『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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剣の聖地見学、そしてシャリーアへ

『アルス、この中に貴方の妹か弟がいるよ』

 

まだあまり膨らんでいない腹をさすりながら言う。

 

「…おとーと?いもーと?」

 

『これからアルスはお兄さんになるの…これから産まれてくる子達を、お兄さんとして守ってあげてね?』

 

そっとアルスを抱きよせ、頭をお腹に当てる。

 

「おとーと…いもーと…」

 

わかっているのかいないのか、そう呟くアルスの頭を優しく撫でた。

 

 

 

ルーディアはゆったりとした時間を過ごしていた。

周りは気迫に溢れていて、ほぼ絶え間無く剣戟の音が響いているものの、自分が巻き込まれる事はほとんどない。

アルスを抱きながら、ギレーヌと共に道場を見学したり、剣の聖地の街中を探索したり、アルスに子供用の剣を握らせてみたり、調子の良い時に剣神流の型を一通りやってみたり等、なかなかに充実した日々を過ごしていた。

ちなみに、アルスは見込みがあると言われ、軽い素振りくらいはしてみるといい、と子供用の木刀を貰っていた。

一方ルーディアは、左腕を氷で生成した時こそ驚かれたが、改めて剣神流はあまり合っていない、と言われてしまった。

ギレーヌへの、剣神流への憧れが多少なりともあったので少し残念ではあるが、仕方ない、と借りた木刀を置いた。

ルーディアが最近気になっていたのはイゾルテの、ひいては水神流の技であった。

その流麗な剣捌きは、とても綺麗でカッコいいな、と思いながら見ていた。

イゾルテ自身は最初の手合わせでニナに簡単に失神させられてしまい、それをバネに剣神流の門弟達と手合わせを繰り返している。

見る限りイゾルテは水王という事もあり、ほとんどの門弟達は歯が立たないようだ。

その中で一際目立っていたのはまだ少年の剣聖、ジノ・ブリッツであった。

実力としては正直パッとしたものはないものの、何度でもイゾルテに挑みかかる姿は勇ましかった。

 

『治療しましょうか?』

 

「いえ…これは自分の未熟故ですので…」

 

『わぁ男の子…頑張ってね』

 

 

 

エリオット、ニナ、イゾルテは実力としてはイゾルテが一つ抜けて高いものの、ニナの攻撃をイゾルテは未だに見切れず、イゾルテの防御をエリオットは未だに抜けず、エリオットをニナは打倒出来ずにいた。

 

『面白い三竦みですねぇ』

 

客観的に見て、実力としては拮抗していないが、いいライバル関係になってるなぁ、と微笑ましく思った。

しかしルーディアからすると、ニナへのカウンターを返し技の本場である水神流水王であるイゾルテが出来ないのは不思議な思いだった。

ニナの剣はエリオットより少しだけ早くなく、そこまで重くもない。

ただエリオット程全力ではないので次への繋ぎが早い。

いつも元気に朗らかで全力な人柄と違い、冷静に効率的な剣を振るう。

ルーディアからのニナの印象はそんな感じである。

それがイゾルテに読めないのは何故なんだろう?とルーディアは首を傾げていた。

他には剣神と剣帝の試合等を見学させて貰ったりして過ごし、そうしているうちにルーディアの状態は良くなっていき、医者から安定期であるとお墨付きを貰ったのだった。

 

 

 

剣の聖地をあとにする日、見送りにエリオットとニナとイゾルテが来てくれていた。

 

「ルーディアさん、今回はごめんね、強引に誘っちゃって…」

 

『もう、何度目ですかニナさん。私は気にしていません』

 

「でも…」

 

『…ニナさん、私ニナさんの元気いっぱいな所が好きです。今も、笑顔で見送ってほしいです』

 

「…!…うん、わかった!またねルーディアさん!元気な赤ちゃん産んでね!」

 

浮かない顔をしていたニナは、ルーディアのその言葉で吹っ切ったように笑顔を浮かべ、ルーディアと強く手を握りあった。

 

「イゾルテ、それじゃあたしはちと離れるけど、ちゃんとするんだよ」

 

「はい、お師匠様」

 

「あたしが帰って来たときにもし腑抜けたままだったら、覚えときなよ」

 

「は、はいお師匠様…!」

 

朗らかな雰囲気から一瞬で剣呑となった空気に、イゾルテが思わず背を伸ばしていた。

 

「アルス、ルーディアを頼むぞ」

 

「はいおとーしゃま。きる!」

 

「その調子だ」

 

エリオットは子供用木刀を握るアルスをぎゅうと抱きしめた。

アルスはすぐに解放され、すり寄ってきたレオにすぐ気を取られ、体を毛皮に埋めていた。

立ち上がったエリオットはゆっくりとルーディアの前に歩み寄る。

 

「ルーディア」

 

『はい、エリオット』

 

ルーディアは割りと背が高いが、エリオットは更に高い。

180くらいだろうか、まだ伸びてもいるらしい。

故に向かい合うとルーディアはエリオットを見上げる形となる。

 

「俺はこれから限界まで鍛え上げる。ルーディアには明確に敵がいるし、正直オルステッドもそこまで信用してない。だからこそ、それら全てを跳ね返す力、それを必ず手に入れる」

 

『はい』

 

「フィッツ達とは話した、それまでは待たせてしまうけど…必ずルーディアの元に戻る」

 

『はい』

 

エリオットはルーディアの肩に手を乗せ、視線を合わせる。

 

「だから、待っててくれ。アルスを頼む。そして、元気でいてくれ」

 

『…わかりました。エリオット…貴方も頑張ってください』

 

「ああ」

 

エリオットはニッと笑うとルーディアの額にキスを落とす。

ルーディアは少しだけ目を見開くが、直ぐに細めて、離れていくエリオットを見つめた。

 

 

 

剣の聖地を出た一行の旅、行きより三人も減った旅路ではあるが、特に問題はなかった。

レオの索敵で危ない所は事前にわかるうえ、剣王と水神が苦戦する魔物すらそういるものではない。

会敵した所でギレーヌ一人でほとんど終えていた。

故にルーディアとレイダは自然と二人で会話するタイミングがあった。

 

「ルーディアの嬢ちゃん。あんた、水神流習ってみないかい?」

 

『…え』

 

昼寝しているアルスのお腹をトントンしていると、そんな事を言われてルーディアは戸惑ってしまった。

 

「あたしの見立てじゃあ、確かにあんたは剣神流の才能はないよ。けど水神流は相当使えるようになれると見てる。どうだい?」

 

『え、あの、光栄ですけど、私別に剣士では…』

 

「剣がなくても水神流の技使える奴はいるさね」

 

『…水神様直々になんて…緊張しますね』

 

「あまり気負わなくていいよ、少しだけ教えてやるだけさ。興味持ったらアスラの道場にでもおいで、本格的にしごいてやるさ」

 

『…使える札は多いに越したことはないですね。どうかよろしくお願いします』

 

そのルーディアの言葉に、レイダは満足そうに微笑んだ。

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