『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

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最高の日、最悪の日

ルーディアは幸せな思いで一杯だった。

元々フィッツと結婚出来た事、ルーシーを授かった事、結婚を皆に祝って貰えた事、それで十二分に嬉しかった。

それに加えてこんな素敵な物を貰えるなんて、想像もしてなかった。

宴が続いてる中、ルーディアは現在部屋の端で椅子に座り、自在に動く義足をまじまじと見つめていた。

常に魔力を吸いとられているものの、使う魔力量はルーディアにとっては大したものではない。

恐らく四六時中つけていても大丈夫だろう。

 

『…ふふ、凄いなぁ』

 

「嬉しそうね」

 

見ると、ナナホシがポテトチップスの皿を持ってやってきていた。

 

『ナナホシ。先程はすみません』

 

「いえ、仕方ないわ。改めて結婚おめでとう…脚、良かったわね」

 

皿の上のポテトチップスは後僅か。

ルーディアは差し出されたそれから一枚摘まみ、パリパリと音を立てて咀嚼する。

 

『はい!素晴らしい発明ですよこれは。私も魔道具といえばこのチョーカーの前身の仮面等を作った事はありますが…またレベルが違いますね』

 

「そうね、感覚があって自在に動かせるなんて…魔法ありきとはいえ、道具でこんな物が作れるのね…」

 

ナナホシも興味深いのかじぃっと義足に視線が釘付けだ。

 

『良い人達です、クリフ先輩もザノバも…いい友達を持ちました…』

 

ルーディアの視線の先ではフィッツ、ザノバ、クリフが、仲好さげに肩を組んで酒を飲んでいる。

短期間ですごく仲良くなったなぁと男の子の友情に微笑ましいものを感じながらナナホシとポテトチップスを摘まんでいると、リニアとプルセナが此方に近付いてきた。

 

「ニャ、ボス改めておめでとうだニャ。あちし達はそろそろ帰るニャ」

 

「おめでとうボス。シルフィ…フィッツにも挨拶して帰るの」

 

二人は改めてルーディアに頭を下げると、手をヒラヒラとさせてフィッツのほうへと去っていった。

特に決まった終わりはない、皆がそれぞれ楽しんだら帰る、それが今回の披露宴だ。

 

『あ、ナナホシはお風呂入っていきます?』

 

「そうね…お言葉に甘えるわ。ん…ポテトチップス、ご馳走様。美味しかったわ」

 

『流石に彼方とは違ったでしょうけど、満足して貰えたようで良かったです』

 

 

 

 

 

「ルーディア、その義足はまだまだ調整が必要だと思ってる。何かあれば直ぐに教えてくれ。いずれは腕も作ってやりたいが…エリナリーゼの呪いの対処と平行しては難しい…君には悪いが暫くは義足の調整だけで我慢してくれ」

 

『こんなに素敵な物を貰って文句言ってたらバチが当たっちゃいますよ、本当にありがとうございます』

 

「ルーディア、本当に良いんですの?片付けまでちゃんとやりますわよ?」

 

『いえ今日は、こんな素晴らしい物を作り出したクリフ先輩を労ってあげてください。この義足があればきっと大丈夫です』

 

「クリフ君、おばあちゃん、今日はありがとうございました」

 

 

 

 

「ルーディアさん、改めて結婚おめでとうございます。フィッツなら間違いないと思いますけど…どうかお幸せに」

 

「お幸せに」

 

「お幸せっにっ…」

 

「フィッツ、こんな可愛い嫁さん貰ったんだから、俺みたいなのには気を付けろよ。ちゃんと幸せにしてやれ。ルーディアさん、フィッツと再会してから、みるみる美しくなった事自覚あるかな?一度口説いて見れば良かったな。どうかお幸せに、フィッツを頼む」

 

「アリエル様、エルモア、クリーネも、今日は本当にありがとうございました。そんでルーク!人のお嫁さんを口説こうとしないで!」

 

『皆様、ありがとうございました。これから精一杯フィッツを支えていこうと思います』

 

 

 

 

 

アルスが槽をこぎだしたのでルーシーと共にレオにお守りを頼みつつ、ザノバとジュリを即席の氷の彫刻等をして持て成し、やがてザノバがそろそろお暇を、と言い出した頃だった。

不意に家の扉がノックされた。

 

『あれ、もしかしてジーナス教頭でも来てくれたのでしょうか?』

 

ほんのり頬を酔いで染めながら、ルーディアが立ち上がる。

 

「あ、僕が」

 

『いえ、今なら大丈夫ですから、見てきますね』

 

たたた、と駆け足で玄関へと向かう。

そんな行為にも違和感がなく、簡単に行えてしまう。

ご機嫌なルーディアは、こんな最高の物を貰えた今日は最高の日だと確信していた。

玄関にたどり着き、ゆっくりと扉を開く。

 

『はい、どちら様でしょうか…』

 

扉を開けた先にいたのは予想だにしない人物だった。

 

「ルーディア…久しいな」

 

ルーディアとエリオットの恩人、ルイジェルド・スペルディア。

 

「ルーディア殿…!お久し振りです」

 

シーローン王国でリーリャとアイシャをパウロの元へと護送する事を頼んでいた、ジンジャー・ヨーク。

 

「お姉ちゃん!久し振り!」

 

パウロとリーリャの娘、ルーディアの妹、アイシャ・グレイラット。

 

そして。

 

「……」

 

パウロとゼニスの娘、同じくルーディアの妹である、ノルン・グレイラット。

 

『えと…長旅、お疲れ様でした。一先ず家にどうぞ』

 

パウロの手紙にあった『頼れる護衛』の正体に驚く間もなく、心構えも出来ていなかったルーディアは、ただ無心に家に招く事しか出来なかった。

気持ちの良い筈だった酔いが突然腹の奥で淀み始めた気がして、ルーディアは思わず解毒魔術を使った。

 

 

 

 

 

ザノバはジンジャーとの再会に仰々しく頷き、大義であったと、また良ければ仕えて欲しいと言い、ジンジャーもそれを受け入れた。

 

「それでは師匠…ご家族との再会です、元々帰るつもりでしたが、余はここで失礼いたします」

 

「ぐらんどますた、おめでとうございました」

 

「私からも祝福の言葉を。おめでとうございます。お幸せに」

 

そうして三人は帰路についた。

 

「流石にこの状態では残れないわ…私もここで一緒にお暇させて貰うわね…それじゃ、また」

 

ナナホシもそれに追従し、ここで披露宴は完全にお開きとなった。

 

 

 

 

後片付けはフィッツと更にはアイシャが手伝ってくれて、かなり手早く終わった。

本当は長旅で疲れているだろうから休んでいて貰いたかったのだが、どうしてもと引かなかった形だ。

アイシャにありがとう、とルーディアが礼を言うと済ました顔で笑みを浮かべ、ペコリと頭を下げた。

三人でリビングに向かうとノルンがルイジェルドと話していたが、ルーディア達に気付くとすぐにやめてちょこんと座りなおした。

三人がそれぞれ対面に座ったの確認し、ルーディアは話を始める。

 

『お久し振りです、ルイジェルドさん。アイシャ…ノルンも長旅お疲れ様でした。捜索団団長より手紙は届いています…一先ずはこの家にお住みください。私の夫、フィッツの家ではありますが、許可は事前にとってあります』

 

「ルディの夫のフィッツです。…ノルンちゃんは覚えてるかな?ブエナ村で…」

 

「…ごめんなさい、あんまり…覚えてないです」

 

「あ、そっかぁ…えと、ルイジェルドさんですよね?ルディが世話になった恩人だって話してて。今日はゆっくりしてください」

 

「ああ。世話になる」

 

ちょっと考えていた反応と違うのか、フィッツが少し困ったような顔をして隣の妻の顔を見た。

 

『ルイジェルドさん、あまり私の夫を苛めないであげてください』

 

「む、そんなつもりはなかったのだがな…しかし、結婚したとは聞いていたが…」

 

ルイジェルドはそこで言葉に詰まる。

流石に今、現在の夫がいる前で別の男の名前を出すのは憚られたのだろう。

 

『ああ、エリオットは…その、三年前に別れた後、私を孕ませた後に修行に行ってしまって』

 

しかしそれらの事情をお互いしっかりわかっている為、ルーディアは簡単に説明をする。

今はエリオットの子を育てつつ、フィッツの子も既に産んで、披露宴をした所だった、と。

 

『エリオットが修行を終えたらどうするかはわかりませんが…もし自惚れでなければ共に…と思ってはいます』

 

「ふむ…成る程な…」

 

ルイジェルドは難しい顔をして腕を組む。

少し対応に困る、と言った所だろうか。

そんな時、今まで何も言わず俯き黙ったままだったノルンが口を開いた。

 

「なんですか…それ…」

 

体を震わせ、手を強く握り締めながら、ノルンはキッとルーディアを睨み付けた。

 

「お父さんがあんなに頑張ってる中で、複数の男と関係持ったって事ですか?おまけに結婚してもまだそんな関係を続けるつもり?それぞれの子供まで作って?…気持ち悪い…信じられない!」

 

「ノルン姉!」

 

「何!アイシャは黙っ」

 

バン!

 

テーブルが強く叩かれ、響いた音と振動にノルンとアイシャの体が跳ね、動きが止まる。

ルーディアはその勢いのまま立ち上がり、視線を誰にも向けずに踵を返した。

 

『…今日は疲れたので…先に休ませて貰いますね。また明日…改めてお話しましょう…おやすみなさい』

 

スタスタと早足で部屋を出ていく様子を呆然と見送ったフィッツは、苦笑いをしながら三人に向き直った。

 

「…えっと、じゃあ、とりあえず部屋に案内しますから…明日また改めてお話という事で…」

 

空気の死んだ部屋で、フィッツはそう提案すると、案内の為に歩きだした。

 

テーブルを叩いて立ち上がった時、フィッツはルーディアの口が何かを言おうと、無意識にか動いていたのが見えていた。

『さいあく』と。

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