『龍神』との語らい
『…えと…率直な意見として…私をよく生かして下さってますね…?』
オルステッドがヒトガミを倒す為に同じ時間を繰り返している、と突拍子のない話から始まった、前の世界の話。
ルーディアの最初の感想としてはそれだった。
明らかに最後、自分は相当やらかしている、そんな邪魔になる存在の自分を何故こうも手厚くしてくれるのだろう?と思った。
「いや…お前はよく働いてくれたからな、前回はかなり助かったし、かなり手応えを感じていた。それに、俺を信じきれなかった事は仕方ない面もある。どうにも人に頼るのに馴れなくてな…」
二人は森の中、ルーディアの作り出した氷の椅子に腰掛け、話をしていた。
ルーディアの作り出す氷は厳密には風との複合魔術であり、いくつもの風の層で保護され、座っても硬すぎす、冷たくもない神技で出来た物である。
オルステッドは自分が経験してきた未来を、その未来のルーディアからの話や他人からの情報等を合わせ、こうなっていたと思われる客観的な話をした。
様々な悲劇が起こると言われたも同然ではあるが、その未来と今は既に形が違いすぎる。
オルステッドとしては似たような事は起こると思うので警戒は必要だが、悲観する必要はない、と言う。
「人の運命を歴史を強く動かすには強い運命が必要だ。ヒトガミはお前を使い色々と歴史を動かし、『泥沼』を使いそれを補強していた。だがそれがわかり、お前が此方に着いたのならば、俺が話したと同様の事は必ず起こる訳ではない」
『そうですね、聞く限りクリフ先輩もなんか様子違ったようですし…皆との関係性も違います、それに私は『泥沼』を慕っていません』
「そうだな、そもそも何故『泥沼』が干渉する隙がなかったかと言えば…」
オルステッドは不意にルーディアの後ろに目を向ける。
そこには、エリオットとギレーヌがオルステッドが睨み付けながら直立不動で立っていた。
「…俺のせいだろうな、赤竜の下顎での対応の変化、それによってお前とギレーヌ・デドルディアが行動を共にするようになったからだろう」
バツが悪そうに頬をかくオルステッド。
『その程度の事で変わるものなんですね』
「ああ、大筋はなかなか変わらないが、細かい事はそれこそ小石を蹴るかどうかですら変わる事がある。故に俺は物事をかなり大まかに見てしまいがちでな、ルーディアには時折大雑把すぎると小言を言われ…」
そこまで言ってオルステッドは言葉に詰まってしまった。
何処か自然な流れで放たれた言葉に、前のルーディアとある程度親密であった事が察せてしまう。
「…随分その、前のルディと仲良かったんですね」
ルーディアに垂れかかるように後ろから抱き止めているフィッツが、ジト目でオルステッドを見る。
何処か浮気男を咎めるような空気を感じる。
「…勘違いするな、そういう関係ではない。ただ、あのルーディアはもういないのだと思ってしまっただけだ…こんな事は今までいくらでも経験してきた事だ」
そう意気消沈したように見えるオルステッドに、ルーディアは内心微笑ましく思い話しかける。
『…やはり、オルステッド様は優しい方ですね。詳細はまだまだ詰めていく必要があるでしょうが、私は貴方に付きます。どうか家族を…助けてください』
そう言って頭を下げるルーディアに、オルステッドは腕を組んで大きく頷いた。
「此方からも頼む。ヒトガミを打倒するため、お前の力を貸してくれ」
『はい、よろしくお願いします』
二人は互いに頭を下げあい、視線を合わせた。
「ついては…まずはこれだ」
オルステッドはそう言って何やら巻物を取り出す。
「守護魔獣…強い運命を持つ魔獣を召喚し、家族を守らせる。ヒトガミは人外は操れんからな。これで大まかな干渉は弾ける。…家族が使徒となる事も防げるだろう」
『…ノルン』
使徒となった妹…ただでさえいい印象を抱いていないというのに、このまま再会した時の自分がどうするかわからなくて怖い、とルーディアは思った。
そんなルーディアをフィッツは黙って手をそっと握る。
「とはいえ今は魔法大学の寮で暮らしているのだったか?ではあまり良くはないか…?」
『いえ、多分説明すれば便宜をはかってくれると思うので、ありがたく受けとります。…えと、ついでにナナホシに参考程度に見せても?』
「構わんが、ナナホシも知ってるものだぞ?」
『召喚前、召喚中、召喚後の反応等々をその目で見るという行為がまた何かヒントになるかもしれませんから…可能性のある事はしてあげたいのです』
「…そうか、好きにするといい。関係が良好なようで安心した」
『それにしても未来が大雑把にわかるのも、少し嫌ですね…わかっていても最善の結果を得られるとは限らないですから…今からが恐ろしいです』
「あまり気にするな、今の所は参考程度…後味の悪い物語程度に思っておけ。今直ぐに動いて貰わなければいけない事はほぼないから暫くは普通に暮らす事になるだろう。だが、相手には『泥沼』がいる。警戒はしておけ」
「…貴様の情報網や今までの経験等から『泥沼』の動きはわからないのか?」
先程まで黙っていたギレーヌが不意にオルステッドに問い掛けた。
「…わからん、というのもあの『泥沼』はルーディア、ナナホシと同じく今までいなかった人物だ。活動開始時期、場所等からアスラ生まれであり、2、30代の人族である可能性は高いが…神出鬼没で顔も隠し名前すらわからん。確かなのは、奴が無詠唱魔術を使える事を隠した上で、ソロの魔術師としてSランク冒険者に上り詰め、俺からもあっさりと逃げきった男だという事くらいだ。むしろ同時期に活動していた貴様達は奴の事を知らないのか?」
ルーディアはやはり、彼も転生者なのだろうか?と思うが、時期があまりに離れている為に判断に悩んでいた。
「そうだな…パウロが一方的に毛嫌いしていたから接触を避けていて、あたし達もよく知らない。エリナリーゼなら抱かれた事くらいあるかもしれないし、顔の一つでも見てるかもしれん。寝所では男は口が軽くなるものだからな、行為の後なら尚更だ。聞いておこう」
「うむ…今日の所はこのくらいか、長話に付き合わせた」
『いえ、正直まだ受け止め切れてはいませんが、今後の為に活かします。家族の為に』
「そうか…明日また来い。今後の動きについてある程度固めておこう」
『わかりました。お疲れ様でした』
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