『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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フィッツ、親になる

『フィッツ…フィッツ…』

 

それは早朝、フィッツは未だに微睡んでる時間の事だった。

隣で眠っていたルーディアは、フィッツを揺すり起こしていた。

 

「んー…?どうしたの…?」

 

眠気眼で上体を起こしてルーディアのほうを見ると…眠気は一瞬で飛んで行った。

 

『破水…した…』

 

 

 

 

 

右往左往するだけのフィッツを尻目に、経験のあるギレーヌと熟練のレイダが出産の為の準備を手早く始める。

この状態での第三者視点の無力感のわかるギレーヌとしてはフィッツの情けなさも許容範囲ではあるが、早く医者を呼び、ついでに出産に立ち会いたいと言っていたエリナリーゼを呼ぶように言い付ける。

やることを明確にされたフィッツは「わかりました!」と叫んで走り去っていった。

それとすれ違うように入ってきたアルスとレオが、ベッドの下からルーディアを見上げる。

 

「おかあさま?だいじょぶ?」

 

苦しそうなルーディアを見て、その手に手を伸ばす。

 

『アルス…』

 

きゅ、と握られた手から温もりを感じて少し安心する。

 

『…もう少ししたら…弟か妹に会えるからね…』

 

手の甲でアルスの頬を撫で、目を細める。

アルスはそれに両手を振り上げた。

 

「…うん、おかあさま、がんばる!」

 

そんな様子が微笑ましい。

正直またあれを感じる事になると考えると、子供の可愛さと愛しさを思っても少し辛いと思っていたルーディアだが、改めて気合いを入れた。

 

『うん、頑張る…ね』

 

 

 

 

 

そうして出産が始まる。

ルーディアは事前にチョーカーを外した。

以前の出産では仮面から発される音に苛ついた時があり、途中でぶん投げていたので、最初からそれに対処した形だ。

出産中に喋れない事は別に構わない。

結局妊婦は苦しい思いをして産むしかないのだ。

 

「っ……!」

 

「ルディ!頑張って!」

 

フィッツがルーディアの横で右手を握り、声をかけ続ける。

破水が起きてしまった時は時間をかけないほうがいい、そう言われている為に少し焦りを感じる。

 

「焦るんじゃないよ、まだ全然だ、いきむのは早い。心にゆとりを持って構えな、ゆっくり呼吸するんだ」

 

レイダが、産婆の立ち位置で呼んできた医者と並んでルーディアに焦るなと説く。

医者は言いたいことを全て言われたとばかりに苦笑いをして頷いている。

 

「まだまだこれからだよ、しっかりおし」

 

 

 

 

部屋の外ではアルスを見ながら、ギレーヌがその時を待っていた。

エリナリーゼも来たことだし万全だろう、とルーディアの事は心配していない。

 

「アルスの時は私と医者の二人しかいなかったからな…大変だったんだぞ?」

 

「たいへん」

 

「ああ、あの時ルーディアに手渡した…あの子がもうこんな大きくなって…改めて時の流れを感じるな…」

 

アルスの頭をわしゃわしゃと撫で、しみじみと呟く。

 

「妹か弟かわからんが、無事に産まれる事を祈ろう」

 

 

 

 

その瞬間僕はどう思っただろうか。

ずっとルディの手を握って声をかけ続け、苦しそうなルディをずっと励まして。

お医者さんの「頭が見え始めました!」とかそんな言葉も何処か聞いてるようで聞こえてなくて、あのルディがずっと苦しそうなのに何も出来ない事が辛くて。

そんな中で漸く聞こえてきた僕の子供の産声に、僕は…ただ泣いてた。

悲しいとか嬉しいとかじゃなくて、何か言葉に出来ない感情が涌き出てきて…ただただ泣いてた。

おぎゃあおぎゃあと泣く赤子が、処置を終えておくるみに包まれ、僕に手渡される。

 

「元気な女の子ですよ、お父さん」

 

その子を抱いて、ああ、小さいな、なんて思って…。

この子が、僕とルディの初めての赤ちゃん、そう思うと愛しさが溢れて。

ああ、お父さんになったんだ、僕の家族が出来たんだ、と思うと、自然と言葉が出てきた。

 

「…産まれてきてくれて…ありがとう…」

 

僕の顔はひどい状態だった、見えないけど、涙と鼻水を垂らしながら、笑顔を浮かべてるんだ。

でもそんなのどうでも良かった。

僕はルディを見る。

ルディは当然憔悴して疲れきっていて、荒い息を吐いて額には未だに汗が滲んでいた。

そんなルディを労るように、エリナリーゼさんがルディの額を布で拭いてくれていた。

 

「ルディ!お疲れ様…!ほら、元気な赤ちゃんだよ!」

 

僕達の子供、昔のルディと同じ茶髪の赤ちゃん、懐かしい髪色。

そんな子を見てルディが僅かに瞳を見開いて、右手を差し出してきた。

 

「うん、はい」

 

その右手に抱えれるように、ルディの体に乗せるように抱えさせてあげる。

ルディが何かを言いたそうな気がして、チョーカーを持ってきて、首につけてあげた。

ルディはペコリと首だけで僕に礼をすると、その子に優しい視線を向けた。

 

『産まれてきてくれて、ありがとう』

 

ルディの瞳から涙が溢れ、細めると同時に頬に滴が流れていった。

 

『懐かしい…この髪、今は白くても、元の色が遺伝するんだね…』

 

ルディは白くなる前の髪が好きだったから、いや、自惚れるなら僕が褒めたから、とても大事にしてくれてた。

だからこそ、この子がその髪をもって産まれてきてくれて、嬉しそうにしてる。

そんな光景を、赤子を抱いてハラハラと涙を流すルディを見て、初めてその重みを感じた気がした。

これからの家族の人生の全て、それが僕にかかっている。

そんな当たり前で、わかってた筈の事が今改めて心で理解出来た。

もっと、頑張らないと…僕は改めてそう思ったんだ。

ルディの額を合わせて、頭を優しく撫で、僕は宣言する。

 

「ルディ、必ず、必ず幸せにするからね」

 

『…うん、私も精一杯、フィッツと幸せになる』

 

そう言ってくれる愛しいお嫁さんに、僕は優しく口付けをを落とした。

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