリフ。

そんな平和な光景に、改めて生きてて良かったと内心微笑んだルーディアに対し、クリフがバンドのようなものを取り出して口を開いた。

 

「仮面が砕けたと聞いてな、何度か見せてもらったし砕けた現物もあったから、このチョーカーを同じ性能を持つ魔道具にする事が出来た」

 

クリフはルーディアの紹介でエリナリーゼと付き合う事になってから、エリナリーゼの抱える呪いをどうにかする方法を探す方に学ぶ方向を定めていた。

その一つの方法が魔道具であり、様々な分野を幅広く学んでいたクリフがそれを狭めた事で、かなりの早さで習熟していた。

けれどまさか仮面の内側の半分以上をしめていた大きさの魔方陣を、ここまで縮小するとは、とルーディアは内心戦慄していた。

天才魔術師の看板に偽りはない。

 

「…というか本来なら君とフィッツの結婚祝いにするつもりでちまちま作っていたんだ。あの仮面も悪いものではなかったが、小さくて悪いことはないだろう?」

 

ついでにどうもフィッツは特別生に自分の性別を明かしていたようで、ザノバとクリフとは特に同性というのもあって急速に仲良くなっていたようだ。

先日も三人で小さな問題を解決したらしい。

ルーディアはペコリと頭を下げてそのチョーカーを受けとると、首に巻き付けた。

ぴったりなサイズ感で苦しくもない。

 

『ァ、あ、あー…まいくてすまいくてす。ありがとうございます、クリフ先輩、やはり貴方は素晴らしいお方ですね』

 

「ふん、当然、僕は天才魔術師だからな!」

 

クリフのその言葉を皮切りに、部屋にいる皆がルーディアに声をかけていく。

 

「師匠!ご無事で何よりです!」

 

「ぐらんどますた、げんき」

 

「ボス!心配したニャ!良かったニャ!」

 

「ボスなら大丈夫だと思っても少し怖かったの、安心したの」

 

「ああ、ルーディア、貴方程の魔術師が死にかけるなんて本当に驚きましたわ」

 

「無事に目覚めて良かった、また会えて嬉しいぞ」

 

「あ、ルーディア…」

 

泣き止みはしたが愚図るアルスを抱き抱えながら、エリオットが言葉に詰まる。

けどすぐに意を決したように、ルーディアに頭を下げた。

 

「置いてってごめん、アルスを産んでくれてありがとう、俺を親にしてくれて、ありがとう!」

 

その真摯な態度に、ルーディアは心のなかの蟠りが溶けていく思いだった。

奥底から沸き上がる今まで蓋をしていたエリオットへの思いが、ルーディアの心を解した。

自分でもチョロいなと思いつつ、ルーディアはエリオットに告げる。

 

『…ふふ、助けて貰った時かっこ良かったので、それでチャラにしてあげます、私は』

 

「ありが、私は…?」

 

エリオットの背後で先程ルーディアに温かい言葉をかけてくれた皆が、体を解している。

フィッツは、ルーディアが今まで見たことないような荒んだ表情で、エリオットを睨んでいた。

 

「おい、面貸すニャお前」

 

代表して声をかけてきたリニアのドスの効いた声に、エリオットの背筋に寒気が走った。

 

「おかあしゃま」

 

エリオットの腕の中からアルスがとてとてと此方に向かってくるのをしゃがみこんで迎え、背中に手を回して抱き締めた。

子供の体温は高くて癒されるなぁ、とドナドナされていくエリオットを見送りながら思うルーディアだった。

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