『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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前の世界の事はもう触れないと言ったな、あれは嘘だ。


【底無し沼】

オルステッドがルーディアの胸を貫いて殺しかけた事、それがエリオットの余裕を奪った。

思い詰めたその様子に、ギレーヌはそれに着いていってしまい、ルーディアは一人でフィットア領にいる気も起きずに北方へ旅立った。

一人で冒険者として活動してて妊娠がわかった時、ルーディアはあまりの先行きの不透明さに絶望しそうになった。

そこに手を差し伸べたのが『泥沼』であった。

彼は甲斐甲斐しく…とまでは言わないまでも、たまに食事を奢ったり、買い物等をしてれば手を貸し、依頼によく同行した。

魔術師として自分より上の『泥沼』をルーディアは恋愛感情なしによく慕った。

慕ってしまった。

 

エリナリーゼと合流出来た頃、『泥沼』はそろそろ北方から旅立つからと別れを告げてきた。

またいずれと再会の約束をし、ルーディアは誘いのあった魔法大学へとエリナリーゼとともに編入する事となる。

そこでクリフ、リニア、プルセナ、ナナホシと知り合い、ザノバと再会する

しかしクリフはただただ何かに怯えるようにただただ勉学に励んでいて、リニアとプルセナはドルディアの村での仕打ちを不意に思い出して手酷く痛め付けた為に、目を合わせるだけで恐れられるようになる。

二人との関係性はそれ以上ほぼ進展しなかった。

ナナホシともお互いに腹の内を探り牽制しあう仲だった。

リニアとプルセナの発情期に不死魔王バーディ・ガーディが来襲し対峙、認められる事になり、何故かバーディ・ガーディも入学してきた。

シルフィ…フィッツと本当の意味で再会するのはフィッツが腹を決めてから、実に半年以上かかってからで、そこからフィッツと結婚し、余裕を少しずつ取り戻していく。

一年程がたった頃にパウロからの手紙が届き、本当にすまないが妹達を頼むと書かれていたが、化け物と言って睨み付けてきた顔が思い出され、いい感情はしなかった。

ルイジェルドとの予期せぬ再会もあり、少しは穏やかにと思い直した矢先に、ルイジェルドに着いていきたいと言うノルンの言葉「小さな子供がいるのに別の男となんて信じられない!」に、更に心は離れていく。

結局魔法大学の寮に住む事になったノルンは、魔法大学での姉の評判に苦しみ続け、最悪のタイミングで限界を迎える事になる。

 

ギースから届いた「ゼニス救出困難」の便りにルーディアは何かをしなければと伝を頼った。

その時ルーディアはフィッツの子を妊娠していて身動きがとれなかったのだ。

エリナリーゼは任せろと胸を叩いていたが、一人で行かせる訳にはと思っていた所、『泥沼』が結婚を祝いにやってきた。

『泥沼』に頼み込み許可を貰い、更にはナナホシが好意で転移魔方陣の存在を教えてくれて、エリナリーゼと『泥沼』そして向こう側から移動する人達、それらに必ず秘密にする事を約束して大幅な移動時間の短縮を行った。

見送って数ヶ月後に全員生きて帰って来たが、ゼニスは心を失い、パウロはロキシーを庇い、左目と左腕を失っていた。

『泥沼』はそのままベガリットで金稼ぎをすると残ったらしい。

パウロは「これで少しはお前の気持ちがわかるな」なんて自虐的に笑って、それをルーディアとリーリャ…そしてゼニスに頬を叩かれ。

全員で涙を流して再会を喜びあった。

ルーディアはこの時パウロを許した。

ロキシーは自分の不注意でパウロが傷ついた事をかなり気にしていて、それを慰められている時にルーディアとそういう事をしてしまう。

パウロとフィッツに土下座するロキシーだったが、パウロは「昔からルディを見る目がヤバかったからいつかこうなると思ってたぜ。ルディがいいなら俺からは言う事ないな」と言われ顔を真っ赤にしていた。

ゼニスにはぽふりと叩かれていた。

フィッツは仕方ないなと頷き許可をし、ルーディアは世にも珍しい多夫一妻となる。

 

また一年がたち、ペルギウスとの謁見があり、ナナホシのドライン病の治療の為の奔走、アトーフェとの戦い等があったが、流れが変わったのはここ。

『泥沼』が尋ねて来た事だ。

ルーディアは自覚はなかったがロキシーの子を妊娠していた頃で、『泥沼』を快く迎え入れた。

ベガリットでは助かった、いや今まで沢山助けられた、ありがとう、と。

そんな『泥沼』はペットのネズミを懐から見せた。

歯が紫の水晶のようになっている珍しい奴だ、と。

そのネズミはそこで逃げ出してしまう。

仕方ない、家や食材を齧っても困りますから、見つけたら処理してくださいと伝え、『泥沼』は残念そうに去っていき…。

ルーディアは魔石病にかかってしまう。

 

クリフはその昔に神子とその騎士を自分の教育係が暗殺しようとしているのを目撃し、見殺しにしている。

最後の此方に気付いて、手を伸ばした神子の顔は忘れることが出来ない。

そしてルーディアの母、ゼニスが、最後まで抗っていた騎士、テレーズ・ラトレイアの姉であると知ってしまった。

フィッツにルーディアを助けてくれと土下座されながら、ゼニスを治療も出来ず、テレーズも神子も見捨て、ルーディアも助けられない自分の価値は、と思ってしまったクリフは本来なら決して手を出さない、最悪な事に手を染める。

家族を人質に取り、神級解毒魔術の本を無理矢理取り寄せたのだ。

それによりルーディアを助ける事が出来たが、その時に何人もの人間が死んだ。

一人助ける為に何人も死んだ、自分が殺した事にクリフの精神はガタガタになっていった。

 

ノルンはわからなかった、敬虔なミリス信徒のクリフがあんな化け物の為に苦労する意味が。

お父さんとお母さんを助けにもいかなかった薄情な存在が、自分の命が危うくなったら周りを苦労させる事が許せなかった。

故に夢のお告げ通りに、とある敬虔なミリス信徒に神級の解毒魔術を使って命を取り留めたのはこの人ですよ、と教えてあげたのだ。

ノルンは達成感で一杯だった。

これで化け物から解放される、あいつの家から爆発音がしたのを確認して、歪んだ笑みを浮かべてシャリーアから姿を消した。

夢のお告げにビヘイリルに自分の想い人がいると教えて貰っていた。

ノルンの精神は限界だったのだ。

 

その敬虔なミリス信徒はクリフの無理な指示で死んだ家族を持つ一人だった。

毒のついたナイフを命を取り留めたルーディアに突き刺す所、ロキシーに止められ、返しに自分が殺される事を知っていた信徒は、全魔力を暴走させて自爆した。

ロキシーが全てを受け止めた為にルーディアは生きてはいたが、ルーディアに覆い被さるようにして、下半身を消し飛ばされたロキシーは言葉を遺す事なく息絶えた。

更にはルーディアの腹にいたロキシーとの子は魔石病により殆ど作り替えられてしまっていて、その時の衝撃で砕けて流産となったうえに、母胎をぐちゃぐちゃにし、ルーディアは子が望めない体になった。

 

クリフは自分の仕出かした事に絶望し、これ以上事が起きないように関係者を皆殺しにした。

それらの行動は流石に目に余り、教皇派に暗殺されるという形でクリフの生涯は終わりを告げる。

 

夢でヒトガミはルーディアを嘲笑った、笑いに笑った。

慟哭する様に心から楽しんでいた。

そんなヒトガミにルーディアは頭を下げた、これ以上家族を傷つけないてください、なんでもします、と。

ヒトガミはそんなルーディアにじゃあオルステッドを殺せ、と告げた。

 

様々な対策をして、ナナホシに土下座してオルステッドを誘き寄せる手段を得て、全力で挑んだ。

結果は惨敗、エリオットとギレーヌが救援に駆け付けるが焼け石に水。

ヒトガミから守る事を条件にルーディアはオルステッドの温情で配下につく事となる。

 

アスラ王国の王にアリエルが着くのは意外な程すんなりと行った。ギレーヌがダリウスを斬り殺した時に「こんなものなのか」と呟く一幕や、「この恥知らずが!」とパウロがピレモンを殴る一幕等があったが、特に問題なく。

 

そこから様々な、理由のよくわからない事をし続ける日々のなか、シーローン王国からザノバに帰還命令が下る。

パックスがクーデターを起こしたと知り、更にはオルステッドからはパックスを王にするようにと言われ、ルーディアはザノバと共に旅立つ。

パックスは久し振りに会う兄と姉弟子を歓迎した。

上層部を一掃したせいで国力が低下していると思われ、戦争を仕掛けられている為、戦力としてこの国の力になってほしいと頭を下げるパックスに、二人は快く協力する。

しかし、そこで戦場についた二人を待っていたのは大規模魔術で蹂躙されるシーローン王国兵の姿だった。

それを為していた魔術師の姿に、ルーディアは声なき悲鳴をあげる。

『泥沼』の全力の魔術に対抗するルーディアだが全て後手後手に回ってしまい、押し返す事は出来ず避難の時間を稼ぐ事しか出来なかった。

魔力枯渇ギリギリの状態でどうにか『泥沼』の前に立つルーディアだが、衝撃の事実を知る。

君の首の骨を折った時は楽しかったですよ、と。君が絶望する様を見ているのは最高の娯楽でしたと。

『泥沼』が全てを仕組んでいた事に、悔しさと絶望と怒りがない交ぜになって涙を流す自分に、『泥沼』はいずれ戦力を整えて『龍神』の首を取ると宣言して姿を消した。

裏切りに意気消沈するルーディアだが、パックスもまた裏切られクーデターを起こされていた。

どうにか辿り着く二人だったが、既に包囲は完成してしまっていた。

パックスは最早これまで、と未来に自分の種を残し、王妃ベネディクトを『死神』に守るように告げ、ルーディアにも避難するようにと言った。

この一連の流れの責任を取る、とパックスは最後まで戦う事を決め、ザノバもそれに付き添うと決めた。

嫌がるルーディアの意識を刈り取り、『死神』は二人を抱えて脱出する。

そうしてパックスとザノバは死んだ。

 

『泥沼』の動きが見えずやきもきしていた頃、ナナホシの研究が大詰めになっていた。

転移魔方陣が理論上完成し、帰れる、とナナホシは確信していた。

幾度もの実験、幾度もの試験を終え、遂にナナホシが帰る日。

最後の最後に上手くいかず失敗してしまった。

能面のような顔でふらりと場を後にするナナホシを追うと、ナナホシは自室で首を吊っていた。

ルーディアがどうにか助けたものの、意識は浮上せず、体は生きてても死んでるも同然となってしまった。

ペルギウスが肉体の保存と治療はするが、あとはナナホシ次第だ、と告げ、以降ナナホシを見ることはなかった。

ナナホシは実質死んでしまった。

 

どうにか捕獲したキシリカ・キシリスから『泥沼』が北方で何かをしている事がわかり、ルーディア、フィッツ、エリオット、パウロの四人、アリエルからギレーヌ、シャンドル、ドーガ、イゾルテの四人を借り受け、八人でビヘイリル王国へと向かった。

そこでスペルド族の村があり、疫病が蔓延してると聞き、ルーディア一人が様子見をする事になった。

ルイジェルドとの再会と同時にノルンがいた事にルーディアが戸惑った瞬間、ノルンの口元が歪み、ルイジェルドに潜んでいた『冥王』ビタがルーディアの中に入り込んだ。

同時他の面々の所には『剣神』ガル・ファリオン、『北神』アレクサンダー・ライバック、『鬼神』マルタが来襲していた。

死闘と呼んで差し支えない戦いだった。

『冥王』は『死神』からのプレゼントによって撃退に成功し、『剣神』はエリオットが撃破した。

『鬼神』は状況を把握したルーディアが単独行動で鬼ヶ島を凍結させて制圧した事で寝返り、『北神』は『冥王』の支配から解放されたルイジェルドとともに全員で袋叩きにして谷底に叩き落とした。

無傷では決してない、皆ボロボロだった。

そしてそこにトドメをさすように『泥沼』が拍手をしながら、金色の鎧を装着して現れる。

『闘神鎧』を着て、魔術を巧みに操る『泥沼』に苦しむ面々。

マルタ、ドーガ、シャンドル、フィッツと次々と戦線離脱していき、ルーディアも一撃を受け気を失うが、最後に『泥沼』の周囲を凍り付かせた事が逆転の一手となる。

最後に高笑いを残し、『泥沼』はバラバラにされて闘神鎧ごと谷底へと落ちていった。

 

死闘は終わった筈だった。

闘神鎧を纏った『北神』が這い上がってきた事で終わってない事がわかった。

だが現実はそれ以上に最悪で、何処かでヒトガミの接触を受けたルーディアが裏切っていて、いつの間にか腕輪を捨て去り闘神鎧を『北神』から奪い取り、凍り付かせて砕いて武器を奪った。

その場の全員を皆殺しにし、戦線離脱していた者達にトドメをさし、スペルド族を虐殺し、そこにいた唯一の人族をいたぶって殺した。

そして最後にはオルステッドに処理された。

 

それが未来に起きた過去の話。

救いのない女の話。

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