違和感を感じたら申し訳ない。
披露宴、ルーディアの涙
ルーディアは披露宴…結婚と家の購入をした事を知り合いを家に集めて開く宴を控え、悩んでいた。
ルーディアとフィッツの娘…ルーシーの妊娠がわかって剣の聖地からとんぼ帰りした後、ホテル代わりとしか使用していなかった家になし崩しで住み続けていたが、慣れてない上に隻腕隻脚のルーディアだけでは家事を満足に行う事が出来ず、様々な人に手伝いをして貰っていた。
しかし、披露宴は知り合いを開催者側がもてなす宴…招待客をこき使う訳にもいかない。
そんな中で白羽の矢が立ったのが、最近入り浸り気味のエリナリーゼであった。
ひょんな事…ルーシーを抱き上げ御満悦な所に、フィッツに不意打ち気味におばあちゃんと呼ばれ思わず返事していた…事からフィッツの祖母であると発覚したエリナリーゼ。
冷や汗だらだらしどろもどろに誤魔化そうとしていたが、孫と曾孫の前でそれ以上嘘を突き通せなかったのか、血の繋がりを認めていた。
ルーディアとしては入り浸り気味であったエリナリーゼの行動に納得がいき、スッキリしたくらいで特に何も思うところはなかった。
だがその反応をエリナリーゼはどうも悪く受け取ったらしく、涙ながらにルーディアにすがり付いてきた。
ルーディアの感情の変化に鋭いフィッツとしては、困惑が伝わってきて苦笑いするしかなかった。
そんな状況でルーディアは困惑しつつも渡りに船と思い、家事全般を教えて欲しい事と、披露宴で血縁側として手伝いを頼んだ。
それに対して許されたと感じたのか、エリナリーゼは更に泣いた。
ルーディアが赤ちゃん以上に泣き止ませるのを苦戦してるのを眺めながら、フィッツは平和だなぁと思っていた。
それからエリナリーゼはルーシーの世話の手伝いやルーディアの家事教育をして、夜にはクリフの所に帰って搾るという生活を繰り返していた。
時は過ぎ…披露宴を開催する日となった。
招待客はまずフィッツの関係者であるアリエル、ルーク、そして従者の二人。
そしてルーディアの関係者…特に親しくしているザノバ、ジュリ、クリフ、リニア、プルセナ、ナナホシが招待されている。
食事を皆が過不足なく食べれるよう、飲み物も紅茶や果実ジュースから酒から様々用意し、早朝リニアとプルセナが狩ってきた猪もメニューに加えた。
ルーシーにたっぷりお乳を与えてお昼寝して貰い、レオにお守りを頼む。
猪の新鮮な肉を食べて御満悦なレオは舌をペロペロさせながら任せろ、と鼻息を荒くしていた。
ルーディアは早めに到着した客人の歓待をフィッツに任せ、一時的に休ませる為の部屋の確認や改めて飲食物の確認をし、準備万端、とフィッツの所へと向かうのだった。
場所を会場へとうつし、全員に飲み物のコップが行き渡ったのを見回して確認し、フィッツが口を開く。
「えー…皆様、集まってくれてありがとうございます。遅れながらこのフィッツ…此方の世界最高の女性であるルーディア・グレイラットを嫁に迎えまして…この度夫婦となる事を、改めて宣言したいと思います!」
想定外の褒め言葉に、澄まし顔のままルーディアの顔が真っ赤になっていった。
ボス照れてるニャ、真っ赤っかなの、という獣の声が聞こえる。
「つきましては食事と飲み物を用意しましたので、是非今日はお楽しみください」
テーブルに広がる様々な食事は、暖かい物は土魔術で、冷たい物は融けづらい氷魔術で作った見た目も美しい食器に乗せられている。
一目見たときザノバが感嘆の息を吐いていた。
「…ふふ、僕は必ずルディを幸せにして見せるよ!皆、何かあったらあればお互いに助け合っていこう!これからもよろしく!乾杯!」
ぐい、とルーディアの肩に腕を回し、抱き寄せながら宣言し、コップを斜め前に掲げた。
「「「「乾杯!」」」」
全員の声が合わさり、宴が始まった。
宴を皆思い思いに食事を楽しんでいる。
エリナリーゼも今は手伝いは中断、クリフとあーんをしあいながら食事をしていた。
リニアは猪肉を、プルセナは鶏肉を美味しそうに齧っている。
ナナホシはルーディアが朧気な記憶から再現した前世のお菓子、ポテトチップスの皿を手に取って部屋の隅に引っ込もうとした所、同じようにポテトチップスを狙っていたアルスとジュリに挟まれていた。
助けを求める視線がナナホシから発されてるが、アリエルが従者を引き連れて来てるのを見て、無視する事にしたルーディアだった。
「フィッツ…改めておめでとう」
「アリエル様、遅くなりました、ありがとうございます」
和やかに朗らかに会話を続けるアリエル達…従者の二人も嬉しそうにはにかんでいる。
その和やかさに強い絆を感じて、ルーディアは微笑ましく思い、瞳を細めて見ていた。
そのままルーディアにもフィッツをよろしくと伝えてアリエル達は去っていった。
そしてザノバが何か円筒状の物を抱えてやってくる。
何故かクリフも一緒だ。
「ミリス式で申し訳ないが僕に出来るのはこれだけだからな」
クリフはそう言って片手で十字をきり、簡単な祝詞を述べた。
「フィッツ殿、改めてお祝い申し上げます。」
ザノバはまずフィッツに頭を下げると、円筒状の物の包みをほどいた。
「そして師匠!この日の為にこのザノバとクリフ、精魂込めて造り上げたものを献上したいと思います!」
それは何やらブーツのような形の物だった。
色は地味な茶色で、ただ床に置いた音を聞く限りブーツではないようでもある。
あえて言うならば脚の模型だろうか。
『クリフ先輩…?』
「ほら、この椅子に座ってくれ」
いつの間にかクリフは椅子を抱えていて、それをルーディアの隣に置いた。
ルーディアは戸惑いつつもその椅子に腰掛けた。
「ルディ。義足、預かるね」
するとフィッツが笑顔を浮かべてルーディアの足元にしゃがみこみ、手慣れた手つきで左足の義足を取り外した。
『えっ、えっ…?』
ルーディアの左脚は膝から先がない。
そこに衝撃を吸収するバネのようなものを足首辺りにつけた物をルーディアは義足にしていた。
「師匠、此方を」
その膝から先に、そのブーツのようなものが、丁度先程までつけていた義足と同じような位置になるように触れる。
『…あっ、新しい義足!?すごい、ちゃんとしてる奴なんですね、ありがとうございますザノバ…』
嬉しそうに言うルーディアだが、ザノバはメガネを光らせ、ニヤリと笑い首を振った。
「いえ、まだですぞ。『土よ、我が脚となれ』と詠唱してくだされ」
『あ、はい、わかりました『土よ、我が脚となれ』』
ルーディアは言われるがままに詠唱をする。
同時に左足につけているその義足に魔力が吸われていく感触がして…。
『…え…』
ルーディアは驚きに目を見開き、動きを止めた。
じんわりと感じる、左の足の裏が床を踏んでいる感触に、体が震えた。
『…嘘。嘘!』
思わず立ち上がったルーディアは、自然と立ち上がった事、立つ時バランスを取らなくていい事、両足が、床を踏みしめる感触がある事に身震いする。
「此方の家で見つかった自動人形…その技術を応用し、クリフに助力して貰い、フィッツ殿にも協力していただき漸く造り上げる事が出来た、感覚のある義足です」
恐る恐る二歩、三歩と歩き、床を踏み締める感触が左足から帰ってくる、そんな当たり前に瞳が潤む。
口元を引き結び、フィッツ、クリフ、ザノバの三人を見れば、皆笑ってルーディアを見ていた。
『こんな、嘘だ。夢?』
「夢じゃないよルディ…良かったね」
途端に堰を切ったようにルーディアの瞳から涙が溢れた。
ルーディアは肩を揺らし、嗚咽を漏らし、その場に立ち尽くしてただ泣いた。
『ありがとう、皆…』
フィッツはその言葉が発されたと同時にルーディアのチョーカーを外し、優しく抱き締めた。
その様子を、誰もが優しい瞳で見守っていた。